【天魔大戦】天使の勇壮歌:1
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 樫木間黒納品 2022年05月15日 12時10分17秒
悪魔軍勢の侵攻に天界は対抗戦力を派遣したが、強大な敵戦力を前に天使勢力は不利に陥った。
これを憂いた上位天使達は三人の実力者に参戦を命じる。
――『火』の天使、第六位・バクル。
――『土』の天使、第六位・ミツエル。
――『水』の天使、第七位・アヴェラ。
指令を下された天使達はすぐさま地上に降下する。
神の敵を討ち滅ぼさんがために。
●
何処かの、とある場所。
少女の姿をした悪魔は鏡を見つめていた。
否、鏡を象った魔道具と呼んだ方が差し支えないだろうか。何故なら鏡に映っているのは彼女の姿ではなく、彼女の背後にあるはずもない戦場が映っているのだから。
鏡の中では天使と悪魔達が戦っていた。
殺し合い、傷つき、血を流し、倒れ……そして消えていく。
見た所、有利なのは悪魔達の方だ。けれど空の上から新たな天使が舞い降りてくる――援軍か。
それを見て、彼女は焦る訳でもなくほくそ笑んでいた。
「幾ら来ても結果は変わらないのですから」
●
『諦めてくださいな』
戦場に女の声が響く。敵軍からの宣戦布告か。
しかし言葉一つで折れる戦意を持つ者はこの場に居ない。
三人の他に「援軍」としての参戦を命じられた天使も、彼らより階級は低いなれど天界のために命を捧げる事など厭わない戦士達なのだ。
「アヴェラは遊撃を。バクルは私と共に来て。前線の悪魔を狩り尽くし、戦線を押し上げるわ」
獲物の蛇腹剣を携え、ミツエルが指示を下す。
嘗ては直属の上司の補佐官として――そして現在も部隊指揮官として優れた実績を持つミツエルの指示に反感を抱く天使はいない。その多くがミツエル直属の配下である事を差し引いても、だ。
「かしこまりました」
恭しく礼をしてみせ、愛くるしい少女にしか見えない天使の姿が蜃気楼の如く揺らぎ……消えた。
「任せて!」
小柄な白蜥蜴の天使が自慢の得物を振り回す。厳密に言えば彼の本領は戦闘ではなく鍛冶なのだが、爆発力では並の天使と比べ物にならない事をミツエルはよく知っている。
アヴェラとバクル以外の天使も指示された通りに移動を、または武器を構えたのを見計らいミツエルは鬨の声を上げる。
「行くわよ――創生神の名に誓って、天界に勝利の栄光を!」
●
傷つき、今にも倒れ伏しそうになる天使の前に悪魔の凶刃が迫る。
彼には己の眼前に迫った運命を直視する力しか残されていない。真早これまでか――と眼を瞑る。
しかし、運命の瞬間は訪れなかった。
再び目を開いた時視界の先にあったのは大きな石の壁。そして向こう側に切り込む白い影だった。
「うおおりゃああああーーーー!!!!」
先まで優位に立っていた悪魔の身が切り裂かれ、数瞬の後に塵となって消える。
刃に付いた血を振り払い、返す勢いで次々と群がる悪魔達を切り伏せる。雑兵程度なら一刀で致命傷を負わせるその威力。加えてバクル自身の魔力で形成された炎の翼が死角を潰し、数の利すら与えない。包囲からの一斉攻撃を目論む悪魔達の身に紅い花弁が突き刺さる。
瞬く間に敵を屠るたった一人の天使すら食い止められず、悪魔達は数を減らして行く。であれば多くが疲弊した身だとしても、戦況が覆り出すのは自明の理。
「負傷者は一旦下がらせ治癒の魔術を。動ける者は天使バクルに続け――ここで押し返すわ!」
ミツエルが次の指示を下す。掛け声に応じ、士気の高まった天使達が攻めに転じる。先と同じ様に『土』の魔法に守られた天使達への被害は極軽微。その上、彼女は通信魔法を所持する天使を上手く利用していた。何処に居てもミツエルの声がよく届き、通信役から彼女の目が届かない戦場の様子も知る事ができる。
各所で天使達の攻勢が始まって行ったのであった――。
一方、バクルとミツエルが向かった戦場とは別方面。
ミツエルには「遊撃」とだけ指示されていたが、アヴェラは自身に求められた役割を理解していた。
そもそも戦争というものは、ただ敵対者を全て屠ればいいものではない。如何に余力を残して、如何に多くの敵を屠るか。総合的な収支計算が後の戦局を左右する。
仮令この戦場で全ての敵を仕留めても、自分達が盛大に消耗してしまっては他の戦場で逆転されるかもしれない。特に一騎当千の将という者は厄介だ。単純な数の利が通用しない相手。ミツエル指揮下の軍勢は階級以上の戦闘力を発揮すると言われるが――それでも苦しい相手という者はある。
ではその将を最小限の労力で、早々に始末してしまえばどうなるだろうか?
「――さようなら」
声に気づいた時、その悪魔は頸部から鮮血を吹き散らしていた。
「……ああ、もう死んでしまったの。残念」
最後に彼の者の手を――注視しようとしたが、その前に亡骸は消えた。
軍勢の「将」と呼べる者を喪い、その場に居た悪魔は騒然とする。状況を理解できた賢明な者は闇討ちしてきた者を始末しようとするが――攻撃が当たる瞬間、水が弾けたように彼女の身体が消える。
分身だった。驚愕と同時に、彼女を討とうとした悪魔の眉間に小さなナイフが突き刺さる。
「ちょうどいいわ。ついでに少し減らしておこうかしら」
ふわり。
アヴェラの周囲に水球が浮かぶ。つう、と指を振ればそれらは勢いを上げて刃物のように敵対者を切り裂く。静かになった戦場にて、再びアヴェラは蜃気楼のように水飛沫を残しその場から消えた。
●
援軍の登場で戦局は天界軍の優勢。
このまま押し切れる――ように見えた。
『ミツエル様! 戦車に乗った悪魔が我らの軍勢を蹂躙しております!』
「何ですって!?」
通信役からの緊急入電。詳細を聞く前に悲鳴と轟音に掻き消され、通信が途絶える。
せめて、他の通信役から情報を預かろうと動く直前。それは目の前に現れた。
――吹きすさぶ砂塵を携え、馬に跨った悪魔が戦場を駆け抜ける。
進行方向から逃れられなかった天使は紙切れのように軽々と吹き飛ばされた。迫力もさることながら、馬に繋がれた馬車も含め相応の質量を持っているのだろう。あれと激突してしまえば、無事で済まない。
「……『我その強大なる力に支援を求めたり。その力で持って、我が友を守護せよ』――大地讃頌・堅甲輝壁!」
ミツエルの魔法が、馬車の進行方向へ防壁を生み出す。鉱石を思わせるその物体が馬車と衝突すれば一瞬動きを阻み……そして、砕かれた。
魔法による防御も足止めにすらならない。なればと蛇腹剣を振るうも硬い壁に弾かれたように無力化された。
ゆらり、と魔将軍のすぐ傍で景色が揺らぐ。そこから現れたのはアヴェラだ。得意の奇襲で悪魔の首を刎ねようとするも、刃が届く直前に腕を掴まれる。
「――っ!? 対応……された?」
そのまま投げ飛ばされる――前に液体のようにするりと抜け出す。しかし追撃を与える事はできそうにない。
「それならぼくが!」
と、次に挑んだのはバクル。しかし彼の魔力を込めた渾身の一撃も空振りに終わった。重量級に見せかけて機動力も高いようだ。
「クソぅ!!」
「……ここは撤退よ! 態勢を立て直すわ!」
歯痒い所だが、このままでは決定打を与える事もできず全滅が末路だ。
天界軍は仕方なく、迫り来る戦車の足止めと逃げに徹する事を余儀なくされた。
●
「わたしの奇襲に対応されました。恐らく、優れた感覚を持っているのだと思われます」
あの時、アヴェラは魔法を使って空気の屈折を歪ませ本来の居場所と違う場所に姿が映るようにしていた。けれどもそれを見破った上で、的確に腕を掴まれたのだ。
「尤も……届いたとして、命を絶てていたかはわかりませんが」
「防御結界が張られているね。あの馬車による物かな」
馬車の形をしているがあれも武器の一つだ。敵の所有物ながら、バクルは一種の敬意を抱かずにはいられなかった。
「けれど全くの無敵であるはずがないわ。攻撃を全て無効化するなら回避する必要はない」
特にバクルの一撃は非常に警戒している様子を見せていた。驚異に感じていたはずだ。
ならば、そこに付け入る隙がある。
「考えがあるわ。でも……これには今まで以上に高精度の連携が必要よ。失敗は許されない」
ミツエルの言葉に二人の天使が頷く。
三人が主体となった戦車の悪魔討伐作戦が始まろうとしていた――。
●
戦車の悪魔は多くを語らない。
しかし再度立ち向かう天使軍の無謀さに、いっそ憐れみすら感じていた。
何度挑もうとしても無駄だ。この授かり物がある限り負けは有り得ぬのだ――と。
「頼みましたわ」
思い起こされたのは彼の主君たる悪魔、オーカの言葉だった。
彼女は彼を信じてこの馬車を託してくれた。戦場に出て、天使を殺しつくす役目を拝領する事を許してくれた。
今も尚、彼女は己の働きを見守ってくれているのだろう。
そんな主の期待を裏切るような真似は、できない。
悪魔は武器を構え、静かに立ちはだかる軍勢を見据えていた。
●
突撃を仕掛ける悪魔へ、ミツエルは詠唱を始める。
「――大地讃頌・百器万撃!」
夥しい数の岩石が一斉に放たれる。ミツエルの有する攻撃手段の中でも、最高峰の威力を誇る呪文だ。けれど礫は結界に阻まれてしまった。向かい側から打ち付ける岩石に機動力が削がれているようだが、打ち切った頃にはそれも無くなるであろう。
しかしこの大技も目眩しに過ぎない。飛礫の山に視界が押し潰されている合間を狙い、アヴェラが奇襲をしかける。
――ガキィン!
大音を立て、アヴェラの暗器と悪魔の戦斧が交叉する。
危うい所であったが、悪魔は奇襲に気づく事ができた。敵の本命は此方にあったようだが見破ってしまえばそれまでだ。
そう、悪魔が確信した瞬間だった。
これを憂いた上位天使達は三人の実力者に参戦を命じる。
――『火』の天使、第六位・バクル。
――『土』の天使、第六位・ミツエル。
――『水』の天使、第七位・アヴェラ。
指令を下された天使達はすぐさま地上に降下する。
神の敵を討ち滅ぼさんがために。
●
何処かの、とある場所。
少女の姿をした悪魔は鏡を見つめていた。
否、鏡を象った魔道具と呼んだ方が差し支えないだろうか。何故なら鏡に映っているのは彼女の姿ではなく、彼女の背後にあるはずもない戦場が映っているのだから。
鏡の中では天使と悪魔達が戦っていた。
殺し合い、傷つき、血を流し、倒れ……そして消えていく。
見た所、有利なのは悪魔達の方だ。けれど空の上から新たな天使が舞い降りてくる――援軍か。
それを見て、彼女は焦る訳でもなくほくそ笑んでいた。
「幾ら来ても結果は変わらないのですから」
●
『諦めてくださいな』
戦場に女の声が響く。敵軍からの宣戦布告か。
しかし言葉一つで折れる戦意を持つ者はこの場に居ない。
三人の他に「援軍」としての参戦を命じられた天使も、彼らより階級は低いなれど天界のために命を捧げる事など厭わない戦士達なのだ。
「アヴェラは遊撃を。バクルは私と共に来て。前線の悪魔を狩り尽くし、戦線を押し上げるわ」
獲物の蛇腹剣を携え、ミツエルが指示を下す。
嘗ては直属の上司の補佐官として――そして現在も部隊指揮官として優れた実績を持つミツエルの指示に反感を抱く天使はいない。その多くがミツエル直属の配下である事を差し引いても、だ。
「かしこまりました」
恭しく礼をしてみせ、愛くるしい少女にしか見えない天使の姿が蜃気楼の如く揺らぎ……消えた。
「任せて!」
小柄な白蜥蜴の天使が自慢の得物を振り回す。厳密に言えば彼の本領は戦闘ではなく鍛冶なのだが、爆発力では並の天使と比べ物にならない事をミツエルはよく知っている。
アヴェラとバクル以外の天使も指示された通りに移動を、または武器を構えたのを見計らいミツエルは鬨の声を上げる。
「行くわよ――創生神の名に誓って、天界に勝利の栄光を!」
●
傷つき、今にも倒れ伏しそうになる天使の前に悪魔の凶刃が迫る。
彼には己の眼前に迫った運命を直視する力しか残されていない。真早これまでか――と眼を瞑る。
しかし、運命の瞬間は訪れなかった。
再び目を開いた時視界の先にあったのは大きな石の壁。そして向こう側に切り込む白い影だった。
「うおおりゃああああーーーー!!!!」
先まで優位に立っていた悪魔の身が切り裂かれ、数瞬の後に塵となって消える。
刃に付いた血を振り払い、返す勢いで次々と群がる悪魔達を切り伏せる。雑兵程度なら一刀で致命傷を負わせるその威力。加えてバクル自身の魔力で形成された炎の翼が死角を潰し、数の利すら与えない。包囲からの一斉攻撃を目論む悪魔達の身に紅い花弁が突き刺さる。
瞬く間に敵を屠るたった一人の天使すら食い止められず、悪魔達は数を減らして行く。であれば多くが疲弊した身だとしても、戦況が覆り出すのは自明の理。
「負傷者は一旦下がらせ治癒の魔術を。動ける者は天使バクルに続け――ここで押し返すわ!」
ミツエルが次の指示を下す。掛け声に応じ、士気の高まった天使達が攻めに転じる。先と同じ様に『土』の魔法に守られた天使達への被害は極軽微。その上、彼女は通信魔法を所持する天使を上手く利用していた。何処に居てもミツエルの声がよく届き、通信役から彼女の目が届かない戦場の様子も知る事ができる。
各所で天使達の攻勢が始まって行ったのであった――。
一方、バクルとミツエルが向かった戦場とは別方面。
ミツエルには「遊撃」とだけ指示されていたが、アヴェラは自身に求められた役割を理解していた。
そもそも戦争というものは、ただ敵対者を全て屠ればいいものではない。如何に余力を残して、如何に多くの敵を屠るか。総合的な収支計算が後の戦局を左右する。
仮令この戦場で全ての敵を仕留めても、自分達が盛大に消耗してしまっては他の戦場で逆転されるかもしれない。特に一騎当千の将という者は厄介だ。単純な数の利が通用しない相手。ミツエル指揮下の軍勢は階級以上の戦闘力を発揮すると言われるが――それでも苦しい相手という者はある。
ではその将を最小限の労力で、早々に始末してしまえばどうなるだろうか?
「――さようなら」
声に気づいた時、その悪魔は頸部から鮮血を吹き散らしていた。
「……ああ、もう死んでしまったの。残念」
最後に彼の者の手を――注視しようとしたが、その前に亡骸は消えた。
軍勢の「将」と呼べる者を喪い、その場に居た悪魔は騒然とする。状況を理解できた賢明な者は闇討ちしてきた者を始末しようとするが――攻撃が当たる瞬間、水が弾けたように彼女の身体が消える。
分身だった。驚愕と同時に、彼女を討とうとした悪魔の眉間に小さなナイフが突き刺さる。
「ちょうどいいわ。ついでに少し減らしておこうかしら」
ふわり。
アヴェラの周囲に水球が浮かぶ。つう、と指を振ればそれらは勢いを上げて刃物のように敵対者を切り裂く。静かになった戦場にて、再びアヴェラは蜃気楼のように水飛沫を残しその場から消えた。
●
援軍の登場で戦局は天界軍の優勢。
このまま押し切れる――ように見えた。
『ミツエル様! 戦車に乗った悪魔が我らの軍勢を蹂躙しております!』
「何ですって!?」
通信役からの緊急入電。詳細を聞く前に悲鳴と轟音に掻き消され、通信が途絶える。
せめて、他の通信役から情報を預かろうと動く直前。それは目の前に現れた。
――吹きすさぶ砂塵を携え、馬に跨った悪魔が戦場を駆け抜ける。
進行方向から逃れられなかった天使は紙切れのように軽々と吹き飛ばされた。迫力もさることながら、馬に繋がれた馬車も含め相応の質量を持っているのだろう。あれと激突してしまえば、無事で済まない。
「……『我その強大なる力に支援を求めたり。その力で持って、我が友を守護せよ』――大地讃頌・堅甲輝壁!」
ミツエルの魔法が、馬車の進行方向へ防壁を生み出す。鉱石を思わせるその物体が馬車と衝突すれば一瞬動きを阻み……そして、砕かれた。
魔法による防御も足止めにすらならない。なればと蛇腹剣を振るうも硬い壁に弾かれたように無力化された。
ゆらり、と魔将軍のすぐ傍で景色が揺らぐ。そこから現れたのはアヴェラだ。得意の奇襲で悪魔の首を刎ねようとするも、刃が届く直前に腕を掴まれる。
「――っ!? 対応……された?」
そのまま投げ飛ばされる――前に液体のようにするりと抜け出す。しかし追撃を与える事はできそうにない。
「それならぼくが!」
と、次に挑んだのはバクル。しかし彼の魔力を込めた渾身の一撃も空振りに終わった。重量級に見せかけて機動力も高いようだ。
「クソぅ!!」
「……ここは撤退よ! 態勢を立て直すわ!」
歯痒い所だが、このままでは決定打を与える事もできず全滅が末路だ。
天界軍は仕方なく、迫り来る戦車の足止めと逃げに徹する事を余儀なくされた。
●
「わたしの奇襲に対応されました。恐らく、優れた感覚を持っているのだと思われます」
あの時、アヴェラは魔法を使って空気の屈折を歪ませ本来の居場所と違う場所に姿が映るようにしていた。けれどもそれを見破った上で、的確に腕を掴まれたのだ。
「尤も……届いたとして、命を絶てていたかはわかりませんが」
「防御結界が張られているね。あの馬車による物かな」
馬車の形をしているがあれも武器の一つだ。敵の所有物ながら、バクルは一種の敬意を抱かずにはいられなかった。
「けれど全くの無敵であるはずがないわ。攻撃を全て無効化するなら回避する必要はない」
特にバクルの一撃は非常に警戒している様子を見せていた。驚異に感じていたはずだ。
ならば、そこに付け入る隙がある。
「考えがあるわ。でも……これには今まで以上に高精度の連携が必要よ。失敗は許されない」
ミツエルの言葉に二人の天使が頷く。
三人が主体となった戦車の悪魔討伐作戦が始まろうとしていた――。
●
戦車の悪魔は多くを語らない。
しかし再度立ち向かう天使軍の無謀さに、いっそ憐れみすら感じていた。
何度挑もうとしても無駄だ。この授かり物がある限り負けは有り得ぬのだ――と。
「頼みましたわ」
思い起こされたのは彼の主君たる悪魔、オーカの言葉だった。
彼女は彼を信じてこの馬車を託してくれた。戦場に出て、天使を殺しつくす役目を拝領する事を許してくれた。
今も尚、彼女は己の働きを見守ってくれているのだろう。
そんな主の期待を裏切るような真似は、できない。
悪魔は武器を構え、静かに立ちはだかる軍勢を見据えていた。
●
突撃を仕掛ける悪魔へ、ミツエルは詠唱を始める。
「――大地讃頌・百器万撃!」
夥しい数の岩石が一斉に放たれる。ミツエルの有する攻撃手段の中でも、最高峰の威力を誇る呪文だ。けれど礫は結界に阻まれてしまった。向かい側から打ち付ける岩石に機動力が削がれているようだが、打ち切った頃にはそれも無くなるであろう。
しかしこの大技も目眩しに過ぎない。飛礫の山に視界が押し潰されている合間を狙い、アヴェラが奇襲をしかける。
――ガキィン!
大音を立て、アヴェラの暗器と悪魔の戦斧が交叉する。
危うい所であったが、悪魔は奇襲に気づく事ができた。敵の本命は此方にあったようだが見破ってしまえばそれまでだ。
そう、悪魔が確信した瞬間だった。