竜と堕天使の戦い

天魔大戦アポカリプス・ゼロ-四月革命- イベントノベル(テーマ)制作 おおくまねこ納品 2022年04月07日 17時12分12秒

 雨が降る夜のこと。とある丘にて、天使と悪魔の軍勢が激しく戦っていた。天使達を指揮しているのは、力天使スィーリーン。竜人の姿と水のエレメントを持つ、美しき天使だ。彼女の指揮する天使隊は統率の取れた動きで下級悪魔達で構成された敵の軍勢を丘の上へと寄せ付けず、よく戦っていた。しかし、その均衡は突如として破られた。悪魔側に強力な増援が現れたのである。
「……」
 激しい雷鳴と共に、天を割ってそれは地上に現れた。名はアキト(鏑城(カブラギ) 彰斗(アキト))。強欲のエレメントを持つ黒き翼の堕天使だ。はぐれ者の堕天使ゆえ、部下を持つことはないが、かつては智天使(ケルビム)に数えられていたその力は、並の悪魔を遥かに凌いでいた。

「上級悪魔が現れたぞ! あれは強欲の悪魔アキトだ!」
「なんという魔力だ! このままでは均衡が破られる! いま、ここを取られるわけには……!」
「手応えがないな」
 飛び出してきた天使達を軽々と撃ち落し、見下ろしながらアキトは呟く。だが、不意に上空から渦状の波動が飛んできたことに気付いたアキトは翼を広げて緊急回避し、天を仰ぎ見た。そこにいたのは、竜とヒトの特徴を併せ持つ、一体の美しき天使だった。
「スィーリーンか」
「アキト様! 貴方の相手はこの私がします!」
 飛び出してきた天使の中にかつての部下の姿を認め、アキトは動きを止めた。アキトはスィーリーンの誘いに乗り、共に上空へと上昇していく。

「アキト様! あれ程に清廉だった貴方が何故悪魔になど……!」
 スィーリーンは未だに素直に神を、天使を信じているのだろう。今のアキトには眩しい位だ。アキトが挨拶代わりに矢を一発射ると、スィーリーンはよろめきながらもなんとか水流で矢の軌道を反らした。

「相変わらず神などを盲信しているみたいだね」
 アキトは哀れみを込めて微笑む。それはスィーリーンと、かつての自分への。何も知らない愚かさへの――。
 
「神も天使も人間など救わない。天使は悪魔と同じく人間を道具としか見ていない。君だって気付いているんじゃないのか?」
「そんな事はありません! 堕落した天使もいますが全ての天使がそうではありません!」
 それもきっと正しい。でももう僕は天には戻れないし戻る気も無い。
 ――数千年前、アキトは神の残酷さを知った。己が絶対に正しい。逆らう者には死を。その傲慢さは、悪魔とどう違うというのか?
「そうだね。君の様な優しい天使様もいる。優しくて、何も知らない世間知らず」
 アキトは黒く染まった弓から、天を覆う程の数の矢を放った。スィーリーンは水のバリアでその矢を弾いて致命傷を避け、なんとかアキトに反撃しようとしていた。アキトはスィーリーンの水撃をこともなげに相殺し、溜息を吐く。健気なことだ。スィーリーンは力天使。かつて智天使だった自分に勝てる道理などないのに――。アキトが攻撃を続けているうちに突然スィーリーンのバリアが解けた。魔力が尽きたのだろう。
「……」
 アキトは矢を番(つが)えたが――。その矢はスィーリーンを射抜かず、スィーリーンの背後から現れた天使の軍勢へと放たれた。援軍が現れたのだ。
「あの数……さすがに僕一人では不利だな」
 アキトは場を離れるべく身を翻す。スィーリーンにトドメを刺し損ねたことを残念には思わなかった。むしろ安堵すらしている。アキトはまだまだ僕も甘いなと内心苦笑し。
「……もう、会わなければ良いな」
 小さく呟いた言葉は誰の耳にも届かなかった。

●
 何故、かつての上官が堕天してしまったのか――答えは、出ない。

「アキト様! あれ程に清廉だった貴方が何故悪魔になど……!」
 かつては美しい純白だったアキトの翼も、弓も、見る影もなく黒く染まってしまっていることが、スィーリーンには悲しかった。
「スィーリーンか。相変わらず神などを盲信しているみたいだね」
 スィーリーンの悲痛な叫びなど気にも留めない様にアキトは微笑う。昔とは違う哀れむ様な笑み。それはスィーリーンに向けられたものか、それとも。

「神も天使も人間など救わない。天使は悪魔と同じく人間を道具としか見ていない。
君だって気付いているんじゃないのか?」
「そんな事はありません! 堕落した天使もいますが全ての天使がそうではありません!」
「そうだね。君の様な優しい天使様もいる。優しくて、何も知らない世間知らず」
 アキトの黒い矢がスィーリーンを襲う。スィーリーンも必死に応戦したが、力の差は歴然だ。スィーリーンにアキトを傷つけることは叶わず、ただ、魔力を消耗していく。ついにバリアを維持する魔力を失い、もはやこれまでかと頭によぎった時――幸運にも援軍が到着した。

「――」
 分が悪いと判断したのだろう、アキトは身を翻した。飛び去る前に何か呟いた様な気がしたが、聞き取れなかった。
「何故……」
 雷雲の向こうへと消えていくアキトを見送ることしかできないまま、スィーリーンはやるせない思いで呟いた。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0