全ては風の気まぐれ
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 真柄 葉納品 2022年04月17日 11時51分00秒
その大地にはまだ僅かばかりの緑が残っていた。
毎時毎分毎秒、世界のどこかで繰り返される超常の者達による小競り合い。
創世の神と反逆の王が眠りに就き、二千年が経ってさえ、終りという文字は欠片すら見えてはいなかった。
「貴様如き低能が、俺の前で口を開いたのが運の尽きだったな」
最早、半身を塵に返していた同胞を侮蔑の眼差しで見下ろしながら、ベルゼトールは吐き捨てた。
これで2045体。
第一次天魔大戦で失った二枚の羽を嘲笑った者を屠った数だ。
「その眼で俺を見るな。イライラする……」
ベルゼトールは絶望に見開く同胞の眼に憤怒の拳を叩きつけた。
「……晴れん。この程度じゃ、まったく晴れんぞ……!」
消えていく同胞に一分の興味すら示さず、ベルゼトールは黒く淀んだ空に向け咆哮する――。
●
「今何か聞こえたような……」
頭の羽根をピコピコ動かし、イバラージョは首を傾げた。
何処か……そう遠くない場所から、何やら晴れを呼ぶ声が聞こえた――――気がした。
「……これはきっとわたくしを呼ぶ福音ですわ!」
一体何を根拠にそう思ったのかは本人にしかわからない。いや、本人にすらわからぬまま、声に導かれ羽根を羽ばたかせる。
向かう先はたぶんあっち。
イバラージョはふわふわと黒い空を漂いながら、『福音』に導かれていく――。
●
「きゃっほー!! 今日も快調快速いい感じ! さてさて、今日はどこにいこー、地上一周のRTAでもしてみよっかな。今日も世界を○秒縮めたぜ……みたいな?」
超音速の粒子が黒空に金の軌跡を引く。
黒々とした雲も。禍々しい瘴気も。襲い来る低級悪魔だってぶっちぎって、サフィエルはその天界一ともいわれるスピードに今日も酔いしれていた。
「うーん、どっかに面白い事ころがってないかなー」
きょろきょろと黒い空から地上を眺める。
荒廃し尽くした地上世界。ひ弱な生命達の痕跡がわずかに残る荒れた大地が瞬く間に通り過ぎていく。
音速を越える速度の中、サフィエルは空中で胡坐をかき今日をどう楽しもうか思案した
「おっ、そうだ! 今日は地上すれすれで障害物走でもしてみようかな! おれのせんかいりょくがためされるぅー!!」
地上に散らばる遺跡群を見下ろしながら、サフィエルは一気に高度を下げた――。
●
「……確かこの辺りから聞こえたような気がしましたの」
――ガッ。
「はわっ!」
――ビュンっ。
「ほわっ!?」
――ズビューーーーン!
「あわわわわっっっ!!??」
『晴れの音』を探しきょろきょろと辺りを見渡していて足元を疎かにしていたら出っ張っていた石につまづきコケそうになった所を超音速の何かが横切り風圧でそのまま吹っ飛ばされるイバラージョ(この間僅か0.8秒)。
「ななな、なんですのー!?」
今まで経験した事もないような速度で吹っ飛ばされたイバラージョ。超高速で過ぎていく世界が螺旋を描く。ついでにおめめも螺旋を描く。ぐるぐるぐるぐる飛んでいく……。
――ミッ。
一体どれくらい飛ばされただろうか。藁をも掴む思いで手を掻いていたら。
――シッ!!
何か変な音がした。
――――ずざざざざっ!!
ようやく地面に辿りつき、ぐわんぐわんと揺れる世界を立て直す。
「あいたたた……ひどい目に遭いましたわ。……はて、これは何ですの? 羽、ですの?」
何とか止まった螺旋の世界。イバラージョはなぜか手にしていた真っ黒な『羽』を見つめ首を傾げた。
『ぐおあぁぁっ!!! なっ……お、俺の羽が……!!』
地から聞こえた、ぐおーー?
『障害物走とかしてる場合じゃなかったっ! プリン冷やすの忘れてたにゃーー!!』
天から聞こえた、にゃー?
――ビュンっ!!
再び吹いた亜音速の突風。
「へ……またですのぉぉぉぉぉっ!!!」
風はイバラージョのひ弱な体を運んでいく――。
●
「およ? なんか聞こえたけど気のせいかな? はっ、それよりプリンー!!」
音速の主は、地上をかすめ天へと昇る。
「ぐぅ……馬鹿な、この俺が目で追えぬだと! くそぉ、どこの悪魔だぁぁ!!」
六翼の悪魔は、自らの羽を毟った悪魔の姿に驚愕と共に慟哭した。
こうして、誰も認知することなく出会った三人の因縁は、その後数千年先へと続いていく――。
●
時に創世紀元5000年。
破壊しつくされた地上に、再びの暗雲が立ち込める。
「とうとう見つけたぞ、我が羽の仇イバラージョ!!」
穢れた大地に巨大なクレーターが穿たれた。
「ななな、なんですのっ!? 貴方は一体誰ですのぉぉぉ!!」
クレーターから飛んできた砂礫にお尻をぺちぺち撃たれながらも、イバラージョは懸命に逃げる。
「ふん、とぼける気か。いいだろう、では思い出させてやる!」
憤怒の悪魔の名に恥じぬ膨大な怒気を膨らませ、ベルゼトールはイバラージョを追う。彼我の距離は見る見るうちに縮まっていく。
なんだあの鈍重な飛行は。カモフラージュか?
そう思わせるほどに他愛ない。
しかし、忘れもしないあの姿。あれは間違いなく俺の羽を毟った張本人だ。
過ぎ去りし恥辱を思い出す。
実力を隠しているのか。ならば、暴いてやろう……!
俺の前では全てが無駄だと悟れ――。
更に怒気を膨らませたベルゼトールの拳が、イバラージョの背に迫る。
その時だった――。
――――ブオォンッ!!
天空から地上へと吹き付けた突風。
「ぐっ……! こ、この風は、まさか!!」
「ひょああぁぁぁっっ!!!」
『あー、あったあった。いやぁ、家の鍵を地上に落とすとかついてないにゃー。でも、これで500年ぶりにお家に入れるー。プリンまだ残ってるかな。賞味期限、確か1000年だったよね?』
ベルゼトールが残る三翼で暴風を避け。
イバラージョは成す術無く吹っ飛ばされる。
全てを押しつぶさんばかりに吹きつける暴風の中、とぎれとぎれに聞こえる謎の声。
『うにゃ? また何か聞こえた気がするけど……んーー、ま、いっか。それより、プリンだー! 待ってろプリンーー!! 500年ぶりの再会だーー!!』
暴風は嘘のように消え去り、代わりに地上から天空へと噴き上げる突風が襲う。
全てを吸い上げる猛烈な竜巻に、思わず大地にしがみ付く――。
――――竜巻は過ぎ去った。
『クスクスクス……』
視界の端で漏れ聞こえる嘲笑。
「……面白い、俺をここまでコケにした悪魔は貴様が初めてだ」
遥か彼方を見つめていたベルゼトールの身体が、一瞬にして消えた。
「貴様ら……あの悪魔、イバラージョを見つけたら俺に言え。隠せば、その命ないと思えよ」
嘲笑していた低級悪魔達の羽を毟り、ベルゼトールは再び姿を消した。
●
一方その頃――。
「……はっ!」
頭から突っ込んでいた地面から顔を上げ、イバラージョはきょろきょろと辺りを見渡す。
辺りに命の気配はない。
あまりに一瞬の出来事。あまりに怒涛の展開。一体何が起こったのかさっぱりわからない。
「なんだか無性にプリンが食べたくなりましたわ。帰りましょう」
わからないし、とりあえずいいかと、イバラージョは服についた土埃をパンパンすると、ぎゅーっと鳴くお腹を押さえ帰路を急いだ。
こうして「憤怒の悪魔ベルゼトールを玩具にする、イバラージョという悪魔がいる」という噂だけが独り歩きしていくことになるのだが、それはまた別のお話――――。
毎時毎分毎秒、世界のどこかで繰り返される超常の者達による小競り合い。
創世の神と反逆の王が眠りに就き、二千年が経ってさえ、終りという文字は欠片すら見えてはいなかった。
「貴様如き低能が、俺の前で口を開いたのが運の尽きだったな」
最早、半身を塵に返していた同胞を侮蔑の眼差しで見下ろしながら、ベルゼトールは吐き捨てた。
これで2045体。
第一次天魔大戦で失った二枚の羽を嘲笑った者を屠った数だ。
「その眼で俺を見るな。イライラする……」
ベルゼトールは絶望に見開く同胞の眼に憤怒の拳を叩きつけた。
「……晴れん。この程度じゃ、まったく晴れんぞ……!」
消えていく同胞に一分の興味すら示さず、ベルゼトールは黒く淀んだ空に向け咆哮する――。
●
「今何か聞こえたような……」
頭の羽根をピコピコ動かし、イバラージョは首を傾げた。
何処か……そう遠くない場所から、何やら晴れを呼ぶ声が聞こえた――――気がした。
「……これはきっとわたくしを呼ぶ福音ですわ!」
一体何を根拠にそう思ったのかは本人にしかわからない。いや、本人にすらわからぬまま、声に導かれ羽根を羽ばたかせる。
向かう先はたぶんあっち。
イバラージョはふわふわと黒い空を漂いながら、『福音』に導かれていく――。
●
「きゃっほー!! 今日も快調快速いい感じ! さてさて、今日はどこにいこー、地上一周のRTAでもしてみよっかな。今日も世界を○秒縮めたぜ……みたいな?」
超音速の粒子が黒空に金の軌跡を引く。
黒々とした雲も。禍々しい瘴気も。襲い来る低級悪魔だってぶっちぎって、サフィエルはその天界一ともいわれるスピードに今日も酔いしれていた。
「うーん、どっかに面白い事ころがってないかなー」
きょろきょろと黒い空から地上を眺める。
荒廃し尽くした地上世界。ひ弱な生命達の痕跡がわずかに残る荒れた大地が瞬く間に通り過ぎていく。
音速を越える速度の中、サフィエルは空中で胡坐をかき今日をどう楽しもうか思案した
「おっ、そうだ! 今日は地上すれすれで障害物走でもしてみようかな! おれのせんかいりょくがためされるぅー!!」
地上に散らばる遺跡群を見下ろしながら、サフィエルは一気に高度を下げた――。
●
「……確かこの辺りから聞こえたような気がしましたの」
――ガッ。
「はわっ!」
――ビュンっ。
「ほわっ!?」
――ズビューーーーン!
「あわわわわっっっ!!??」
『晴れの音』を探しきょろきょろと辺りを見渡していて足元を疎かにしていたら出っ張っていた石につまづきコケそうになった所を超音速の何かが横切り風圧でそのまま吹っ飛ばされるイバラージョ(この間僅か0.8秒)。
「ななな、なんですのー!?」
今まで経験した事もないような速度で吹っ飛ばされたイバラージョ。超高速で過ぎていく世界が螺旋を描く。ついでにおめめも螺旋を描く。ぐるぐるぐるぐる飛んでいく……。
――ミッ。
一体どれくらい飛ばされただろうか。藁をも掴む思いで手を掻いていたら。
――シッ!!
何か変な音がした。
――――ずざざざざっ!!
ようやく地面に辿りつき、ぐわんぐわんと揺れる世界を立て直す。
「あいたたた……ひどい目に遭いましたわ。……はて、これは何ですの? 羽、ですの?」
何とか止まった螺旋の世界。イバラージョはなぜか手にしていた真っ黒な『羽』を見つめ首を傾げた。
『ぐおあぁぁっ!!! なっ……お、俺の羽が……!!』
地から聞こえた、ぐおーー?
『障害物走とかしてる場合じゃなかったっ! プリン冷やすの忘れてたにゃーー!!』
天から聞こえた、にゃー?
――ビュンっ!!
再び吹いた亜音速の突風。
「へ……またですのぉぉぉぉぉっ!!!」
風はイバラージョのひ弱な体を運んでいく――。
●
「およ? なんか聞こえたけど気のせいかな? はっ、それよりプリンー!!」
音速の主は、地上をかすめ天へと昇る。
「ぐぅ……馬鹿な、この俺が目で追えぬだと! くそぉ、どこの悪魔だぁぁ!!」
六翼の悪魔は、自らの羽を毟った悪魔の姿に驚愕と共に慟哭した。
こうして、誰も認知することなく出会った三人の因縁は、その後数千年先へと続いていく――。
●
時に創世紀元5000年。
破壊しつくされた地上に、再びの暗雲が立ち込める。
「とうとう見つけたぞ、我が羽の仇イバラージョ!!」
穢れた大地に巨大なクレーターが穿たれた。
「ななな、なんですのっ!? 貴方は一体誰ですのぉぉぉ!!」
クレーターから飛んできた砂礫にお尻をぺちぺち撃たれながらも、イバラージョは懸命に逃げる。
「ふん、とぼける気か。いいだろう、では思い出させてやる!」
憤怒の悪魔の名に恥じぬ膨大な怒気を膨らませ、ベルゼトールはイバラージョを追う。彼我の距離は見る見るうちに縮まっていく。
なんだあの鈍重な飛行は。カモフラージュか?
そう思わせるほどに他愛ない。
しかし、忘れもしないあの姿。あれは間違いなく俺の羽を毟った張本人だ。
過ぎ去りし恥辱を思い出す。
実力を隠しているのか。ならば、暴いてやろう……!
俺の前では全てが無駄だと悟れ――。
更に怒気を膨らませたベルゼトールの拳が、イバラージョの背に迫る。
その時だった――。
――――ブオォンッ!!
天空から地上へと吹き付けた突風。
「ぐっ……! こ、この風は、まさか!!」
「ひょああぁぁぁっっ!!!」
『あー、あったあった。いやぁ、家の鍵を地上に落とすとかついてないにゃー。でも、これで500年ぶりにお家に入れるー。プリンまだ残ってるかな。賞味期限、確か1000年だったよね?』
ベルゼトールが残る三翼で暴風を避け。
イバラージョは成す術無く吹っ飛ばされる。
全てを押しつぶさんばかりに吹きつける暴風の中、とぎれとぎれに聞こえる謎の声。
『うにゃ? また何か聞こえた気がするけど……んーー、ま、いっか。それより、プリンだー! 待ってろプリンーー!! 500年ぶりの再会だーー!!』
暴風は嘘のように消え去り、代わりに地上から天空へと噴き上げる突風が襲う。
全てを吸い上げる猛烈な竜巻に、思わず大地にしがみ付く――。
――――竜巻は過ぎ去った。
『クスクスクス……』
視界の端で漏れ聞こえる嘲笑。
「……面白い、俺をここまでコケにした悪魔は貴様が初めてだ」
遥か彼方を見つめていたベルゼトールの身体が、一瞬にして消えた。
「貴様ら……あの悪魔、イバラージョを見つけたら俺に言え。隠せば、その命ないと思えよ」
嘲笑していた低級悪魔達の羽を毟り、ベルゼトールは再び姿を消した。
●
一方その頃――。
「……はっ!」
頭から突っ込んでいた地面から顔を上げ、イバラージョはきょろきょろと辺りを見渡す。
辺りに命の気配はない。
あまりに一瞬の出来事。あまりに怒涛の展開。一体何が起こったのかさっぱりわからない。
「なんだか無性にプリンが食べたくなりましたわ。帰りましょう」
わからないし、とりあえずいいかと、イバラージョは服についた土埃をパンパンすると、ぎゅーっと鳴くお腹を押さえ帰路を急いだ。
こうして「憤怒の悪魔ベルゼトールを玩具にする、イバラージョという悪魔がいる」という噂だけが独り歩きしていくことになるのだが、それはまた別のお話――――。