新たな家族の名を呼んで
キャラクターノベル(グループ)制作 しまだ納品 2022年01月22日 12時56分16秒
――足音がする。
近づいてくるその音が、振動となって地面から伝わり、寝転がっていた小さな体躯を揺り起こした。
その小さな生物は慌てて立ち上がり、大事な家族を守るために頭上の影を睨みつける。未だ眠っている隣の家族のことは、何としてでも守りたかった。
「猫と……ミニコボか?」
「ミニコボの方は、起きる気配がないみたいだね。大丈夫かな?」
しかし、降ってきた声は、知らない温度をまとったひどく優しい声だった。
●
収穫祭の季節のとある日のこと。依頼を終え、宿に帰る途中だったウォーゼルとパルドは、ふと樹の下に何かが落ちていることに気付いた。
近づいて行くにつれ、だんだんと形がはっきりとしてくる。それが生き物であることが分かった瞬間、二人はぎょっとした。樹の下では、小さな動物二匹が、仲良く寄り添って眠っていたのであった。
黒い毛を持つミニコボと、まるで黒豹のような猫。まるで互いを守り合うように、くっついて眠っている二匹の姿は、どことなく自分達と似ているような気がする。ウォーゼルは、彼らに親近感を抱いた。
しかし、猫の方は二人の気配に気付くとすぐに起き上がり咄嗟に威嚇をしてきたが、ミニコボの方は起きる気配が全くない。
見たところ誰かのペットではなく、野良のようなのに……警戒心が感じられないミニコボのことが、心配になってきてしまった。
もしかしたら、周囲を警戒することが出来ないほどに弱っているのかもしれない。眠っているのではなく、体力がなくて起きることが出来ない可能性がある。
不安げな表情でウォーゼルがパルドの方を見ると、同じように心配そうに揺れる金色の瞳と目が合った。
長い付き合いだ。言葉にせずとも、互いが何を言いたいかが分かり、二人は頷き合う。
「ごめんね。でも、ここよりも安全だから」
そっとしゃがみこみ、ウォーゼルはミニコボを抱き抱えた。触れてもやはり、ミニコボが起きることはない。
慌てて飛びかかろうとした猫のことは、パルドが優しく抱きとめる。
暴れようとした猫だが、ふとウォーゼル達の毛並みを見ると驚いた様子で、しばし固まった。
少しだけ警戒を解いた猫もまた、ウォーゼルと同じように、自分達のものと似た色の毛並みの二人に親近感を抱いてくれたのかもしれない。
ひとまず、二匹がこのまま大人しく抱きかかえられていてくれそうで、二人はホッとする。
まだ寒さは本番ではないとはいえ、風は冷たいし雨が降る可能性もある。近くに温まれそうな場所もない。
弱っているかもしれない二匹を、こんな場所に放っておくことなんて出来るわけがなかった。
揺らしすぎてしまわないように気をつけながら、宿までの道をウォーゼルとパルドは急ぐのであった。
●
ことん、とミニコボ用の餌と猫用の餌を置く。帰りの途中で慌てて買ったものだが、どうやらミニコボのお眼鏡にはかなったようだ。嬉しそうに、食べ始めている。
「よかった。本当に寝ているだけだったんだね」
宿について目を覚ましたミニコボは、元気に動き回ってこちらの心配などすぐに吹き飛ばしてくれた。先程全く起きなかったのは、単に深く眠ってしまっていただけだったらしい。
温かな部屋と美味しそうな食べ物に早々に警戒を解いたミニコボは、ご満悦な様子だ。すでに二人になつき、すり寄ってくる。
「わんたは人懐っこいな」
「そうだね。にゃんたが、心配になる気持ちも分かるなぁ」
とりあえず、呼び名がないと困るので、一時的にミニコボは「わんた」、猫は「にゃんた」と呼ぶことにした。
未だ、こちらを完全には信用していない様子のにゃんたの方を見やる。にゃんたは、わんたの方を気遣うように見つめていた。
ただでさえ、危ない目にはあってほしくない大事な家族が、こんなにも無邪気で人懐っこかったら、心配になってしまうのも無理はない。
にゃんたの気持ちへと寄り添うように、二人は優しげな笑みを浮かべる。
わんたが、にゃんたに一緒に食べようとでも言うかのように、自分の餌を彼に向かって差し出した。
警戒しつつも、黒豹のような猫は小さな口を開き、恐る恐る餌を食べ始める。それを見て、ミニコボは嬉しそうに尻尾を振った。
種族は違うが、二匹はまるで仲の良い本当の兄弟のようだ。
いや、彼らは……確かに家族なのだろう。ウォーゼルとパルドにとって、孤児院のみんながそうであるように。種族を越えた絆で結ばれているのだ。
部屋でくつろいでいる内に、にゃんたもだんだん、こちらに気を許してきてくれたようだった。お腹もいっぱいになり、眠たげな様子で二匹は部屋でくつろぎ始める。
「チビ達に名前をつけてやらないとな。いつまでも、わんた、にゃんたと呼ぶわけにもいかないし」
「うーん、名前かぁ……。仲良しだから、同じ系統の名前がいいよね」
二人で、良い名前がないか、案を出し合う。
収穫祭にちなんでみるか、それとも、拾った場所にまつわる名前にするか。
自分達の名前をもじるのも、悪くない案だ。
いっそ、見た目の印象から決めてみても良い。二匹とも、黒い綺麗な毛色だし。
あれこれと案を出し合うが、「これ!」となるものはなかなか思いつかなかった。
「まぁ、焦って決めるものでもないか。……チビ達の水、変えてやらないとな」
水を変えてやるために立ち上がったパルドが、キッチンへと向かおうとする。
彼がどこかへ行ってしまうと思って、驚いたのだろう。
ミニコボも慌てた様子で立ち上がると、パルドの後へとついて行った。
まるで幼い弟のようなその様子に、パルドは優しげに目を細める。
「あはは、パルドの後をちょこちょこついていって可愛いね。……あ!」
その微笑ましい光景に思わず笑みを浮かべたウォーゼルは、思いついた案に瞳を輝かせる。
「ちょこちょこついて行くから、ミニコボの名前はチョコでどうかな?」
「チョコか。毛色にも合っているしな。うん、オレも賛成だ」
「やった! じゃあ、今日からチョコだね。よろしくね、チョコ」
二人は嬉しそうにわんた……ではなく、チョコの方を見た。その隣で寄り添うにゃんたの名前は、やはりチョコと関係性のある名前が良いだろう。
だって、こんなにも二匹は仲が良いのだから。名前だってお揃いの方が、きっと彼らも嬉しいに違いない。
「よし、決めた。ミニコボがチョコなら、この子はショコラだ!」
こちらも、毛色に合っている良い名前をつけることが出来た。
ウォーゼルとパルド。そして、チョコとショコラ。
今日から、この宿の一室は、二人と二匹の家になるのだ。
「ショコラ」と名前を呼ぶ、二人の声がハモる。
もうすっかり彼らに気を許したショコラは、部屋でゴロゴロと転がりながら、二人の方を見た。
しかし、それが自分の名前だということは未だよく分かっていないのだろう。不思議そうに一度チョコと顔を見合わせた後、首を傾げながらショコラは「にゃあ?」と小さく鳴くのだった。
近づいてくるその音が、振動となって地面から伝わり、寝転がっていた小さな体躯を揺り起こした。
その小さな生物は慌てて立ち上がり、大事な家族を守るために頭上の影を睨みつける。未だ眠っている隣の家族のことは、何としてでも守りたかった。
「猫と……ミニコボか?」
「ミニコボの方は、起きる気配がないみたいだね。大丈夫かな?」
しかし、降ってきた声は、知らない温度をまとったひどく優しい声だった。
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収穫祭の季節のとある日のこと。依頼を終え、宿に帰る途中だったウォーゼルとパルドは、ふと樹の下に何かが落ちていることに気付いた。
近づいて行くにつれ、だんだんと形がはっきりとしてくる。それが生き物であることが分かった瞬間、二人はぎょっとした。樹の下では、小さな動物二匹が、仲良く寄り添って眠っていたのであった。
黒い毛を持つミニコボと、まるで黒豹のような猫。まるで互いを守り合うように、くっついて眠っている二匹の姿は、どことなく自分達と似ているような気がする。ウォーゼルは、彼らに親近感を抱いた。
しかし、猫の方は二人の気配に気付くとすぐに起き上がり咄嗟に威嚇をしてきたが、ミニコボの方は起きる気配が全くない。
見たところ誰かのペットではなく、野良のようなのに……警戒心が感じられないミニコボのことが、心配になってきてしまった。
もしかしたら、周囲を警戒することが出来ないほどに弱っているのかもしれない。眠っているのではなく、体力がなくて起きることが出来ない可能性がある。
不安げな表情でウォーゼルがパルドの方を見ると、同じように心配そうに揺れる金色の瞳と目が合った。
長い付き合いだ。言葉にせずとも、互いが何を言いたいかが分かり、二人は頷き合う。
「ごめんね。でも、ここよりも安全だから」
そっとしゃがみこみ、ウォーゼルはミニコボを抱き抱えた。触れてもやはり、ミニコボが起きることはない。
慌てて飛びかかろうとした猫のことは、パルドが優しく抱きとめる。
暴れようとした猫だが、ふとウォーゼル達の毛並みを見ると驚いた様子で、しばし固まった。
少しだけ警戒を解いた猫もまた、ウォーゼルと同じように、自分達のものと似た色の毛並みの二人に親近感を抱いてくれたのかもしれない。
ひとまず、二匹がこのまま大人しく抱きかかえられていてくれそうで、二人はホッとする。
まだ寒さは本番ではないとはいえ、風は冷たいし雨が降る可能性もある。近くに温まれそうな場所もない。
弱っているかもしれない二匹を、こんな場所に放っておくことなんて出来るわけがなかった。
揺らしすぎてしまわないように気をつけながら、宿までの道をウォーゼルとパルドは急ぐのであった。
●
ことん、とミニコボ用の餌と猫用の餌を置く。帰りの途中で慌てて買ったものだが、どうやらミニコボのお眼鏡にはかなったようだ。嬉しそうに、食べ始めている。
「よかった。本当に寝ているだけだったんだね」
宿について目を覚ましたミニコボは、元気に動き回ってこちらの心配などすぐに吹き飛ばしてくれた。先程全く起きなかったのは、単に深く眠ってしまっていただけだったらしい。
温かな部屋と美味しそうな食べ物に早々に警戒を解いたミニコボは、ご満悦な様子だ。すでに二人になつき、すり寄ってくる。
「わんたは人懐っこいな」
「そうだね。にゃんたが、心配になる気持ちも分かるなぁ」
とりあえず、呼び名がないと困るので、一時的にミニコボは「わんた」、猫は「にゃんた」と呼ぶことにした。
未だ、こちらを完全には信用していない様子のにゃんたの方を見やる。にゃんたは、わんたの方を気遣うように見つめていた。
ただでさえ、危ない目にはあってほしくない大事な家族が、こんなにも無邪気で人懐っこかったら、心配になってしまうのも無理はない。
にゃんたの気持ちへと寄り添うように、二人は優しげな笑みを浮かべる。
わんたが、にゃんたに一緒に食べようとでも言うかのように、自分の餌を彼に向かって差し出した。
警戒しつつも、黒豹のような猫は小さな口を開き、恐る恐る餌を食べ始める。それを見て、ミニコボは嬉しそうに尻尾を振った。
種族は違うが、二匹はまるで仲の良い本当の兄弟のようだ。
いや、彼らは……確かに家族なのだろう。ウォーゼルとパルドにとって、孤児院のみんながそうであるように。種族を越えた絆で結ばれているのだ。
部屋でくつろいでいる内に、にゃんたもだんだん、こちらに気を許してきてくれたようだった。お腹もいっぱいになり、眠たげな様子で二匹は部屋でくつろぎ始める。
「チビ達に名前をつけてやらないとな。いつまでも、わんた、にゃんたと呼ぶわけにもいかないし」
「うーん、名前かぁ……。仲良しだから、同じ系統の名前がいいよね」
二人で、良い名前がないか、案を出し合う。
収穫祭にちなんでみるか、それとも、拾った場所にまつわる名前にするか。
自分達の名前をもじるのも、悪くない案だ。
いっそ、見た目の印象から決めてみても良い。二匹とも、黒い綺麗な毛色だし。
あれこれと案を出し合うが、「これ!」となるものはなかなか思いつかなかった。
「まぁ、焦って決めるものでもないか。……チビ達の水、変えてやらないとな」
水を変えてやるために立ち上がったパルドが、キッチンへと向かおうとする。
彼がどこかへ行ってしまうと思って、驚いたのだろう。
ミニコボも慌てた様子で立ち上がると、パルドの後へとついて行った。
まるで幼い弟のようなその様子に、パルドは優しげに目を細める。
「あはは、パルドの後をちょこちょこついていって可愛いね。……あ!」
その微笑ましい光景に思わず笑みを浮かべたウォーゼルは、思いついた案に瞳を輝かせる。
「ちょこちょこついて行くから、ミニコボの名前はチョコでどうかな?」
「チョコか。毛色にも合っているしな。うん、オレも賛成だ」
「やった! じゃあ、今日からチョコだね。よろしくね、チョコ」
二人は嬉しそうにわんた……ではなく、チョコの方を見た。その隣で寄り添うにゃんたの名前は、やはりチョコと関係性のある名前が良いだろう。
だって、こんなにも二匹は仲が良いのだから。名前だってお揃いの方が、きっと彼らも嬉しいに違いない。
「よし、決めた。ミニコボがチョコなら、この子はショコラだ!」
こちらも、毛色に合っている良い名前をつけることが出来た。
ウォーゼルとパルド。そして、チョコとショコラ。
今日から、この宿の一室は、二人と二匹の家になるのだ。
「ショコラ」と名前を呼ぶ、二人の声がハモる。
もうすっかり彼らに気を許したショコラは、部屋でゴロゴロと転がりながら、二人の方を見た。
しかし、それが自分の名前だということは未だよく分かっていないのだろう。不思議そうに一度チョコと顔を見合わせた後、首を傾げながらショコラは「にゃあ?」と小さく鳴くのだった。