或る少女の剥落
キャラクターノベル制作 炙りとろ左門納品 2021年08月22日 11時50分25秒
● anamnesis 215.1
せんせい。
せんせい、わたし、せんせいのことだいすき。
うまくできたらほめてくれるし、だめでもはげましてくれるもの。
どなったりなぐったりしない。あたまをなでてくれるし、だきしめてくれるし、あらしのよるはいっしょにねてくれるの。
だから、また、わたしをつかってね。
せんせいが「やれ」っていったら、わたし、それをするから。
しっぱいしない、こわれない、かんぺきなどうぐ。
せんせいはそれがほしいんだよね?
じゃあ■■■■がそれになってあげる!
そうしたら、せんせいはずっと、
ずーっと、■■■■だけをつかってくれるよね?
● anamnesis 209.1
その少女は、それなりに高貴な血を引いていました。
王国の上級貴族と、その貴族に仕える侍女との間に生まれた娘。そうそう珍しい話ではありません。
侍女が捨てられたのも。
故郷に戻った彼女が、厄介者と娶せられたのも。
その子供が疎まれたのも。
与えられる苦痛も。
踏み躙られる尊厳も。
あまりにもありふれたおはなし。
名前のない少女はいつも、部屋の隅で蹲って嵐が過ぎ去るのを待っていました。
そんなある日、老紳士が少女のもとを訪ねます。
老紳士は男女から少女を買い上げ、少女に名前をつけました。
少女は、老紳士の弟子として育てられました。
あらゆる教養、技術、能力。その全てを継承した少女は、失敗しない、壊れない、完璧な装置を目指していました。
すべては「せんせい」の役に立つため。
「せんせい」の望みを叶えるため。
そのためには、なんだってできました。
——だって、「せんせい」だけが、わたしをつかってくれる。
少女には、「■■■■」が欠けていました。
● anamnesis 221.1
海の底から引き上げられるような浮遊感と共に、ミア=リゼルは目を覚ました。
どうやらいつの間にか、眠ってしまっていたらしい。
(どんな夢、だったかな……思い出せない……)
得てして夢とはそのようなものであるが、ミアはぼうっと、籐で編まれたサマーベッドに身を預けたまま、月明かりを反射する水面を見つめ続けた。そうしてしばらくしてようやく、夕方から居眠りしていたことに気づく。
リーンエス王国の南西、ウシタ伯爵領のロイヤルビーチ。富裕層や貴族を顧客層に定めたここに、なぜ一介の冒険者であるミアがいるのかというと、要は仕事である。近隣を闊歩するバルバロイたちから客を守ってほしい、というものだ。
ミアは時間を確認した。幸い、まだ休憩時間だ。とはいえ居眠りはいただけない。夏とはいえ、水着の上にシアーシャツを羽織っただけの格好では、すっかり体も冷え切って——。
「……?」
身を起こすと、体からビーチタオルがずり落ちた。誰かが引っ掛けてくれたらしい。ミアはあたりを見回す。淡い光に照らされた夜のコテージベランダには、ミアだけだ。
友人らだろうか。いや、2人ならば起こしてくれるはず。依頼の同行者にしても、やはり声をかけてくれる面々ばかりだ。ちゃんと部屋で休むように、と言うに違いない。
であれば、通りがかりの親切な人が、ということになる。
……ありがたいことだが、なんだかちょっと恥ずかしい。
「あれ」
ビーチタオルを畳もうと手に取ったその時、ふわりと鼻腔をくすぐった香りに首を傾げる。
なんだかとても、懐かしい匂い。
(どこかで……)
思い出そうとするが、はっきりとしない。さすがに他人の私物に顔を埋めて匂いを確認するというのも、よろしくない。
首を傾げつつ、ミアは部屋の中へ戻った。
● anamnesis 210.1
せんせい。これなに? とってもいいかおり! それに、おはなもきれい。
……え? かってくれるの? ……ありがとう!
みっ。なにこれ! ……すっぱい? これ、「すっぱい」の?
「すっぱい」の、すきじゃない……それに、なんだか、へんなかんじ、するの。
……「にがい」? すっぱくてにがい?
せんせい、そんなにいっぱいかうの? いいかおりだし、きれいだけど、「すっぱくてにがい」、よ。
かこーすれば、おいしい? それ、■■■■にもできる?
うん、おてつだいする。
……わたし、はやくおとなになるね。
そしたら、せんせいのおてつだいも、もっとたくさんできるから。
ねえせんせい、このあいだ、「たね」をまけば「なえ」ができるって。
この「れもん」も、「たね」をまいたらそだつ?
そうなんだ。じゃあ……すきになる。すっぱいのも、にがいのも。
おはながさいたら、せんせいにあげるね。
せんせい。
せんせい、わたし、せんせいのことだいすき。
うまくできたらほめてくれるし、だめでもはげましてくれるもの。
どなったりなぐったりしない。あたまをなでてくれるし、だきしめてくれるし、あらしのよるはいっしょにねてくれるの。
だから、また、わたしをつかってね。
せんせいが「やれ」っていったら、わたし、それをするから。
しっぱいしない、こわれない、かんぺきなどうぐ。
せんせいはそれがほしいんだよね?
じゃあ■■■■がそれになってあげる!
そうしたら、せんせいはずっと、
ずーっと、■■■■だけをつかってくれるよね?
● anamnesis 209.1
その少女は、それなりに高貴な血を引いていました。
王国の上級貴族と、その貴族に仕える侍女との間に生まれた娘。そうそう珍しい話ではありません。
侍女が捨てられたのも。
故郷に戻った彼女が、厄介者と娶せられたのも。
その子供が疎まれたのも。
与えられる苦痛も。
踏み躙られる尊厳も。
あまりにもありふれたおはなし。
名前のない少女はいつも、部屋の隅で蹲って嵐が過ぎ去るのを待っていました。
そんなある日、老紳士が少女のもとを訪ねます。
老紳士は男女から少女を買い上げ、少女に名前をつけました。
少女は、老紳士の弟子として育てられました。
あらゆる教養、技術、能力。その全てを継承した少女は、失敗しない、壊れない、完璧な装置を目指していました。
すべては「せんせい」の役に立つため。
「せんせい」の望みを叶えるため。
そのためには、なんだってできました。
——だって、「せんせい」だけが、わたしをつかってくれる。
少女には、「■■■■」が欠けていました。
● anamnesis 221.1
海の底から引き上げられるような浮遊感と共に、ミア=リゼルは目を覚ました。
どうやらいつの間にか、眠ってしまっていたらしい。
(どんな夢、だったかな……思い出せない……)
得てして夢とはそのようなものであるが、ミアはぼうっと、籐で編まれたサマーベッドに身を預けたまま、月明かりを反射する水面を見つめ続けた。そうしてしばらくしてようやく、夕方から居眠りしていたことに気づく。
リーンエス王国の南西、ウシタ伯爵領のロイヤルビーチ。富裕層や貴族を顧客層に定めたここに、なぜ一介の冒険者であるミアがいるのかというと、要は仕事である。近隣を闊歩するバルバロイたちから客を守ってほしい、というものだ。
ミアは時間を確認した。幸い、まだ休憩時間だ。とはいえ居眠りはいただけない。夏とはいえ、水着の上にシアーシャツを羽織っただけの格好では、すっかり体も冷え切って——。
「……?」
身を起こすと、体からビーチタオルがずり落ちた。誰かが引っ掛けてくれたらしい。ミアはあたりを見回す。淡い光に照らされた夜のコテージベランダには、ミアだけだ。
友人らだろうか。いや、2人ならば起こしてくれるはず。依頼の同行者にしても、やはり声をかけてくれる面々ばかりだ。ちゃんと部屋で休むように、と言うに違いない。
であれば、通りがかりの親切な人が、ということになる。
……ありがたいことだが、なんだかちょっと恥ずかしい。
「あれ」
ビーチタオルを畳もうと手に取ったその時、ふわりと鼻腔をくすぐった香りに首を傾げる。
なんだかとても、懐かしい匂い。
(どこかで……)
思い出そうとするが、はっきりとしない。さすがに他人の私物に顔を埋めて匂いを確認するというのも、よろしくない。
首を傾げつつ、ミアは部屋の中へ戻った。
● anamnesis 210.1
せんせい。これなに? とってもいいかおり! それに、おはなもきれい。
……え? かってくれるの? ……ありがとう!
みっ。なにこれ! ……すっぱい? これ、「すっぱい」の?
「すっぱい」の、すきじゃない……それに、なんだか、へんなかんじ、するの。
……「にがい」? すっぱくてにがい?
せんせい、そんなにいっぱいかうの? いいかおりだし、きれいだけど、「すっぱくてにがい」、よ。
かこーすれば、おいしい? それ、■■■■にもできる?
うん、おてつだいする。
……わたし、はやくおとなになるね。
そしたら、せんせいのおてつだいも、もっとたくさんできるから。
ねえせんせい、このあいだ、「たね」をまけば「なえ」ができるって。
この「れもん」も、「たね」をまいたらそだつ?
そうなんだ。じゃあ……すきになる。すっぱいのも、にがいのも。
おはながさいたら、せんせいにあげるね。