てんしさんにん、天界れいさんぽ
天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 三隅 凛納品 2022年05月04日 12時09分11秒
陽気が気持ちの良い日だから。サフィエル(サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブ)は普段の音速ではなく、ふわふわとのんびり飛んでいた。
ぽかぽかと日向ぼっこ的飛行を気ままに楽しみながら、ふと地上に視線を落とす。
「およ? あの子たちだれだろ?」
地上には、あくまでふわりと静かに舞い降りた。
「友達になれるかなっ?」
●
瑠璃色――ではなく、白い二枚羽の天使、ラズリアーラ(猪原城・美雲)は、一歩一歩踏みしめてその感覚まで慈しむように歩いている。
人影――羽のある、もちろん天使のもの――を発見すると、とことこと歩み寄った。スカートの裾がひらひら揺れる。
●
スタラレリーチェヴァンダーレン(神楽坂 礼蘭)はルーチンの見廻りをしている。散歩も兼ねているそれは、しかし彼女にとって娯楽を意味しない。
当然、見廻り中に出会った顔見知り――知り合いというより、データに存在ありと認識――に挨拶した時も、かつての感受性や好奇心などの色は現れなかった。右の眼窩を彩る宝飾には勿論、左の瞳にも。
●
「はじめましてですわ!」
と、ラズリアーラが立ち止まり、スカートの裾をつまむ。上位の天使に対する作法というよりは『お嬢さん』の立ち振る舞い。
「にゃ! こんにちは!」
サフィエルがぴっと片手をあげて応じ、
「こんにちは」
スタラレリーチェヴァンダーレンは平淡な声で挨拶を返す。ラズリアーラはそれぞれを見遣って──しっかり首を振って視線を巡らせ――から尋ねる。
「あの、お二人のお名前は?」
「スタラレリーチェヴァンダーレンです」
「すたられ……? レン様ですわね!」
「あたし主天使のサフィエル! あなたはだあれ?」
「名乗りが遅れて申し訳ありませんわ。ラズリアーラと申しますの、よろしくお願いしますわ!」
「よろしくー!」
サフィエルが即応し、それをちらと見届けてからスタラレリーチェヴァンダーレンが一礼し、丁寧に上体を起こしてから歩き出した。挨拶も済んだので、見廻りに戻る。
二人はその後に続く。
「ラズリんは何してたのさ?」
ラズリん、の愛称に嬉しそうに目を輝かせながら、
「私はここの探検中ですの! 色々な場所があってぐるぐるしていたところですわ!」
実状は迷子である。
「にゃ! 探検いいね! 面白そう!」
「はい! 楽しいですわ!」
その会話を聞いて――意識して聴いている訳ではなく、あくまで距離が近いから耳に入ってくる――スタラレリーチェヴァンダーレンの頭に短いエラー音が鳴る。彼女が言う探検はまだ続いているようだが。
「……お二人共、本日は私の後をつける任務を遂行中なのですか?」
「いいえ! ええと、そのような任務は受けてませんわ!」
「んにゃー? 特に仕事はないよー」
では、何故。特に歩く方向を変えない二人に疑問が湧く。何か言葉を続けようとしたがその前に、
「そうだ!」
と、サフィエルが立ち止まって手を打ち鳴らす。
「せっかくだから、三人でお散歩しよーよ!」
まあ、とラズリアーラは満開の向日葵みたいに笑って、
「はい、ぜひ!」
と頷いた。それから期待――もしかしたら確信――に満ちた眼差しで、スタラレリーチェヴァンダーレンを見つめる。
「……見廻りに支障がなければ」
そう言いながらいつもと違う、二人が喜びそうな場所を通る道順を選んだことを彼女は自覚していないけれど。
●
そこは天界には珍しく、紺碧を主とした空間だった。短く狭い小川はどういう訳か穏やかな流れで、空の色よりも深い青を映している。青葉の落とす影が、それを更に深くする。
「落ち着きますわね……」
ラズリアーラがうっとりと目を閉じて、木漏れ日とせせらぎをその身に浴びる。
「ここ、いい場所だよねー! ちょっと飛びづらいけど」
うんうんと頷きながら、サフィエルはラズリアーラを見守る。スタラレリーチェヴァンダーレンも無意識に、歩くペースを落とす。
「およ」
と、サフィエルが何かに気付いた、とばかりに瞬きする。それからにっこり笑って、ラズリアーラの胸元を指差した。ラピスラズリの宝石。それから、川の青。
「似てるね!」
「似てますね」
スタラレリーチェヴァンダーレンも同意して、かくりと頷いた。ラズリアーラは照れながらも誇らしげに笑ってみせる。
綺麗な青。
「ここはねー」
短い風切り音だけ落としてぐるりと一周飛んでみせたサフィエルが得意げに語る。
「第一次天魔大戦が終わってすぐの時にね、水の天使長がお忍びでやってきては一休みしてた、なーんて伝説もあるんだよっ! 今でもたまーに綺麗な歌が聴こえる、なんてね!」
ラズリアーラは目を輝かせて――どちらかといえば話よりもサフィエルの天翔ける姿に感動したようだが――感心している。
「その噂話は」
サフィエルが言い終わるのを待ってから、スタラレリーチェヴァンダーレンが指摘した。
「風の天使長ですが」
「えっ!? そうだっけ! ……そうかも!」
ラズリアーラは二人のやりとりをにこにこと眺めている。
「ええ。ですので、この小川には癒しの力が宿っている……という話です。あくまで噂話ですが」
「流石は天界ですわ! サフィ様もレン様も、天界のことは詳しいんですわね!」
「まあねー!」
「職務の一環ですので」
サフィエルは素直に胸を張ってみせ、スタラレリーチェヴァンダーレンは淡々と答える。
「そうだ! 癒しの力がある場所といえば……」
サフィエルが道案内とばかりに先導しようとして、急ブレーキ。意図を察したラズリアーラと一緒に、スタラレリーチェヴァンダーレンをじっと見つめた。
「何かありましたか」
「見廻りのルート、大丈夫かなっ?」
二秒程の思考後、彼女はあっさり頷いた。
「支障ありません」
もちろん、職務に支障はない。少し回り道だが。
二人は嬉しそうに笑って、三人はまた歩く。
●
ラズリアーラが時々立ち止まっては二人に質問し、その度にサフィエルが先輩として解説し、時々はスタラレリーチェヴァンダーレンが誤りを指摘する、というのを何回かした頃。
ちょっとした事件が起きる。
「レリーチェ?」
あくまで『見廻り』をしている為、自分から立ち止まることはなかったスタラレリーチェヴァンダーレンが立ち止まっている。立ち尽くしている、と言っていい程にぴたりと動きを止めていた。少し遅れて気付いたラズリアーラも心配そうに覗き込む。
「お腹が空きました」
その声は機械的で、実際、彼女の頭の中ではエラー音が鳴り響いている。二人はきょとんとして見つめ続ける。
「何か食べさせてください」
続いた言葉に、サフィエルの表情が綻ぶ。
「任せて!」
●
天使は食事を必要としない。にもかかわらず、人間界(の一部)で言う『オシャレなカフェ』があるのはなんでも人間への理解を深める為だと囁かれていたりいなかったりする。
三人はそれぞれ、ケーキやサンドイッチや紅茶などを注文した。一足先に運ばれたサンドイッチを、空腹が深刻なスタラレリーチェヴァンダーレンがまず食べる。
ケーキをフォークで切り分けながら、サフィエルがねえ、と声をかける。
「また三人で、散歩しようねっ!」
「ええ、ぜひ!」
「はい。見廻りを兼ねたものでよければ」
それからスタラレリーチェヴァンダーレンは抑揚のない声で、それでも、
「貴方達の喜ぶ顔が見られて、私も嬉しいですから」
嬉しい、とはっきり言った。
ぽかぽかと日向ぼっこ的飛行を気ままに楽しみながら、ふと地上に視線を落とす。
「およ? あの子たちだれだろ?」
地上には、あくまでふわりと静かに舞い降りた。
「友達になれるかなっ?」
●
瑠璃色――ではなく、白い二枚羽の天使、ラズリアーラ(猪原城・美雲)は、一歩一歩踏みしめてその感覚まで慈しむように歩いている。
人影――羽のある、もちろん天使のもの――を発見すると、とことこと歩み寄った。スカートの裾がひらひら揺れる。
●
スタラレリーチェヴァンダーレン(神楽坂 礼蘭)はルーチンの見廻りをしている。散歩も兼ねているそれは、しかし彼女にとって娯楽を意味しない。
当然、見廻り中に出会った顔見知り――知り合いというより、データに存在ありと認識――に挨拶した時も、かつての感受性や好奇心などの色は現れなかった。右の眼窩を彩る宝飾には勿論、左の瞳にも。
●
「はじめましてですわ!」
と、ラズリアーラが立ち止まり、スカートの裾をつまむ。上位の天使に対する作法というよりは『お嬢さん』の立ち振る舞い。
「にゃ! こんにちは!」
サフィエルがぴっと片手をあげて応じ、
「こんにちは」
スタラレリーチェヴァンダーレンは平淡な声で挨拶を返す。ラズリアーラはそれぞれを見遣って──しっかり首を振って視線を巡らせ――から尋ねる。
「あの、お二人のお名前は?」
「スタラレリーチェヴァンダーレンです」
「すたられ……? レン様ですわね!」
「あたし主天使のサフィエル! あなたはだあれ?」
「名乗りが遅れて申し訳ありませんわ。ラズリアーラと申しますの、よろしくお願いしますわ!」
「よろしくー!」
サフィエルが即応し、それをちらと見届けてからスタラレリーチェヴァンダーレンが一礼し、丁寧に上体を起こしてから歩き出した。挨拶も済んだので、見廻りに戻る。
二人はその後に続く。
「ラズリんは何してたのさ?」
ラズリん、の愛称に嬉しそうに目を輝かせながら、
「私はここの探検中ですの! 色々な場所があってぐるぐるしていたところですわ!」
実状は迷子である。
「にゃ! 探検いいね! 面白そう!」
「はい! 楽しいですわ!」
その会話を聞いて――意識して聴いている訳ではなく、あくまで距離が近いから耳に入ってくる――スタラレリーチェヴァンダーレンの頭に短いエラー音が鳴る。彼女が言う探検はまだ続いているようだが。
「……お二人共、本日は私の後をつける任務を遂行中なのですか?」
「いいえ! ええと、そのような任務は受けてませんわ!」
「んにゃー? 特に仕事はないよー」
では、何故。特に歩く方向を変えない二人に疑問が湧く。何か言葉を続けようとしたがその前に、
「そうだ!」
と、サフィエルが立ち止まって手を打ち鳴らす。
「せっかくだから、三人でお散歩しよーよ!」
まあ、とラズリアーラは満開の向日葵みたいに笑って、
「はい、ぜひ!」
と頷いた。それから期待――もしかしたら確信――に満ちた眼差しで、スタラレリーチェヴァンダーレンを見つめる。
「……見廻りに支障がなければ」
そう言いながらいつもと違う、二人が喜びそうな場所を通る道順を選んだことを彼女は自覚していないけれど。
●
そこは天界には珍しく、紺碧を主とした空間だった。短く狭い小川はどういう訳か穏やかな流れで、空の色よりも深い青を映している。青葉の落とす影が、それを更に深くする。
「落ち着きますわね……」
ラズリアーラがうっとりと目を閉じて、木漏れ日とせせらぎをその身に浴びる。
「ここ、いい場所だよねー! ちょっと飛びづらいけど」
うんうんと頷きながら、サフィエルはラズリアーラを見守る。スタラレリーチェヴァンダーレンも無意識に、歩くペースを落とす。
「およ」
と、サフィエルが何かに気付いた、とばかりに瞬きする。それからにっこり笑って、ラズリアーラの胸元を指差した。ラピスラズリの宝石。それから、川の青。
「似てるね!」
「似てますね」
スタラレリーチェヴァンダーレンも同意して、かくりと頷いた。ラズリアーラは照れながらも誇らしげに笑ってみせる。
綺麗な青。
「ここはねー」
短い風切り音だけ落としてぐるりと一周飛んでみせたサフィエルが得意げに語る。
「第一次天魔大戦が終わってすぐの時にね、水の天使長がお忍びでやってきては一休みしてた、なーんて伝説もあるんだよっ! 今でもたまーに綺麗な歌が聴こえる、なんてね!」
ラズリアーラは目を輝かせて――どちらかといえば話よりもサフィエルの天翔ける姿に感動したようだが――感心している。
「その噂話は」
サフィエルが言い終わるのを待ってから、スタラレリーチェヴァンダーレンが指摘した。
「風の天使長ですが」
「えっ!? そうだっけ! ……そうかも!」
ラズリアーラは二人のやりとりをにこにこと眺めている。
「ええ。ですので、この小川には癒しの力が宿っている……という話です。あくまで噂話ですが」
「流石は天界ですわ! サフィ様もレン様も、天界のことは詳しいんですわね!」
「まあねー!」
「職務の一環ですので」
サフィエルは素直に胸を張ってみせ、スタラレリーチェヴァンダーレンは淡々と答える。
「そうだ! 癒しの力がある場所といえば……」
サフィエルが道案内とばかりに先導しようとして、急ブレーキ。意図を察したラズリアーラと一緒に、スタラレリーチェヴァンダーレンをじっと見つめた。
「何かありましたか」
「見廻りのルート、大丈夫かなっ?」
二秒程の思考後、彼女はあっさり頷いた。
「支障ありません」
もちろん、職務に支障はない。少し回り道だが。
二人は嬉しそうに笑って、三人はまた歩く。
●
ラズリアーラが時々立ち止まっては二人に質問し、その度にサフィエルが先輩として解説し、時々はスタラレリーチェヴァンダーレンが誤りを指摘する、というのを何回かした頃。
ちょっとした事件が起きる。
「レリーチェ?」
あくまで『見廻り』をしている為、自分から立ち止まることはなかったスタラレリーチェヴァンダーレンが立ち止まっている。立ち尽くしている、と言っていい程にぴたりと動きを止めていた。少し遅れて気付いたラズリアーラも心配そうに覗き込む。
「お腹が空きました」
その声は機械的で、実際、彼女の頭の中ではエラー音が鳴り響いている。二人はきょとんとして見つめ続ける。
「何か食べさせてください」
続いた言葉に、サフィエルの表情が綻ぶ。
「任せて!」
●
天使は食事を必要としない。にもかかわらず、人間界(の一部)で言う『オシャレなカフェ』があるのはなんでも人間への理解を深める為だと囁かれていたりいなかったりする。
三人はそれぞれ、ケーキやサンドイッチや紅茶などを注文した。一足先に運ばれたサンドイッチを、空腹が深刻なスタラレリーチェヴァンダーレンがまず食べる。
ケーキをフォークで切り分けながら、サフィエルがねえ、と声をかける。
「また三人で、散歩しようねっ!」
「ええ、ぜひ!」
「はい。見廻りを兼ねたものでよければ」
それからスタラレリーチェヴァンダーレンは抑揚のない声で、それでも、
「貴方達の喜ぶ顔が見られて、私も嬉しいですから」
嬉しい、とはっきり言った。