おかえりなさい、あなたの卓上遊戯部に

キャラクターノベル制作 空色みなも納品 2021年11月13日 13時06分35秒

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 あなたの帰る場所を、私たちは守り続けてきました。
 おかえりなさい、先輩――。

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「こちらの箱はどこに置きましょう?」
「二人用の遊戯はカウンター付近にまとめよう。一人で来るお客の相手を僕がすることが多くなるだろうからな」
 小箱を抱えたルアンナ・ミュラーの問いかけに、旧来の友人たるユーリ・トレーガーが振り向いて答える。

 二人が居るのは、小洒落た喫茶店――として生まれ変わろうとしている物件。
 店内にはテーブル席の他、ルアンナの抱えるような箱を詰めた棚が、所狭しと並んでいる。
 そう、この喫茶店は卓上遊戯を楽しめるスペースとして計画されており。
 ここでルアンナと談笑しているユーリこそ、新たに誕生する喫茶店の主なのだ。
 ルアンナは開店準備の手伝いで喫茶店を訪れている、というわけである。

「ふう……殺風景だった店内も、ようやく様になってきたな」
「ふふ、オープンが今から楽しみですね」
 ユーリが袖で額の汗を拭い、満足げに店内を見回す。
 それを見たルアンナも、口許に手をあてて微笑んでいる。

「パンクリアース学園の卓上遊戯部でも、学園祭の催しとして喫茶店をやっていましたね」
「学園か……僕もこうして王国を出て以来、後輩たちともご無沙汰になってしまったな」
 一息つこうと椅子に腰を下ろしつつ、ルアンナは古巣を訪ねた際の出来事に触れる。
 テーブルへ手ずから淹れた紅茶を運びながら、しみじみと学生時代を思い出すユーリ。
 ユーリとルアンナはかつて、学園で卓上遊戯倶楽部として共に活動したものだった。
 懐かしそうに目を細めたルアンナは、差し出された紅茶の香りを楽しんだ後、一口啜って、美味しい、と呟く。

「ねえ、どうせなら卓上遊戯部の様子を見に行ってみない?」
 そしてルアンナはカップを置くと、このような提案を口にしたのだった。

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「やれやれ、まさかこうも早く王国に里帰りすることになるとはな」
 パンクリアース学園、卓上遊戯部の部室の扉を前にして、ユーリがふぅと息を吐く。

「きっと、みなさん喜んでくれますよ――こんにちは!」
 ルアンナは扉をノックし、部屋からの返事を待ったうえで扉を開けた。
 遊戯の小道具を収めるための棚に、そうした小道具を広げて遊ぶためのテーブル。
 ルアンナも今となっては再び見慣れた部室の光景が、そこには広がっている。

「ルアンナさん、お待ちしてました。そしてユーリ先輩もお久しぶりです、ご訪問ありがとうございます」
 二人をまず出迎えたのは卓上遊戯部の現部長、リーブス・リテラスだった。

「ミュラーさん、トレーガー先輩、ようこそいらっしゃいました」
 副部長であるジュエリア・シャイニーも、続けて挨拶に現れる。

「リーブスさん、ジュエリアさん! えへ、今日はユーリさんと一緒に来ちゃいました」
「二人とも、久しいな。元気にしていたか?」
 ルアンナが茶目っ気を出して片目を瞑る一方で、ユーリは右手を軽く挙げて現部員の挨拶に応えた。

「そういえば、今日はお二人ですか?」
「ああ、そうなんです。今日は三年生は集会があると聞いていまして」
 部室内をキョロキョロと見回し、いつもより少し人数面で寂しいことに気づくルアンナ。
 リーブスが事情を説明し、しばらく待てば部員も揃うだろうと告げると、ルアンナも納得した様子で頷いた。

「見たところ、君たちが息災そうで何よりだ」
「とはいえ、今に至るまで色々あったんですよ」
 腕を組んだユーリも満足そうに頷くと、ルアンナが学園で起こった出来事について説明を始める。
 新学園長が就任したこと、学園入学の門戸が広げられようとしたこと、そして生徒会選挙が行われたこと――。

「移動中もちらりと聞いたが、王党派と貴族派の生徒会選挙における対立か――学園内の様相は変わらず、王国政治の縮図だな」
「それもこれから、変わっていくものと思いたいですね。学園内に新しい派閥が生まれたり、変化の兆しは感じています」
 ユーリが腕組みしたまま唸っていると、ジュエリアが将来の展望を語る。
 卓上遊戯部の中でも、学園内の大きなうねりに巻き込まれたのは、何よりジュエリア自身であった。
 そのジュエリアが、学園の未来に希望を見出しているのだ。
 もはや卒業生となったユーリが、とやかく言うものでもないだろう。
 ユーリもそのように感じたのか、それ以上、学園の現状に対して口を挟むことはなかった。

「こうして僕も卒業生だが、リーブス君も卒業を控えているのだな。卒業後はどうするんだ?」
「私は……そのまま実家の手伝いをしていると思います」
 ふと思い出したようにユーリが尋ねると、リーブスは少し考え込む様子を見せ、やがて答えた。

「ゆくゆくは王の臣下たる貴族として、王国を支えていきたいと思っています」
 リーブスはユーリの目を真っすぐ見据え、宣言する。
 言葉にすることによって、自らの決意を固めるように。

「そうか……僕は兄と反りが合わず、家を飛び出してしまったからなあ。兄は家の権益しか考えていなかった」
 それを聞いたユーリが天井を仰ぐ。
 ユーリの家は貴族派に属しているため、リーブスのような王党派貴族とは立場を異にしていた。
 そうした家庭環境にユーリ自身は嫌気がさしていたからこそ、卓上遊戯倶楽部は生まれたとも言える。

「トレーガー先輩の行動力が羨ましいくらいですよ。私も家の締め付けが厳しかったので――」
 それに釣られてか、ジュエリアも自身の身に降りかかっていた困難を思い出したようだった。
 思えば、貴族派である家からの圧力によりジュエリアが部に顔を出せなくなって以来、冒険者の世話になってばかりであった。

「でも、こうして部活動を続けられることになりましたから。本当に良かったです」
「これもミュラーさんたちのおかげです。本当にありがとうございました」
 両手を合わせてにこやかに笑ったルアンナにそう言われ、ジュエリアも微笑み返す。

「もともと卓上遊戯倶楽部は、立場に関わらず誰でも遊戯を楽しめるように、との理念で僕が立ち上げたものだった」
 ここでユーリは視線を降ろし、現部員たちをぐるりと見回した。

「ここまで、よくぞその理念を守り通してくれた」
「当然のことですよ。ですが、どういたしまして」
 腕組みをほどいたユーリが手を差し出すと、リーブスはその手をしっかり握り返す。

「そして、そのためにミュラー君も力添えしてくれたようだ。僕からも礼を言おう……ありがとう」
「ふふ、そんなの当然ですよ。ですが、どういたしましてっ」
 ユーリはルアンナへと向き直って、同じように手を差し出した。
 ルアンナはリーブスを真似た台詞を口にして、そっと手を握り返す。
 ああ、温かい――繋がれた手を介して、互いのぬくもりが相手に伝わった。

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「ふぅ、美味しかったです」
「流石、ルアンナさんお手製のパンですね。深い味わいがありました」
 カチャリ、と微かに音を立て、ジュエリアの手にしたカップが置かれる。
 リーブスの言葉から分かるように、ルアンナは手作りのパンを手土産に持ち込んでおり、部室でお茶会が開かれていたのだ。
 パン屋ミュラース自慢の米粉を使ったパンは、卓上遊戯部の部員からもたいへん好評を博していた。

「さて、人心地ついたことですし、卓上遊戯部で人が集まったらやることは一つ、ですよね?」
 ルアンナはパンッと手を叩いて注目を集めると、ちょうど一束のカードでも収まりそうな小箱を荷物から取り出す。
 見れば、ルアンナの手にした小箱には白いもこもこ――アルパカが描かれていた。

「それは――僕が聖霊節に贈った」
「ええ、あのとき頂いたものです。あれから私が持ったままだったので、今の部員の皆さんはご存じないですよね?」
 小箱を目にしたユーリが目を見張る。
 ルアンナの言うように、卓上遊戯部の現部員たちは、それを初めて目にするようだった。
 そもそもルアンナも、今の部室にこの小箱と同じものが置かれていないことは確認済みである。
 ルアンナがいつか戻ってきてもいいように、という配慮であったのだろうか。
 当時の部長であったユーリは、ルアンナが王国を離れた後、同じ遊戯を再購入することはなかったらしい。

「そんなエピソードがあったのですか。トレーガー先輩も隅に置けませんね」
「どういう意味だ、それは……」
 ジュエリアに視線を向けられ、ユーリは気まずそうに頭の後ろを掻く。

「これは、私が卓上遊戯倶楽部で初めて遊んだ遊戯でもあるんです」
 箱から出したカードを広げ、そこに版画で刷られた勇壮な冒険者たち、そしてアルパカの絵をしげしげと眺めるルアンナ。
 ルアンナもそうしていると、箱に封じられていた思い出そのものを解放したかのような感覚を覚えた。

「今日は是非、皆さんとこの遊戯を遊びたいと思いまして」
「はい、ルアンナさんの思い出の遊戯に誘って頂き、たいへん光栄です」
 ルアンナの誘いに、リーブスたち現部員が異を唱えるはずもなく――。

「では、まず最初の手番を行う人を決めましょうか。この中で、アルパカに唾をかけられた経験が最もある方は?」
 定番のジョークを口にしたルアンナに、テーブルを囲んだ仲間たちはクスリと笑みを零したのだった。

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「ユーリさん、あなたの持っているカードは……アルパカですね!」
 弓を構えた射手の描かれたカードを、ルアンナがユーリへ向かって突き出すように置く。

「参ったよ。今度はブラフも通じなかったか」
「裏の裏をかいたつもりでしょうけど、今の私はそれもお見通しですっ」
 観念するようにユーリが手札を公開すると、そこには確かにアルパカの姿があった。
 対するルアンナは、いかにも上機嫌といった様子だ。
 そこには勝利を決めたことに対する喜びもあるだろう。
 しかしそれ以上に、ルアンナは初めてユーリと遊んだ際の展開が再現されたことに、懐かしさを覚えていたのだ。

 あの時は、ユーリのブラフに見事に釣られてしまった。
 それはそれで、ルアンナに新鮮な驚きを与えてくれたものだったけれど。
 今ではルアンナも成長したのだと、ユーリに対し見せることができたのが嬉しくて。
 もしかすると、ユーリもそれを期待して、あえてルアンナが経験済みの作戦をぶつけてきたのかもしれない。

「いやはや、完敗でした」
「負けはしましたが、それでも妙に清々しい気分になれますね」
 リーブスとジュエリアも、その言葉に違わず晴れやかな表情をしていた。
 どうやら、ルアンナの思い出の遊戯は、二人にも気に入られたようだ。
 かつて卓上遊戯倶楽部にルアンナを導いた遊戯が、こうして新しい世代の部員たちとの絆を深めてくれている。
 そう思うと、ルアンナは胸がじんわりと熱くなるのを感じた。

「まだ三年生の集会が終わるまで時間があるんだったな?」
「はい、ただ待っていてもなんですし、何か次の遊戯を見繕いましょう」
 ユーリに問われ、遊戯の道具を収めた棚へ向かおうとリーブスが立ち上がる。

「次は何か、皆さんで協力して一つのことを目指してみたいですね」
「それなら、ちょうどいい遊戯がありますよ。部長、ここは私が」
 ルアンナが述べた希望に、ジュエリアは思い当たる遊戯があるらしく、リーブスの後を追って棚へと向かう。

「うん、これなら卓上遊戯部は安泰だな」
「ですね。なにより、こうして私たちも見守っていますからね」
 ユーリとルアンナは、棚の前でやりとりしている現部員たちの背中を眺めつつ、感慨深げに呟いた。

 パンクリアース学園、卓上遊戯部――。
 かつてユーリが召使たちと興した卓上遊戯倶楽部の精神は、今もこうして受け継がれている。
 現部長のリーブスこそ、もうすぐ卒業を迎えてしまうけれど。
 部の掲げる精神は、きっとジュエリアが継いでくれることだろう。
 卓上遊戯部が、いつまでも人々の笑顔とともにありますように。
 次なる遊戯を選ぶ現部員たちの笑い合う声を聞きながら、ルアンナもそう願わずにはいられなかった。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0