卓上遊戯よ新たなステージへ

キャラクターノベル制作 空色みなも納品 2022年01月04日 10時03分29秒

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 世話になった一年にありがとう。
 新たに迎える一年によろしく――。

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 聖霊節の賑わいも過ぎ去った年の暮れ、都市国家リブラネスタの隅っこで。
 夜更けにも関わらず、建物の窓から灯りが漏れている。
 尤も、年越しという行事を覚醒したまま催そう、と考える者は極端に珍しい存在でもない。
 この建物の中にも、大切な友人たちと共に新年を迎えようとする者たちが集まっている、ただそれだけの話に過ぎなかった。

「今日は皆、貴重な時間を共に過ごすことを許してくれてありがとう」
 ユーリ・トレーガーが自らの営む卓上遊戯喫茶の店内をぐるりと見回し、一礼する。

「もう、水臭いですね。私たちとユーリの仲じゃないですか」
 その旧来の友人たるルアンナ・ミュラーがユーリの堅苦しさを咎めつつも、その顔つきは晴れやかである。

「そうですよ、私とユーリ様の仲じゃないですか」
「ミュラー君はいいとして、お前に言われるとなんだか釈然としないな」
 召使い改め卓上遊戯喫茶の店員となったクラウスの軽口に対しては、ユーリは呆れた表情を返す。
 クラウスが慇懃なようでいて、その実フランクにユーリへと接するのも、昔から変わっていない。
 まるで学生時代のことを思い出すようで、口許に手をあてたルアンナもそれを微笑ましく見守っている。

「にしてもこの一年、あっという間でしたねー」
 同じく召使いから卓上遊戯喫茶の店員として働くようになったミアが、しみじみと口にする。

「ああ、その間に色々なことがあった。ミュラー君にも会えたし、こうして自分の店を持つこともできたからな」
 それを聞いたユーリも腕を組んで天を仰ぐと、目を閉じて一年の振り返りを瞼の裏に浮かべる。

「聖霊節のイベントも大盛況のうちに終えることができましたね」
 ルアンナが店の隅に片付けられた聖霊節用の装飾を見やり、呟いた。
 ユーリの卓上遊戯喫茶では、ついこの間まで聖霊節をテーマにしたイベントが開催されていたのだ。
 その際に店を飾り付けていた装飾を取り外す作業も、ルアンナは先程まで手伝っていた。

「贈り物をする習慣が聖霊節にあるからといって、要らない贈り物を押し付け合う遊戯まで聖霊節テーマだと言い張っていたのが面白かったですね」
「遊戯としてもルールが簡単で、慣れない者でも遊びやすい名作だったからな」
 くすくすと笑い声を漏らすルアンナに対し、ユーリは自慢げにふふんと鼻を鳴らす。
 なお、ここで話題に出されたのは、カードを用いた遊戯の一種である。
 山札から公開された数字のカードを、手に入れるとそのまま数字が減点になるからと、チップを払って他の者に押し付けるという趣向だったりする。
 他にも遊戯を面白くする細かいルールが存在するが、この場で今から遊ばれるというわけでもないので詳細は割愛しよう。

「さあ、昨日までは客を入れての営業だったが、今日は皆と水入らずの日だ。思う存分、楽しんで欲しい」
 ユーリが年越しイベントの開会を宣言すると、店内に集ったルアンナたちから拍手が沸き起こったのだった。

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「さて次の遊戯は何にしようか」
 テーブル上に散らばった小道具を箱に片付けながら、ユーリがルアンナたちに問う。
 新年を遊びながら迎えよう、という趣向であるため、四人は会が始まってから様々な遊戯を遊び倒していた。
 腹が減っては遊戯はできぬ、とばかりに、腹ごしらえのために夜食の準備もばっちりだ。
 その中にはパン屋を営むルアンナが持ち込んだお手製のパンもあり、香ばしい匂いを漂わせていた。

「こちらはいかがでしょう、ユーリ様」
 そこでクラウスが取り出したのは、何の変哲もない、ただ様々な単語が一枚ごとに書かれただけのカードの束。

「あ、いいですね! それなら私、歌いますよ!」
「え、歌う? 卓上遊戯をするのですよね?」
 それを見たミアの発した言葉を聞いて、ルアンナは頭の上に疑問符が浮かんでいるかのような顔をする。

「ああ、ミュラー君にはまだ紹介してなかったか? では説明しよう」
 ユーリはクラウスの差し出したカードの束を手に取ると、ルアンナから見て単語が読める向きに、数枚のカードをテーブル上に広げた。

「『君』『愛』『夢』『触れて』……なんだか少しくすぐったくなるような単語が多い気がしますね」
 ルアンナは目の前に並べられたカードの単語を読み上げ、実際にむずがゆそうな素振りを見せる。

「まあ普通によく使う単語もあるけどな。遊戯の参加者はこれらのカードを手許に取って、できるだけ多く集めることを目指すんだが……」
「当然、カードを手に入れるためのルールがあるわけですね?」
 ユーリの説明からルアンナが察したことを呟くと、ユーリは大きく頷いてみせた。

「ああ、そうだ。何、難しいことじゃない。誰かが歌う曲の歌詞に、カードに書かれた単語が登場した瞬間、早い者勝ちでそのカードを取っていい」
「ということは……反射神経も求められる遊戯というわけですね、これは」
 ここまでのユーリの説明により、ルアンナは早くも遊戯の性質を理解したようだ。
 つまり、この遊戯においては、歌を聞きながら登場した歌詞のカードに対し、逸早く手を伸ばす反射神経が物を言うということだ。
 さらに、歌われる曲の歌詞を知っているかの知識や、カードの配置を覚える記憶力といった要素も勝敗を分けるだろう。

「ミアが歌ってくれるのなら、僕とミュラー君とクラウスの三人で……」
「あ、歌うのに伴奏も必要でしょう。ここは私が一曲、奏でますので、是非ともユーリ様とミュラーさんのお二人でサシの勝負をどうぞ」
 ユーリが三人で遊戯を始めようとするのをクラウスは制し、知らぬ間に店内に置いてあったリュートを持ち出してきた。

「おい、いやに準備がいいな……?」
「たまたまですよ。さあさ、演奏を始めますのでお二人は準備をどうぞ」
 あまりの手際の良さにユーリが訝しむのも構わず、クラウスはユーリとルアンナに遊戯に集中するよう促す。

「では行きますよ――」
 クラウスがリュートの弦を指で弾くと、喫茶の店内を柔らかい音が満たす。
 それはどこか甘く切ないようでいて、心の熱を感じさせるような。

「わぁ……」
 リュートの奏でる音色の美しさに、ルアンナが思わず息を呑む。
 しばし前奏が続いた後、ミアがスゥと深く息を吸って――。

「宵闇に星――」
「『星』だっ!」
 ミアが歌い始めるとほぼ同時、ユーリの手が一枚のカードをテーブルからはたき出した。

「って、聞きほれていたら!?」
「甘いな、ミュラー君。今は勝負の最中だぞ」
 ルアンナが目を丸くしていると、ユーリが床から拾ったカードを見せて勝ち誇る。

「よ、よーし! 負けませんよ!」
 それを見たルアンナもスイッチが入ったのか、腕まくりをして真剣な表情でテーブルのカードを睨みつけた。

「さて、いいですか? 演奏を再開しますよ」
 遊戯の審判も兼ねているクラウスが、ユーリたちのやりとりが一段落するのを待って、曲の続きを演奏し始めた。

「宵闇に星、雪や舞う。涙一筋、頬つたう。冷え切った地に落ちて、凍り付く。この手を伸ばす先にあなたが居てくれたなら――」
 ミアが切ない曲を歌い上げる間に「『雪』ですっ!」「『涙』だ!」などと、ルアンナとユーリは激しい攻防を繰り広げる。
 傍から見ると、シュールな光景だ。

「溶かしてよ、あなたの熱で。私のことを溶かしてよ。その温もりを伝えるために。この手に触れて――」
 ミアの歌う曲も大きな盛り上がりを迎えたところで――。

「『触れて』ですっ!」
「『触れて』っ――!?」
 カードに向かって伸ばされたルアンナの手と、ユーリの手が重なりそうになる。
 そのことに気後れしてか、ユーリは思わず手の動きを止めてしまう。

「やった、取れました! 私の勝ちですね!」
「そ、そうだな。流石はミュラー君と言ったところか」
 無邪気に勝ちを喜ぶルアンナに対し、ユーリは高鳴る胸をこっそり手で押さえていたのだった。

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「そろそろ日付が変わる頃か」
「色々あった一年も、終わっちゃうんですね」
 遊戯が一段落し、ユーリとルアンナは夜食に手を付けながら、ゆっくりとした時間を過ごしていた。
 四人はルアンナが焼いて持って来たパンを口にし、クラウスの淹れた紅茶を楽しんでいる。
 元々、貴族の召使いとして働いていただけあり、クラウスの紅茶を淹れる腕前は中々のものだ。

「この店を開くにあたって、ミュラー君にもずいぶん世話になってしまったな」
「あの、そういえば気になっていたのですが」
 そしてユーリに改めて呼びかけられたことによって、ルアンナは何かに思い当たったような顔をする。

「私は貴方のことを名前で呼んでるんですから、ユーリも私のこと、ルアンナって呼んでくれていいんですよ?」
「ふあっ!?」
 ルアンナが事も無げに放ったこの言葉は、しかしユーリにとっては大事件であった。
 しばし心の中で葛藤を繰り広げたユーリであったが――。

「そ、そうだな。では来年もよろしく頼む――ルアンナ」
 やがて意を決したユーリは、ルアンナから目を逸らすことなく、真っすぐに目を合わせて名前を呼んだ。

 それを静かに見守っていたクラウスとミアは、顔を見合わせてニヤニヤと笑っている。
 そしてルアンナたちがそうしている間に日付が変わり、新年が訪れてしまっていた。

「と、もう今となってはこうお返事すべきですね。今年もよろしくお願いします――ユーリ」
 新年を迎えたことに気付いたルアンナはそう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべたのだった。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0