お使いと駄賃と
キャラクターノベル制作 樫木間黒納品 2021年07月29日 13時06分12秒
ちゃり。
茶色い布袋の紐を緩め、中に入ってる物の確認をする。硬貨が数枚、色から見て数千Gといった所か。「これは」と、尋ねる前にジヴリールの両親は続けた。曰く、近場に訪れた隊商が市場を開いているからお使いに行って欲しいと。頼まれたのは日用品と食料品が幾つか。余ったお金で好きな物を買っていいとも言い渡された。
当然、ジヴリールは二つ返事で頷いた。
もしかしたら、隊商の話を聞いた時に行きたそうな顔をしたのを見透かされたかもしれない。何せ、噂では一大商業都市から持ち運んできた食材で屋台を出店するとか。砂漠付近の町で慎ましやかに過ごすジヴリールとはほとほと縁のない物品だ。食欲と好奇心で頬が緩むのも無理がない。
両親の計らいに感謝しつつ、彼女はうきうきとしたステップを踏みながら外に飛び出した。
●
「おじさん、魚焼いたやつください!」
肉と炭の焼ける匂いが香ばしい。屋台一つ分開いた距離からすら漂ってくる匂いに抗う事ができず、迷いなく硬貨を店主へ手渡した。
頼まれた物品は既に調達済みだ。衝動買いでお使い失敗……等という幼子のようなミスを犯すわけにはいかない。さっさとお使いを済ませて自由に使える予算を算出するのは賢い手と言えよう。荷物の重みも苦ではない。
さて、ご期待の焼き魚に有り付くジヴリール。大きさは彼女の顔ぐらいはあるだろうか、串に貫かれたそれは非常に大きい。ぱっくりと開いた腹部から白い身が垣間見える。表面に見える粒は塩だろうか。「素材の味を生かすなら少量の塩」……だとかなんとか耳にした事がある。慎重に、串の両端を持って腹からがぶりと口を付けようとする――が、漂う熱気で咄嗟に口を離した。
これは、焼き立てだ。即ち、かなり熱い。
熱い砂漠地帯出身だからといって熱さに強いわけではないのだ。特に舌は。
気を取り直して何度か息を吹きかけて冷まし、再度口を大きく開けてかぶりつく。
「ん――――!」
ほわり。柔らかく温かい魚身が口内に滑り込む。咀嚼しなくともそのまま飲み込めてしまいそうなぐらいだが、喉にかかる小骨が「ちゃんと噛んで食べないと」と叱咤するようにチクチクとやってきた。
「むぅ……魚ってこんなに食べづらいやつだったんだ」
内陸育ちのジヴリールは当然魚を食べた事がない。食卓に並ぶのは専ら陸生動物の肉だ。故に食べ慣れていないからこその不便はあるが、小骨程度ならそのまま噛み砕いてしまえそうではある。
それに気づいたら後は速い。大きな骨は避けてどんどん食べ進んでいく。しっかり咀嚼して身の味を堪能するジヴリール。
魚の肉はいつも食べている動物と違い、白く柔らかい。噛んだ時の歯ざわりは弾力がなくあっさり崩れて行く感じだ。味も全然違う。食感も合わさって味も淡白な感じだが、しっかり旨い。
ほくほくした白身の誘惑に、気づけば焼き魚は骨と非可食部位のみが串に残っている状態となった。
「美味しかった!」
満足そうな顔で笑うジヴリールへ、店主の男が笑いかける。
「お嬢ちゃん、こんなのはどうだ?」
「んー、何々?」
にゅっと屋台の向こうから姿を現したのは見た事がない生き物だった。うにょうにょと動く複数の細長い手足のようなもの。それが十本ぐらいだろうか。茶色と白の混ざる細長い円筒状の身体に、触手と三角の被り物のようなものがついてる奇妙な生き物――思わず悲鳴を上げてしまう。
「これはイカって言うんだよ」
明らかに見慣れない生物へ怯え切ってしまった彼女へ、微笑みながら店主は説明した。海辺のある地方では食べられているものだが、この辺りでは見覚えがないものだろうと。
焼いて味付けすると美味しい……と聞くが、ジヴリールは半信半疑だ。それに対し「美味しかったら払えばいいから」と、店主はイカの調理を始める。脚部を円筒状の部分から切り離す工程にギョッとしたが、一度焼き始めたら香ばしい匂いが漂い出す。店主がイカとやらに塗っている調味料の効果か。
既に焼き魚を食べた後だというのに、腹の虫が再び鳴り出した。
――暫くして、こんがりと焼き色のついたイカを渡される。先程見た時より身がふっくらしているだろうか。訝しげに、串に刺さったそれをひっくり返したり、まじまじと眺めたり、匂ってみたり……そして、意を決して噛り付いた。
先ず訪れたのは歯応え。魚の柔らかさとも違う。いつも食べる肉の弾力を更に上げたような……いや、肉と比べるのもまた違うと言える。噛み切るには力がいるが、身から染み出る旨味に抗えない。この噛み心地が癖になる。
「……意外と、いける」
目を上げると、にんまり笑顔の店主と目が合う。観念したようにジヴリールは頷き、
「おいくら?」
「焼き魚と同じお値段だ」
「お安いね」
チャリン――再び聞き慣れた硬貨の音。
食べ慣れないイカの丸焼きを片手に、次は甘い物などと期待を膨らますのだった。
茶色い布袋の紐を緩め、中に入ってる物の確認をする。硬貨が数枚、色から見て数千Gといった所か。「これは」と、尋ねる前にジヴリールの両親は続けた。曰く、近場に訪れた隊商が市場を開いているからお使いに行って欲しいと。頼まれたのは日用品と食料品が幾つか。余ったお金で好きな物を買っていいとも言い渡された。
当然、ジヴリールは二つ返事で頷いた。
もしかしたら、隊商の話を聞いた時に行きたそうな顔をしたのを見透かされたかもしれない。何せ、噂では一大商業都市から持ち運んできた食材で屋台を出店するとか。砂漠付近の町で慎ましやかに過ごすジヴリールとはほとほと縁のない物品だ。食欲と好奇心で頬が緩むのも無理がない。
両親の計らいに感謝しつつ、彼女はうきうきとしたステップを踏みながら外に飛び出した。
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「おじさん、魚焼いたやつください!」
肉と炭の焼ける匂いが香ばしい。屋台一つ分開いた距離からすら漂ってくる匂いに抗う事ができず、迷いなく硬貨を店主へ手渡した。
頼まれた物品は既に調達済みだ。衝動買いでお使い失敗……等という幼子のようなミスを犯すわけにはいかない。さっさとお使いを済ませて自由に使える予算を算出するのは賢い手と言えよう。荷物の重みも苦ではない。
さて、ご期待の焼き魚に有り付くジヴリール。大きさは彼女の顔ぐらいはあるだろうか、串に貫かれたそれは非常に大きい。ぱっくりと開いた腹部から白い身が垣間見える。表面に見える粒は塩だろうか。「素材の味を生かすなら少量の塩」……だとかなんとか耳にした事がある。慎重に、串の両端を持って腹からがぶりと口を付けようとする――が、漂う熱気で咄嗟に口を離した。
これは、焼き立てだ。即ち、かなり熱い。
熱い砂漠地帯出身だからといって熱さに強いわけではないのだ。特に舌は。
気を取り直して何度か息を吹きかけて冷まし、再度口を大きく開けてかぶりつく。
「ん――――!」
ほわり。柔らかく温かい魚身が口内に滑り込む。咀嚼しなくともそのまま飲み込めてしまいそうなぐらいだが、喉にかかる小骨が「ちゃんと噛んで食べないと」と叱咤するようにチクチクとやってきた。
「むぅ……魚ってこんなに食べづらいやつだったんだ」
内陸育ちのジヴリールは当然魚を食べた事がない。食卓に並ぶのは専ら陸生動物の肉だ。故に食べ慣れていないからこその不便はあるが、小骨程度ならそのまま噛み砕いてしまえそうではある。
それに気づいたら後は速い。大きな骨は避けてどんどん食べ進んでいく。しっかり咀嚼して身の味を堪能するジヴリール。
魚の肉はいつも食べている動物と違い、白く柔らかい。噛んだ時の歯ざわりは弾力がなくあっさり崩れて行く感じだ。味も全然違う。食感も合わさって味も淡白な感じだが、しっかり旨い。
ほくほくした白身の誘惑に、気づけば焼き魚は骨と非可食部位のみが串に残っている状態となった。
「美味しかった!」
満足そうな顔で笑うジヴリールへ、店主の男が笑いかける。
「お嬢ちゃん、こんなのはどうだ?」
「んー、何々?」
にゅっと屋台の向こうから姿を現したのは見た事がない生き物だった。うにょうにょと動く複数の細長い手足のようなもの。それが十本ぐらいだろうか。茶色と白の混ざる細長い円筒状の身体に、触手と三角の被り物のようなものがついてる奇妙な生き物――思わず悲鳴を上げてしまう。
「これはイカって言うんだよ」
明らかに見慣れない生物へ怯え切ってしまった彼女へ、微笑みながら店主は説明した。海辺のある地方では食べられているものだが、この辺りでは見覚えがないものだろうと。
焼いて味付けすると美味しい……と聞くが、ジヴリールは半信半疑だ。それに対し「美味しかったら払えばいいから」と、店主はイカの調理を始める。脚部を円筒状の部分から切り離す工程にギョッとしたが、一度焼き始めたら香ばしい匂いが漂い出す。店主がイカとやらに塗っている調味料の効果か。
既に焼き魚を食べた後だというのに、腹の虫が再び鳴り出した。
――暫くして、こんがりと焼き色のついたイカを渡される。先程見た時より身がふっくらしているだろうか。訝しげに、串に刺さったそれをひっくり返したり、まじまじと眺めたり、匂ってみたり……そして、意を決して噛り付いた。
先ず訪れたのは歯応え。魚の柔らかさとも違う。いつも食べる肉の弾力を更に上げたような……いや、肉と比べるのもまた違うと言える。噛み切るには力がいるが、身から染み出る旨味に抗えない。この噛み心地が癖になる。
「……意外と、いける」
目を上げると、にんまり笑顔の店主と目が合う。観念したようにジヴリールは頷き、
「おいくら?」
「焼き魚と同じお値段だ」
「お安いね」
チャリン――再び聞き慣れた硬貨の音。
食べ慣れないイカの丸焼きを片手に、次は甘い物などと期待を膨らますのだった。