導きのふたり

キャラクターノベル(グループ)制作 革酎納品 2021年07月06日 13時45分09秒

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 春の暖かさを通り越し、夜の風に暑気が絡み合い始めた季節。
 ロモズ旧村郊外の練兵場脇に建つ事務棟大食堂内は、20人を超える宴の席が設けられていた。
 彼等はロモズ歩兵団重兵3番隊。
 カルケリウス廃坑攻略戦を無事に遂行し、ヴィント奪還戦を間近に控えた、とある日の宵。
 重兵3番隊長コルネリウス・アーラと同副長イズレンディル・パラリムのふたりは相談を重ね、慰労と親睦を兼ねた食事会を催行しようと準備を進めてきた。
 そしてこの日、やっと宴席の段取りが整ったという訳である。
 燭台やランタンの光の中で、美味そうな料理が胃袋を強烈に刺激する匂いを放っている。
 卓上にはそれぞれ大量の肉料理やサラダ、或いは魚料理がずらりと並び、ガーリック風味のよく焼けたパンや喉越しの良さそうな麺類等も、所狭しとばかりに自己主張を強めていた。
「今夜は私達の驕りです! いっぱい食べて下さい!」
 コルネリウスが笑顔と共に華々しく宣言すると、隊員達からはやんやの喝采が湧き起こった。
「今日は無礼講ですから! 皆さん、たくさんお話ししましょう!」
「では僭越ながら、乾杯の音頭は私が」
 エールがなみなみと注がれたジョッキを片手に、隣席のイズレンディルが穏やかに立ち上がる。
 この夜の彼は基本的には聞き役に回る腹積もりだったが、宴会作法に於いては乾杯の音頭を取るのはトップではなく、二番手が務めるというのが暗黙の了解だ。
 イズレンディルはジョッキを掲げ、穏やかで静かな、しかし明朗で透き通ったひと声を放った。

 コルネリウスとイズレンディルの前に陣取っているのは、ふたりの元帝国兵だ。一方は2メートル近い巨漢の偉丈夫、そしてもうひとりは優男風ながら引き締まった体躯の熟練兵。
 それぞれ10人ずつの隊員を率いる班長として、コルネリウスとイズレンディルを強力にサポートし、同時に3番隊の各兵卒達とは細やかなコミュニケーションを取り続けている。
 両名共に中年へと差し掛かろうという年齢で、物腰には落ち着いた大人の雰囲気が漂っていた。
「いつも助けて頂いて、本当にありがとうございます」
 コルネリウスの心からの礼に対し、班長達はとんでもないと慌ててかぶりを振った。彼等こそ、ふたりのエルフ指揮官に対して大いに感謝しているというのである。
 彼らは――否、班長達だけではない。重兵3番隊の全員は、歩兵団に入隊するまで進むべき道を見失い、途方に暮れていたのだという。
 だがコルネリウスとイズレンディルが、道標となる光を与えてくれた。戦に身を置く者として、これ程に有り難いことはない、と班長ふたりはしみじみと語った。

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 隊長に就任してからしばらくは、コルネリウスは不安の塊だった。
 イズレンディルが優秀な副官として常に支え続けてくれていたが、しかし場合によってはコルネリウスだけの意思と力で難しい局面を乗り切らなければならない場面も多々あった。
 そんな時に、重兵3番隊の面々は何ひとつ不平を漏らさず、いつでも爽やかに、そして力強く、コルネリウスの言葉に従ってくれていた。
 自分達が授恵者だから、実績が無くても面従しているのか、と思わないこともなかった。だが班長ふたりは、そんなことは一度も無かったと戸惑い気味にかぶりを振った。
 イズレンディルが見るところ、彼らの言葉に嘘は無い。真摯な眼差しには、偽りの色は欠片も認めることは出来なかった。
 では何が彼らの心に響いたのか――班長ふたりは、コルネリウスの必死さと、イズレンディルの常に頼りになる冷静さと聡明さを受けて、早い段階から信頼するに足ると判断していたのだという。
「何だか、こそばゆいですね」
 はにかんだ笑みを返すコルネリウス。すると巨漢の班長が、疑うんなら実際に聞いてみて下さいよと豪快に笑った。
 ならばということで、コルネリウスとイズレンディルはそれぞれのジョッキと取り皿を手にし、隊員達の間を順番に巡ることになった。
 隊員達は待ってましたとばかりに席を空け、ふたりのエルフ指揮官を迎え入れる。
「皆さんのお話を聞かせて下さい。もっと色々知って、皆さんと仲良くなりたいんです」
 コルネリウスの申し出に対し、隊員達は嬉しそうに頷き返した。

 重兵3番隊員の大半は農民、或いは職人の子息出身が多く、帝国崩壊前は文字通り、肉体労働に従事している者が多かった。勤勉で真面目で、そして朴訥な連中ばかりだ。
 それだけに帝国崩壊後から歩兵団編成までの間は、毎日が暗鬱たる日々だったという。
 だが重兵3番隊に入ったことで、再び生きる意味を見出だした、と彼らは異口同音ながら口を揃えた。
「成程、生きる意味、ですか」
 イズレンディルは思わず、唸った。長命のエルフには少しばかり、縁の無い発想だった。
 そしてそんな彼らの道標として、自分達は先頭に立っている。戦だけではなく、人生そのものを導く先達者として。
 考えようによっては非常に重い役目だ。しかし彼らは、コルネリウスにもイズレンディルにも責任を負わせるつもりは無い。ただ生きる意味を示してくれた。それだけで十分だ、というのである。

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 この夜、コルネリウスは心の底から明るく笑った。
 決してアルコールや場の雰囲気に因るものではなく、彼らと共に同じ時間を過ごすことが出来たのが、本当に嬉しかった。
 一方のイズレンディルは、重兵3番隊という組織に運命的なものを感じると同時に、改めて彼らに対して最大の敬意を表した。
 彼等は世を儚むこともなければ、恨むこともしない。そんなことに無駄な時間を費やすことは絶対にしない。自分達の意思で、生きると決めた。絶望の中に、道を見出だしていた。
 そして、そんな彼らと共に戦えることを誇りに感じた。全員が素晴らしい男達だと、胸を張っていえる。この分なら仮に将来、コルネリウスとイズレンディルが隊を去ることになったとしても、必ずや彼ら自身だけでやっていけるだろうとの確信を得た。
 コルネリウスとイズレンディルが元の席に戻ってきた時、班長ふたりは穏やかな笑みで迎え入れてくれた。
 どうです、皆良い奴ばかりでしょう、との問いかけに、コルネリウスはしみじみと頷き返した。
「お互いへの信頼、そして感謝……皆さん本当に前向きで、私も嬉しいです」
 そう思わせる境地へと導いたのは、コルネさんですよ――イズレンディルの穏やかな視線が、嬉しそうに頬を上気させるコルネリウスの笑みを優しく撫でた。
 やがて夜も更け、盛大な飲み食いに満足した隊員達はまったりムードに包まれ始めた。
 と、そこで巨漢の班長が号令をかけた。すると全員がまるで機械の様に整然とした動きで一斉に立ち上がり、コルネリウスとイズレンディルに対して居住まいを正す。その直立不動の姿勢は、鍛え抜かれた精兵と呼んでも差し支えない程に、立派だった。
「自分達は最後の最後まで、おふた方について参りますッ!」
「今宵は誠に、ありがとうございましたッ!」
 班長に続いて、全員が声を揃える。一糸乱れぬ帝国式の敬礼で、最大の謝意と敬意を示した。
 コルネリウスは危うく涙腺が緩みそうになったが、ここで感動に泣き崩れる様な女じゃないでしょ、と自らにいい聞かせる。
 イズレンディルと共に背筋を伸ばし、こちらも帝国式の返礼で皆に応じた。
「私達の方こそ、宜しくお願いします。貴方達を、信頼しています。心から」

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0