甘く熟れた誘惑に魅せられて
キャラクターノベル制作 空色みなも納品 2021年08月20日 13時30分07秒
●
抗えぬ欲求を満たす、熟れた果実。
それはとろけるように甘く、我々を誘惑する――。
●
ゴブリン自治領ゴールディ――それはサウゼル大樹海を望む、ゴブリンたちの治める都市。
犯罪都市としての側面も知られ、後ろ暗いビジネスの温床ともなっている。
そのようなゴールディの歓楽街を往く、童顔の青年が一人。
レイン・カミナギ――迷宮都市エドゥノーグ在住、ただいまヴィント出張中の青銅級探索者。
そのレインがなぜ、ビッグオウムを用いてまで、遠く離れたゴールディに姿を見せたのか。
レインは溜まっていた――。
となれば、その目的は一つ。
三大欲求の一つを満たすことしかあり得ないだろう。
いかがわしい空気の満ちたバーへ入店したレインを出迎えたのは。
「あら、かわいい坊や。ねえ、お姉さんといいことしない?」
類稀なる優れた容姿を具えた美女であり、これこそがレインの目的――。
「興味ない。あっち行って」
ではなかったようで――レイン、塩対応。
石像にされたかのように固まる娼婦を無視して、レインはカウンター席へどさっと腰かける。
「ここからここまで。全部一つずつ」
レインの指は、メニューのデザート欄に載せられたフルーツ関連の品を、一通り指し示していた。
そう、レインに溜まっていたものとは、ヴィントの蟹工船でブラック労働により受けたストレスのことであり。
レインの満たさんとする三大欲求とは、食欲にほかならなかったのだ――。
●
「お待ちどおさま」
ゴブリンのバーテンダーが、カウンター越しにレインへ渡してきた器に盛られていたものは。
バナナ。
多年性植物バショウの仲間で、果実を食用とするもの。
熱帯的な気候を持つ地域で栽培される、トロピカルフルーツ。
皮をむかれて素肌を晒したソレが、ぶつ切りにされて背が高い硝子の器に詰め込まれている。
そればかりではない。
器の底にはコーンフレークがぎっしりとひしめいて。
その上に、ホイップしたクリームが山のようにそびえている。
特筆すべきは、ロスガリアでは製造手段が限られるアイスクリームが頂点に鎮座していることだろう。
おまけに、チョコレートソースが黒のアクセントを白い山に添えていた。
「そうそう、こういうの。こういうのが欲しかった」
レインの手にした柄の長い匙が、山を崩しにかかる。
スプーンの先端を、クリームはするりと抵抗なく受け入れて。
奥に秘されたバナナごと、レインはクリームを掻き出すと、小さく開かれた口元に運ぶ。
ぱくり。
レインの口が、スプーンの先を咥えると。
舌の先端にさわやかな甘味を残し、クリームがさらさらと融けていった。
ごろり、と残されたバナナの欠片を噛みしめると、喉の奥を通って熟成した香りが鼻孔をくすぐる。
「うん、甘い」
普段から表情の変化に乏しいレインであるが、そう呟いた顔は心なしか、どこか満足げにも見えた。
スプーンが器とレインの口を往復するのが止まらない。
次、アイスクリーム様、お口へご案内――冷やっこい。
鋭利な刃物をも思わせるような冷気が過ぎ去った後に感じる、優しい甘さ。
全体を引き締めるほのかな苦みは、チョコレートソースによるものだろうか。
そこにコーンフレークで追い打ちをかければ、ザクザクとした歯触りが加わり、向かうところ敵なしだ。
今のレインは、まるでバナナパフェを消化してエネルギーに変えるためにある装置のようであった。
「ふぅ……」
空になった器を前に、レインはドリンクを口にして一息ついていた。
藁のストローでミルクティーを吸い上げると、モチモチ食感の小さな粒がお口の中でご挨拶。
キャッサバ澱粉で作られた粒――タピオカだ。
しかし、ご馳走様を言うにはまだ早い。
覚えておいでだろうか、レインが端から端までメニューを指さしていたことを。
「お待ちどおさま」
続いてバーテンダーが運んできた大きなマンゴーを前に、飢えた獣を思わせるレインの眼光は、未だ衰えてはいなかった。
●
半分に割り、切れ目を入れただけのマンゴーを匙ですくって食べるのが、これほど美味であるとは。
パパイヤの種を取り除いてできた穴に、カスタードクリームを詰める食べ方を最初に思いついた者は天才だと思った。
マンゴスチンの上品な味わいは、まさに女王の風格と言えよう。
もともと苺や桃といった酸味を伴う果実を好むレインにとっては、こうしたフルーツは親しみを感じる味でもあった。
「ご馳走様……美味しかった」
一通りのフルーツを味わったレインの前には、果汁に濡れた皿がうずたかく積まれている。
バーテンダーはレインの大食ぶりに動じる様子もなく、洗い終わった皿をただ静かに拭いていた。
「じゃあ、帰るね」
支払いを終え、席を立ったレイン。
レインはその言葉の通り、どこへ立ち寄るでもなく、真っすぐ帰路に就くのであろう。
仲間の待つ、ヴィントへ向けて――。
抗えぬ欲求を満たす、熟れた果実。
それはとろけるように甘く、我々を誘惑する――。
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ゴブリン自治領ゴールディ――それはサウゼル大樹海を望む、ゴブリンたちの治める都市。
犯罪都市としての側面も知られ、後ろ暗いビジネスの温床ともなっている。
そのようなゴールディの歓楽街を往く、童顔の青年が一人。
レイン・カミナギ――迷宮都市エドゥノーグ在住、ただいまヴィント出張中の青銅級探索者。
そのレインがなぜ、ビッグオウムを用いてまで、遠く離れたゴールディに姿を見せたのか。
レインは溜まっていた――。
となれば、その目的は一つ。
三大欲求の一つを満たすことしかあり得ないだろう。
いかがわしい空気の満ちたバーへ入店したレインを出迎えたのは。
「あら、かわいい坊や。ねえ、お姉さんといいことしない?」
類稀なる優れた容姿を具えた美女であり、これこそがレインの目的――。
「興味ない。あっち行って」
ではなかったようで――レイン、塩対応。
石像にされたかのように固まる娼婦を無視して、レインはカウンター席へどさっと腰かける。
「ここからここまで。全部一つずつ」
レインの指は、メニューのデザート欄に載せられたフルーツ関連の品を、一通り指し示していた。
そう、レインに溜まっていたものとは、ヴィントの蟹工船でブラック労働により受けたストレスのことであり。
レインの満たさんとする三大欲求とは、食欲にほかならなかったのだ――。
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「お待ちどおさま」
ゴブリンのバーテンダーが、カウンター越しにレインへ渡してきた器に盛られていたものは。
バナナ。
多年性植物バショウの仲間で、果実を食用とするもの。
熱帯的な気候を持つ地域で栽培される、トロピカルフルーツ。
皮をむかれて素肌を晒したソレが、ぶつ切りにされて背が高い硝子の器に詰め込まれている。
そればかりではない。
器の底にはコーンフレークがぎっしりとひしめいて。
その上に、ホイップしたクリームが山のようにそびえている。
特筆すべきは、ロスガリアでは製造手段が限られるアイスクリームが頂点に鎮座していることだろう。
おまけに、チョコレートソースが黒のアクセントを白い山に添えていた。
「そうそう、こういうの。こういうのが欲しかった」
レインの手にした柄の長い匙が、山を崩しにかかる。
スプーンの先端を、クリームはするりと抵抗なく受け入れて。
奥に秘されたバナナごと、レインはクリームを掻き出すと、小さく開かれた口元に運ぶ。
ぱくり。
レインの口が、スプーンの先を咥えると。
舌の先端にさわやかな甘味を残し、クリームがさらさらと融けていった。
ごろり、と残されたバナナの欠片を噛みしめると、喉の奥を通って熟成した香りが鼻孔をくすぐる。
「うん、甘い」
普段から表情の変化に乏しいレインであるが、そう呟いた顔は心なしか、どこか満足げにも見えた。
スプーンが器とレインの口を往復するのが止まらない。
次、アイスクリーム様、お口へご案内――冷やっこい。
鋭利な刃物をも思わせるような冷気が過ぎ去った後に感じる、優しい甘さ。
全体を引き締めるほのかな苦みは、チョコレートソースによるものだろうか。
そこにコーンフレークで追い打ちをかければ、ザクザクとした歯触りが加わり、向かうところ敵なしだ。
今のレインは、まるでバナナパフェを消化してエネルギーに変えるためにある装置のようであった。
「ふぅ……」
空になった器を前に、レインはドリンクを口にして一息ついていた。
藁のストローでミルクティーを吸い上げると、モチモチ食感の小さな粒がお口の中でご挨拶。
キャッサバ澱粉で作られた粒――タピオカだ。
しかし、ご馳走様を言うにはまだ早い。
覚えておいでだろうか、レインが端から端までメニューを指さしていたことを。
「お待ちどおさま」
続いてバーテンダーが運んできた大きなマンゴーを前に、飢えた獣を思わせるレインの眼光は、未だ衰えてはいなかった。
●
半分に割り、切れ目を入れただけのマンゴーを匙ですくって食べるのが、これほど美味であるとは。
パパイヤの種を取り除いてできた穴に、カスタードクリームを詰める食べ方を最初に思いついた者は天才だと思った。
マンゴスチンの上品な味わいは、まさに女王の風格と言えよう。
もともと苺や桃といった酸味を伴う果実を好むレインにとっては、こうしたフルーツは親しみを感じる味でもあった。
「ご馳走様……美味しかった」
一通りのフルーツを味わったレインの前には、果汁に濡れた皿がうずたかく積まれている。
バーテンダーはレインの大食ぶりに動じる様子もなく、洗い終わった皿をただ静かに拭いていた。
「じゃあ、帰るね」
支払いを終え、席を立ったレイン。
レインはその言葉の通り、どこへ立ち寄るでもなく、真っすぐ帰路に就くのであろう。
仲間の待つ、ヴィントへ向けて――。