その色は

キャラクターノベル制作 柊コウタ納品 2022年01月04日 10時02分51秒

 十二月。
 暗くなってきた街並みに、ぽつりぽつり、灯りが点いていく。
 冷たい風に乗って、くるくると地面を転がっていく枯れ葉たち。アルトナ・レーファルストは、鼻歌まじりでそれを追いかけるように帰り道を辿った。目の前でくるりと風が渦を巻き、踊っていた枯れ葉が集合する。

「あつまった! ねえおかあさんみた? みた?」

 アルトナは、聞こえてきた元気な声のほうへ目を向ける。
 母親らしき女性と手を繋いで歩く、防寒着で着ぶくれた小さな男の子がいた。興奮気味に母親の顔を見上げ、母親はそれに頷いている。後ろには、それを楽しげに見守って歩く父親らしき人の姿も。
 冬の風景を微笑ましく思いながら、アルトナは道の角を曲がって自宅へ向かったのだった。

「おばあちゃんただいま!」
「おかえり、アルトナ。ごめんね、これからお夕飯の準備始めるのよー」
「わかった! あたしも手伝うー!」
 二人で夕食をとる。食後の片付けと寝る支度を済ませ、布団にもぐりこんだ。
 ふわふわの温もりに首までしっかり包まって、アルトナはふわりと夢の世界に飛び立っていく。

●
 そこは、柔らかい光に満ちた森の中だった。
 春の陽気が、アルトナを包んでいる。
 そう思いながら小道をとことこ歩くアルトナは、自分についてくる小さな黒うさぎに気づいた。
「いっしょに行く?」
 尋ねてみると、白うさぎはウンと頷いて宙返り。
「すごい! そうだ、この先に大きい切り株があるんだよ。そこでいっしょに遊ぼ!」
 駆け出したアルトナに、並走する黒うさぎ。
 歌って踊って、あとは何して遊ぼうか、と考えつつ駆けっこする。うさぎが後ろを振り返って誰かを呼んだ。
「どうしたの?」
 うさぎの視線を追って振り返る。

 森の木々の間から現れたのは、エルフの男女だった。
「見つけた!」
「ああ、いたいた」
 いずれも大人で、嬉しそうな顔でアルトナのほうへ歩いてくる。アルトナは思わず、足を止めた。
 女性は蒼穹と同じ色の髪を長く伸ばし、ほっそりとしていて美しい。だが明るい表情は元気良く、宝石のような青の目がきらきらと輝いている。
 男性は濃い青の髪を後ろで括っているようだ。すらりと背が高く、穏やかな表情は優しげ。まろやかな金色の目が、森の柔らかい光を映していた。

 アルトナは、二人の目の色を知っている。まぎれもないアルトナ自身が、二人の目の色を一つずつ持っていた。そして二人の髪の色もまた、アルトナは持っている。
「おかあ、さん……? ……おとう……さん?」
 あまり自信は無い。が、そう呼んだアルトナの声に、二人の表情は綻んだ。

 青い目の女性が足を止める。ほんの少しだけ迷うそぶりを見せてから、それでも、おいでと腕を広げた。
 行っても良いのだろうか、とアルトナも迷った。どうしよう、と思いながら足元の黒うさぎを見ると、ぴょこぴょこと歩き出していた。二人のほうへ。
 行こうよ、と黒うさぎがアルトナを見る。
 その視線に、手を引かれて歩き出した。アルトナの歩みはすぐ、小走りとなる。そして最後は全速力で、母の腕の中に飛び込んだ。

 細い腕は柔らかく、しかしアルトナをぎゅっと抱きしめる腕の力は強い。あなたに会いたかった、という気持ちがあふれているようで、アルトナはそれに負けないくらい強く、母を抱きしめ返した。
 ぽん、と頭に大きな手が乗せられた。温かい手が、アルトナの頭を撫でる。見上げると、金色の目が優しく細められていた。その眼差しは、会えて嬉しい、と今この瞬間を喜んでいるようで、アルトナの顔もまた、喜びと幸せとで綻んで。
 そしてなぜか、鼻の奥はつんとしてきて、視界が滲んだ。見えていた世界がやわらかくなり、目から、ぽろぽろと涙があふれた。

 ほんとに、とっても、嬉しいのに。
 もっと顔を見ていたいのに。
 もっと笑っていたいのに。
 もっと話をしたいのに。

 涙は止まらなくて、止まらなくて、どうしたらいいのかわからない。
 しかしアルトナを包む母の腕も、まばたきの合間に見えた笑顔も、温かい。それが嬉しくて、また涙があふれてしまった。
 ぎゅっ、と母に抱きついて目を閉じ、その温かさを確かめる。頬を撫でる父の指に微笑んで、アルトナは目を開けた。

●
 振り仰いだ先には、いつもの天井。
「……ゆめ……」
 布団の中で横向きになって、いつのまにか枕を抱えて眠っていたらしい。
「だからあんな夢見たのかな」
 えへへ、と誰にともなく照れ笑い。目尻から小さな雫がころんと落ちた。
 とても暖かくて、幸福で、切ない夢。
 顔の記憶すら無い両親。でも、目と髪は自分と同じ色だった。自分が持つこの色は、きっとあの二人から譲り受けたもの。

 証明してくれる人はいない。少なくとも、自分は知らない。
 けれど。
 ……きっと。







登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0