天使と悪魔の荷を巡る攻防

天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 七海真砂納品 2022年05月15日 10時43分40秒

「ふふふ、ふふふん、ふふふ~ん♪」
 鼻歌混じりに台車を押しているのは、一見すると、まるで真っ赤な翼を持っているかのように見える一体の悪魔、ミコト(影巻 御言)であった。
 先程、とある人間と契約を交わし、己が糧とする『怠惰』の感情を大量に得たミコトは機嫌が良かった。契約の代償として引き受けた、この荷物運びも軽いものである。
 そんな、ミコトの姿を見つめる者がいた――。

「ターゲット、発見」
 水の権天使アヴェラ(アヴェラ・ウッチェロ)はビルの上に降り立つと、ビルとビルの隙間を移動していくミコトの姿を見下ろしていた。
『悪魔が何かを運ぼうとしている。その荷物を確保せよ――』
 上司からの命令を受け、人間界へ舞い降りたアヴェラの目が、確かに、悪魔ミコトの運ぶ荷物を確認する。
 台車に積み重ねられたダンボール箱。その中身までは見えないけれど――。
「問題は無いものと判断いたします。任務遂行、開始します」
 翼を再び広げたアヴェラは、ミコトの死角となる背後側へと舞いながら急降下した。素早く懐から抜き取った苦無を構えると、ミコトに向かって投げ放つ――!

「!? な、わわ、ひゃわっ!?」
 風を切る微かな音に振り向いたミコトは、すぐ目の前に飛んできた苦無に気付き、大慌てで舞った。足元のアスファルトやコンクリートの壁に次々と、苦無が鋭く突き刺さる。
「……天使さん? 急にどうしたの?」
 襲撃の主が天使であることは、すぐにわかった。問いかけるミコトだったが、アヴェラは答えずに素早く距離を詰めていく。
「なんで問答無用なのー!?」
 裾に伸びたアヴェラの指先が針を掴むと、一投の元に無数の針が飛ぶ。
 雨あられのようにミコトの頭上に降り注いでいく針だったが、次の瞬間、ミコトの姿は陽炎のように消え去って。
「……幻影!」
 いつの間に惑わされていたのか。ハッと見上げたアヴェラの頭上に、逃げ延びたミコトの姿が映る。
「そんなに張り切らなくても良いと思うの」
 もっと怠惰にいきましょうよ――と、ミコトの指先で膨らんだ深紅のオーラがアヴェラの方へ飛び掛かる。
 ミコトが糧とする、人間の持つ怠惰という感情を凝縮したオーラだ。受ければ天使であろうとも、怠惰の渦に呑み込まれるのは間違いない……だが、アヴェラは冷静に周囲の空気中に含まれる水分を氷と化し、それを反対に叩きつける。
「相殺します」
 鋭い氷の刃に貫かれた深紅のオーラが、次々と霧散していく中、アヴェラは更に空気中の水分を屈折させて分身を見せる。まるで、幻影で惑わせてきた仕返しだと言わんばかりに。
「えっえっ、どれが本物なの?」
 困惑するミコト――その一瞬の隙を突くように、彼女の翼の根元に氷が集まる。
「!! あっ――!!」
 これでは、うまく動けない。そんなミコトの頭上に向かって、アヴェラは氷を凝縮した刃を作り出した。二本、三本、四本……次々と生み出された刃が一斉にミコトへと振り下ろされる!
「きゃ……あっ、あっあっ荷物!!」
 なんとかバランスを保って、アヴェラの猛攻を回避しようとするミコト。身を翻すのは間に合ったものの、その向こう側には荷物を積み重ねた台車がある。
 このままでは台車に攻撃が直撃してしまうと、慌てて旋回すると手を伸ばすミコトだったが……間に合わない!

 ザッ、ザッ、ザシュッ。
 次々と氷の刃がダンボールを切り裂いていく。
 カン、ガン、ガタン、ガチャガシャガッチャン!!
 穴の開いたダンボールの内側で鳴るガラスの音。
 衝撃によって箱はどんどんバランスを崩し、最終的に台車から落ちると粉々に崩れてしまう。
 辺りには、みるみる何かの液体が染み出した。――ふんわりと香る、甘い果実の匂いと共に、それはどんどん広がって……。

「あーーーっ!! 人間さんのパーティ用のドリンクがーーーっ!!」
 悲鳴を上げながら飛んでいくミコトだったが、ダンボールの中は無惨なことになってしまっていた。もはや無事な瓶はひとつも無い。
「これ、人間さんのお祝い事の席への運び物だったんだけど……人間さん困っちゃうんだけど……ううっ、どうしてくれるんですかぁ……!?」
 ミコトはすっかり涙目だったが、アヴェラの方も想定外すぎる出来事にすっかり硬直してしまっている。
「え……あ……っと……」
「ううううっ……」
 こらえきれない涙を拭うように、目元を押さえるミコト。そんなミコトの指先をぼんやり眺めながら、アヴェラはなんとか平常心を取り戻した。
 ――取り戻した、といっても。
 目的の荷物は破壊してしまった。つまり、確保できないということで。
 それって。
 もう、出来る事は何も無い、わけで。
「…………任務失敗。帰還します」
「あっ! 逃げたあぁ!?」
 天界に向かって逃走するアヴェラに追い縋ろうとするものの、どうにもならず。
「――どうするんですかぁぁこれーっ!」
 途方に暮れて叫ぶミコトの声がこだましていた――。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0