【嗜語】花冠と銃の友

天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 卯佐乃心月納品 2022年04月26日 14時09分19秒

◆
「聞いてくれ……今日も"妹"が可愛い」
「おう」
「淀みなく名乗れるようになっていた」
「おう」
「この間などは……ロドリィ、聞いていないな?」
「おう、あ、や、聞いてる聞いてる!」
 磨いていた銃から手を離すと、俺(ロドリィ)(マリィ・スノードロップ)は慌てて、目の前の友人、リクエル(だわ)の顔に向き直った。
「風の天使(あの子)が、上手く名乗れるようになったんだろ?」
 眉ひとつ動かさない端正な顔に凄まれ、俺の兎耳の毛がにわかに逆立つ。
(やべぇ、体が反応しちまった)
 こういう時、天使の階級社会が体に染みこんでいるのが分かる。
 下っ端の天使(エンジェル)と、上役の主天使(ドミニオン)が肩を並べて話す事は普通に考えてまずありえない。それもタメ口でだ。
 だが俺達にその壁は無い。
 とあるリクエルとのきっかけを経て天使(俺)と主天使(リクエル)は友人になったのだから。
(とはいえ、他の天使に見られると面倒なんで、駄弁るのはこうした庭園や司令部の隅っこでの時に限られるんだけどな)
「それで?」
 会話を仕切り直すと、俺の声に応えるようにリクエルはフードを慎重に下ろした。
「これを見てくれ。俺のために花冠を編んでくれたんだ」
 金の髪の上には、桃色や空色など愛らしい小花で作られた輪っかが乗っていた。
「へえ。花で冠なんて作れるんだな」
「見事だろう。妹は本当に健気で器用で……」
「可愛いってか?」
「ああ」
「ははは。氷の天使と揶揄される主天使様も、声は隠しきれねぇな。春の風みてえにふわふわしてやがる」
 決して頬を赤らめるというような照れは見せないが、普段は表情筋が死んだ様な顔をしているくせに、よく耳を立てれば感じるこのデレデレっぷりよ。
 氷魔術を使うとはいえどうして、この友人が水を通り越して『氷の天使』だなんて呼ばれるのか……。
『"妹"という呼称が正しいのかは推測に過ぎんがな。天使には血縁は無い』
 なんて口にしていた奴とは思えない溺愛っぷりじゃないか。
「こんな良いものを俺が貰ってもよかったのだろうか……」
「ん~? ま。大事なんは、"妹"の気持ちさ。兄として慕ってくれるなら、誰より傍にいて守ってやりな」
 それにしても茎が瑞々しいな。"この間"と言ってたが、昨日今日摘んだばかりのようじゃないか。
 風の天使の加護(回復術)でもかかっていそうだな。
「妹、か」
 花冠の細工が気になって見つめていると、リクエルが隠すようにフードを被った。
「やらんぞ」
 なかなかに見物な反応だ。
「……や」
 ひらひらと手を振り、俺は自分の帽子のつばをなぞる。
 安心しろ、友よ。
「そいつは、お前にしか似合わん」
 
◆
 天使軍総司令部。
 いよいよ第二次天魔大戦の様相が激しくなってきた。軍事会議も、こう連日続くと流石に疲労を隠せない者もいるようだ。そこへ隊に"休息を取るように"との通告が出た。
(俺は疲れなど感じてはいないが、命令だというのなら仕方ない)
 そういえば過去に、近くにいたロドリィを妹語り(疲労の臨界)に巻き込んだ事があった。今の関係のきっかけとはいえ、繰り返す前に休むとしよう。
「で、俺のところに来たってわけか、リクエル」
「邪魔して悪いな、ロドリィ」
「いや? あんたなら歓迎だぜ」
 丁度休憩するところだったと切り株に腰を落とすと、ロドリィは試し撃ちをしていた銃を傍らに置いた。俺も近くに転がっていた丸太に腰掛けた。
 ここは木造の小屋(ロドリィの作業場)の射撃場。階級差を忘れて話せる数少ない場所だ。
「俺のとこに癒やしを求めるなんて、悪魔(あちらさん)、厳しいのかい?」
「いや、思いつきだ。それに、悪魔など何処へ行こうと先読みして斬り捨てるだけだ」
 ふぅんと声を発して、ロドリィは置いたばかりの銃を分解し始めた。何かが気になったのだろうか、外した部品は丁寧に磨いてから器用に戻していく。
「一昔前の人間の絡繰(銃)を能く使うものだ。大いに励め」
 賞賛と鼓舞のつもりが会議後な事もあり、つい上官のような口調になってしまった。
 だがそれにロドリィは任せろと笑って応えた。そして、澄んだ青い瞳を輝かせて言う。
「銃はいい。天使より早く、悪魔を撃ち落とせる」
 黄金に輝く筒を覗いて的を狙う仕草をする。その姿は彼の異名(狩人)に似合いだ。
「銃とはそれ程に心奪われるものなのか」
「まぁ、俺の銃は特別でね。昔"家族"だった人間の遺品さ」
 ザワッと、木々や足元の芝が風に揺れた。
「銃だけじゃなく、人間の作る機械も好きだ。いよいよ鉄の塊で空を飛ぶんだ、天界に旅行に来るんじゃねえかって思うぞ」
「人の身で天に……。それが『傲慢』でなければ斬らずに済むのだがな」
「悪魔(あいつら)とは違う。原動力は素直に『憧れ』さ」
「……分からんでもないのは何故だろうな」
「そりゃ、好きなもんに心奪われると天使だろうとつい夢中に……」
 ロドリィはそこで言葉を止めた。
「つまり俺は、銃前にしたら誰かさんの妹ばかと同じだと……?」
「いや、ロドリィには負ける」
 目を合わせると、どちらとも無く笑みに似た溜息がこぼれた。
 声が重なった。
「お互い様だな?(「お互い様だろう」)」

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0