妖精さんと騎士様の収穫祭デート
キャラクターノベル制作 広大野人納品 2021年10月25日 15時18分40秒
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吹き抜ける潮風が寒さを運び、暖かさを求めて恋人達の距離がより近くなる、そんな季節のある日。
事の発端は、宿泊しているホテルから散歩に出ようとした王国騎士エナハルト・ティルムにミア=リゼルが押し掛けた事からだ。
「エナハルトさん、腹を割って話しましょう! お弁当も作ってきました」
普段から「レモンレモン」と言っている割には、秋の果実を意匠化した髪飾りを身につけ、秋草花柄のリネンワンピースとカーディガンを合わせた秋コーデ姿で、お手製のランチバスケットを手にしているミア。
そんな彼女のストレートなまでの勢いに断る気もなれず、エナハルトはいつもの爽やかな笑顔を見せて応えた。
「ちょうど、街は収穫祭で賑わっていますからね」
秋の祭りを楽しむのも悪くはないだろう。港町ウシタは観光に力を入れているだけあって、飾り付けされた通りは賑やかな雰囲気を発していた。
沢山の人々が行き交い、様々な姿を似せて仮装している者もいれば、今こそ商機だと意気込む商人も多い。
颯爽とした仕草で上着を羽織ると、ミアに並び立つエナハルト。
「ミアさんの荷物、持ちましょうか?」
「大丈夫……です」
唐突な押し掛けだった上に、荷物を持ってもらうのは申し訳ないと断るミア。
健気な彼女の返事に、エナハルトは僅かに逡巡してから、ミアのバスケットを持っていない方の手を取った。
「それなら、ミアの手を貰いますよ」
突拍子な行動に驚くミア。この王国騎士は手フェチな趣味でもあるのだろうか。
一応、弁解するようにエナハルトがミアの耳元で囁く。
「この方が自然だと思いますので」
「あ……そういう事、ですか……」
ウシタの街には、エナハルトと冒険者達が追っている組織も滞在している。
下手に刺激させて面倒な事が起きたり、常に監視されている可能性がある以上、街に繰り出したのは『調査』ではなく『デート』だと認識させた方が、都合が良いと判断したのだ。
「それとも肩を寄せた方が良いですか?」
思わせぶりな台詞。
この騎士は自身の容姿が一定数の女性にとってウケが良い事を自覚しているようだ。
サラっとした黒髪を揺らし、笑みを浮かべて訊いてくる彼の態度に、ミアは上目遣いで返した。
「エナハルトの腕に絡みますよ……」
「ぅん――では、このままで」
女性に対して慣れているようで、ただ、どこかで引いてしまう人間。それが王国騎士エナハルトの人物像だとミアは観察していた。
先日の宴の時もそうだ。一定の距離までは誰にでもフルオープンだが、それ以上、踏み込ませないようにしている。
それが『キリリウヌの悲劇』とやらに関係している可能性も高いと推測できるが、面と向かって訊ける程の仲でも無い事も確かな事で……。
(自然と仲良しになろう作戦、開始です!)
依頼を通じて関わってきただけの間柄だ。彼の心情に踏み込むにしても、関係性という距離は詰めておくのが順序というもの。
握っている彼の手にグッと力を込めるミアであった。
通りの屋台で、ちょっとしたお菓子を頬張ったり、獣耳のカチューシャをお互いに付けてみたり、仮装大会を観たり、他所から見ればうらやま爆発しろ的なカップルの二人は、街中を一回りした後、休憩を兼ねて港町が一望できる展望デッキへと上がった。
「ここなら監視の心配はないでしょう」
王国騎士の特権で建物の屋上を貸し切ったのだ。
エナハルトは上着を丁寧に掛けてから、椅子に腰を沈める。
一方、ミアはテーブルの上に花柄刺繍の入ったクロスを手早く敷いていた。
「食事を、用意します」
「色々と作ってきてくれたみたいで」
エナハルトの言葉と視線に、ミアは頷いた。
「サンドイッチは、端から卵、ハム、レモンジャム、チーズになります。こちらはボールドーナッツ。これはレモンの形を似せて作ったクッキーに、果物は葡萄です」
一つひとつ説明しながら、ミアはテーブルに置いていく。
配置にも気を配る。主となるサンドイッチは、中央。ボールドーナッツとクッキーや果物は、少し離して、可愛らしく盛り付ける事で、目で見ても楽しめるように――。
作業を続けるミアを椅子の背もたれに寄り掛かりながらジッと眺めていたエナハルトがボソっと呟くように言った。
「……訊いて来ないのですね」
紙皿に果物を並べていたミアは手を止めてから答える。
「訊いた方が良かったですか?」
「いや、答えなかったと思う……気を遣わせてしまったか」
ジードとの会話の中で出た『キリリウヌの悲劇』。それが何かをミアは知らない。
知らない上で、エナハルトを誘った。事前に調べる事も出来たけれど。
「今、私からは訊きません。ですが、せめて、出来る事はしたいと思います……。私はエナハルトさんを守りたいのです」
そう言って、一番出来の良いサンドイッチを手に取ると、王国騎士に笑顔で渡す。
彼はそれを受け取ると、大きく息を吐き出してから、ゆっくりと口へと運んだ。
「……あの人以外の人と、こうした食事をする事は無いと思っていましたが……ミアさんの好意に甘えてしまう、僕は弱い人間ですね……」
寂しそうな瞳でサンドイッチを見つめる。
それが彼の『欠けた』事だと、ミアはすぐに理解できた。
誰しもある事だと言ったのは、他ならぬ彼自身の言葉だった故に。
腕を組んでデートして手作りの物を一緒に食べる仲の女性と『キリリウヌの悲劇』は恐らく繋がっていると同時に、それは彼にとって埋めがたい欠落なのだろう。
だから、ジードとの会話で言われたあの時、表に出せなかった感情の行き先が、ミアと握っていた手に向けられたのだ。
「エナハルトさん……」
名前を呼ぶが、それは慰めのつもりではなかった。
むしろ、今、大事な事を彼が忘れている事実に対して、その想いを込めて呼んだのだ。
「あっ……。ミアさんの作ったサンドイッチ、とても美味しいですよ」
好意で作って貰った物を口にしながら、別の女性を思い出して言葉にするなど、普段の彼ならば、まず、あり得ない事だろう。
逆を言えば、そんな感情を発露するに足る程、ミアとの仲が深まったからとも受け取れる訳だが。
「良かった、です……。他にも、具の違う物が色々とあります。それに、屋台で買った物もありますから……」
ミアは微笑を浮かべて言うと屋台で買った獣耳のカチューシャを被った。
いつでもどこでもハーフビーストごっこができるだろうが、普段から着けるには恥ずかしさを克服せねばならない品だ。
けれど今日は秋の収穫祭。折角なので、それっぽい事を楽しまないと勿体ないだろう。
「テリーズ・トラ・トリュース……妖精さんのご挨拶、だそうです。意味までは……でも、なんだかかわいらしくありませんか?」
座ったままのエナハルトを見下ろすように迫って告げる。
「不思議な響きの言葉ですね」
「ふふ、ちなみに……『お菓子をくれないと悪戯しちゃう』なんて言葉もあるそうですよ?」
自分で焼いてきたレモンの形をしたクッキーを一つ手にして、ミアはエナハルトの耳元で囁くように言葉を続けた。
「……さあ、お菓子か、悪戯か。選んでください、エナハルト」
「お菓子を持っていないと知っていて、かい? いぢわるなミアだ」
エナハルトはそう答えるとミアが手にしていたクッキーを直接、頬張る。
彼の唇に触れた指が妙に暖かいのは、きっと、吹き抜ける潮風が寒いから――と思う、ミアであった。
吹き抜ける潮風が寒さを運び、暖かさを求めて恋人達の距離がより近くなる、そんな季節のある日。
事の発端は、宿泊しているホテルから散歩に出ようとした王国騎士エナハルト・ティルムにミア=リゼルが押し掛けた事からだ。
「エナハルトさん、腹を割って話しましょう! お弁当も作ってきました」
普段から「レモンレモン」と言っている割には、秋の果実を意匠化した髪飾りを身につけ、秋草花柄のリネンワンピースとカーディガンを合わせた秋コーデ姿で、お手製のランチバスケットを手にしているミア。
そんな彼女のストレートなまでの勢いに断る気もなれず、エナハルトはいつもの爽やかな笑顔を見せて応えた。
「ちょうど、街は収穫祭で賑わっていますからね」
秋の祭りを楽しむのも悪くはないだろう。港町ウシタは観光に力を入れているだけあって、飾り付けされた通りは賑やかな雰囲気を発していた。
沢山の人々が行き交い、様々な姿を似せて仮装している者もいれば、今こそ商機だと意気込む商人も多い。
颯爽とした仕草で上着を羽織ると、ミアに並び立つエナハルト。
「ミアさんの荷物、持ちましょうか?」
「大丈夫……です」
唐突な押し掛けだった上に、荷物を持ってもらうのは申し訳ないと断るミア。
健気な彼女の返事に、エナハルトは僅かに逡巡してから、ミアのバスケットを持っていない方の手を取った。
「それなら、ミアの手を貰いますよ」
突拍子な行動に驚くミア。この王国騎士は手フェチな趣味でもあるのだろうか。
一応、弁解するようにエナハルトがミアの耳元で囁く。
「この方が自然だと思いますので」
「あ……そういう事、ですか……」
ウシタの街には、エナハルトと冒険者達が追っている組織も滞在している。
下手に刺激させて面倒な事が起きたり、常に監視されている可能性がある以上、街に繰り出したのは『調査』ではなく『デート』だと認識させた方が、都合が良いと判断したのだ。
「それとも肩を寄せた方が良いですか?」
思わせぶりな台詞。
この騎士は自身の容姿が一定数の女性にとってウケが良い事を自覚しているようだ。
サラっとした黒髪を揺らし、笑みを浮かべて訊いてくる彼の態度に、ミアは上目遣いで返した。
「エナハルトの腕に絡みますよ……」
「ぅん――では、このままで」
女性に対して慣れているようで、ただ、どこかで引いてしまう人間。それが王国騎士エナハルトの人物像だとミアは観察していた。
先日の宴の時もそうだ。一定の距離までは誰にでもフルオープンだが、それ以上、踏み込ませないようにしている。
それが『キリリウヌの悲劇』とやらに関係している可能性も高いと推測できるが、面と向かって訊ける程の仲でも無い事も確かな事で……。
(自然と仲良しになろう作戦、開始です!)
依頼を通じて関わってきただけの間柄だ。彼の心情に踏み込むにしても、関係性という距離は詰めておくのが順序というもの。
握っている彼の手にグッと力を込めるミアであった。
通りの屋台で、ちょっとしたお菓子を頬張ったり、獣耳のカチューシャをお互いに付けてみたり、仮装大会を観たり、他所から見ればうらやま爆発しろ的なカップルの二人は、街中を一回りした後、休憩を兼ねて港町が一望できる展望デッキへと上がった。
「ここなら監視の心配はないでしょう」
王国騎士の特権で建物の屋上を貸し切ったのだ。
エナハルトは上着を丁寧に掛けてから、椅子に腰を沈める。
一方、ミアはテーブルの上に花柄刺繍の入ったクロスを手早く敷いていた。
「食事を、用意します」
「色々と作ってきてくれたみたいで」
エナハルトの言葉と視線に、ミアは頷いた。
「サンドイッチは、端から卵、ハム、レモンジャム、チーズになります。こちらはボールドーナッツ。これはレモンの形を似せて作ったクッキーに、果物は葡萄です」
一つひとつ説明しながら、ミアはテーブルに置いていく。
配置にも気を配る。主となるサンドイッチは、中央。ボールドーナッツとクッキーや果物は、少し離して、可愛らしく盛り付ける事で、目で見ても楽しめるように――。
作業を続けるミアを椅子の背もたれに寄り掛かりながらジッと眺めていたエナハルトがボソっと呟くように言った。
「……訊いて来ないのですね」
紙皿に果物を並べていたミアは手を止めてから答える。
「訊いた方が良かったですか?」
「いや、答えなかったと思う……気を遣わせてしまったか」
ジードとの会話の中で出た『キリリウヌの悲劇』。それが何かをミアは知らない。
知らない上で、エナハルトを誘った。事前に調べる事も出来たけれど。
「今、私からは訊きません。ですが、せめて、出来る事はしたいと思います……。私はエナハルトさんを守りたいのです」
そう言って、一番出来の良いサンドイッチを手に取ると、王国騎士に笑顔で渡す。
彼はそれを受け取ると、大きく息を吐き出してから、ゆっくりと口へと運んだ。
「……あの人以外の人と、こうした食事をする事は無いと思っていましたが……ミアさんの好意に甘えてしまう、僕は弱い人間ですね……」
寂しそうな瞳でサンドイッチを見つめる。
それが彼の『欠けた』事だと、ミアはすぐに理解できた。
誰しもある事だと言ったのは、他ならぬ彼自身の言葉だった故に。
腕を組んでデートして手作りの物を一緒に食べる仲の女性と『キリリウヌの悲劇』は恐らく繋がっていると同時に、それは彼にとって埋めがたい欠落なのだろう。
だから、ジードとの会話で言われたあの時、表に出せなかった感情の行き先が、ミアと握っていた手に向けられたのだ。
「エナハルトさん……」
名前を呼ぶが、それは慰めのつもりではなかった。
むしろ、今、大事な事を彼が忘れている事実に対して、その想いを込めて呼んだのだ。
「あっ……。ミアさんの作ったサンドイッチ、とても美味しいですよ」
好意で作って貰った物を口にしながら、別の女性を思い出して言葉にするなど、普段の彼ならば、まず、あり得ない事だろう。
逆を言えば、そんな感情を発露するに足る程、ミアとの仲が深まったからとも受け取れる訳だが。
「良かった、です……。他にも、具の違う物が色々とあります。それに、屋台で買った物もありますから……」
ミアは微笑を浮かべて言うと屋台で買った獣耳のカチューシャを被った。
いつでもどこでもハーフビーストごっこができるだろうが、普段から着けるには恥ずかしさを克服せねばならない品だ。
けれど今日は秋の収穫祭。折角なので、それっぽい事を楽しまないと勿体ないだろう。
「テリーズ・トラ・トリュース……妖精さんのご挨拶、だそうです。意味までは……でも、なんだかかわいらしくありませんか?」
座ったままのエナハルトを見下ろすように迫って告げる。
「不思議な響きの言葉ですね」
「ふふ、ちなみに……『お菓子をくれないと悪戯しちゃう』なんて言葉もあるそうですよ?」
自分で焼いてきたレモンの形をしたクッキーを一つ手にして、ミアはエナハルトの耳元で囁くように言葉を続けた。
「……さあ、お菓子か、悪戯か。選んでください、エナハルト」
「お菓子を持っていないと知っていて、かい? いぢわるなミアだ」
エナハルトはそう答えるとミアが手にしていたクッキーを直接、頬張る。
彼の唇に触れた指が妙に暖かいのは、きっと、吹き抜ける潮風が寒いから――と思う、ミアであった。