エナ親父と女装野郎がミア=リゼルを観察するそうです
キャラクターノベル制作 広大野人納品 2022年02月12日 12時03分32秒
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ヴィザースは小さな宿場を治めるティルム家当主だ。
元々はとある王族領の中にあったのだが、諸事情により派生した過去があり、王族に連なっている訳ではないが、熱狂的な王党派であるの間違いない。
歴史あるティルム家当主として、最大の課題は……跡取りの事だ。
一人息子であるエナハルトは、婚約者を失い、心に大きな傷を負ってしまった。親としては心配だが、いつまでも見守っている訳にもいかない。
今は戦時なのだ。息子も王国騎士である以上は戦いに出なければならない。家の存続という題目の前に傷心は拒む理由にはならないのだ。
「……それがどうだ。幾つもの縁談を持ちかけているのにっ!」
当主は声を荒げた。
飛沫する唾を避ける事も出来ず、調査を任された受付男子イシアは静かにハンカチを取り出す。
「息子様からは断られたそうですね」
「うむ……だからこそ、調査を依頼した」
エナハルトからの返事は『真剣な交際を考えるに足る素敵な女性と出会いました』であった。
そして、女性の名として『ミア=リゼル』とも記されていたのだ。
「依頼を通じて冒険者と親睦を深めるのは分かる……だが、誰でも良い訳ではないのだ!」
「優秀な冒険者であったとしてもですか?」
イシアの質問にヴィザースは唸った。
冒険者の活躍は日々、耳にする。ミアと呼ばれる者が、少女であってもその戦績はギルドが保証している以上、優れた逸材であるのは確かな事だ。
「ゆ、優秀なのは当然だ。だがな……相手が冒険者であっても生まれというものがあるだろう。貴族の娘などと贅沢は言わん。せめて、どこで生まれ育ったのか位分からないのか?」
拳を握って語る当主。
これでもヴィザースは血統が大事とか言い出すような貴族派ではない。
ただ、息子がこれから貴族社会で生き抜いていく上で、無駄な障害をわざわざ背負う事もないのだ。息子ほど“良く出来た子”なら相手はいくらでもいるのだから。
「それは確かに……」
イシアは言葉を沈めた。
冒険者に対する素性調査は、彼の仕事であった。
骨の折れる業務ではあるがほとんど場合、ある程度まで遡れる事ができた。しかし、ミアだけは分からなかった。
病院に担ぎ込まれる……以前の事は全くと言って情報が無かったのだ。
「調べて分からないという事実が、だ! 何かの拍子で真実が明るみになり、この子がメドゥの一員みたいな事があったらどうする!?」
話が飛躍し過ぎだが、親の心配とはそういうものだ。
「そこまで心配するのであれば、ご自身で確かめてみてはいかがでしょうか? 幸い、ミアさんは学園寮で生活されているようですし、ヴィザース様は近く、講義なさると聞きましたので」
「うむむ……し、しかし……」
狼狽えるヴィザースの脳裏にはどんな挨拶をすべきかという考えが巡っていた。
突然押し掛けて『エナが世話になっている。私は父だ』と言うのか……いや、本人同士では既に愛し合っているのであれば『これからは私が君の父だ』とか言うべきなのだろうか。
子はエナハルトだけだから、娘を持つ父の気持ちも分からない。
「どう接すれば良いと言うのだ!」
「落ち着いて下さい、ヴィザース様。心の声が表に出ていますよ。何も声を掛ける必要はないでしょう。遠くから観察するだけでも良いのです」
そういう話の流れでミアを観察する事が決まったのであった。
●
商機を掴め無さそうな行商人に変装したヴィザースが、べっぴんの看板娘に女装したイシアと共に冒険者ギルドで、目標が訪れるのを待っていた。
「来ましたよ、ヴィザース様。あの冒険者です」
ヒソヒソと小さな声でイシアが告げる。
ヴィザースが若干、緊張した赴きで頷いた。
「……ふむ、半獣人か。可愛い子じゃないか」
「違います。その隣の子です」
すぐさま訂正され、ヴィザースはコホンと咳払いをする。
「そ、そうか……って、子供過ぎないか?」
ミアの身長は低い訳ではない。しかし、育ちの影響なのか、それともそういう体質なのか、華奢過ぎるように見えたのだ。
見るからに柔らかそうな茶髪と幼さが抜けない顔の輪郭。そして、特徴的な灰色の瞳。
(はて……どこかで見た事があるような……)
少女ではなく似た人をどこかで見た気がするとヴィザースはそんな感想を心の中で呟いた。
と言っても長い人生の中で似ている人間の一人や二人、珍しい訳でもないかとすぐに思い直し、少女の行動を注視する。
イシアが状況を解説するように言葉を発した。
「今日は、めぼしい依頼がありませんので、恐らく、仲間と分かれ自由行動でしょうか」
その予想通り、少女は仲間と分かれるとギルドからゆっくりとした足取りで外へと向かう。
ヴィザースとイシアは目配せすると隠れるように追い駆けるのであった。
ミアが入った店は王都内でも比較的大きな古本屋であった。
「……何を選んでいるのだ?」
「恐らく、教材かと。新刊は高価ですからね」
「ふむ……若いながらも金銭感覚がしっかりとしている事は良い事だな」
尾行されているとも知らず、ミアは学園で必要な本を探す。
背表紙をザっと眺めながら気になるのがあると手に取って中身をパラパラと確認。
ふと、ある背表紙に視線が止まる。
(『学園の恋物語』……えっと……そういうものでは……なくて……)
うろうろと手が宙を彷徨う。
手に取ってみるべきか、どうするか。急に顔が熱くなった。
(だ、だめぇ!)
中身を確認せずに手に取ると、サッと買物籠に放り込んだ。
不可思議な行動を取るミアをヴィザースは目尻を抑えながら見えていた。
「うぅ……本を買うのもあんなに迷って……冒険者といえども、苦労しているのだな」
(今、明らかに教材とは関係なさそうでしたが……)
イシアは黙ったままにしておこうと思うのであった。
次にミアが訪れたのは病院だった。お見舞いなのか子供達と接している少女の姿を敷地外の街路樹の上からヴィザースは眺めていた。
「……優しい子よのぉ」
「意識を取り戻したのは病院だった事もありますから、ミアさんにとって、病院とは私達が思っているような所とは感じ方が違うのかもしれません」
「なるほど。まぁ、困って病院に捨てられる子もいると聞くからな」
ゆっくりとした所作。
優しい微笑み。
傷心の息子は癒しを求めていたのだろうか……。
「あ……次の場所に移動しそうですね」
「な、なんと!?」
ボーとしていたのが悪かったようだ。
ヴィザースは慌てた。このままだと木登りしている怪しい行商人として見つかってしまうと思ったからだ。
その焦りが悪い方向に動く。
足を滑らせ、ヴィザースは無様にも落下してしまったのだ。
ドスンと響いた音にミアが気がつき、心配そうな表情を浮かべて駆け寄って来た。
「大丈夫ですか?」
「だ、だいじょうぶだ!」
色々大丈夫ではないが、変装している事はバレてはいないようで、差し伸べられた少女の手を取ってヴィザースは立ち上がる。
「ありがとう、嬢ちゃん。本当に大丈夫だから」
「……あの? どこかでお会いしました?」
「さ、さぁ~」
黒髪黒眼を隠すようにヴィザースは後退ると早々に立ち去るのであった。
「して、ヴィザース様、ミアさんを見て如何でしたか?」
「うむ……良く出来た子だな。しかし、あの華奢な身体が心配だな……しっかり食べているのだろうか」
そんな会話が聞こえるはずもなく、ミアは学園寮へと戻るのであった。
ヴィザースは小さな宿場を治めるティルム家当主だ。
元々はとある王族領の中にあったのだが、諸事情により派生した過去があり、王族に連なっている訳ではないが、熱狂的な王党派であるの間違いない。
歴史あるティルム家当主として、最大の課題は……跡取りの事だ。
一人息子であるエナハルトは、婚約者を失い、心に大きな傷を負ってしまった。親としては心配だが、いつまでも見守っている訳にもいかない。
今は戦時なのだ。息子も王国騎士である以上は戦いに出なければならない。家の存続という題目の前に傷心は拒む理由にはならないのだ。
「……それがどうだ。幾つもの縁談を持ちかけているのにっ!」
当主は声を荒げた。
飛沫する唾を避ける事も出来ず、調査を任された受付男子イシアは静かにハンカチを取り出す。
「息子様からは断られたそうですね」
「うむ……だからこそ、調査を依頼した」
エナハルトからの返事は『真剣な交際を考えるに足る素敵な女性と出会いました』であった。
そして、女性の名として『ミア=リゼル』とも記されていたのだ。
「依頼を通じて冒険者と親睦を深めるのは分かる……だが、誰でも良い訳ではないのだ!」
「優秀な冒険者であったとしてもですか?」
イシアの質問にヴィザースは唸った。
冒険者の活躍は日々、耳にする。ミアと呼ばれる者が、少女であってもその戦績はギルドが保証している以上、優れた逸材であるのは確かな事だ。
「ゆ、優秀なのは当然だ。だがな……相手が冒険者であっても生まれというものがあるだろう。貴族の娘などと贅沢は言わん。せめて、どこで生まれ育ったのか位分からないのか?」
拳を握って語る当主。
これでもヴィザースは血統が大事とか言い出すような貴族派ではない。
ただ、息子がこれから貴族社会で生き抜いていく上で、無駄な障害をわざわざ背負う事もないのだ。息子ほど“良く出来た子”なら相手はいくらでもいるのだから。
「それは確かに……」
イシアは言葉を沈めた。
冒険者に対する素性調査は、彼の仕事であった。
骨の折れる業務ではあるがほとんど場合、ある程度まで遡れる事ができた。しかし、ミアだけは分からなかった。
病院に担ぎ込まれる……以前の事は全くと言って情報が無かったのだ。
「調べて分からないという事実が、だ! 何かの拍子で真実が明るみになり、この子がメドゥの一員みたいな事があったらどうする!?」
話が飛躍し過ぎだが、親の心配とはそういうものだ。
「そこまで心配するのであれば、ご自身で確かめてみてはいかがでしょうか? 幸い、ミアさんは学園寮で生活されているようですし、ヴィザース様は近く、講義なさると聞きましたので」
「うむむ……し、しかし……」
狼狽えるヴィザースの脳裏にはどんな挨拶をすべきかという考えが巡っていた。
突然押し掛けて『エナが世話になっている。私は父だ』と言うのか……いや、本人同士では既に愛し合っているのであれば『これからは私が君の父だ』とか言うべきなのだろうか。
子はエナハルトだけだから、娘を持つ父の気持ちも分からない。
「どう接すれば良いと言うのだ!」
「落ち着いて下さい、ヴィザース様。心の声が表に出ていますよ。何も声を掛ける必要はないでしょう。遠くから観察するだけでも良いのです」
そういう話の流れでミアを観察する事が決まったのであった。
●
商機を掴め無さそうな行商人に変装したヴィザースが、べっぴんの看板娘に女装したイシアと共に冒険者ギルドで、目標が訪れるのを待っていた。
「来ましたよ、ヴィザース様。あの冒険者です」
ヒソヒソと小さな声でイシアが告げる。
ヴィザースが若干、緊張した赴きで頷いた。
「……ふむ、半獣人か。可愛い子じゃないか」
「違います。その隣の子です」
すぐさま訂正され、ヴィザースはコホンと咳払いをする。
「そ、そうか……って、子供過ぎないか?」
ミアの身長は低い訳ではない。しかし、育ちの影響なのか、それともそういう体質なのか、華奢過ぎるように見えたのだ。
見るからに柔らかそうな茶髪と幼さが抜けない顔の輪郭。そして、特徴的な灰色の瞳。
(はて……どこかで見た事があるような……)
少女ではなく似た人をどこかで見た気がするとヴィザースはそんな感想を心の中で呟いた。
と言っても長い人生の中で似ている人間の一人や二人、珍しい訳でもないかとすぐに思い直し、少女の行動を注視する。
イシアが状況を解説するように言葉を発した。
「今日は、めぼしい依頼がありませんので、恐らく、仲間と分かれ自由行動でしょうか」
その予想通り、少女は仲間と分かれるとギルドからゆっくりとした足取りで外へと向かう。
ヴィザースとイシアは目配せすると隠れるように追い駆けるのであった。
ミアが入った店は王都内でも比較的大きな古本屋であった。
「……何を選んでいるのだ?」
「恐らく、教材かと。新刊は高価ですからね」
「ふむ……若いながらも金銭感覚がしっかりとしている事は良い事だな」
尾行されているとも知らず、ミアは学園で必要な本を探す。
背表紙をザっと眺めながら気になるのがあると手に取って中身をパラパラと確認。
ふと、ある背表紙に視線が止まる。
(『学園の恋物語』……えっと……そういうものでは……なくて……)
うろうろと手が宙を彷徨う。
手に取ってみるべきか、どうするか。急に顔が熱くなった。
(だ、だめぇ!)
中身を確認せずに手に取ると、サッと買物籠に放り込んだ。
不可思議な行動を取るミアをヴィザースは目尻を抑えながら見えていた。
「うぅ……本を買うのもあんなに迷って……冒険者といえども、苦労しているのだな」
(今、明らかに教材とは関係なさそうでしたが……)
イシアは黙ったままにしておこうと思うのであった。
次にミアが訪れたのは病院だった。お見舞いなのか子供達と接している少女の姿を敷地外の街路樹の上からヴィザースは眺めていた。
「……優しい子よのぉ」
「意識を取り戻したのは病院だった事もありますから、ミアさんにとって、病院とは私達が思っているような所とは感じ方が違うのかもしれません」
「なるほど。まぁ、困って病院に捨てられる子もいると聞くからな」
ゆっくりとした所作。
優しい微笑み。
傷心の息子は癒しを求めていたのだろうか……。
「あ……次の場所に移動しそうですね」
「な、なんと!?」
ボーとしていたのが悪かったようだ。
ヴィザースは慌てた。このままだと木登りしている怪しい行商人として見つかってしまうと思ったからだ。
その焦りが悪い方向に動く。
足を滑らせ、ヴィザースは無様にも落下してしまったのだ。
ドスンと響いた音にミアが気がつき、心配そうな表情を浮かべて駆け寄って来た。
「大丈夫ですか?」
「だ、だいじょうぶだ!」
色々大丈夫ではないが、変装している事はバレてはいないようで、差し伸べられた少女の手を取ってヴィザースは立ち上がる。
「ありがとう、嬢ちゃん。本当に大丈夫だから」
「……あの? どこかでお会いしました?」
「さ、さぁ~」
黒髪黒眼を隠すようにヴィザースは後退ると早々に立ち去るのであった。
「して、ヴィザース様、ミアさんを見て如何でしたか?」
「うむ……良く出来た子だな。しかし、あの華奢な身体が心配だな……しっかり食べているのだろうか」
そんな会話が聞こえるはずもなく、ミアは学園寮へと戻るのであった。