流れる雫は涙 響くのは想い 堅く結ばれるのは絆
キャラクターノベル(グループ)制作 広大野人納品 2022年01月11日 12時21分35秒
●
そこはパンクリアース学園学生寮の一室。
厳かな壁紙で囲まれ、テラスに繋がる巨大な窓と重厚感あるカーテンが存在感を強調し、真新しい机や椅子、本棚が部屋の左右に置かれていた。
ベッドは部屋の真ん中に人が通れる隙間を残して並んで置かれている。敷いてある布団はふわふわだ。
「「終わった……」」
編入試験を経て学園に入学したミア=リゼルとルベア・ベルニの両名は寮生活の為、荷解きを先程終わらせた所だった。
寝支度も済ませたので、後は寝るだけだ。
ベッドの端に腰かけたルベアに向き合うようミアが座る。
「ようやく、ゆっくりできます」
「そうね。朝早いけど」
苦笑を浮かべるルベア。もっとも、冒険者として暮らしていた日々を思えば早いという程ではないが。
今日は午前中に依頼をこなして、午後荷物を運び込んだ。
疲れている事もあるので早く休むべきだろうと思う。
「さぁ、消すよ」
「待って、ルベアさん」
立ち上がろうとしたルベアを引き留めるミア。
その力強い眼差しに何かあると察してルベアは姿勢を正した。いや……正確に言うならば、ミアが言い出す日が来る事を待っていたというべきだろうか。
ミアは胸元に手を当て、一度深く息を吐いてからゆっくりと話し出した。
「ウシタでの攻防戦の時、話せていなかった事を、きちんとお話ししたくて……」
「うん。いいよ」
ルベアは頷いてから少女の瞳にジッと優し気な視線を受ける。
真っ直ぐな返事にミアの瞳が僅かに振れた。
「ヌバッフで、私、自分のあり方が怖くなったんです……」
そう告げてから視線を落として目を閉じる。
あの時、思っていた覚悟を敵の言葉に揺さぶられた。
「……『完璧な道具である事』は『私』の望みなのか、どうか……でも、それでイェルドさんやルベアさんを危険に晒してしまいました」
戦場で生じた隙は一瞬であっても致命傷になり得る。
ルベアが割って入らなければ間違いなく大惨事になっていただろう。
「だから私、もう迷いたくなくて……大切な人たちを守れるようになりたくて……」
拳を握り締めると同時に顔を上げてルベアと――彼女の瞳に映る自分に向かって言った。
「そう願うなら、きっと、私も向き合わないといけないんです。私の知らない……私が忘れてしまった、過去と」
避けていたかもしれない。
知らないままでも良かったと頭の隅に置き去りにして。
けれど、それではいけないと誓った。だからこそ、たいせつな人には伝えたかった。
少女の告白をジッとみつめ聞いていたルベアは一度、天井を見上げる。
吊り下げ式の照明器具が無駄に煌びやかだった。
一度、二度と瞬きしてから、少女に視線を戻す。
「……これは私の個人的な考えだから、どう考えるかはミアさんが決めることだけど」
そう前置きをしてからルベアはやや前のめりになって告げた。
「『道具』は、誰かを『守りたい大切な人たち』と捉えないし。『自分の望み』って自我は持たないと思う」
道具は人のように何かを感じたり思ったりする事はない。
逆に人は道具のように、何も感じなくなる訳ではない。
(だから、私にとっては、ミアさんはどうあっても道具じゃなくて人だよ)
その台詞が声帯を抜ける事は無かった。
考えの押し付けになると思ったからだ。
「なりたい自分になる為に、過去と向き合おうとしているミアさんは強いよ」
簡単に出来る事ではない事だとも思う。
そこに至るまでに、触れなくてもよかった過去を知り、傷つくかもしれないのだから。
「そんなアナタに私が出来ることは、側にいて支える事、だと思う」
「ルベアさん……」
涙を湛える少女の瞳にルベアは微笑を浮かべた。
「……アナタの為に、なりたい。それだけよ」
どんな過去があったとしてもその想いは変わらないし、罪を背負っているのなら支えるだけだ。
その『覚悟』が、ミアの不安で埋まっていた心を満たし、涙となって頬を零れ落ちる。
「……ありがとうございます。そう言ってもらえて……ほっとしました」
この人と出逢えて本当に良かったと思う。
ただ、同時にミアの脳裏にある光景が思い浮かんだ。それは、夢で見た恐ろしい光景だ。
涙を拭うと真剣な眼差しを今一度、彼女に向ける。
「ルベアさん、それでも、もし『私』が……あなたの知る『私』でなくなってしまったら……」
陽の光と雨と血が飛沫になる、あの日見た夢が頭から離れない。
もし、自分が彼女に敵対するようなそんな存在になってしまったら――。
「その時は……」
詰まった言葉が続く事は無かった。
ミアの華奢な身体をルベアが優しく抱き締めたからだ。心落ち着くような彼女の香りがふんわりと広がる。
「わかってる。アナタがそう望むなら」
耳元で聴こえた言葉はまるで鋭利な刃物みたいだった。
もし、そんな事になったら、その罪をルベアが背負うつもりだ。
支えると言った相手を手に掛けたという悲哀と共に。
「……でも、そんな未来はないと信じてる」
ギュッと抱き締めている腕にルベアは力を込めた。
「……はい。私も、信じて、いま……す」
途切れ途切れにミアの想いが聞こえ、再び溢れ出した雫がルベアの肩を濡らした。
それが落ち着くまで、ルベアは少女の頭をただただ撫で続けるのであった。
●
どの位、時計の針が進んだだろうか。
消灯時間が過ぎ、光が消えた照明器具の硝子に月の光が反射していた。
「ところでさ……」
落ち着いたであろうと判断し、ルベアはミアから離れながら訊ねる。
「エナハルトさんと何かあったの?」
「え、えーと……」
さっきまでの真剣な覚悟はどうしたのか灰色の瞳が右往左往している。
急に心境が変化したので、何か切欠があったのは想像に難くない。それがあの王国騎士だとはルベアも見当がついていた。
「……エナハルトさんの……笑っている姿が、大好き……とお伝え、して……」
気恥ずかしさに布団の中に潜り込んでしまいたい衝動を抑えながらミアは独白するように言った。
モジモジしながら告げるミアの様子は愛おしいが、それ以上の圧倒的な衝撃をルベアは受けた。
「そ、そ、それで?」
冷静を装った声が裏返ってしまったが、少女は動転していて気が付いていない。
「『無邪気な笑顔が好きです』って……」
まるで貴族令嬢が好んで読む恋愛小説みたいな展開だ。
ルベアはごくりと生唾を飲み込んだ。
「その先は?」
「……いえ、それだけです……戦いの最中でしたし……。特に何も……」
「えーと……私もそういうのは経験が……だ、だけど、ほら、こうデートしたり、キ、キスしたりとか?」
自身の事をごにょごにょと濁しながら、二人がどこまで進展しているのか確認するルベア。
事と状況によっては一発殴りに行かねばならないと思う。
「お互い色々と忙しくて」
「……まぁ、しょうがないわよね」
これは真剣なお付き合いになっているのか、互いの想いを確かめただけなのか、よく分からない事になっているとルベアは思った。
思案するルベアにミアがぐぐーと顔を寄せる。
「あの人の事を思うと、胸が……締められるように苦しくて……ルベアさん、私、どうしたら良いのか……」
清らかな乙女らしい反応を聞いている方が恥ずかしくなる。
ルベアはスゥーと布団の中へと向かった。
「そ、そうだ、ね……うん、もう夜遅いから、今日は寝ようっか」
「待って、ルベアさん」
彼女のパジャマの裾をミアは引っ張るのであった。
そこはパンクリアース学園学生寮の一室。
厳かな壁紙で囲まれ、テラスに繋がる巨大な窓と重厚感あるカーテンが存在感を強調し、真新しい机や椅子、本棚が部屋の左右に置かれていた。
ベッドは部屋の真ん中に人が通れる隙間を残して並んで置かれている。敷いてある布団はふわふわだ。
「「終わった……」」
編入試験を経て学園に入学したミア=リゼルとルベア・ベルニの両名は寮生活の為、荷解きを先程終わらせた所だった。
寝支度も済ませたので、後は寝るだけだ。
ベッドの端に腰かけたルベアに向き合うようミアが座る。
「ようやく、ゆっくりできます」
「そうね。朝早いけど」
苦笑を浮かべるルベア。もっとも、冒険者として暮らしていた日々を思えば早いという程ではないが。
今日は午前中に依頼をこなして、午後荷物を運び込んだ。
疲れている事もあるので早く休むべきだろうと思う。
「さぁ、消すよ」
「待って、ルベアさん」
立ち上がろうとしたルベアを引き留めるミア。
その力強い眼差しに何かあると察してルベアは姿勢を正した。いや……正確に言うならば、ミアが言い出す日が来る事を待っていたというべきだろうか。
ミアは胸元に手を当て、一度深く息を吐いてからゆっくりと話し出した。
「ウシタでの攻防戦の時、話せていなかった事を、きちんとお話ししたくて……」
「うん。いいよ」
ルベアは頷いてから少女の瞳にジッと優し気な視線を受ける。
真っ直ぐな返事にミアの瞳が僅かに振れた。
「ヌバッフで、私、自分のあり方が怖くなったんです……」
そう告げてから視線を落として目を閉じる。
あの時、思っていた覚悟を敵の言葉に揺さぶられた。
「……『完璧な道具である事』は『私』の望みなのか、どうか……でも、それでイェルドさんやルベアさんを危険に晒してしまいました」
戦場で生じた隙は一瞬であっても致命傷になり得る。
ルベアが割って入らなければ間違いなく大惨事になっていただろう。
「だから私、もう迷いたくなくて……大切な人たちを守れるようになりたくて……」
拳を握り締めると同時に顔を上げてルベアと――彼女の瞳に映る自分に向かって言った。
「そう願うなら、きっと、私も向き合わないといけないんです。私の知らない……私が忘れてしまった、過去と」
避けていたかもしれない。
知らないままでも良かったと頭の隅に置き去りにして。
けれど、それではいけないと誓った。だからこそ、たいせつな人には伝えたかった。
少女の告白をジッとみつめ聞いていたルベアは一度、天井を見上げる。
吊り下げ式の照明器具が無駄に煌びやかだった。
一度、二度と瞬きしてから、少女に視線を戻す。
「……これは私の個人的な考えだから、どう考えるかはミアさんが決めることだけど」
そう前置きをしてからルベアはやや前のめりになって告げた。
「『道具』は、誰かを『守りたい大切な人たち』と捉えないし。『自分の望み』って自我は持たないと思う」
道具は人のように何かを感じたり思ったりする事はない。
逆に人は道具のように、何も感じなくなる訳ではない。
(だから、私にとっては、ミアさんはどうあっても道具じゃなくて人だよ)
その台詞が声帯を抜ける事は無かった。
考えの押し付けになると思ったからだ。
「なりたい自分になる為に、過去と向き合おうとしているミアさんは強いよ」
簡単に出来る事ではない事だとも思う。
そこに至るまでに、触れなくてもよかった過去を知り、傷つくかもしれないのだから。
「そんなアナタに私が出来ることは、側にいて支える事、だと思う」
「ルベアさん……」
涙を湛える少女の瞳にルベアは微笑を浮かべた。
「……アナタの為に、なりたい。それだけよ」
どんな過去があったとしてもその想いは変わらないし、罪を背負っているのなら支えるだけだ。
その『覚悟』が、ミアの不安で埋まっていた心を満たし、涙となって頬を零れ落ちる。
「……ありがとうございます。そう言ってもらえて……ほっとしました」
この人と出逢えて本当に良かったと思う。
ただ、同時にミアの脳裏にある光景が思い浮かんだ。それは、夢で見た恐ろしい光景だ。
涙を拭うと真剣な眼差しを今一度、彼女に向ける。
「ルベアさん、それでも、もし『私』が……あなたの知る『私』でなくなってしまったら……」
陽の光と雨と血が飛沫になる、あの日見た夢が頭から離れない。
もし、自分が彼女に敵対するようなそんな存在になってしまったら――。
「その時は……」
詰まった言葉が続く事は無かった。
ミアの華奢な身体をルベアが優しく抱き締めたからだ。心落ち着くような彼女の香りがふんわりと広がる。
「わかってる。アナタがそう望むなら」
耳元で聴こえた言葉はまるで鋭利な刃物みたいだった。
もし、そんな事になったら、その罪をルベアが背負うつもりだ。
支えると言った相手を手に掛けたという悲哀と共に。
「……でも、そんな未来はないと信じてる」
ギュッと抱き締めている腕にルベアは力を込めた。
「……はい。私も、信じて、いま……す」
途切れ途切れにミアの想いが聞こえ、再び溢れ出した雫がルベアの肩を濡らした。
それが落ち着くまで、ルベアは少女の頭をただただ撫で続けるのであった。
●
どの位、時計の針が進んだだろうか。
消灯時間が過ぎ、光が消えた照明器具の硝子に月の光が反射していた。
「ところでさ……」
落ち着いたであろうと判断し、ルベアはミアから離れながら訊ねる。
「エナハルトさんと何かあったの?」
「え、えーと……」
さっきまでの真剣な覚悟はどうしたのか灰色の瞳が右往左往している。
急に心境が変化したので、何か切欠があったのは想像に難くない。それがあの王国騎士だとはルベアも見当がついていた。
「……エナハルトさんの……笑っている姿が、大好き……とお伝え、して……」
気恥ずかしさに布団の中に潜り込んでしまいたい衝動を抑えながらミアは独白するように言った。
モジモジしながら告げるミアの様子は愛おしいが、それ以上の圧倒的な衝撃をルベアは受けた。
「そ、そ、それで?」
冷静を装った声が裏返ってしまったが、少女は動転していて気が付いていない。
「『無邪気な笑顔が好きです』って……」
まるで貴族令嬢が好んで読む恋愛小説みたいな展開だ。
ルベアはごくりと生唾を飲み込んだ。
「その先は?」
「……いえ、それだけです……戦いの最中でしたし……。特に何も……」
「えーと……私もそういうのは経験が……だ、だけど、ほら、こうデートしたり、キ、キスしたりとか?」
自身の事をごにょごにょと濁しながら、二人がどこまで進展しているのか確認するルベア。
事と状況によっては一発殴りに行かねばならないと思う。
「お互い色々と忙しくて」
「……まぁ、しょうがないわよね」
これは真剣なお付き合いになっているのか、互いの想いを確かめただけなのか、よく分からない事になっているとルベアは思った。
思案するルベアにミアがぐぐーと顔を寄せる。
「あの人の事を思うと、胸が……締められるように苦しくて……ルベアさん、私、どうしたら良いのか……」
清らかな乙女らしい反応を聞いている方が恥ずかしくなる。
ルベアはスゥーと布団の中へと向かった。
「そ、そうだ、ね……うん、もう夜遅いから、今日は寝ようっか」
「待って、ルベアさん」
彼女のパジャマの裾をミアは引っ張るのであった。