甘い戦果をバケツに詰めて
キャラクターノベル(グループ)制作 しまだ納品 2022年02月08日 16時16分23秒
小さな白いおばけが、廊下を駆ける。
「走ると危ないよ」
と心配そうな様子で注意したのは、そのおばけよりも少し大きな影だ。
「ウォーゼルも気をつけろよ。この格好だと、前が見えにくい。さっきみたいに、何かにぶつかったら危ないぞ」
なんて隣を歩くもう一人のおばけが心配してくるものだから、ウォーゼルと呼ばれたおばけは、くすくすと笑った。
先程うっかり窓にぶつかって、傍らを歩く小さなおばけに笑われてしまったばかりなのだ。
「大丈夫だよ。心配してくれて、ありがとう。パルドも気をつけて……って、わっ!?」
なんて言ってる傍から、自分が被っている長い布の裾に、ウォーゼルは危うく躓きかける。着慣れていない衣装は、どうにも歩き辛い。
もっとも、いつもに比べて注意力が散漫になってしまっているのは、今日という記念日に心が浮かれてしまっているせいもあるのかもしれないが。
「大丈夫か? シーツに足を引っ掛けたんだな」
隣のおばけ、パルドの顔はウォーゼルと同じくシーツの向こうに隠されているため見えないが、呆れと心配が混ざった溜息を吐いたことはわざわざ確認しなくとも分かった。
おばけ……いや、おばけに仮装した彼らが被っているシーツは思っていた以上に長い。歩く時に気をつけよう、と改めて二人は誓い合う。
「せっかくのイベントを、台無しにするわけにはいかないからね」
「そうだな。チビ達も楽しみにしてるはずだ」
振り返った彼らの背後には、同じく仮装をした子供達の姿があった。二人が育った孤児院で暮らしている、家族達だ。
何せ、今日は収穫祭。孤児院のみんなと共に、仮装して民家を訪ねてお菓子を貰い、今日という日を楽しく祝う予定なのである。
まるで同意するように、足元を歩く二つの小さな影が鳴く。今年は、二人……いや、二匹の新しい家族も彼らと揃いのシーツおばけの仮装をしていた。
「今日はいっぱいお菓子を貰って帰ろうね、チョコ」
「ショコラ、頼んだぞ。チョコが転ばないように、見ててやってくれ」
足元を仲良く並んで歩くミニコボと黒猫は、二人に名を呼ばれて元気な返事をするのだった。
●
時間は、少しだけ遡る。孤児院に帰郷した二人を、院長と子供達は嬉しそうに出迎えてくれた。
一緒に連れてきたチョコ達も、最初は慣れない場所と人におっかなビックリしていた様子だったが、すぐに孤児院の子供達とも仲良くなれたようだ。
ウォーゼルとパルドにとって、彼らもまた大事な家族なのだという事を、何となく察してくれたのかもしれない。
子供達がチョコとショコラの遊び相手になっている間に、二人は院長と話をする。近況についてとか、二匹を連れてくることを許可してくれた事のお礼とか、今日という日をみんなと過ごせるのが嬉しいとか。
話したい事が多すぎて、危うく時間を忘れてしまうところだった。
出来たら、日が暮れる前にお菓子を貰いに出発したいというのに。民家をまわる前に、子供達が眠ってしまったら大変だ。
「チョコとショコラも、眠たくなっちゃうかもしれないしね」
よく寄り添って寝ている二匹の姿を脳裏に思い描き、苦笑するウォーゼルにパルドも頷く。
「一度眠るとなかなか起きないからな。特にチョコは」
「そうだね。拾った時の事を思い出すよ」
二匹を拾った時、警戒していたショコラとは裏腹にぐっすりと眠りこけていたチョコの姿は、当時は「体調でも悪いのだろうか?」と心配になるものだったが、今思い返してみると微笑ましくて愛しさを覚える光景であった。
子供達の元へ戻ると、チョコとショコラがすぐに駆け寄ってくる。
子供達と仲良くなれたといえど、やっぱりウォーゼルとパルドが居ないと不安なのだろう。
足元でちょこちょこと歩くミニコボをウォーゼルが優しげな瞳で見つめ、パルドは甘えん坊な黒猫がすり寄りやすい位置にさり気なく足を移動した。
「そういえば、ショコラは移動用のカゴとかリードがあった方が良いか?」
パルドの問いかけに「うーん……」とウォーゼルは少し悩む。
「でも、それだと窮屈だからね。ショコラが大丈夫そうなら、なくても大丈夫だと思うけど……」
ショコラは怖がりなのに、少し好奇心旺盛なところがあるのだ。
何か気になるものを見つけて飛び出して行ってしまい、迷子になってしまう事態は絶対に避けたい。
「ショコラ、いい子にしていられる?」
ウォーゼルはしゃがみこみ、ショコラと目線を合わせると、そう問いかける。
キリッとした面持ちで、「にー!」とショコラは頼もしい返事をした。傍にいるチョコも、元気いっぱいに尻尾を振りながら、まるで同意するかのように「わふっ!」と鳴く。
「ショコラなら大丈夫……って事かな?」
「そうみたいだな。移動中は、チョコに付いていたいみたいだし、迷子になる心配はないだろ」
カゴとリードは、必要なさそうだ。相変わらず仲の良い二匹の様子にほっこりとした気持ちになり、二人は顔を見合わせて微笑み合った。
「最近、チョコとショコラが何を言いたいのかが、だんだん分かるようになってきた気がするよ」
「チョコ達が分かりやすい……っていうのも、あるかもしれないけどな」
「たしかに。初めて会った時も、言葉が通じなくても二匹が仲良しだって事はすぐに分かったもんね」
お揃いのような黒い毛並みを持つ二匹。彼らが互いを思い、守り合おうとしているという事は、言葉にしなくともしっかりと伝わってきている。
それに、今日はウォーゼルとパルド……それに孤児院のみんなもいるのだ。家族同士で守り合えば、きっと大丈夫だろう。
「よーし、そろそろ時間だね。みんなも、準備しよう!」
「夜道は暗いぞ。明かりを忘れずにな」
子供達へと声をかけると、重なったいくつもの元気な返事が部屋に響いた。楽しそうに仮装を始める彼らに微笑ましげな視線を送りながら、ウォーゼル達も準備を始める。
手にとった白いシーツには、可愛らしい顔が描かれていた。被って、あらかじめ切っておいた穴へと両耳を通す。
首元の色違いのリボンを結び終え、がおーとポーズをとれば、シーツおばけの出来上がりだ。
チョコとショコラにも、自分達よりも小さなシーツを被せる。大人しくシーツを纏ってくれた二匹の頭を撫でると、チョコの尻尾が揺れ、ショコラは心地良さそうに喉を鳴らした。
二人と二匹のシーツおばけ。お揃いの仮装が嬉しいのか、チョコは早速元気に走り回り、ショコラもその後をついて回る。
自分達の準備を終えた子供達が、可愛らしい小さなおばけが遊んでいるという可愛らしい光景にはしゃいで笑い声をあげた。
かくして、孤児院から飛び出した無邪気なおばけ達は収穫祭の夜を闊歩する。
トントンとドアをノックして、開かれたそこから顔を覗かせた相手に向かって紡ぐのは、お決まりのあの言葉。
「テリーズ・トラ・トリュース? お菓子をくれないと……」
「イタズラしちゃうよ?」「イタズラするぞー」
二人の声と、二匹の鳴き声が重なった。
用意していたお菓子が橙色の野菜を象ったバケツの中身を満たし、お菓子で出来た首飾りがおばけの姿を華やかなものへと変えていく。
二匹の小さなおばけには、時々、お菓子だけではなく頭を撫でるという甘い時間も贈られた。
さて、次はどの家に行こうか。まだまだ、夜は始まったばかり。
「テリーズ・トラ・トリュース?」
彼らの声が、収穫祭の夜に響き渡る。
「走ると危ないよ」
と心配そうな様子で注意したのは、そのおばけよりも少し大きな影だ。
「ウォーゼルも気をつけろよ。この格好だと、前が見えにくい。さっきみたいに、何かにぶつかったら危ないぞ」
なんて隣を歩くもう一人のおばけが心配してくるものだから、ウォーゼルと呼ばれたおばけは、くすくすと笑った。
先程うっかり窓にぶつかって、傍らを歩く小さなおばけに笑われてしまったばかりなのだ。
「大丈夫だよ。心配してくれて、ありがとう。パルドも気をつけて……って、わっ!?」
なんて言ってる傍から、自分が被っている長い布の裾に、ウォーゼルは危うく躓きかける。着慣れていない衣装は、どうにも歩き辛い。
もっとも、いつもに比べて注意力が散漫になってしまっているのは、今日という記念日に心が浮かれてしまっているせいもあるのかもしれないが。
「大丈夫か? シーツに足を引っ掛けたんだな」
隣のおばけ、パルドの顔はウォーゼルと同じくシーツの向こうに隠されているため見えないが、呆れと心配が混ざった溜息を吐いたことはわざわざ確認しなくとも分かった。
おばけ……いや、おばけに仮装した彼らが被っているシーツは思っていた以上に長い。歩く時に気をつけよう、と改めて二人は誓い合う。
「せっかくのイベントを、台無しにするわけにはいかないからね」
「そうだな。チビ達も楽しみにしてるはずだ」
振り返った彼らの背後には、同じく仮装をした子供達の姿があった。二人が育った孤児院で暮らしている、家族達だ。
何せ、今日は収穫祭。孤児院のみんなと共に、仮装して民家を訪ねてお菓子を貰い、今日という日を楽しく祝う予定なのである。
まるで同意するように、足元を歩く二つの小さな影が鳴く。今年は、二人……いや、二匹の新しい家族も彼らと揃いのシーツおばけの仮装をしていた。
「今日はいっぱいお菓子を貰って帰ろうね、チョコ」
「ショコラ、頼んだぞ。チョコが転ばないように、見ててやってくれ」
足元を仲良く並んで歩くミニコボと黒猫は、二人に名を呼ばれて元気な返事をするのだった。
●
時間は、少しだけ遡る。孤児院に帰郷した二人を、院長と子供達は嬉しそうに出迎えてくれた。
一緒に連れてきたチョコ達も、最初は慣れない場所と人におっかなビックリしていた様子だったが、すぐに孤児院の子供達とも仲良くなれたようだ。
ウォーゼルとパルドにとって、彼らもまた大事な家族なのだという事を、何となく察してくれたのかもしれない。
子供達がチョコとショコラの遊び相手になっている間に、二人は院長と話をする。近況についてとか、二匹を連れてくることを許可してくれた事のお礼とか、今日という日をみんなと過ごせるのが嬉しいとか。
話したい事が多すぎて、危うく時間を忘れてしまうところだった。
出来たら、日が暮れる前にお菓子を貰いに出発したいというのに。民家をまわる前に、子供達が眠ってしまったら大変だ。
「チョコとショコラも、眠たくなっちゃうかもしれないしね」
よく寄り添って寝ている二匹の姿を脳裏に思い描き、苦笑するウォーゼルにパルドも頷く。
「一度眠るとなかなか起きないからな。特にチョコは」
「そうだね。拾った時の事を思い出すよ」
二匹を拾った時、警戒していたショコラとは裏腹にぐっすりと眠りこけていたチョコの姿は、当時は「体調でも悪いのだろうか?」と心配になるものだったが、今思い返してみると微笑ましくて愛しさを覚える光景であった。
子供達の元へ戻ると、チョコとショコラがすぐに駆け寄ってくる。
子供達と仲良くなれたといえど、やっぱりウォーゼルとパルドが居ないと不安なのだろう。
足元でちょこちょこと歩くミニコボをウォーゼルが優しげな瞳で見つめ、パルドは甘えん坊な黒猫がすり寄りやすい位置にさり気なく足を移動した。
「そういえば、ショコラは移動用のカゴとかリードがあった方が良いか?」
パルドの問いかけに「うーん……」とウォーゼルは少し悩む。
「でも、それだと窮屈だからね。ショコラが大丈夫そうなら、なくても大丈夫だと思うけど……」
ショコラは怖がりなのに、少し好奇心旺盛なところがあるのだ。
何か気になるものを見つけて飛び出して行ってしまい、迷子になってしまう事態は絶対に避けたい。
「ショコラ、いい子にしていられる?」
ウォーゼルはしゃがみこみ、ショコラと目線を合わせると、そう問いかける。
キリッとした面持ちで、「にー!」とショコラは頼もしい返事をした。傍にいるチョコも、元気いっぱいに尻尾を振りながら、まるで同意するかのように「わふっ!」と鳴く。
「ショコラなら大丈夫……って事かな?」
「そうみたいだな。移動中は、チョコに付いていたいみたいだし、迷子になる心配はないだろ」
カゴとリードは、必要なさそうだ。相変わらず仲の良い二匹の様子にほっこりとした気持ちになり、二人は顔を見合わせて微笑み合った。
「最近、チョコとショコラが何を言いたいのかが、だんだん分かるようになってきた気がするよ」
「チョコ達が分かりやすい……っていうのも、あるかもしれないけどな」
「たしかに。初めて会った時も、言葉が通じなくても二匹が仲良しだって事はすぐに分かったもんね」
お揃いのような黒い毛並みを持つ二匹。彼らが互いを思い、守り合おうとしているという事は、言葉にしなくともしっかりと伝わってきている。
それに、今日はウォーゼルとパルド……それに孤児院のみんなもいるのだ。家族同士で守り合えば、きっと大丈夫だろう。
「よーし、そろそろ時間だね。みんなも、準備しよう!」
「夜道は暗いぞ。明かりを忘れずにな」
子供達へと声をかけると、重なったいくつもの元気な返事が部屋に響いた。楽しそうに仮装を始める彼らに微笑ましげな視線を送りながら、ウォーゼル達も準備を始める。
手にとった白いシーツには、可愛らしい顔が描かれていた。被って、あらかじめ切っておいた穴へと両耳を通す。
首元の色違いのリボンを結び終え、がおーとポーズをとれば、シーツおばけの出来上がりだ。
チョコとショコラにも、自分達よりも小さなシーツを被せる。大人しくシーツを纏ってくれた二匹の頭を撫でると、チョコの尻尾が揺れ、ショコラは心地良さそうに喉を鳴らした。
二人と二匹のシーツおばけ。お揃いの仮装が嬉しいのか、チョコは早速元気に走り回り、ショコラもその後をついて回る。
自分達の準備を終えた子供達が、可愛らしい小さなおばけが遊んでいるという可愛らしい光景にはしゃいで笑い声をあげた。
かくして、孤児院から飛び出した無邪気なおばけ達は収穫祭の夜を闊歩する。
トントンとドアをノックして、開かれたそこから顔を覗かせた相手に向かって紡ぐのは、お決まりのあの言葉。
「テリーズ・トラ・トリュース? お菓子をくれないと……」
「イタズラしちゃうよ?」「イタズラするぞー」
二人の声と、二匹の鳴き声が重なった。
用意していたお菓子が橙色の野菜を象ったバケツの中身を満たし、お菓子で出来た首飾りがおばけの姿を華やかなものへと変えていく。
二匹の小さなおばけには、時々、お菓子だけではなく頭を撫でるという甘い時間も贈られた。
さて、次はどの家に行こうか。まだまだ、夜は始まったばかり。
「テリーズ・トラ・トリュース?」
彼らの声が、収穫祭の夜に響き渡る。