ごくありふれた雪百合騎士団の一日
キャラクターノベル制作 夜帷かもめ納品 2022年02月07日 14時00分21秒
●発端
『ちょうど良いところにいらっしゃいました』
久しぶりの帰省である。パンクリアースからの長旅を終えたアルト=ミルドレッド=バ・ロッサを待ち受けていたのは、雪百合騎士団の団長であるメイアだった。およそ100人からなる騎士団を束ねる彼女の朝は早い。早朝の到着となったが故にしばらく休もうか――そんなことを思っていたアルトの思惑をよそに、メイアは顔を綻ばせると何やら紙を綴じ込んだ冊子をアルトへと手渡す。
「これは何?」
道中、馬車の中では休めていたとはいえ揺れる車内のこと。アルトは少し寝不足である。差し出された紙束を受け取りながらも、その様子は常日頃よりもいくらか素っ気ない。それは旧知の仲であるメイア相手の気安さの表れだったのだが――領主令嬢であるアルトのそんな言葉に、メイアは頷いて言葉を返した。彼女もまた、アルトのことをよく理解している。
何しろ――アルトが生まれた時から、メイアはミルドレッド家に仕えているのだ。見目こそ若い女性のそれであるメイアだが、その実、彼女はアルトよりもずっと長い時を生きている。旧くはミルドレッド領に旅の末に流れ着いたエルフを祖にもつメイアは、既にヒューマンの一生よりも齢を重ねていた。
そんな彼女であるから、アルトの素っ気なさの理由が少しばかりの眠気にあることは言うまでもなくお見通しである。不機嫌な領主令嬢に臆することなく、要件を手短に伝えていった。
「先日の授恵者を交えた話し合いで、団員を増やすべきという話があったかと思います」
その解決策として、知名度向上のための冊子を作成したのだという。
「それで?」
「いい機会ですので、アルト様に監修いただければと。事実と異なることを伝える訳にもいきませんし」
「なるほど」
話の筋は通っている。領主の娘であるアルトが目を通しておけば、騎士団としては安心だろう。脳が覚醒するにつれて、アルトにも話の次第が飲み込めてくる。彼女は頷く――メイアに、その次を続けなさいというジェスチャーだ。
「アルト様が教練に参加するとあれば、団員も教練に精が出ることでしょう。ええ! 直に朝の号令の時間です。アルト様、準備をお願いします」
話がキナ臭くなってきた。アルトは目を細める。
「――あたしが? 教練に???」
「はい。メイア・ブートキャンプも正課に取り入れたので、あれから団員もますます精強になっていますよ」
「それは良かった――って、そうじゃなくて」
「では、私も準備がありますので」
よもや、団員の模範とならぬような振る舞いを――なさりませんよね? そう言って、メイアは詰所を後にする。一人、残されたアルトは半ば茫然として――手元の紙束をめくった。
「え、本当に?」
アルトの他には誰も居ぬ騎士団の詰所。石壁につぶやきが空しく跳ね返る。
冊子には、騎士団の一日の流れがかいつまんで書き記されていた。これをなぞって、実際に体験しながら団員の声を聞け――という事なのだろう。釘を刺されてなお、それを無視するほどにアルトは図々しくはない。それに何より……メイアは現ミルドレッド領主とも懇意なのだ。
逆らえるはずも、なかった。
●7:00 朝の教練
「アルト様!? どうしてここに……」
「何よ、いちゃ悪い?」
「そうじゃねぇっスけど……」
思わず驚いた拍子に、素の言葉遣いをさらけ出したのはエルディアだ。
全体教練は装備一式を着けてのジョギングから始まる。一部の団員はエルディアのように授恵者だが、大半はそうではない。ベールコートの住民をはじめとする志願兵は体力自慢の農民などが多いとはいえ、武器防具を着けて動くことには慣れていなかった。
であるからして、基礎的な体力づくりの一環として、装備に慣れるという過程は欠かせない。隊列を維持しながら並んで走ることで、団員同士の団結力を高めようという狙いもあるらしい。
『命を賭けて戦え! 戦え! 戦え!』
ブートキャンプから導入された行軍歌が朝霧煙る草原に響く。日ごとにコースを変えて、領内をパトロールがてらに巡回するその光景は、領民からは頼もしさと一種の好奇の視線を以て迎え入れられていた。
「おおい、今日はアルト様も一緒かぇ。ご精が出ますなぁ。頑張ってくだせぇ!」
農作業に精を出す農夫から、団員の隊列へと声が掛けられる。
『雪百合騎士団はミルドレッド領のシンボルであり、領民を守る正義の盾です。その存在は、地域の皆さんからも暖かく受け入れられています』
冊子の記述を見返して、アルトは呻る。
「ううん……」
「どうしたんですか? アルト様」
事情を知らぬエルディアが、アルトの渋面を覗き込む。授恵者故に彼女たちは他の団員よりも余裕がある。走りながらの芸当もこなれたものだ。
書いてある内容は間違ってはいない。領民と、騎士団の関係は良好だ。それは……事実だろう。そもそも、騎士団の過半は領民・農民でもあるのだ。だが、この文言を目にした第三者が受ける印象と、実際のところは果たして同じだろうか。
都市同盟の中のベールコート、ベールコートの中のミルドレッド領。その私兵としての雪百合騎士団という存在はあまりに特殊であり――一言で言い表すのは難しい。臣民に慕われる騎士団を想像して外部の者が入ってきた場合に、今の雪百合騎士団は、ミルドレッドはその期待に応えられるのだろうか?
アルトは悩んでいた。
呻ったまま反応を止めてしまったアルトを振り返り、エルディアはもう一度前を向く。授恵者は全体の監督も兼ねて隊列の最後尾を走っていた。
「ほらーユリーシアに、アグラリエル! 遅れてるぞ!」
ペースを速めるとエルディアは先を行く隊員の横へと並ぶ。年の始めに入団したはずのユリーシアと……アグラリエルというのはアルトにとって聞き覚えのない名前だった。そんな二人を、エルディアは叱咤激励しながらペースメーカーとして伴走している。
先日のブートキャンプでは教官にシバかれていたはずのエルディアが、先輩として後輩隊員を気にかけている。
「彼女も――変わりましたでしょう?」
気が付けば、ガブリエラがアルトの位置まで下がってきていた。その言葉はすんなりと、アルトの胸の内に収まった。
●9:00 警邏活動
全体でのトレーニングを終えた団員たちは、複数の班に分かれてそれぞれの役割をこなしていく。日替わりで、待機業務に入る者、警邏などの外回りに向かう者、地域への奉仕活動をおこなう者――本業の農作業や商いに戻る者もいる。それぞれが支えあいながら、自分の生活と騎士団での活動を両立させていた。
「そういえば、新しい団員が入ったの?」
全体教練の中で耳にした名を、アルトはガブリエラへ尋ねてみた。
領地の境界を見回り、境界線を保全するのも騎士団の大事な仕事の一つだ。本来ならば領主が人を使ってやるべき仕事だが、ここではその責務を雪百合騎士団が担っている。それは周辺領主へと騎士団の存在を示すと同時に、団員に領内への理解を促すための方策でもあった。自分の住む土地とはいえ、自分の関わる世界は存外に狭い。それを理解し、自然な形で団員の世間を広めるように仕組みを整えたのはメイアの前の団長の仕事だった。
既に彼女は引退して久しいが、ガブリエラはその頃から団を支える優秀な補佐官である。内部の事情について、彼女が理解していない事など無いといえよう。それ故に、アルトもメイアに近しい程、ほぼ全幅の信頼をガブリエラに対して置いていた。
「はい。アグラリエルは……シャルガネ出身のエルフです。ちょうど一か月ほど前。前回、お嬢様がご帰省なされたのと入れ違いになるように入団しました」
「そう、それで――」
アルトが知らないのも無理はなかった。ユリーシアよりも更に新しい団員が加入している。その事は素直に喜ばしい。
「上手くやってるの?」
外見からみる雪百合騎士団は、眉目秀麗なヒューマンとエルフの女性を中心とした所帯である。華やかに見えるその存在とは裏腹に、領地領民を守るための私兵である彼女たちは様々な泥臭い雑務にも関わることがある。シャルガネのような遠方から来たエルフにとって、その実態は期待を裏切るものではなかったか。アルトの心配はそこであった。
「ええ。エルディアも、ユリーシアもよく面倒を見てくれていますから」
跳ねっ返りの気のある後輩と、頼りないと思っていた新人が――先達として次の世代へと団の在り方を伝えていっている。そんな状況を、ガブリエラは笑みと共にアルトへと報告した。それは、彼女自身も通ってきた道であり、自分の在り方が間違っていなかったという証左でもある。機会が人を作るのだ、とガブリエラは言葉を添えた。
目を細めながら直近の様子を語るガブリエラに帯同し、領地を見回ったアルトは詰所へと帰ってくる。ちょうど、昼前の食事の準備に差し掛かった頃合いだった。
慌ただしく人が動く気配と共に、嗅ぎ慣れたような、それでいて少し記憶に無い香りが彼女の鼻を刺激した。
「――これは?」
百合茶の香りのようだが、花のようなそれとは異なり、深みのある底強いものを感じさせる。不思議そうな表情のアルトへ、ガブリエラが語った。
「百合茶なんですが……少し、燻して発酵させてるんですよ。アグラリエルが教えてくれた、シャルガネの技法だそうで」
特産品として輸出に耐えうるか、試作しているのだと彼女は言う。
「面白いわね」
目を離した隙に、どんどんと騎士団も変わっていく。未来を見据えて、それぞれが自分の足で歩んでいく。
そんな、変化の兆しを実感しながら――アルトは冊子の頁を繰った。改めて見直すと、文言のひとつひとつがまだ見ぬ仲間への期待に溢れている。なかなか良い出来なように彼女には思えた。
「それで――午後は、どんなものを見せてくれるの?」
試作品の百合茶は、期待と変化、それに夢の味がした。
『ちょうど良いところにいらっしゃいました』
久しぶりの帰省である。パンクリアースからの長旅を終えたアルト=ミルドレッド=バ・ロッサを待ち受けていたのは、雪百合騎士団の団長であるメイアだった。およそ100人からなる騎士団を束ねる彼女の朝は早い。早朝の到着となったが故にしばらく休もうか――そんなことを思っていたアルトの思惑をよそに、メイアは顔を綻ばせると何やら紙を綴じ込んだ冊子をアルトへと手渡す。
「これは何?」
道中、馬車の中では休めていたとはいえ揺れる車内のこと。アルトは少し寝不足である。差し出された紙束を受け取りながらも、その様子は常日頃よりもいくらか素っ気ない。それは旧知の仲であるメイア相手の気安さの表れだったのだが――領主令嬢であるアルトのそんな言葉に、メイアは頷いて言葉を返した。彼女もまた、アルトのことをよく理解している。
何しろ――アルトが生まれた時から、メイアはミルドレッド家に仕えているのだ。見目こそ若い女性のそれであるメイアだが、その実、彼女はアルトよりもずっと長い時を生きている。旧くはミルドレッド領に旅の末に流れ着いたエルフを祖にもつメイアは、既にヒューマンの一生よりも齢を重ねていた。
そんな彼女であるから、アルトの素っ気なさの理由が少しばかりの眠気にあることは言うまでもなくお見通しである。不機嫌な領主令嬢に臆することなく、要件を手短に伝えていった。
「先日の授恵者を交えた話し合いで、団員を増やすべきという話があったかと思います」
その解決策として、知名度向上のための冊子を作成したのだという。
「それで?」
「いい機会ですので、アルト様に監修いただければと。事実と異なることを伝える訳にもいきませんし」
「なるほど」
話の筋は通っている。領主の娘であるアルトが目を通しておけば、騎士団としては安心だろう。脳が覚醒するにつれて、アルトにも話の次第が飲み込めてくる。彼女は頷く――メイアに、その次を続けなさいというジェスチャーだ。
「アルト様が教練に参加するとあれば、団員も教練に精が出ることでしょう。ええ! 直に朝の号令の時間です。アルト様、準備をお願いします」
話がキナ臭くなってきた。アルトは目を細める。
「――あたしが? 教練に???」
「はい。メイア・ブートキャンプも正課に取り入れたので、あれから団員もますます精強になっていますよ」
「それは良かった――って、そうじゃなくて」
「では、私も準備がありますので」
よもや、団員の模範とならぬような振る舞いを――なさりませんよね? そう言って、メイアは詰所を後にする。一人、残されたアルトは半ば茫然として――手元の紙束をめくった。
「え、本当に?」
アルトの他には誰も居ぬ騎士団の詰所。石壁につぶやきが空しく跳ね返る。
冊子には、騎士団の一日の流れがかいつまんで書き記されていた。これをなぞって、実際に体験しながら団員の声を聞け――という事なのだろう。釘を刺されてなお、それを無視するほどにアルトは図々しくはない。それに何より……メイアは現ミルドレッド領主とも懇意なのだ。
逆らえるはずも、なかった。
●7:00 朝の教練
「アルト様!? どうしてここに……」
「何よ、いちゃ悪い?」
「そうじゃねぇっスけど……」
思わず驚いた拍子に、素の言葉遣いをさらけ出したのはエルディアだ。
全体教練は装備一式を着けてのジョギングから始まる。一部の団員はエルディアのように授恵者だが、大半はそうではない。ベールコートの住民をはじめとする志願兵は体力自慢の農民などが多いとはいえ、武器防具を着けて動くことには慣れていなかった。
であるからして、基礎的な体力づくりの一環として、装備に慣れるという過程は欠かせない。隊列を維持しながら並んで走ることで、団員同士の団結力を高めようという狙いもあるらしい。
『命を賭けて戦え! 戦え! 戦え!』
ブートキャンプから導入された行軍歌が朝霧煙る草原に響く。日ごとにコースを変えて、領内をパトロールがてらに巡回するその光景は、領民からは頼もしさと一種の好奇の視線を以て迎え入れられていた。
「おおい、今日はアルト様も一緒かぇ。ご精が出ますなぁ。頑張ってくだせぇ!」
農作業に精を出す農夫から、団員の隊列へと声が掛けられる。
『雪百合騎士団はミルドレッド領のシンボルであり、領民を守る正義の盾です。その存在は、地域の皆さんからも暖かく受け入れられています』
冊子の記述を見返して、アルトは呻る。
「ううん……」
「どうしたんですか? アルト様」
事情を知らぬエルディアが、アルトの渋面を覗き込む。授恵者故に彼女たちは他の団員よりも余裕がある。走りながらの芸当もこなれたものだ。
書いてある内容は間違ってはいない。領民と、騎士団の関係は良好だ。それは……事実だろう。そもそも、騎士団の過半は領民・農民でもあるのだ。だが、この文言を目にした第三者が受ける印象と、実際のところは果たして同じだろうか。
都市同盟の中のベールコート、ベールコートの中のミルドレッド領。その私兵としての雪百合騎士団という存在はあまりに特殊であり――一言で言い表すのは難しい。臣民に慕われる騎士団を想像して外部の者が入ってきた場合に、今の雪百合騎士団は、ミルドレッドはその期待に応えられるのだろうか?
アルトは悩んでいた。
呻ったまま反応を止めてしまったアルトを振り返り、エルディアはもう一度前を向く。授恵者は全体の監督も兼ねて隊列の最後尾を走っていた。
「ほらーユリーシアに、アグラリエル! 遅れてるぞ!」
ペースを速めるとエルディアは先を行く隊員の横へと並ぶ。年の始めに入団したはずのユリーシアと……アグラリエルというのはアルトにとって聞き覚えのない名前だった。そんな二人を、エルディアは叱咤激励しながらペースメーカーとして伴走している。
先日のブートキャンプでは教官にシバかれていたはずのエルディアが、先輩として後輩隊員を気にかけている。
「彼女も――変わりましたでしょう?」
気が付けば、ガブリエラがアルトの位置まで下がってきていた。その言葉はすんなりと、アルトの胸の内に収まった。
●9:00 警邏活動
全体でのトレーニングを終えた団員たちは、複数の班に分かれてそれぞれの役割をこなしていく。日替わりで、待機業務に入る者、警邏などの外回りに向かう者、地域への奉仕活動をおこなう者――本業の農作業や商いに戻る者もいる。それぞれが支えあいながら、自分の生活と騎士団での活動を両立させていた。
「そういえば、新しい団員が入ったの?」
全体教練の中で耳にした名を、アルトはガブリエラへ尋ねてみた。
領地の境界を見回り、境界線を保全するのも騎士団の大事な仕事の一つだ。本来ならば領主が人を使ってやるべき仕事だが、ここではその責務を雪百合騎士団が担っている。それは周辺領主へと騎士団の存在を示すと同時に、団員に領内への理解を促すための方策でもあった。自分の住む土地とはいえ、自分の関わる世界は存外に狭い。それを理解し、自然な形で団員の世間を広めるように仕組みを整えたのはメイアの前の団長の仕事だった。
既に彼女は引退して久しいが、ガブリエラはその頃から団を支える優秀な補佐官である。内部の事情について、彼女が理解していない事など無いといえよう。それ故に、アルトもメイアに近しい程、ほぼ全幅の信頼をガブリエラに対して置いていた。
「はい。アグラリエルは……シャルガネ出身のエルフです。ちょうど一か月ほど前。前回、お嬢様がご帰省なされたのと入れ違いになるように入団しました」
「そう、それで――」
アルトが知らないのも無理はなかった。ユリーシアよりも更に新しい団員が加入している。その事は素直に喜ばしい。
「上手くやってるの?」
外見からみる雪百合騎士団は、眉目秀麗なヒューマンとエルフの女性を中心とした所帯である。華やかに見えるその存在とは裏腹に、領地領民を守るための私兵である彼女たちは様々な泥臭い雑務にも関わることがある。シャルガネのような遠方から来たエルフにとって、その実態は期待を裏切るものではなかったか。アルトの心配はそこであった。
「ええ。エルディアも、ユリーシアもよく面倒を見てくれていますから」
跳ねっ返りの気のある後輩と、頼りないと思っていた新人が――先達として次の世代へと団の在り方を伝えていっている。そんな状況を、ガブリエラは笑みと共にアルトへと報告した。それは、彼女自身も通ってきた道であり、自分の在り方が間違っていなかったという証左でもある。機会が人を作るのだ、とガブリエラは言葉を添えた。
目を細めながら直近の様子を語るガブリエラに帯同し、領地を見回ったアルトは詰所へと帰ってくる。ちょうど、昼前の食事の準備に差し掛かった頃合いだった。
慌ただしく人が動く気配と共に、嗅ぎ慣れたような、それでいて少し記憶に無い香りが彼女の鼻を刺激した。
「――これは?」
百合茶の香りのようだが、花のようなそれとは異なり、深みのある底強いものを感じさせる。不思議そうな表情のアルトへ、ガブリエラが語った。
「百合茶なんですが……少し、燻して発酵させてるんですよ。アグラリエルが教えてくれた、シャルガネの技法だそうで」
特産品として輸出に耐えうるか、試作しているのだと彼女は言う。
「面白いわね」
目を離した隙に、どんどんと騎士団も変わっていく。未来を見据えて、それぞれが自分の足で歩んでいく。
そんな、変化の兆しを実感しながら――アルトは冊子の頁を繰った。改めて見直すと、文言のひとつひとつがまだ見ぬ仲間への期待に溢れている。なかなか良い出来なように彼女には思えた。
「それで――午後は、どんなものを見せてくれるの?」
試作品の百合茶は、期待と変化、それに夢の味がした。