【堕天】心有りて堕落を知る・1
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 夜団子納品 2022年05月09日 14時04分57秒
神聖たる教会も滅びてしまえばただの廃墟。壊れるときはあっけないものよね、とシャルラッハは己の爪紅を眺めていた。廃墟は死角が多く、闇討ちがしやすい。どう考えても追いつめられたのだとわかっていても、マイペースに。
「やぁねぇ、こんなところに追いやって。もっとムードのある所ならよかったのに」
シャルラッハたち悪魔の一団が逃れられないよう、包囲する白き羽根の天使たち。彼らの殺意がシャルラッハの白い肌を焼く。
――だが、それの中にもすでに、別の熱を込めている者がいる。“笛吹姫”としてはそれが可笑しくて仕方なかった。
(まあ正直、殺気がない方が困るのよね。あの子みたいに)
フッと爪へ息を吹きかけ周囲に視線をやる。その瞬間、咄嗟に彼女を庇った配下の悪魔が、剣で銀の輝きをはじき飛ばした。どこからともなく飛来したそれは、あっけなく跳ね返され欠けた大理石を滑る。
攻撃したことで一瞬姿を現した天使のことを思う。指先で唇に触れながら微笑むシャルラッハは、相変わらず『魅惑』が人を象ったように美しかった。
相手はシャルラッハを討つため、軍を成してこちらに攻め込んできた。当初、シャルラッハとしては歓迎の構えだった。生きがいである『天使を堕天させること』を盛大に、大掛かりに、遊ぶチャンスだと思ったから。
様子が違うと感じたのは初撃を入れられかけたからだ。配下のひとりが損傷を追い、影から逃がしてやってからも『殺意のない殺意』が常にシャルラッハをつけ狙っていた。それを感じて敵を辿って、考え付いた結論は。
(私の天敵ね)
シャルラッハは身体能力において、悪魔といえないほど力がない。人間と違うのは飛べるくらいだろうか。脆く、弱く、怪我も治りにくい。
その反面、魅了に関してのみ絶大な魔力を持つ。「私に堕とせない天使はいない」というのが彼女の誇りでありプライドであった。そうなれば、弱々しいことだってむしろ強みだ。心の隙間に入り込み、自身でも気が付いていない欲望を暴き、望んでこちらに堕ちさせる。
『誘惑』のみで、彼女は“七魔連合”の一柱にまで上り詰めたのだ。
――そんなシャルラッハの天敵。それは『自我を持たぬ敵』や『自我の薄い敵』だ。
心を揺さぶり、欲望を引き出すのが本領だというのに、相手がそもそもそれを持たないのならば、どうしようもない。物理的にぶつかれば間違いなく負けるのだから、配下たちに任せて逃げるのがどう考えても吉だろう。
今シャルラッハたちを追い詰めている天使は――まるで人形のようだった。情動も欲も、感じさせてくれない。悪魔に対する嫌悪さえあるように思えなかった。
こういった手合いが一番厄介なのだ。
「シャルラッハ様……ここはもう、力に覚えのある者たちを召喚いたしましょう。さすればこのようなやつら」
「そうねぇ」
かつて純白の羽根を真っ黒に染め切った元天使の配下。傍付きの彼が進言してくるのを唇に指を当て止め、小さく微笑む。それだけで彼は恍惚と微笑み、なにかを告げることはなくなった。
(だってそれじゃあ面白くないじゃない?)
私に堕とせない天使はいないのだから。
指先をゆっくりと動かし宙へと顔を向ける。どこにいるかは知らないが聞こえる位置にはいるだろう。顔の前で指を組んで、姿の見えない相手にシャルラッハは語り掛けた。
「ねぇ、本当にそれで幸せなの?」
甘い囁きの声が、廃墟にゆっくりと満たされていく。
アヴェラはただ、いつものように仕事を進めているだけだった。ただ神に命じられるまま、言われるままに、任務を遂行する天使。それがアヴェラの価値であった。
標的の悪魔は飛びぬけた強さや防御力を持つことはなく、実にやりやすい相手かのように思われた。実際、シャルラッハが配下を呼び出すことができなければ、アヴェラはとっくに彼女を仕留めていただろう。
今もアヴェラは崩れかけの柱の陰から、彼女の油断を虎視眈々と狙っていた。
「……」
銀の暗器に手を添えながらじっと彼女を見つめる。こちらの場所がわからないのだろう、視線を宙に向けて微笑んだ。その指先がゆっくりと動き、組まれる。
「ねぇ、本当にそれで幸せなの?」
彼女が放った言葉にも、アヴェラは眉ひとつ動かさなかった。
「神の名のもとに言われるがままに行動して。あなたたちに自由はないじゃない?」
刃を放とうとして、手を止める。彼女の影の中が蠢いている。そこから羽根が、体が、這い出てくる。
「先輩たちから話を聞いて参考にでもしたら?」
その言葉で、そこにいる悪魔が元天使であることは容易に想像がついた。
彼らはそれぞれの口を開く――恍惚とした、実に幸福そうな声色で。
それでもアヴェラは無感動であった――――今は、まだ。
「やぁねぇ、こんなところに追いやって。もっとムードのある所ならよかったのに」
シャルラッハたち悪魔の一団が逃れられないよう、包囲する白き羽根の天使たち。彼らの殺意がシャルラッハの白い肌を焼く。
――だが、それの中にもすでに、別の熱を込めている者がいる。“笛吹姫”としてはそれが可笑しくて仕方なかった。
(まあ正直、殺気がない方が困るのよね。あの子みたいに)
フッと爪へ息を吹きかけ周囲に視線をやる。その瞬間、咄嗟に彼女を庇った配下の悪魔が、剣で銀の輝きをはじき飛ばした。どこからともなく飛来したそれは、あっけなく跳ね返され欠けた大理石を滑る。
攻撃したことで一瞬姿を現した天使のことを思う。指先で唇に触れながら微笑むシャルラッハは、相変わらず『魅惑』が人を象ったように美しかった。
相手はシャルラッハを討つため、軍を成してこちらに攻め込んできた。当初、シャルラッハとしては歓迎の構えだった。生きがいである『天使を堕天させること』を盛大に、大掛かりに、遊ぶチャンスだと思ったから。
様子が違うと感じたのは初撃を入れられかけたからだ。配下のひとりが損傷を追い、影から逃がしてやってからも『殺意のない殺意』が常にシャルラッハをつけ狙っていた。それを感じて敵を辿って、考え付いた結論は。
(私の天敵ね)
シャルラッハは身体能力において、悪魔といえないほど力がない。人間と違うのは飛べるくらいだろうか。脆く、弱く、怪我も治りにくい。
その反面、魅了に関してのみ絶大な魔力を持つ。「私に堕とせない天使はいない」というのが彼女の誇りでありプライドであった。そうなれば、弱々しいことだってむしろ強みだ。心の隙間に入り込み、自身でも気が付いていない欲望を暴き、望んでこちらに堕ちさせる。
『誘惑』のみで、彼女は“七魔連合”の一柱にまで上り詰めたのだ。
――そんなシャルラッハの天敵。それは『自我を持たぬ敵』や『自我の薄い敵』だ。
心を揺さぶり、欲望を引き出すのが本領だというのに、相手がそもそもそれを持たないのならば、どうしようもない。物理的にぶつかれば間違いなく負けるのだから、配下たちに任せて逃げるのがどう考えても吉だろう。
今シャルラッハたちを追い詰めている天使は――まるで人形のようだった。情動も欲も、感じさせてくれない。悪魔に対する嫌悪さえあるように思えなかった。
こういった手合いが一番厄介なのだ。
「シャルラッハ様……ここはもう、力に覚えのある者たちを召喚いたしましょう。さすればこのようなやつら」
「そうねぇ」
かつて純白の羽根を真っ黒に染め切った元天使の配下。傍付きの彼が進言してくるのを唇に指を当て止め、小さく微笑む。それだけで彼は恍惚と微笑み、なにかを告げることはなくなった。
(だってそれじゃあ面白くないじゃない?)
私に堕とせない天使はいないのだから。
指先をゆっくりと動かし宙へと顔を向ける。どこにいるかは知らないが聞こえる位置にはいるだろう。顔の前で指を組んで、姿の見えない相手にシャルラッハは語り掛けた。
「ねぇ、本当にそれで幸せなの?」
甘い囁きの声が、廃墟にゆっくりと満たされていく。
アヴェラはただ、いつものように仕事を進めているだけだった。ただ神に命じられるまま、言われるままに、任務を遂行する天使。それがアヴェラの価値であった。
標的の悪魔は飛びぬけた強さや防御力を持つことはなく、実にやりやすい相手かのように思われた。実際、シャルラッハが配下を呼び出すことができなければ、アヴェラはとっくに彼女を仕留めていただろう。
今もアヴェラは崩れかけの柱の陰から、彼女の油断を虎視眈々と狙っていた。
「……」
銀の暗器に手を添えながらじっと彼女を見つめる。こちらの場所がわからないのだろう、視線を宙に向けて微笑んだ。その指先がゆっくりと動き、組まれる。
「ねぇ、本当にそれで幸せなの?」
彼女が放った言葉にも、アヴェラは眉ひとつ動かさなかった。
「神の名のもとに言われるがままに行動して。あなたたちに自由はないじゃない?」
刃を放とうとして、手を止める。彼女の影の中が蠢いている。そこから羽根が、体が、這い出てくる。
「先輩たちから話を聞いて参考にでもしたら?」
その言葉で、そこにいる悪魔が元天使であることは容易に想像がついた。
彼らはそれぞれの口を開く――恍惚とした、実に幸福そうな声色で。
それでもアヴェラは無感動であった――――今は、まだ。