分かたれた二つ星が今――

キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2021年10月26日 16時26分12秒

 今日も人々でごった返すリブラネスタの冒険者ギルド。そんなギルドの一角で――。

「そこを何とかお願いします!」
「申し訳ありません、いくら冒険者のお身内でも、ギルド内でお預かりする事はできません」

 リブラネスタギルドのカウンターから身を乗り出したベアトリーチェ・カロッサが、困惑する受付係に頭を下げていた。

「ほら、エンジェもお願いして!」
「え……。は、はい」

 ベアトリーチェに言われ、後ろで成り行きを見つめていた妹のエンジェ・カロッサがおずおずと前に出てくる。

「お、お願いします」

 そして、喧騒でまったく聞こえない小さな声でぽつりとつぶやき頭を下げた。
 二人して頭を下げられ、受付係も困惑する。とはいえ、所属の冒険者を無下に扱う訳にもいかず、困り果てていると――。

「あ……ギルドでご面倒を見るのは無理ですが、働き口なら踊る小熊亭の方に尋ねてみるのはいかがですか?」

 と、ギルド併設の大酒場へと続くドアを指さした。

「え? 踊る小熊亭……なるほど。エンジェ、キミ給仕できる?」
「給仕……?」
「って言ってもわからないよね。えっと、エンジェが巫女をしていた時に色々世話を焼いてくれた人が居たでしょ? そういう事をできないかって事」
「え……? どうして私が?」
「どうしてって……そりゃ、食べていく為よ?」
「食べていく……?」

 ベアトリーチェの言葉の意味を理解できないのか、エンジェは何度も首をひねる。

「……そうかぁ、そこからかぁ!」

 そんな妹に、ベアトリーチェは天を仰ぐ。彼女はずっと森の中に囚われていた。そこでは何不自由ない暮らしを強要されていたのだ。
 世間の常識など教えてもらえるはずもなく、ただただ飾り巫女として、生かされ続けていた少女にいきなり働けというのは酷というものなのだが……。

「……うん、ダメ。エンジェもあの村から抜けてるんだから、ちゃんと自立できるようにならなきゃ」
「自立……?」

 またしても知らない単語に困惑する妹の肩をギュッと掴み、ベアトリーチェは瞳をじっと見つめた。

「エンジェ、外の世界では働かなければご飯が食べられないの。わかる? キミも働くの」

 正直に言えば自分の冒険者としての稼ぎで妹一人くらい養うのは訳もない。
 だけど、それをしてしまってはあの村でされてきた事と何も変わらないし、冒険者なんて危険な仕事、いつ何があるかわからない。もし、自分に何かあった時に、一人残されたエンジェはどうなるのか……そんな事は考えなくてもすぐにわかる。

「エンジェ、生活する為には色々なものがいるの。食べる物はもちろんだけど、着る服とか住む家とか。もう、誰も用意してくれないんだよ」

 だから彼女には、一人で生きる術を身に着けてもらわなくてはならない。ベアトリーチェは妹に真摯な言葉をかけ続けた。

「……う、うん。私に、できるかな。その……自立っていうの」
「できるよ! だって、キミはアタシの妹なんだもん!」

 姉の真剣な瞳に、エンジェはゆっくりと頷いた。

「とは言ったものの、働く為には色々と揃えておかないと駄目だよね」

 と、ベアトリーチェは妹の姿をつま先から頭のてっぺんまで見つめる。
 エンジェは助け出されたままリブラネスタへと連れてこられたので、所謂『巫女装束』を纏っている。
 神秘性を重んじて作られた薄衣。さっきからすれ違う人たち(特に男!)にチラチラと視線を向けられるエンジェの衣装は、ぶっちゃけて言うとかなり大胆だった。流石にこれでは給仕なんてできない。

「動きやすくて、色々チラ見えしない服に着替えないと……よし、服を買いに行こう!」

 ベアトリーチェはそう言うと、きょとんとする妹の背を押しながら、ギルドを出ていった。

●
 リブラネスタの大通りへ出た二人。通りには露店がひしめき合い、買い物客や観光客でごった返していた。
 人混みではれない様にと手を繋いだ二人は煌びやかな露店を回っていく。もちろん巫女衣装では目立ちすぎるので、エンジェはベアトリーチェに借りた上着を羽織っていた。

「あっ! これなんかどう? 藍色はちょっと落ち着きすぎ?」
「え……どうなんだろ。よくわからないけど……」
「うーん、じゃ、もっと明るめでオレンジとか。このケープを合わせると秋の装いにはピッタリだと思うんだけど」
「そ、そういうものなの?」
「あぁぁ!! こっちもいい! 白のワンピースにワンポイント! はぁ……どれもお洒落だけど、やっぱりそれなりのお値段するね」
「えっと、お金は……」
「うん、もちろん、村からもらったやつを使うよ。折角、まきあ……頂いたんだし有効に使わないとね! だから任せておいてよ! お姉ちゃんがばっちりエンジェに似合う服選んであげるから――あっ! これもいい!!」
「う、うん……ありがと、お姉ちゃん」

 いつの間にやら手を離し、「あー、これも絶対に合うぅ!」「ひぁ! これ新作コスメ!?」「もうすぐ冬だし冬服としても使えるものにした方が……ぬぬう」なんて呟きながら、露店を一人で巡っている姉を遠巻きに見つめながら、エンジェは嬉しそうに微笑む。

「お嬢さん、何かお探しですか?」

 と、一人になったエンジェは突然声をかけられた。

「え……私――」

 にこやかに微笑みかけてくる人影(紳士)に、エンジェは思わず肩を竦める。

「ええ、何やらお困りの様子。私でよければご相談に乗りますよ」

 紳士はエンジェの返事も待たず、自然な流れで体を入れ替え、人混みからエンジェを遠ざけた。

「べ、別に困っている訳では……そ、その。私、姉――」
「おぉ、お姉さんとはぐれてしまったのですね! それはいけません、すぐに探しませんと!」
「ち、違っ……! あの、待って……ください!」

 紳士は大袈裟に悲しむと、エンジェの手を取り人混みの中へと引っ張っていった。

●
「エンジェ、これなんてどうかな! きっと似合う……って、エンジェ?」

 二人が人混みに消えてから数分。ベアトリーチェがとっておきの一着を見つけ、振り向いた。しかし、そこに居るはずだった妹の姿はない。

「え……嘘。エンジェ!?」

 ベアトリーチェはすぐに洋服を棚に戻すと、エンジェがいた場所へと駆け戻り、慌てて辺りを見回した。

「まさかリブラネスタの街中で……!? そんな、エンジェ……! エンジェ!!」

 ベアトリーチェは必死で妹の名前を叫ぶが、通りの喧騒で掻き消されその声は誰にも届かない。

「そんな一体どうしたら……違う、落ち着けアタシ。アタシが焦ってどうする。エンジェはきっともっと怖い思いをしてるはず」

 呆然と立ち尽くしていたベアトリーチェはぎゅっと拳を握ると、焦っていた自分に喝を入れた。

「待ってて、エンジェ。すぐに行くから!」

 ベアトリーチェは自分に言い聞かせるように呟くと、すっと瞳を閉じた。

●

「えっ……お姉ちゃんに言われて?」
「ええ、そうです。本当は内緒にしておきたかったんですけど、貴女があまりにも心細そうでしたので、思わずバラしてしまいました。これは、姉君に怒られてしまいますね」

 きょとんと見つめるエンジェに、紳士は自嘲した。

「どうか、何も知らなかった風を装っていただけましたら幸いです」
「わ、わかりました……頑張ります」
「おぉ、なんと姉君思いな……それと、一つ提案なのですが」

 と、紳士はびくりと肩を竦めたエンジェににこりと微笑みかけた。

「逆サプライズ、なんていかがでしょう」
「ぎゃくさぷらいず……? な、なんでしょうか、それは」
「ええ、貴女の事を驚かせようとしている姉君を、逆に驚かせてしまおうという計画ですよ」
「は、はぁ……」
「姉君が貴方へプレゼントを渡した瞬間、貴女からも姉君にプレゼントを返すのです。きっとビックリして、でも喜んでくれるはずですよ」
「喜んで、くれる……」
「はい、それはもう。何か姉君のお好きな物はありませんか? 特になければ私がお勧めするお店にご案内差し上げますので、そこで選んでいただければ」
「は、はい……何が好きなのか、わからないので、よろしくお願いします」
「……ええ、ええ! もちろんです。では参りましょう!」

 そう言って、紳士は再びエンジェの手を取ると、通りを外れ、薄暗い路地へと足を踏み入れる。

「あ、あの……」
「ご心配には及びません、あまり時間もないので近道をしているだけですよ」

 不安そうに声をかけるエンジェに、紳士は振り返る事なく答え、そのまま路地の奥へと彼女を誘う。
 路地は次第に細くなり、街の喧騒が遠くなる。コツコツと紳士の靴音だけがやけに響いていた。

「さぁ、着きました。ここです」
「え……ここって」

 と、紳士が立ち止り振り返る。そこは――――行き止まりだった。

「あ、あの……どういう事でしょう、お店は……?」

 エンジェは紳士に問いかけつつも、何とか腕を振りほどこうと試みるが、その力は強くびくともしない。

「は、放してください……私、お姉ちゃんの所へ――」
「ははっ! ったく、馬鹿な奴だぜ!」

 突然、紳士の顔が歪み、雰囲気ががらりと変わった。
 紳士……だった男は、エンジェの腕を捻り上げると、その首筋に顔を寄せる。

「こんなにもあっさり釣れるとはな」

 男は下卑た笑みを浮かべ、空いた手をエンジェの腰に回しグッと引き寄せた。
 男の力は強く、非力なエンジェでは対抗すらできない。

「なんだこの服。誘ってんのか?」
「や、止めてください……どうしてこんな事をするんですか……!」

 だから、精一杯大きな声を上げた。一生懸命喉を震わせ精一杯声を出す。そうすればきっと――。

「ははっ! 健気に声を張り上げてよ。悪いけどな、誰も来やしねぇよ。なぁ、お前等!」

 そんなエンジェの淡い希望をあざ笑うかのように、男は路地に向かって声をかけた。
 すると、待ってましたとばかりに路地の先から別の人影が姿を現す。

「へへ……さぁ、どうしてくれようか。まずは有り金を頂いて――」

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0