アナクロニズム・ブレイクダウン
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2021年07月31日 16時37分00秒
冒険者や依頼人達で大賑わいのギルドの喧騒の中、依頼掲示板を見上げる一人の冒険者がいた。
「……はぁ、やってしまった」
クローリカはぽつりとつぶやいて、掲示板を後にするとギルドの脇にある休憩スペースへ腰を下ろす。
彼女が悩んでいるもの。それはある依頼が原因だった。
●
遡る事一日前――。
店の手伝いの合間を縫って、クローリカはギルドの掲示板を眺めに来くる。あの方の庇護を受けるようになって、冒険者としての比重は随分少なくなったが、暇を見てはこうしてギルドを訪れる。それは冒険者としての自分を見失わず日々の研鑽を忘れない為の一種の儀式と化していた。
今日も暇を見つけギルドを訪れたクローリカが、今の自分の生活に合う依頼は無いか、あの方に相応しい依頼は無いか、そんな事を思いながら掲示板を眺めていると――。
「あの……突然すみません」
後ろから声をかけられた。
クローリカは声に振り向くと、そこには美しいエルフの女性が立っている。
「ああ、やっぱり……! とても素敵ですわ!」
「え……?」
エルフの女性はクローリカの手を取ると、ぎゅっと両手で包み込む。そして、胸元へ手をやるとグッと顔を寄せクローリカを見上げた。
「貴方は冒険者様ですよね。依頼を出したのです!」
「依頼……? それならギルド職員の方にまずはお話を通されるのがよいかと思いますよ、お嬢さん」
「まぁ、お嬢さんだなんて、照れてしまいますわ……」
「え……いや、別に普通では……?」
クローリカの両手をぎゅっと握ったままエルフの女性はもじもじと照れ始める。
「それではよろしくお願いいたします! お話はどこでさせていこうかしら」
「あの……私の話を聞いていましたか?」
「あっ、あちらでお話させてください!」
女性はクローリカの手を引き、ギルドの隅へ移動した。
「私の名前はティエリス。大森林のとある氏族の族長の娘です」
「はぁ……私はクローリカ。冒険者をしています」
「クローリカ様! ああ、お名前までとても素敵ですわ……」
「ありがとうございます……? 依頼の仕方がわからないのでしたら、私がご案内しますが」
「違うのです! 依頼ではないのです!」
真剣な眼差しを向けてくるティエリスは、困惑するクローリカに事情を話し始める。
以前、森で暮らしていた彼女は、知識と見聞を広める為にリブラネスタ行きを両親に打診した。当然、氏族を継ぐ立場にある彼女が森を出る事に両親は猛反対。大切な娘が集落から出るのでさえ難色を示す程の過保護な両親である。森を出たいなどと言った彼女を許すはずがなかった。しかし、彼女は頑なに見聞の旅を求めた。それこそ家出すると脅してまで。
彼女の熱意についには折れた両親は、条件付きでリブラネスタ行きを認める。
こうして、ティエリスは晴れてリブラネスタへと辿り着いたのだが……。
「今なんて仰いました……?」
「はい。ですから、私の『婚約者』になってください!」
「……えっと、すみません。周りがうるさくてよく聞こえなかったのですが……婚約者とか仰いましたか?」
「はいっ! 貴方のような素敵な方でしたら、きっと両親も納得いたしますわ!」
「いやいやいや! いきなりな話過ぎるし、そもそも私は女だ!!」
「女! そんな事些細な問題ですわ! …………え?」
ティエリスはすぐに視線を落とす。服装も相まってわかりにくくあるが、確かにそこにはふくらみがあった。
「……OK!」
「いや、何がOKなんですか!?」
呆気にとられるクローリカを置き去りに、ティエリスは両親との約束を説明しだす。
彼女が森の外に出るにあたって両親と結んだ約束は、婿となる男性が見つかればすぐに戻ってくるというものだった。もちろん、過保護な両親は、彼女が森を出た瞬間に方々当たり婿候補を探し始めたのは言うまでもない。
そして、候補が見つかったからすぐに帰って来いと手紙が寄こされたのだという。
「森を出てまだ一月も経っていないのです! それにこんな素敵な街を出ていくなんて、私耐えられませんわ!」
「それが私と何の関係があるのですか! 何度も言いますが私は女だし、婚約する気もありません!」
「フリだけでいいのです! もちろん、報酬はお支払いします! どうか、私を助けると思ってお願いします!」
「いや、そもそも貴方とは今日初めて会った間柄です!」
「一日だけ! 一日でいいんです! どうか、どうかお願いします!」
そう言うとティエリスはクローリカの手を離し、両手足を地面についた。
「ちょ!? 顔をあげてください!!」
突然の土下座にクローリカは慌てて引き起こそうとするも、ここは天下のリブラネスタギルド。なんだなんだと野次馬が集まってきた。
「うぐっ……わかった、わかりましたから! その依頼受けるますから!」
「本当ですか!? では、明日お迎えに参りますね!」
クローリカが承諾した途端、ティエリスはばっと起き上がり深く頭を下げると、脱兎のごとくギルドを後にしてしまった。
「……え?」
残されたクローリカを、冒険者仲間達が生暖かく見つめていたのは言うまでもない……。
●
約束通り翌日にクローリカを迎えに来たティエリスは、早速ギルドに依頼を出す。もちろん、参加者にクローリカの名前を記してだ。
ギルド職員に訝しまれながらも承認を受けると、ティエリスはビッグオウムの手配から何から自ら行う勢いでどんどん話を進めていった。そして、その日のうちにリブラネスタを飛び立った二人は、大森林の入口へと辿り着く。
「ここからは徒歩で3日という所です」
「はぁ……」
「もぉ、もっとしゃきっとしてください! それでも私の婚約者ですか!」
ここまで来てまだ渋っているクローリカに、ティエリスは背を叩いて喝を入れる。
そして二人は森へと入り、3日間を共に過ごすと、ついに集落へと辿り着いた。
●
「……聞いてないですが?」
「え? 言いませんでしたか?」
クローリカは集落を見て思わずつぶやいた。
ティエリスの集落は予想していた10倍は巨大な大集落だったのだ。
「ともかく行きましょう! 両親も首を長くして待っていますわ!」
「ちょ! 話を聞けーー!!」
ティエリスは抵抗するクローリカをずるずると引きずって集落の中へと入っていった。
●
「初めまして。クロウと申します」
両親の刺すような視線に晒されながら名を名乗る。もちろん、男装時に使っている名だ。
「クロウ君か……見た所、エルフではないようだな」
父親に言われクローリカはこくりと頷くと帽子を取った。
「……ハーフビーストが娘の婚約者、だと? 馬鹿な、話にならん」
「お父様、それは偏見ですわ! 私は世界を見て知りました。種族に……命に貴賤など無いという事を!」
ティエリスの父『ディールセン』が呆れたと頭を振り、クローリカの腕を抱いて離さないティエリスがそんな父に向け、声を荒げる。
「なんと言おうと、エルフでないものを我が氏族に受け入れることはできん」
「なぜですか! もう、そういう時代ではないのです! いつまで閉鎖的な社会を続ける気ですの!」
「伝統を閉鎖的とは何事だ! 例え娘でも許せることと許せない事があるぞ!」
「どうしてそんなに頭が固いのですか!」
「二人共、お客人の前ですよ」
言い争う父子の会話に、母『ルシュシュ』が割って入った。
「ごめんなさいね。普段は仲のいい親子なのですが、ちょっと我の強い所がありまして」
ルシュシュは呆気にとられるクローリカに困ったような笑顔を向ける。
「でも、申し訳ないですが、私もこの婚約には反対です。我が家は代々この集落の長を務めてきました。そして、この子も長となるべき立場です。その夫がエルフでないとなれば、集落の皆に示しがつきません」
その真剣な眼差しはある意味、父であるティールセンよりも鋭かった。
ルシュシュはクローリカをじっと見つめ、無言の圧をかけてくる。
「そんなにエルフが偉いのですか! エルフエルフエルフ! この集落にはエルフしかいない!」
「当り前だ! ここは始祖より続く由緒あるエルフの里だぞ! エルフ以外の種族などいらん!」
「それが時代遅れと申しているのですわ! 時代が違うのです!」
「ふん! 何と言おうとこの決まりは絶対だ! こんな獣混じりに可愛い娘をやれるか! どうせ、小汚いヒューマンどもに飼われ、尻尾でも振っているのだろう!」
「お父様!!??」
「小汚いヒューマン、ですって……?」
興奮した父親の言葉が、クローリカの中の触れてはいけない部分に触れた。
自分の事は何と言われてもいい。流されるままにこんな所までついてきた自分に責任があるのだ。ハーフビーストだからというのも、まぁ許そう。世界は偏見で満ちている。そんな事でいちいち腹を立てていては身が持たない。
しかし、主人の話は駄目だ。それだけは何があっても許させることではない。
クローリカは席から立ち上がると、見上げてくる両親を睥睨する。
「黙って聞いていれば、因習だ規則だと馬鹿馬鹿しい」
「な、なに!?」
「お嬢様も言っておいででしょう、そんな規則に何の価値があるのか。この混沌に飲まれようとしている世にあって、そんな小さな決まり事に固執し、執着し、縛られる生き方の何が素晴らしいのか。
血統の継承? それが一体何を生み出したというのです。ただ森の一角にしがみ付き何百、何千と歴史を重ねるだけのそれに何の意味があるのです。何も生み出さず、何も変わらない。ただ、決まりを守るだけの生き方に、意味など無い」
饒舌に言葉を紡ぐクローリカに、両親だけでなくティエリスまでも驚き目を瞠っている。
「それが300年を生きる長命種の知恵ですか? そんな無価値なもの早々に捨ててしまいなさい。でなければ、世界の変異に飲まれて消えるだけです」
そう言い放つとクローリカは、振り返ることなく退出してしまった。
「……はぁ、やってしまった」
クローリカはぽつりとつぶやいて、掲示板を後にするとギルドの脇にある休憩スペースへ腰を下ろす。
彼女が悩んでいるもの。それはある依頼が原因だった。
●
遡る事一日前――。
店の手伝いの合間を縫って、クローリカはギルドの掲示板を眺めに来くる。あの方の庇護を受けるようになって、冒険者としての比重は随分少なくなったが、暇を見てはこうしてギルドを訪れる。それは冒険者としての自分を見失わず日々の研鑽を忘れない為の一種の儀式と化していた。
今日も暇を見つけギルドを訪れたクローリカが、今の自分の生活に合う依頼は無いか、あの方に相応しい依頼は無いか、そんな事を思いながら掲示板を眺めていると――。
「あの……突然すみません」
後ろから声をかけられた。
クローリカは声に振り向くと、そこには美しいエルフの女性が立っている。
「ああ、やっぱり……! とても素敵ですわ!」
「え……?」
エルフの女性はクローリカの手を取ると、ぎゅっと両手で包み込む。そして、胸元へ手をやるとグッと顔を寄せクローリカを見上げた。
「貴方は冒険者様ですよね。依頼を出したのです!」
「依頼……? それならギルド職員の方にまずはお話を通されるのがよいかと思いますよ、お嬢さん」
「まぁ、お嬢さんだなんて、照れてしまいますわ……」
「え……いや、別に普通では……?」
クローリカの両手をぎゅっと握ったままエルフの女性はもじもじと照れ始める。
「それではよろしくお願いいたします! お話はどこでさせていこうかしら」
「あの……私の話を聞いていましたか?」
「あっ、あちらでお話させてください!」
女性はクローリカの手を引き、ギルドの隅へ移動した。
「私の名前はティエリス。大森林のとある氏族の族長の娘です」
「はぁ……私はクローリカ。冒険者をしています」
「クローリカ様! ああ、お名前までとても素敵ですわ……」
「ありがとうございます……? 依頼の仕方がわからないのでしたら、私がご案内しますが」
「違うのです! 依頼ではないのです!」
真剣な眼差しを向けてくるティエリスは、困惑するクローリカに事情を話し始める。
以前、森で暮らしていた彼女は、知識と見聞を広める為にリブラネスタ行きを両親に打診した。当然、氏族を継ぐ立場にある彼女が森を出る事に両親は猛反対。大切な娘が集落から出るのでさえ難色を示す程の過保護な両親である。森を出たいなどと言った彼女を許すはずがなかった。しかし、彼女は頑なに見聞の旅を求めた。それこそ家出すると脅してまで。
彼女の熱意についには折れた両親は、条件付きでリブラネスタ行きを認める。
こうして、ティエリスは晴れてリブラネスタへと辿り着いたのだが……。
「今なんて仰いました……?」
「はい。ですから、私の『婚約者』になってください!」
「……えっと、すみません。周りがうるさくてよく聞こえなかったのですが……婚約者とか仰いましたか?」
「はいっ! 貴方のような素敵な方でしたら、きっと両親も納得いたしますわ!」
「いやいやいや! いきなりな話過ぎるし、そもそも私は女だ!!」
「女! そんな事些細な問題ですわ! …………え?」
ティエリスはすぐに視線を落とす。服装も相まってわかりにくくあるが、確かにそこにはふくらみがあった。
「……OK!」
「いや、何がOKなんですか!?」
呆気にとられるクローリカを置き去りに、ティエリスは両親との約束を説明しだす。
彼女が森の外に出るにあたって両親と結んだ約束は、婿となる男性が見つかればすぐに戻ってくるというものだった。もちろん、過保護な両親は、彼女が森を出た瞬間に方々当たり婿候補を探し始めたのは言うまでもない。
そして、候補が見つかったからすぐに帰って来いと手紙が寄こされたのだという。
「森を出てまだ一月も経っていないのです! それにこんな素敵な街を出ていくなんて、私耐えられませんわ!」
「それが私と何の関係があるのですか! 何度も言いますが私は女だし、婚約する気もありません!」
「フリだけでいいのです! もちろん、報酬はお支払いします! どうか、私を助けると思ってお願いします!」
「いや、そもそも貴方とは今日初めて会った間柄です!」
「一日だけ! 一日でいいんです! どうか、どうかお願いします!」
そう言うとティエリスはクローリカの手を離し、両手足を地面についた。
「ちょ!? 顔をあげてください!!」
突然の土下座にクローリカは慌てて引き起こそうとするも、ここは天下のリブラネスタギルド。なんだなんだと野次馬が集まってきた。
「うぐっ……わかった、わかりましたから! その依頼受けるますから!」
「本当ですか!? では、明日お迎えに参りますね!」
クローリカが承諾した途端、ティエリスはばっと起き上がり深く頭を下げると、脱兎のごとくギルドを後にしてしまった。
「……え?」
残されたクローリカを、冒険者仲間達が生暖かく見つめていたのは言うまでもない……。
●
約束通り翌日にクローリカを迎えに来たティエリスは、早速ギルドに依頼を出す。もちろん、参加者にクローリカの名前を記してだ。
ギルド職員に訝しまれながらも承認を受けると、ティエリスはビッグオウムの手配から何から自ら行う勢いでどんどん話を進めていった。そして、その日のうちにリブラネスタを飛び立った二人は、大森林の入口へと辿り着く。
「ここからは徒歩で3日という所です」
「はぁ……」
「もぉ、もっとしゃきっとしてください! それでも私の婚約者ですか!」
ここまで来てまだ渋っているクローリカに、ティエリスは背を叩いて喝を入れる。
そして二人は森へと入り、3日間を共に過ごすと、ついに集落へと辿り着いた。
●
「……聞いてないですが?」
「え? 言いませんでしたか?」
クローリカは集落を見て思わずつぶやいた。
ティエリスの集落は予想していた10倍は巨大な大集落だったのだ。
「ともかく行きましょう! 両親も首を長くして待っていますわ!」
「ちょ! 話を聞けーー!!」
ティエリスは抵抗するクローリカをずるずると引きずって集落の中へと入っていった。
●
「初めまして。クロウと申します」
両親の刺すような視線に晒されながら名を名乗る。もちろん、男装時に使っている名だ。
「クロウ君か……見た所、エルフではないようだな」
父親に言われクローリカはこくりと頷くと帽子を取った。
「……ハーフビーストが娘の婚約者、だと? 馬鹿な、話にならん」
「お父様、それは偏見ですわ! 私は世界を見て知りました。種族に……命に貴賤など無いという事を!」
ティエリスの父『ディールセン』が呆れたと頭を振り、クローリカの腕を抱いて離さないティエリスがそんな父に向け、声を荒げる。
「なんと言おうと、エルフでないものを我が氏族に受け入れることはできん」
「なぜですか! もう、そういう時代ではないのです! いつまで閉鎖的な社会を続ける気ですの!」
「伝統を閉鎖的とは何事だ! 例え娘でも許せることと許せない事があるぞ!」
「どうしてそんなに頭が固いのですか!」
「二人共、お客人の前ですよ」
言い争う父子の会話に、母『ルシュシュ』が割って入った。
「ごめんなさいね。普段は仲のいい親子なのですが、ちょっと我の強い所がありまして」
ルシュシュは呆気にとられるクローリカに困ったような笑顔を向ける。
「でも、申し訳ないですが、私もこの婚約には反対です。我が家は代々この集落の長を務めてきました。そして、この子も長となるべき立場です。その夫がエルフでないとなれば、集落の皆に示しがつきません」
その真剣な眼差しはある意味、父であるティールセンよりも鋭かった。
ルシュシュはクローリカをじっと見つめ、無言の圧をかけてくる。
「そんなにエルフが偉いのですか! エルフエルフエルフ! この集落にはエルフしかいない!」
「当り前だ! ここは始祖より続く由緒あるエルフの里だぞ! エルフ以外の種族などいらん!」
「それが時代遅れと申しているのですわ! 時代が違うのです!」
「ふん! 何と言おうとこの決まりは絶対だ! こんな獣混じりに可愛い娘をやれるか! どうせ、小汚いヒューマンどもに飼われ、尻尾でも振っているのだろう!」
「お父様!!??」
「小汚いヒューマン、ですって……?」
興奮した父親の言葉が、クローリカの中の触れてはいけない部分に触れた。
自分の事は何と言われてもいい。流されるままにこんな所までついてきた自分に責任があるのだ。ハーフビーストだからというのも、まぁ許そう。世界は偏見で満ちている。そんな事でいちいち腹を立てていては身が持たない。
しかし、主人の話は駄目だ。それだけは何があっても許させることではない。
クローリカは席から立ち上がると、見上げてくる両親を睥睨する。
「黙って聞いていれば、因習だ規則だと馬鹿馬鹿しい」
「な、なに!?」
「お嬢様も言っておいででしょう、そんな規則に何の価値があるのか。この混沌に飲まれようとしている世にあって、そんな小さな決まり事に固執し、執着し、縛られる生き方の何が素晴らしいのか。
血統の継承? それが一体何を生み出したというのです。ただ森の一角にしがみ付き何百、何千と歴史を重ねるだけのそれに何の意味があるのです。何も生み出さず、何も変わらない。ただ、決まりを守るだけの生き方に、意味など無い」
饒舌に言葉を紡ぐクローリカに、両親だけでなくティエリスまでも驚き目を瞠っている。
「それが300年を生きる長命種の知恵ですか? そんな無価値なもの早々に捨ててしまいなさい。でなければ、世界の変異に飲まれて消えるだけです」
そう言い放つとクローリカは、振り返ることなく退出してしまった。