蟲毒の底

天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 阿瀬 春納品 2022年04月08日 10時48分50秒

 暗闇の天には半ば崩れた城郭が逆さに突き刺さっている。どうやらまた何処ぞの悪魔が何処ぞの悪魔の住処を戯れか力の誇示のためかに地獄の天へ――天蓋を覆い尽くす岩へと投げたらしい。
「……で?」
 人間界の廃ビルを模した住処の一室の窓から逆さ城郭を眺め、ビル上層に医院を構える悪魔医師はわざとらしく溜息を吐く。
「そろそろ彼女の薬の時間なんだ」
 黒の片翼を不機嫌に揺らして見せても、眼帯に隠れていない翡翠の左眼を険悪に細めて見せても、
「帰って」
 軽々と職務放棄して言い放ってみせても、
「そう言わず、ドク」
「薬をくれよ、ドク」
 向かいの椅子とベッドにそれぞれ掛けた悪魔たちは焼け爛れた手足を恥ずかしげもなく晒す。悪魔を生きたまま骨まで灰にしかねない火力の強さは、どう見ても天使の仕業だろう。
「頼むよ、痛ぇんだ」
「ドクターの【三千世界之甘露(アムリタ)】でさ、パーッと治してくれよ」
「……俺が治す義理なんてないと思うけれど?」
 そんなあ、と悪魔たちは情けない顔を見合わせる。
「頼む」
「この通りだ、翡翠(ジュスト・ヴェルジー)(ジェイド)――」
 言いかけた片割れ悪魔の口をもう片方が塞ぐよりも早く、火傷に薬どころか酸を振りかけられ、悪魔のひとりがおぞましい悲鳴を上げて昏倒する。皮膚が溶ける臭気が医務室に満ちるも構わず、悪魔医師は昏倒した悪魔を容赦なくベッドから蹴り落とした。
「その名を呼んでいいのは彼女だけだ」
 彼女の姿を見ることも。
 名前を呼ぶことも、触れることも。
 彼女の全てが己だけのものだ。己の全てが彼女だけのものだ。
「そ、そうだよなそうだよな!」
 そうだ、と残った悪魔が取り出したのは掌ほどの青い鳥のぬいぐるみ。
「可愛いだろ、確か彼女が欲しがってなかったか」
「なんで君が彼女の欲しがってるモノを知ってるんだい?」
 やる気のない溜息を吐き、悪魔医師は手を差し伸べる。ぬいぐるみを受け取るその代わり、
「さっさと見せ給え」
 悪魔が負った火傷を【三千世界之甘露(アムリタ)】でたちどころに癒してみせる。
 そうしながらも考えているのは、
(早く、薬を)
 彼女に対する日課のことばかり。
 薬を投与することで、今日も明日もその先も、彼女は永遠に己から離れられないのだから――

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0