プレゼント選びは最高難易度、かもしれない
キャラクターノベル制作 ウケッキ納品 2021年12月25日 15時22分06秒
●プレゼント選びは最高難易度、かもしれない
寒空の下、活気に溢れる市場。
いつも以上に人が溢れているその理由は【聖霊節】だ。
家族で食事をして祝う者、大切な人に贈り物をする者、それぞれが思い思いに聖霊節を楽しむ。そういう日なのだ、今日は。
そんな雑踏の中をローブ姿の男が歩いている。彼は商品を品定めするように眺めながら各店舗を回っていた。
黒いフードを被った青年――だわはある店舗の前で足を止める。そこはシューター向けの装具を扱う店のようだ。
いくつか商品を手に取ってみる。弓の袋、弓矢の手入れに使う道具など見てみるが、どれも彼のお眼鏡には敵わなかったらしい。
商品を棚に戻すと彼は再び歩き始める。これで彼が回った店は4つ。中々、彼の探す品は見つからない。
「贈り物か……存外、選ぶというのは難しいものだな」
彼は祭りの警備などは担当したことはあるが、楽しむ側としての参加はほぼ経験がない。
誰かにものを贈るという慣れないことをしているのには理由があった。
彼はある女性に以前、アンクレットをプレゼントされたことがあった。彼女は彼に懐いており、感謝の気持ちの贈り物だったのだろう。
せっかくの聖霊節。そんな彼女へ似合いの品をと市場に繰り出しているのだ。
とはいえ、誰かにプレゼントを贈る、という行為に慣れていない彼にとってのプレゼント選びは相当に難航していた。
「これは……取り回しの邪魔になるか。こっちは耐久性が心許ない……次だ」
シューターである彼女へ良い品をと探す彼の目利きに敵う品はまだ見つからない。
この市場を巡る中で見つかる商品は聖霊節向けに出された商品が多く、実用品は思いの他少ない。
デザインが可愛かったり、耐久性度外視で飾りつけされた物など。彼はそれらを選ぶ気にはなれなかった。
送るのなら相手が使用し続けられる良品が望ましいと思う彼にとって、それらの聖霊節限定品が目に留まることは無い。
彼は目に留まった店の一つに入ると商品の品定めを始める。ざっと見ればここには実用向けの装飾品の類が多いように見えた。
「金細工のブレスレット……良い品だがシューターには合わないだろう。指輪もあるが、これらは矢をつがえる時に邪魔になってしまうか」
店舗の品々を見つめて頭を悩ます彼に女性店員が近づく。
「あの、何かお探しでしょうか? 良ければお力になりますが?」
「ん……贈り物を探している。シューターの、その知人の女性だ。邪魔にならない……普段使いできる物であると、望ましい」
「わかりました、少々お待ちくださいね」
そう言って店員は奥の方へと消えていく。
店員が戻って来るまでの間、彼も自力で店舗内の商品を見て回ったが中々彼の望む商品は見つからない。
シューター向けの商品は数あれど、どれも実用品ではあるが……贈り物には適さない物が多かった。
矢尻が加工された矢を手に取り、眺めてみる。先は鋭く、返しが付いていてどうにも刺さったら抜けなさそうだ。
「これは悪くない品だが……」
ふと窓の外に目をやると、恐らくプレゼントなのだろう。荷物を抱えて歩く男性らが見える。
そんな者たちを見てだわは思った。彼らはどうやって気の利いた贈り物を選んでいるのだろうと。いっそコツでも聞いてみたい。
そうこうしているうちに店員に呼ばれ、店内の机がある位置までフードを被った青年は歩いた。
するとそこにはいくつかの商品が並べられている。
まずそのうちのひとつ目を彼は手に取った。それは丈夫な革で制作された矢筒のようだ。
「それは耐久性の高い魔獣の革を使用した一品です。長く使っても綻びしにくいので人気ですよ」
「ふむ、悪くはないが……女性に贈る物といった雰囲気には見えん。それに矢筒は使い慣れた物があるだろうしな」
「確かに使い慣れた物の方がいいかもしれませんね。それではこちらなどどうでしょうか?」
次に差し出された品物は白い色の外套だった。魔獣の毛が使われているのか、ふわふわもこもこして温かそうだ。
彼は手触りを確かめる。表面はふわふわだが以外にも弾性が強い。手に取ってみると重量も動きを阻害しない程度には軽かった。
「シューター用として動きの阻害まで配慮し作られているようだな、中々の代物と見える」
「ええ、そちらは元シューターの職人が経験を生かして製作した外套となっています。細部までこだわり抜かれた良品ですよ」
気になって値段を見ると札にはかなりの額が表記されていた。彼の財布事情的に出せない額ではないが、それでもしばらくは懐が寒くなるだろう。そういった額であった。
しばらく考え込んだ後、フードを被った青年はそれを候補として残し、他の物はないかと店員に問いかける。
「そうですね、それなら……お相手様が知人の女性とのことで、こういった物はいかがでしょうか?」
店員が差し出したのは、木のカチューシャだった。細かな細工が施され、見た目も悪くない。
「こちらは良質の木材から製作されたカチューシャです。お相手様が女性とのことで、こういった品を送るのも良いのではないでしょうか?」
「そうだな、悪くない。だが……多少重量があるな。こういった物は邪魔になる可能性がある。もう少し、小さな物はないか?」
「でしたらこちらはどうでしょう? 銀で制作された短剣です。普段使いから緊急時の護身用まで幅広くお使いできますよ?」
差し出されたのは金装飾が施された黒塗りの鞘の短剣。ガードは小さく、握りも短めで腰や腕にベルトで固定する分には申し分ない。
手に取って彼は短剣を鞘から抜いてみる。銀色の鋭い刃が光を照らして輝いた。
「厳選された銀鉱石が使用されていますので、良い切れ味を保証しますよ」
「こいつも候補に入れよう。他にはないか?」
それでしたら、と店員は小さい木箱を取り出した。
差し出されたそれを開けるとそこには小さな髪紐が入っている。銀細工があしらわれたそれは派手過ぎず、かといって質素には見えづらい。
「いい品だ。これも……銀を使っているのか」
銀は魔を払うと言われている。魔獣と相対する者の装具として申し分はないだろう。
まあ、銀が実際に魔を払うかどうかは定かではないが。
(この銀の髪紐……あの子に、似合うだろうか)
ふと、彼は少女がこの髪紐を身に着けた姿を想像してみる。想像の中のあの子が笑ったような気がした。
少し浮かび上がる気恥ずかしさを表情に出さないように努めながら、フードを被った青年は店員へ購入の意思を伝えた。
「……良い品だな。こいつを頂こう」
「わかりました、それでは包みますので少々お待ちくださいませ」
しばらくして贈答用に包んで貰った髪紐を受け取ると彼は市場へと戻った。
雑踏の中を歩いていると、フードを被った青年の元へ焼けた林檎の良い香りが漂ってくる。
気が付くと彼はその匂いに誘われ、市場の隣に出店している出店の前にやってきていた。
並んでいるのは切って焼いた林檎に甘いソースがかけられたもの。
それを一つ購入するとかじりながら市場を歩く。
「悪くない……焼けた林檎と甘いソースか、美味いな」
食べ終わった彼は懐から小さなノートを取り出す。それは彼が旅先で出会った数々の食事が記されているものだ。
年季の入ったそのノートに早速、彼は焼き林檎と甘いソースに関する記述を書き加える。
趣味として彼が書き溜めているこのノートにはレシピの他に試した食材に関する記述もあった。彼が食した数々の経験の証である。
再び、フードを被った青年は足を止めた。その店舗で売っていたのは赤い瓶に詰まった液体上の物。
どうやらこれは唐辛子を粉砕し特殊な薬草と水と混ぜて液体状にした物で店主が言うには非常に辛いらしい。
辛い物を好む彼としては、まだ試したことのないこの未知の食材に興味がそそられていた。
結局、好奇心には勝てずそれを一つ購入。滞在先として部屋を取っている宿にて試してみようと思ったようだ。
「何と合わせるべきか……鶏肉、いや豚肉も悪くない」
彼が食材屋で悩んでいると彼の視線にある物が止まる。そこには肉質の良さそうな串焼きが売られていた。
狩られたとあるヤギ型魔獣の肉であるそれは脂身が多く、歯ごたえがあって旨味も強い物。以前それを食べたことのある彼は迷わずそれを購入、足早に宿へと戻っていく。
市場を後にしながらフードを被った青年は思う。
誰かに送るプレゼントを選ぶということは本当に難しい物なのだと。
相手が喜ぶ姿を想像し、相手に似合いの物を選ぶ。
やってみるまではそんなことはそう難しくもないだろうと思っていたのだが、いざやってみるとこれが難しい。
これは合わない、これは邪魔になる、と考えれば妥協できない点がいくつも出てくるのだ。
それらをクリアした品物を見つけることの難しさは……強力な魔獣の討伐に匹敵するのではと彼は内心思う。
(道行く荷物を抱えた者たち、彼らもみな同じ苦労をしたのだろうな)
大きな荷物片手に憔悴しきった顔で歩く者らを見て、心中で小さなエールをフードを被った青年は送るのであった。
寒空の下、活気に溢れる市場。
いつも以上に人が溢れているその理由は【聖霊節】だ。
家族で食事をして祝う者、大切な人に贈り物をする者、それぞれが思い思いに聖霊節を楽しむ。そういう日なのだ、今日は。
そんな雑踏の中をローブ姿の男が歩いている。彼は商品を品定めするように眺めながら各店舗を回っていた。
黒いフードを被った青年――だわはある店舗の前で足を止める。そこはシューター向けの装具を扱う店のようだ。
いくつか商品を手に取ってみる。弓の袋、弓矢の手入れに使う道具など見てみるが、どれも彼のお眼鏡には敵わなかったらしい。
商品を棚に戻すと彼は再び歩き始める。これで彼が回った店は4つ。中々、彼の探す品は見つからない。
「贈り物か……存外、選ぶというのは難しいものだな」
彼は祭りの警備などは担当したことはあるが、楽しむ側としての参加はほぼ経験がない。
誰かにものを贈るという慣れないことをしているのには理由があった。
彼はある女性に以前、アンクレットをプレゼントされたことがあった。彼女は彼に懐いており、感謝の気持ちの贈り物だったのだろう。
せっかくの聖霊節。そんな彼女へ似合いの品をと市場に繰り出しているのだ。
とはいえ、誰かにプレゼントを贈る、という行為に慣れていない彼にとってのプレゼント選びは相当に難航していた。
「これは……取り回しの邪魔になるか。こっちは耐久性が心許ない……次だ」
シューターである彼女へ良い品をと探す彼の目利きに敵う品はまだ見つからない。
この市場を巡る中で見つかる商品は聖霊節向けに出された商品が多く、実用品は思いの他少ない。
デザインが可愛かったり、耐久性度外視で飾りつけされた物など。彼はそれらを選ぶ気にはなれなかった。
送るのなら相手が使用し続けられる良品が望ましいと思う彼にとって、それらの聖霊節限定品が目に留まることは無い。
彼は目に留まった店の一つに入ると商品の品定めを始める。ざっと見ればここには実用向けの装飾品の類が多いように見えた。
「金細工のブレスレット……良い品だがシューターには合わないだろう。指輪もあるが、これらは矢をつがえる時に邪魔になってしまうか」
店舗の品々を見つめて頭を悩ます彼に女性店員が近づく。
「あの、何かお探しでしょうか? 良ければお力になりますが?」
「ん……贈り物を探している。シューターの、その知人の女性だ。邪魔にならない……普段使いできる物であると、望ましい」
「わかりました、少々お待ちくださいね」
そう言って店員は奥の方へと消えていく。
店員が戻って来るまでの間、彼も自力で店舗内の商品を見て回ったが中々彼の望む商品は見つからない。
シューター向けの商品は数あれど、どれも実用品ではあるが……贈り物には適さない物が多かった。
矢尻が加工された矢を手に取り、眺めてみる。先は鋭く、返しが付いていてどうにも刺さったら抜けなさそうだ。
「これは悪くない品だが……」
ふと窓の外に目をやると、恐らくプレゼントなのだろう。荷物を抱えて歩く男性らが見える。
そんな者たちを見てだわは思った。彼らはどうやって気の利いた贈り物を選んでいるのだろうと。いっそコツでも聞いてみたい。
そうこうしているうちに店員に呼ばれ、店内の机がある位置までフードを被った青年は歩いた。
するとそこにはいくつかの商品が並べられている。
まずそのうちのひとつ目を彼は手に取った。それは丈夫な革で制作された矢筒のようだ。
「それは耐久性の高い魔獣の革を使用した一品です。長く使っても綻びしにくいので人気ですよ」
「ふむ、悪くはないが……女性に贈る物といった雰囲気には見えん。それに矢筒は使い慣れた物があるだろうしな」
「確かに使い慣れた物の方がいいかもしれませんね。それではこちらなどどうでしょうか?」
次に差し出された品物は白い色の外套だった。魔獣の毛が使われているのか、ふわふわもこもこして温かそうだ。
彼は手触りを確かめる。表面はふわふわだが以外にも弾性が強い。手に取ってみると重量も動きを阻害しない程度には軽かった。
「シューター用として動きの阻害まで配慮し作られているようだな、中々の代物と見える」
「ええ、そちらは元シューターの職人が経験を生かして製作した外套となっています。細部までこだわり抜かれた良品ですよ」
気になって値段を見ると札にはかなりの額が表記されていた。彼の財布事情的に出せない額ではないが、それでもしばらくは懐が寒くなるだろう。そういった額であった。
しばらく考え込んだ後、フードを被った青年はそれを候補として残し、他の物はないかと店員に問いかける。
「そうですね、それなら……お相手様が知人の女性とのことで、こういった物はいかがでしょうか?」
店員が差し出したのは、木のカチューシャだった。細かな細工が施され、見た目も悪くない。
「こちらは良質の木材から製作されたカチューシャです。お相手様が女性とのことで、こういった品を送るのも良いのではないでしょうか?」
「そうだな、悪くない。だが……多少重量があるな。こういった物は邪魔になる可能性がある。もう少し、小さな物はないか?」
「でしたらこちらはどうでしょう? 銀で制作された短剣です。普段使いから緊急時の護身用まで幅広くお使いできますよ?」
差し出されたのは金装飾が施された黒塗りの鞘の短剣。ガードは小さく、握りも短めで腰や腕にベルトで固定する分には申し分ない。
手に取って彼は短剣を鞘から抜いてみる。銀色の鋭い刃が光を照らして輝いた。
「厳選された銀鉱石が使用されていますので、良い切れ味を保証しますよ」
「こいつも候補に入れよう。他にはないか?」
それでしたら、と店員は小さい木箱を取り出した。
差し出されたそれを開けるとそこには小さな髪紐が入っている。銀細工があしらわれたそれは派手過ぎず、かといって質素には見えづらい。
「いい品だ。これも……銀を使っているのか」
銀は魔を払うと言われている。魔獣と相対する者の装具として申し分はないだろう。
まあ、銀が実際に魔を払うかどうかは定かではないが。
(この銀の髪紐……あの子に、似合うだろうか)
ふと、彼は少女がこの髪紐を身に着けた姿を想像してみる。想像の中のあの子が笑ったような気がした。
少し浮かび上がる気恥ずかしさを表情に出さないように努めながら、フードを被った青年は店員へ購入の意思を伝えた。
「……良い品だな。こいつを頂こう」
「わかりました、それでは包みますので少々お待ちくださいませ」
しばらくして贈答用に包んで貰った髪紐を受け取ると彼は市場へと戻った。
雑踏の中を歩いていると、フードを被った青年の元へ焼けた林檎の良い香りが漂ってくる。
気が付くと彼はその匂いに誘われ、市場の隣に出店している出店の前にやってきていた。
並んでいるのは切って焼いた林檎に甘いソースがかけられたもの。
それを一つ購入するとかじりながら市場を歩く。
「悪くない……焼けた林檎と甘いソースか、美味いな」
食べ終わった彼は懐から小さなノートを取り出す。それは彼が旅先で出会った数々の食事が記されているものだ。
年季の入ったそのノートに早速、彼は焼き林檎と甘いソースに関する記述を書き加える。
趣味として彼が書き溜めているこのノートにはレシピの他に試した食材に関する記述もあった。彼が食した数々の経験の証である。
再び、フードを被った青年は足を止めた。その店舗で売っていたのは赤い瓶に詰まった液体上の物。
どうやらこれは唐辛子を粉砕し特殊な薬草と水と混ぜて液体状にした物で店主が言うには非常に辛いらしい。
辛い物を好む彼としては、まだ試したことのないこの未知の食材に興味がそそられていた。
結局、好奇心には勝てずそれを一つ購入。滞在先として部屋を取っている宿にて試してみようと思ったようだ。
「何と合わせるべきか……鶏肉、いや豚肉も悪くない」
彼が食材屋で悩んでいると彼の視線にある物が止まる。そこには肉質の良さそうな串焼きが売られていた。
狩られたとあるヤギ型魔獣の肉であるそれは脂身が多く、歯ごたえがあって旨味も強い物。以前それを食べたことのある彼は迷わずそれを購入、足早に宿へと戻っていく。
市場を後にしながらフードを被った青年は思う。
誰かに送るプレゼントを選ぶということは本当に難しい物なのだと。
相手が喜ぶ姿を想像し、相手に似合いの物を選ぶ。
やってみるまではそんなことはそう難しくもないだろうと思っていたのだが、いざやってみるとこれが難しい。
これは合わない、これは邪魔になる、と考えれば妥協できない点がいくつも出てくるのだ。
それらをクリアした品物を見つけることの難しさは……強力な魔獣の討伐に匹敵するのではと彼は内心思う。
(道行く荷物を抱えた者たち、彼らもみな同じ苦労をしたのだろうな)
大きな荷物片手に憔悴しきった顔で歩く者らを見て、心中で小さなエールをフードを被った青年は送るのであった。