異母兄との出会い

キャラクターノベル制作 おおくまねこ納品 2021年09月25日 12時42分10秒

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「なんとなくまた来てしまったが……」
 エル=バ=ノイアンはリーンエス王国西方の街、栄耀都市ラグラスの門の前でぽつりと呟いた。彼がこの街を訪れるのはこれが三度目だ。一度目はキャラバンの護衛の為。その時は現地解散だったので、一緒に依頼を受けた冒険者達と共にこの街を一日観光して回った。二度目は、この街の巡視兵であった女騎士の依頼で、行方不明となった孤児を探す為にここに来た時だ。その際は、孤児を攫っていた犯人がなんとこの街の司法制度を担っている法と秩序の神殿であったことが発覚し、想像以上の大立ち回りを演じることになった。

 ――ノイ、アン……?
 ――なぜ、あんたが俺の名前を知っている?

 夕日に照らされ、紅く染まる大聖堂を見上げながら、ノイアンは大司教と対峙した時のことを思い出す。あの老人は自分と目が合った時、何故か驚愕の表情を浮かべ、自分の名を呼んだ。それは何故だったのか。もちろん、ノイアンは大司教とはあの時が初対面だ。あの男が流れ者の冒険者である自分の名を知っている道理などない。それが気になって、ノイアンは王国の西方での依頼を受け、帰る道すがら、この街を訪れたのである。

「今日はもう遅いな。とりあえず宿を取るか」
 そう思い立ったノイアンは、商業区である東区を目指して歩き始めた。
(人探しで街中を練り歩いた経験がこんな所で役に立つとは、分からないものだな)
 ノイアンは暮れなずむ街を歩きながらふとそんな風に思ったが、面差しはいつものように凍り付いたままだった。ノイアンはその日、予定通り東地区の安宿に泊まり、早めに眠った。

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「せっかくだ。武器の整備をしよう」
 翌朝、朝早くに目が覚めたノイアンは宿屋で朝食をとると、街の鍛冶屋へと向かった。依頼が終わった後はすぐ武器を整備するのが彼の習慣なのだ。直近の依頼では斧を酷使した為、ノイアンの愛用の片手斧は二本とも酷く刃毀れしていた。
「おや?」
 淡い金色の髪に萌黄色の瞳の青年が、具合が悪そうに路上にへたりこんでいるのが見えたのだ。かなり身なりの良さそうな服を着ている。恐らくは中央区の住人なのだろう。
(突発的な病気だろうか。しかし、住民は何故誰も彼を助けないんだ?)
 ノイアンは足を止め青年を注視した。青年は相変わらず屈んだ姿勢のまま俯いている。周囲の人々は遠巻きに見つめるだけか、あるいは彼を無視して通り過ぎていた。他人にあまり関心がない土地柄なのだろうか。見るからに西地区(スラム)や南地区(労働区)の住民ならともかく、お金持ちそうな彼なら、誰かが介抱しても良さそうなものだが……。
「……」
 ノイアンはすたすたと青年に近づくと、声をかけた。
「医者を呼ぼうか?」
「いえ……少し休めば治りますから……」
「分かった。俺の宿が近くにある。少し休んでいけ」
 ノイアンはイスタルを担ぎ上げると、宿屋へと引き返した。

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 ノイアンに介抱された青年の名は、イスタル=エニード。彼はラグラス領主クレシー=ドロアが最も信頼する近衛騎士、エレク=エニードの息子である。
 彼は父を憎んでいた。正妻である母を冷遇し、妻子がありながら愛してもいない娘に子を産ませ、幼い妹を政治の駒として扱う父に失望し切っていたからだ。イスタルは父への憎悪を隠そうともせず、二人は顔を合わせるたびに一触即発の空気が流れていた。また、イスタルは武人である父とは対照的に魔法に才を示すも、病弱であるために授恵者擬(もど)きと陰口を叩かれることもあった。ラグラスの住民達が発作に喘ぐイスタルを見て見ぬふりをしていたのは、彼を助けることでエレクの不興を買うのが恐ろしかったからだ。それほどまでに、イスタルと父の仲は険悪だったのである。

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「命に別状はなさそうだな。安心した」
「私はイスタル。イスタル=エニード。気にかけてくださってありがとうございます、ノイアンさん」
 幸いイスタルの症状は軽いものだったらしく、ベッドで休ませるとすぐ回復した。その後ノイアンはイスタルと昼食を取りながら、少しばかり雑談した。常に微笑みを浮かべ、聞く者を落ち着かせる声のトーンで話すイスタルとの会話は楽しく、ノイアンは終始和やかな気分で昼下がりを過ごした。

「なんだか、初めて会った気がしないな。……あっ、いや、妙な意味じゃない。本当に……懐かしい気持ちになったんだ」
「不思議ですね。実は私もなんだかそんな気がするんです」
 ノイアンは新しい友人と二人で街をぶらつくのも悪くはないと思ったが、残念ながらイスタルには仕事があったので、ノイアンは予定通り一人で鍛冶屋へと向かうことにした。

「俺もまた、この街に来るかもしれない。その時は一緒に酒でも飲もう」
「ああ、いつか必ず。また会いたいな、ノイアン」
 ノイアンは微笑みを浮かべるイスタル(異母兄)に見送られ、鍛冶屋へと向かった。

 運命に導かれ、邂逅(かいこう)を果たした異母兄弟が再び巡り合う時は、果たして――。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0