卓上遊戯倶楽部よ再び

キャラクターノベル制作 空色みなも納品 2021年09月17日 11時35分43秒

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 運命が引き裂いた二人の人生を。
 何の気まぐれか、運命は再び交錯させる――。

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 石畳を鳴らす蹄の音と、ガラガラと車輪が回る音が聞こえたかと思うと。
 道の向こうから馬車が現れ、ルアンナ・ミュラーとすれ違って去っていく。

 ここはリブラネスタ。
 エラトゥーン都市同盟の沿岸部に位置する港湾都市にして、冒険者ギルド発足の地。
 商業の盛んなリブラネスタにおいて、商人の馬車が行き交うのは珍しい光景ではない。
 そう。珍しいことなどでは、ないのだ。
 しかし、ルアンナはふと、すれ違った馬車に違和感のようなものを覚えた。
 とはいえ、その違和感の正体を掴むには至らない。
 足を止めて振り返ったルアンナは、そのまま馬車が曲がり角へ消えていくのを見送ったのだった。

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 依頼帰りのルアンナを迎えるのは、パン屋ミュラースの看板。
 ルアンナが伯母夫婦から受け継いで切り盛りしている店だ。
 難しい依頼を終え、ようやくここまで帰ってきたと、ルアンナが息を吐いていると――。

「大変だよ!」
 慌てふためいた様子で駆け寄ってくる、近所のおばちゃんの姿。
「どうしたんですか、そんなに息せき切らして」
 目を丸くしたルアンナが、いったい何があったのかおばちゃんに問いかける。
「さっき男の子が馬車に押し込まれるところを見ちゃったんだよ! これって誘拐なんじゃない!?」
「誘拐、ですって!?」
 おばちゃんの言葉に、居ても立っても居られなくなったルアンナは、即座に行動に移った。
 手始めに、ルアンナは事件の目撃者たるおばちゃんから、馬車の特徴を聞き出していく。
「あの馬車……さっき私がすれ違った……」
 ここに来て、ルアンナは思い当たった。
 先程ルアンナが見たのは、人攫いを乗せた馬車であったのだと――。

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「おい、さっさとお前がどこのボンボンか吐かねぇか」
 屋内の暗がりで、人相の悪い大柄な男が、縄で縛られた青年と思しき人物に詰めよっている。
 青年とはっきり言いきれないのは、詰め寄られた人物が頭に麻袋を被せられたうえ、だんまりを決め込んでいるからだ。
 とはいえ、推定青年の上等な服装は、裕福そうな家庭の子息であることを暗に仄めかしていた。

「兄貴ぃ。このままじゃ埒があかねぇし、痛い目にあわせちまおうぜ」
 その場にもう一人いたやせっぽちの男が、下卑た笑みを顔に浮かべる。
 このやせた男は、ルアンナとすれ違った馬車で、御者に扮して馬を操っていた。
 つまり、このデカブツとヤセで二人の誘拐犯、ということだ。

「そうだな、人質にするためにゃ傷つけすぎるのも問題だが、少しは聞き分けがよくなって貰わなきゃなあ」
 暗く笑ったデカブツがパキリ、と手の骨を鳴らした。
 それを聞いた青年が、びくり、と身を縮こまらせる――。
 と、そこへ。

「へぶっ!?」
「ぴょえっ!?」
 横殴りの水流が押し寄せ、デカブツとヤセは情けない悲鳴を上げながら流されてしまった。
 壁に勢いよく叩きつけられたかと思うと、ゆっくり床にずり落ちていく二人の男。
 水流の源を見れば、そこには杖を突きつけるルアンナの逆光に照らされた姿があった。

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「大丈夫ですか? 痛いことされませんでした?」
 ルアンナは縛られた青年の拘束を解こうと、歩み寄っていく。
 誘拐事件発生の報せを聞いた後、ルアンナは馬車の目撃証言を追いかけて、青年が連れ込まれた町はずれの施設を突き止めたのだ。

「おっと、まずはその袋があると何も見えませんし、息苦しいですよね」
 ルアンナが青年に被せられた麻袋に手を添え、そっと外すと――。
「えっ……」
「あっ……」
 ルアンナと青年は、同時に声を上げていた。
 なぜなら、目前に見知った顔が現れたからだ。

 青年の名はユーリ・トレーガー。
 ルアンナがパンクリアース学園の卓上遊戯倶楽部で共に時間を過ごした、かつての学友であった――。

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「まさかユーリさんとこんな形で再会するなんて……」
「いや、僕もセラフィアス君とこうして再会することになるとは思ってなかったな。そもそも、誘拐されてここで終わりかとも思った」
 ルアンナは思わぬ再会に驚きながらも、縄を解く手は休めなかった。
 拘束から自由となったユーリは、立ち上がって服についた埃をはらう。

「あ、私、今は姓をミュラーと言うんです」
「姓が変わった……? それは、つまり……?」
 ルアンナは学園に通っていた頃とは、名乗る苗字が変わっていた。
 それを聞いたユーリは、何を想像したのかは知らないが、息を呑んでいた。

「私、王国を離れた後、伯母夫婦の養子になったんですよ」
「なるほど……そういうことか。てっきりいい人でもできたのかと思った」
 ルアンナはリーンエス王国を離れることになった後の経緯を説明した。
 そしてユーリはどうやら、ルアンナと会わない間に浮いた話でもあったのかと思っていたらしい。
「あっ、姓が変わった理由については、さきほど説明した通りなので、そういうわけでは……」
 顔の前で両手を振りながら、ルアンナはユーリの想像を改めて否定していた。

「それにしても、ユーリさんこそどうされたんですか? このあたりまで来られて」
「ああ、それについて説明しないといけないな……」
 ルアンナも今度はユーリの事情を聞く番だと、ユーリがリブラネスタを訪れていた理由を尋ねる。

 ユーリ曰く。
 リーンエス王国の貴族である実家を離れたユーリは、自身で商売を始めるべく、もともと召使であった二人のお供を連れてエラトゥーン都市同盟に辿り着いていたという。
 店を構える場所を一人で探していたユーリが、いよいよ気に入る物件を見つけ、お供の二人へ報告しに戻ろうとした矢先、誘拐の被害にあってしまったらしい。
 豪華絢爛というほどではないにせよ、それなりに上質な服を着ていたことにより、悪党に目を付けられてしまったようだ。

「今回のことは災難でしたね……それにしても、ユーリさんが始められるお店とは、どのような?」
「よくぞ聞いてくれた。僕が始めるのは――卓上遊戯が遊べる喫茶店だ」
 ルアンナが商売の内容に興味を示したところ、ユーリは胸を張って自身の構想を答えた。

「わあ! とっても素敵じゃないですか!」
「だろう? あの頃、僕たちが過ごしたような時間を、僕は皆に提供したいのだ」
 目を輝かせるルアンナに、ユーリは自らの理想を語る。

 シンプルな道具で実現可能な一部のものを除けば、卓上遊戯は娯楽の中でも贅沢の部類に入る。
 ボード、コマ、サイコロ、カード……そうした小道具の類を複数用意するには、手間も費用もかかるからだ。
 王国貴族であったユーリは、学生時代にもそうした小道具を集めることができた。
 しかし、一般市民が手元に集めるには、卓上遊戯は高級品であると言える。
 では、そうした卓上遊戯の道具を売るのではなく、レンタルするスペースがあったとしたら?
 それこそがユーリの着眼点であった。

「そのお店、リブラネスタでやるんですよね! 具体的には、どこになるんですか?」
「店の住所か。それは――」
 興味津々といった様子のルアンナは、ユーリの話に食いつくように身を乗り出している。
 ユーリが店を構える予定の通りと番地を答えると――。

「えっ、それって――!?」
 驚きのあまり、思わず大きな声が出てしまうルアンナ。
 ユーリの店は、ルアンナが営むパン屋ミュラースから歩いて程なくの、ご近所さんだったのだ。

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「今日は世話になった。まさか、こんな日が来るなんてなあ」
「戻る間にまた何か危険があってはいけませんから、宿まで送りますよ。それに――懐かしいお二人にも会っておきたいですからね」
 ユーリとルアンナの二人は、誘拐犯たちをしかるべきところへ突き出した後、ユーリがとっている宿へと向かっていた。

「私も、またユーリさんと卓上遊戯ができる日々を迎えられそうになるだなんて――思ってもみませんでした」
 ルアンナにとって、ユーリとテーブルを囲む日々は過去のものになってしまっていた。
 そのような日々が、再び訪れようとしているだなんて。
 めぐり合わせというのは不思議なものだ、などと思わずにはいられない。

「開店したら是非とも店を訪れてくれたまえ。と、ミュラー君ならプレオープンにも招待しないとな」
「ええ、ユーリさんのお店なら足しげく通っちゃいますとも!」
 ユーリとしても、再度ルアンナと会えるようになったことは、大きな意味を持つのだろう。
 夕日に照らされたユーリの顔は、喜びの色に染まっているような気がした。

「すっかり帰りが遅くなってしまったな。二人も心配している頃だろう――すまない、今戻った!」
 宿の前まで着いたユーリは、ルアンナを連れて入口をくぐった。
 この後、中で待っていたお供の二人にルアンナは大層な歓迎を受けたという。

 こうして、ルアンナは卓上遊戯倶楽部のメンバーと再会を果たした。
 まるで人生は遊戯盤の上に乗せられたコマのように、運命に翻弄されるけれども。
 コマを進める先を選ぶのは、人の意思に他ならない。
 このたびルアンナにユーリを引き合わせたのは、ルアンナが毅然として起こした行動なのだ。

 ルアンナは思い出す。
 療養所で臥せる伯母を見舞ったとき、諦めることがなければ皆にもいつか会えるだろうと諭して貰ったことを。
 なるほど、伯母の言っていた神様のお引き合わせとは、こういうことであったのか。

「皆さん――これからもずっと、よろしくお願いいたします」
 宿で口にされたルアンナの声は少しばかり震えていて、感極まったものに聞こえたかもしれない。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0