ゴブリン・スクール・デイズ

キャラクターノベル制作 おおくまねこ納品 2021年09月26日 12時31分33秒

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「1時間目に遅刻しちまう! 初日から遅刻はまずいぞ!」
 新品の学生服を着て、パタパタと王都グランスパーダを走る小さな緑の影。彼の名ははゲルト。ゴブリンである。そして先日、大陸最高峰の学び舎パンクリアース学園の特別編入試験に見事合格し、正式な学園生となったゴブリンである。
 この短い物語は、パンクリアース学園ライフを謳歌する(?)ゲルトの青春の1頁である――。

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「みんな、静かに! 今日は編入生が来るぞ」
 HR担当の教師の言葉に、学園生達は静まり返った。秋学期が始まる少し前に、特別編入試験が実施されたことは彼らも聞いている。そして、その合格者達は、全員冒険者達だったというのである。
「冒険者が、このクラスに……!?」
 果たしてどんな奴だろうか。四十代のオッサンとかだったらどうしよう。あるいはもしかして異種族? イケメンだったら嬉しいな。冒険者は何故か美男美女が多いと聞くし。学園生達はドキドキしながら、教師が廊下から編入生を連れてくるのを待った。

「ゴールディから来たゲルト君だ。ちょっと変わった外見の子だが、みんな、仲良くするように」
 登場した編入生の姿を見て、学園生達は唖然とした。その少年はなんと、ゴブリンだったのである。

「ゴブリンだ……!」
「マジ? モンスター図鑑で見たぞ。そっくりだ」
「ボクたち食べられちゃうんじゃね!?」
 クラスメート達は騒然となった。先人たちの不断の努力により、ゴブリン種は人類の一種族として認められているとはいえ、未だ多くの地域で最下層民として扱われているのが現状だ。学園内はおろか、王都でゴブリンを見る機会などそうそうないだろう。

「こら! お前達! ゲルト君をモンスター扱いするんじゃない! ゴールディ出身だと言っただろう。あの地方のゴブリンは人類の仲間なんだ! 歴史も知らん者が将来人の上に立てると思うな!」
 教師に怒鳴りつけられ、騒いでいた少年少女は委縮した。どうやらこの教師はゲルトの味方らしい。恐らくは、冒険者の入学に好意的だった教師の一人なのだろう。
「すまんな、ゲルト君。気を悪くしないでくれ」
「別に気にしていない」
「うむ。それは良かった。だが君も礼節については学ぶ必要があるな。貴族に敬語を使えとは言わんが、教師にタメ語はいかんぞ。そういうことも含め、この学園で多くを学んでほしい」
「わかっ……わかりました」
 ゲルトも軽く窘(たしな)められたが、嫌な感じはしなかった。教師の言葉には、ゲルトをちゃんと生徒として扱おうという、確かな愛情が感じられたからだ。
「さて、席はどこにしようかな。そうだな……」
 教師はきょろきょろとクラスを見渡し、空いている席を探した。
「エルメス! お前の隣にしよう。ちゃんと面倒を見てやるんだぞ」
「わ、私ですか……!」
 困惑する少女。ゲルトは教師に引率され、エルメスの隣に座った。
「よろしく頼む」
「よ、よろしく……」
 ゲルトが微笑みかけると、少女はぎこちない笑顔を浮かべた。
「では、一限目を始めるぞ。教科書の80ページを……」

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 一時間目が終わり、短い休み時間が始まると、クラスメートたちの反応は二極化した。多くは、遠巻きにゲルトを観察する者。そして、少数の好奇心旺盛な生徒達はゲルトに積極的に話しかけてきた。
「おまえ、ゴブリンだよな!?」
「ああ」
「雄でいいのよね?」
「生物学的にはそうだが、男性か男の子と言ってほしい」
「このクラスで一番可愛いと思う子は?」
「ノーコメント」
 質問攻めにされ、ゲルトは困惑したが、寄ってきた生徒達はあまりゲルトに嫌悪感は抱いていないようだ。孤立無援な針の筵も覚悟していたが、思ったよりクラスの雰囲気が良い。
 そんなクラスの様子をしばらく観察していた教師は微笑みを浮かべると、教室から出ていった。その直後。

「ぬわーーっ!! なんだ、この狼は!?」
 廊下から担任の悲鳴が上がった。思い当たるフシがあったゲルトは急いで廊下に出ていく。そこには、ノーラに押し倒され、激しく顔を舐められている教師の姿があった。
「廊下でノーラを待たせていたんだが……いけなかったのか」
「校舎にペットを連れてきてはいかん! 外に繋いできなさい!」

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「もう昼休みか。さっそく図書館に行ってみようかな」
 昼休みに入ると、ゲルトは昼食は棚上げし、憧れの図書館に赴こうとしたのだが――。

「おい、ゴブリン。俺達と『竜騎兵球(ドラグーンボール)』で勝負しろよ」
 昼休みになると、でっぷり太った金髪の少年がゲルトに絡んできた。後ろには取り巻きっぽい少年が二人。いかにも悪ガキ集団といった様子だ。年齢はゲルトよりずいぶん幼そうに見えるが、ゲルトはゴブリンらしくかなり小柄なので、自分達と同年代だと思っているのかもしれない。
 ドラグーンボールとは、2対2で行うロスガリア大陸特有のボール競技だ。お互いに自分チームの背後にボールを置き、相方と肩車を組む。相手の肩車を崩すか、相手のボールを奪って自分のゴールに投げ入れることができれば勝利となる。肩車を組む姿が竜に乗った騎士を彷彿とさせることから、竜騎兵球と呼ばれている。

「俺はゴブリンがクラスメートなんて認めねえ。ここは由緒正しき大陸最高峰の名門、パンクリアース学園なんだ。動物園じゃねえ! 俺達が勝ったら大人しく出ていってもらう。もしお前が勝ったら、俺の今日の弁当の唐揚げは全部お前にやるぜ」
「……」
 余りにも理不尽な闇のゲームの申し出に、ゲルトは絶句した。この学校が大陸最高峰の名門であることに異論はないが、この悪ガキはあまりにも気品とか常識とか色々無さすぎではないだろうか……よほど、親に甘やかされきたのだろう。

「断る。オレが勝負を受ける理由がない」
 ゲルトはきっぱりと悪ガキの申し出を断った。
「てめえ! ジャイロさんの挑戦を断ろうってのか!?」
「断るなら不戦敗だぞ!」
 いきり立った悪ガキの一人がゲルトの胸倉を掴もうとしたその時だった。

「ガルルルルル!」
 凄まじい唸り声を上げ、白い狼(ノーラ)がゲルト達の方に突進してきた。ノーラは悪ガキに飛び掛かり、一瞬でひっくり返した。ノーラはそのまま袖に噛みつき、シャツのボタンを引きちぎってしまった。
「グルルルルル……」
「う、うわあああああ!? 殺される――!!」
「ちくしょう、覚えてろ!」
 噛み殺さんばかりの形相でノーラに睨みつけられたジャイロ一味は、悲鳴を上げながら全力疾走でその場から逃亡した。

「助けにきてくれたのか。よしよし」
 ゲルトは目を細め、尻尾を振るノーラの頭を撫でた。
「しかし、参ったな。怪我はしていないと思うが、後で問題になったりするか?」
 ノーラが危険な動物扱いされたりすると非常に困るので、ゲルトは困り顔で近くにいたエルメスに尋ねた。するとエルメスは、笑って答えた。
「大丈夫よ。アイツの家、たかが子爵家だもの。高圧的に出るのは男爵とか商家とか、格下の相手だけ。今回の件はどう見てもアイツに非があるし、何か言ってきてもアイツが注意されるだけよ。……正直、スッとしたわ。あんたのペット、やるじゃん」
「そうか、ならよかった」
 エルメスの言葉に、ゲルトは笑顔で返した。

 こうして、世にも稀なゴブリンの学園生、ゲルトのパンクリアース学園での生活が始まった。卒業までの間、ゲルトにはどんな試練が待ち受けているのだろうか――。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0