記憶の中の笑顔
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2021年08月18日 12時27分34秒
「手を合わせてじっとしているんだぞ」
「前々から思ってたんだけどさ。なんで手を合わせるんだ?」
「なんでって、お前はそんなもの決まってるだろう…………え、なんで?」
「えー……じいちゃんも知らないのかよ」
年のころは10。ふらふらと黒い尻尾を揺らし、普段はピンと立っている耳をふにゃりと垂れさせた少年『アルフィー・リッパー』が、首をかしげる老人に溜息をついた。
「ともかく、終わったら草刈りだ。さっさと『お祈り』してしまえ」
「わかってるよ。ったく、じいちゃんは」
愚痴の一つも零したくなるのをぐっと我慢して目の前の『墓』に手を合わせる。
この石積みの下には、俺の両親が眠っているらしい。
ここは森の中にぽっかりと開いた空き地。そこら中、雑草が伸び放題の空き地には、焦げた建物跡が植物達に飲まれ、自然に帰ろうとしている。
何年か前にはここに村があった。黒猫のハーフビースト達が住む小さな村が。帝国の迫害で北の地へと追いやられた、悲しき一族の安住の地――となるはずだった場所。
しかし、それもあの日に、全てが燃えた。
何があったかはあまりよく覚えていない。じいちゃんもあまり詳しい話をしてくれない。
「おい、アル。なにしてる、早くしろ」
「わかってるって」
急かすじいちゃんに言われ、さっさと『お祈り』を済ませる。目を閉じて手を合わせて……それからどうするんだ?
まぁ、いい。とっとと終わらせて、草刈りだ。
面倒だけど、じいちゃんはこれを終わらせないと飯にしてくれないから、仕方なく頑張る。
なぜこんな無人の場所をじいちゃんが手入れしているのか……それも教えてはくれなかった。
「ほれ、しっかり腰を入れて刈らないか!」
「やってるだろ、じいちゃんこそ口を動かさないで手を動かせよ」
「なっ……反抗期……反抗期か……!」
「……うぜぇ」
そんなやり取りをしながらも、休まず雑草を刈っていく。
作業は昼を越え、休憩を挟んで、もうすぐ陽が落ちる。
●
「――ふぅ、こんなとこだろう」
「お、おわったぁ……」
雑草の山を前に、じいちゃんは満足げに汗をぬぐい、俺はべたーんと地面に大の字になった。
空はすっかり茜色。もうすぐ日も落ちて暗くなるだろう。暑かった夏も終わりが近い。日が陰ると途端に涼しくなるのはその証拠だってじいちゃんが言ってた。
空を見上げていたら、鳥が巣に帰っていく。忙しかった昼間に別れを告げて、どこか悲しげに鳴きながら北の空へ向かっていく。
アルフィーは草木を揺らす夕風を頬に感じながら、ゆっくりと瞳を閉じた。
●
覚えている一番古い『映像』は――母の笑顔。
『アル……ここに居れば大丈夫だから。何も怖い事はないからね』
覚えている一番古い『声』は――母の声。
『とーとは? かーかは……?』
弱々しい笑みを浮かべていた母が自分を見下ろしている。今はもうほとんど顔を思い出せなくなってしまったけど、その声と匂いだけは鮮明に覚えている。
『とーとと、かーかは一緒に行けないの。ちょっと、やらないといけない事があるから』
その時の母の声は……震えていた。
『あるも、おてつだいできるよ?』
『ありがとう、アル。いい子ね。でも、大丈夫。あなたはここでかくれんぼをしないといけないのだもの』
『かくれんぼ……?』
『そうよ。見つかったら、今度はアルが鬼になっちゃうわよ?』
『おに、やだ!』
『そうね。それじゃ、ここでじっとしていないとね』
そう言った母は俺の身体をぎゅっとだきしめて、木のうろへと押し込んだ。
『誰にも見つからなかったら、アルの大好きなアップルパイを焼いてあげるわ。だから、頑張るのよ?』
『あっぷるぱい! うん、がんばる!』
アップルパイの為に決意を固めた俺の頬に、母は触れるだけのキスをして入口を枯葉で覆った。
枯葉の隙間から時折、明るい光が差し込んでくる。遠くで誰かの声がする。だけど、母との約束があるから、俺はじっと息を殺して隠れ続けた。見つからなければ、アップルパイが待っているから。
気が付いたのは翌朝だった。どうやら眠っていたらしい。
枯葉の山が崩れ朝日がうろの中に差してくる。眩しさに目を覚ました俺はもぞもぞとうろから出て……見てしまった。全てが真っ黒になってしまった村を。
俺はどうしていいのかわからず、その場にへたり込み黒い村を見つめていた。
やがて日が昇り、陽が陰り、夜になって雨が降った。
それでも俺はずっと動けずその場で村を見ていた。何日も何日も……お腹が減って、喉が渇いて、寒くて……地面に倒れ込んでも、その場を動けずにいた。
●
目が覚めたら知らない部屋に居た。
ここはどこだと辺りを伺うけど、知っているものは一つもない。次第に不安になって泣きそうになっていたら、部屋に入ってきたのがじいちゃんだった。じいちゃんは不安で泣きそうな俺を抱きしめてくれた。
そして、ここが新しい家だと優しく声をかけてくれた。