草原の狩猟と襲撃のクリーパー
キャラクターノベル制作 望月誠司納品 2021年07月15日 12時14分28秒
太陽は眩く皓く、青空で輝いている。
艶やかに光る草々が、風に吹かれ波のように揺れている。
鞍上の少女は、己がまるで緑色の大海原に浮かんでいるかのような感覚を覚えていた。
(今度も上手くやれるかしら?)
弓を片手に手綱を握る少女の年の頃は十四歳程度だろうか。ブラウンの長い髪が草原を渡る風に吹かれ揺れている。
乗馬用のタイトな白ズボンを穿いて鞍に跨り足には革ブーツを履き鐙の上に乗せていた。葦毛の馬の背から周囲へとエメラルド色の瞳を向け、エルフの特徴である長い耳の先端が音を逃すまいとピクピクと動いている。
夜天の末裔セリーヌである。
「お、来たよ!」
同じく乗馬服姿で銀髪を頭の後ろで結い上げている少女が、鹿毛馬の鞍上で彼方を指差した。フィーネだ。
彼女が指す方を見やれば丘の頂きより大型のウサギが駆け来ていた。背後の空には鷹が翼を広げ追い立てるように旋回している。
「いきますわよ!」
セリーヌの隣、やはり乗馬服姿で栗毛の馬に跨っている縦ロールの金髪娘が、短弓に矢を番えはっしと放った。
矢はへろへろっと放物線を描いて飛び、疾駆する大ウサギを掠め地に突き刺さる。
「あぁんすばしっこい!」
黄金ドリルお嬢様が鞍上で身を捩らせる。
友人のそんな声を聞きつつセリーヌは馬を大ウサギの進路上へと走らせ正面へと回り込んでいた。
鞍上で上半身を捻り、弓に矢を番え、向かってくる大ウサギ目がけ撃ち放つ。
錐のように旋転しながら真っ直ぐに飛んだ矢が、大ウサギの身へと吸い込まれるように迫り、白い毛の奥へと入って、鋭く突き立った。
短く悲鳴をあげ大ウサギが草原に転倒する。
「あたったのよ!」
「お見事」
「おぉ~、やりますわねセリーヌさん!」
フィーネが拍手しカーミラが感心したように賞賛の声をあげる。
「有難う。でもちょっと可哀想かも」
セリーヌは矢が刺さって倒れ伏している大ウサギを見つめ微かな罪悪感を覚えていると、
「美味しいお肉は殺生せねば手に入らないのですわ。神と生命の恵みに感謝しつついただきましょう」
カーミラが印を切って祈るようなポーズを取りつつきっぱりと言った。
「カーミラは割りきりが良いのよ」
「この世の摂理ですからね」
そんな会話をかわしている間にカーミラの使用人の一人が大ウサギへと駆け寄って拾い上げ、もう一人の使用人が腕を伸ばして鷹を止まらせる。鷹はよく訓練されているようだ。カーミラが鷹匠の使用人の名を呼んで大ウサギをここまで追い込んできた手腕を褒め、使用人が一礼した。
獲物を拾い上げた使用人はセリーヌ達の元へと駆けてきて、大ウサギを掲げた。
「結構大物だね」
「お肉が沢山とれそうですわ~!」
フィーネが言って、カーミラが頷くと使用人は大ウサギを側に置かれている荷馬車の荷台の上へと置く。
セリーヌが視線を向けると荷台には他にもこれまでに狩った獲物が載せられていた。
「今日は良いペースですね」
「そうだね、私達の組が一番かも」
本日は休日であったが、狩猟部の活動の一環として草原に狩りに来ていた。
その際、狩猟部のメンバーは何組かに別れたのだが、セリーヌはフィーネとカーミラと一緒の組になっていた。
「カーミラの家の鷹匠殿のおかげですね」
「確かに、次々に追い立てて来てくれるから助かるよ」
セリーヌもフィーネも使用人はいなかったので、専ら獲物を追い立てるのはカーミラが連れて来た鷹匠がこなしている。
セリーヌ達がするのは追い立てられてきた獲物の退路を塞いで矢を射るだけだ。狩猟部の――というか貴族達の狩猟というのは、概ねそのようなものだった。庶民のそれとは違う。
「ほほほ、お褒めに預かり光栄ですわ。この者はドラクリヤ家でも指折りの猟師ですのよ」
黄金ドリラーなお嬢様が得意気な顔で踏ん反り返っている。鷹匠は無言で一礼した。
使用人の手柄は主人の手柄なのである。その責任もまた然りであるが。
貴族社会だなぁとセリーヌは思った。良くも悪くも封建貴族の社会というのはそういうもののようだと改めて実感する。
「それでは貴方、もう一つ頼みますわよ」
カーミラが言うと鷹匠は頷き、腕を振るって再び鷹を大空へと舞い上がらせた。
鷹が翼を広げて彼方へと羽ばたいてゆく。
「鷹殿、頑張ってなのよー」
「次は何が来るかなぁ」
「今度こそわたくしが仕留めて見せますわ!」
そんな会話をかわしつつ待つ事しばし、やがて丘上よりソレが姿を現した。
●
一言で形容するなら、それは光輝く闇を纏い、人の身の丈を優に超える体高を誇る巨大な猪だった。
闇は粘性を持つ液体のように流動しながら大猪の体表に纏わりつき身の大半を覆っている。そして時々、一部が蛇のように細長く宙へと噴出しては弧を描いてまた体表へと戻ってゆく。
瞳の部分はあらゆる光を吸い込む闇球の如くに巨大な漆黒だった。光が塗り潰されている。
「なっ……」
なにこれ?
セリーヌは突如出現した異形の大猪を見つめ呆然とした。カーミラや使用人達も驚きのあまり硬直してしまっている。
輝く闇を纏った大猪はセリーヌ達の方へと向かって来ているようだった。丘上から駆け降り迫り来る。
「――逃げるよっ!! 『這い寄るもの』だ!!」
最初に我に返ったのはフィーネだった。
銀髪少女は叫び、一同へと退避を促す。手綱が引かれ馬が棹立ちになり嘶いた。
――クリーパー、これが?!
「そ、そうですわね! ほら、貴方達! ぼさっとしてないで! いきますわよ!!」
硬直していた使用人達がカーミラの言葉を受け弾かれたように駆け出す。荷馬車に飛び乗ると鞭を入れ急ぎ発進させた。
ガラガラと音を立て荷馬車が動き出してゆく。
「セリーヌさんも!」
「う、うん!」
手綱を引いて馬首を巡らせると、両脚で馬の腹を挟み込むように蹴り入れ合図を送る。狩猟部から借りている葦毛の馬は良く調教されているらしく、こんな状況でも落ち着いて素直にセリーヌの指示通り駆け出してくれた。
視界が激しく揺れ、風に少女のブラウンの長い髪が靡いてゆく。
「逃げられるでしょうか……?」
並走してきたフィーネへと問いかける。
銀髪ポニーテールの少女は、結い上げた髪を鞍上で馬尾のように揺らしつつ、肩越しに背後を振り返っていた。
「……この速さなら逃げ切れると思うけど……げぇっ、加速した!!」
「ええっ?!」
激しく揺れる鞍上でなんとか身を捻り背後を振り返ると、輝く闇の巨大猪は確かに先程よりも速度を上げてきている様子だった。
徐々に距離が詰まってきてしまっている。
「……仕方ない」
フィーネが顔を顰めつつ背中から弓を取り出す。
「私が足止めするから! 皆はこのまま逃げて!!」
「フィーネ殿、大丈夫なんですか?!」
「多分だけれど、あれくらいならまぁなんとかなるよ! 私は最強じゃあないけどそれなりには強いんだぜ! 知らない?!」
銀髪赤眼の少女はセリーヌの方を見やるとふふんと不敵に笑ってみせた。
フィーネの凄さはセリーヌは良く知っている。彼女は己の事を最強では無いと言っているが、恐らく狩猟部内では最強だろう。
だから素直に頷いた。
「知っています」
「よし! なら先輩命令だ! 行け!!」
「はいっ! どうかご武運を!!」
セリーヌが言うとフィーネは片目を瞑って片手を上げサインし、騎馬を旋回させた。
銀髪少女を乗せた鹿毛馬が向きを百八十度変え、駆ける闇輝の巨大猪と真っ向から向き合う、両者の距離が瞬く間に詰まってゆく。
鞍上でフィーネが弓に矢を番え放つ。矢が鋭く飛び、巨大猪の顔面に突き立つ。大気を震わせるような奇声が轟いた。巨大猪が纏っている闇の一部が槍のように伸びる。
鋭い闇はフィーネを貫くかに見えたが、騎馬はそれを先読みしていたかのように一拍前にすばやく旋回した。闇の槍が虚しく空のみを貫いて抜けてゆく。
(凄い!)
フィーネが跨る鹿毛馬は弧を描くように駆け、鞍上の銀髪少女は次々に矢継ぎ早に矢を射かけてゆく。
暗輝の巨大猪は怖気を誘う奇怪な咆哮を轟かせた。伸びきった闇が再び勢い良く巨大猪の体表へと戻ってゆく。猪がフィーネを追うように旋回してゆく。
どうやら注意はセリーヌ達から完全に逸れたようだ。
(さすがフィーネ殿)
この調子ならセリーヌ達は無事に逃げ切れるだろう。後はフィーネの無事を祈るばかりだが、見る限りではフィーネなら多分、大丈夫そうだ。
そう、セリーヌが安堵を覚えた時だった。
「セ、セリーヌさん! 二時の方向!!」
カーミラの悲鳴じみた声が響いた。
●
稜線の陰より漆黒に輝く闇が溢れ出した。
人の身の丈を超える体高を誇る巨躯が姿を現す。
怖気を振るう奇怪な雄叫びを発し、四肢を高速で動かして巨大猪が迫り来る。
「あ、新手っ?! 左へ!!」
セリーヌは叫んで慌てて手綱を操った。
葦毛の馬が左へと旋回し、カーミラの栗毛馬と使用人達が駆けさせている荷馬車もまた左へと旋回する。
だが巨大猪もそれに併せて進路を調整しながら駆け距離を詰めて来ていた。
「ひぃぃぃぃぃぃっ!! この化け物超キモイですわぁああああああああ!!」
黄金ドリルのお嬢様が鞍上より振り返り迫り来る闇猪を涙目で睨み悲鳴をあげている。この十四歳の少女は学園内では恐れられていたが、異形の化け物への耐性は年相応にあまりないようだ。
――このままでは追いつかれる。
セリーヌは直感した。
翠瞳のエルフ少女は意を決し叫んだ。
「……カーミラ! 二人と一緒に逃げて! こいつは私が止める!」
「え、えええっ?! そ、そんな無茶ですわセリーヌさんっ?!」
カーミラは顔を真っ青にして叫んだ。
「無茶でもなんでもやらなけりゃ! このままじゃ皆やられてしまうのよ!」
誰かが止めなければならない、そう思った。
「あ、貴方はフィーネさんじゃないんですのよ?! 授恵者じゃないただの女の子で」
「問答無用! 行って!!」
並走するカーミラをセリーヌが睨みつけると黄金少女は息を呑んだ様子だった。
お嬢様は唇を噛みしめ涙目でエルフ少女を睨み返すと、
「が、頑固ですわねっ! 絶対生き残るんですわよっ?!」
「わかってるのよ!」
セリーヌは叫ぶと馬首を巡らせ乗騎を急旋回させる。
右手を腰の後ろに回して矢筒から矢を引き抜き、左手で弓身を握り、右手の矢を番え、引き絞る。
輝く闇を纏い爆走する巨大な猪を睨んだ。
心臓が激しく脈打っている。
風が頬を裂かんばかりに吹き付け、ブラウンの長い髪が風圧に暴れている。
少女は乱れそうになる呼吸を抑え、息を静かに吐き出した。
(やってやるわっ!)
精神を集中させ引き絞った矢を解き放つ。
激しく揺れる鞍上より射出された矢は、狙いがやや逸れたが、しかし的が大きい、輝闇巨猪の肩部へと勢い良く命中した。
セリーヌの脳裏によぎったのは先程のフィーネの姿だった。
(確かこの後――)
エルフ少女は銀髪娘の動きに習い、馬を急旋回させんと足で合図を入れた。
輝く闇を纏う巨大猪が身の毛もよだつ咆吼を轟かせる。
巨体を覆う闇の一部が膨れ上がり、セリーヌ目がけ爆発音と共に槍の如くに豪速で伸びた。
「――っ?!」
セリーヌが跨っている葦毛馬が旋回する。
ブラウンの長髪の少女は鞍上で咄嗟に曲芸師のように身を大きく傾けた。
輝く闇が少女の首元へと喰らいつくように伸びて来て、そして首端を掠めて後方へと抜けてゆく。
(あ、危ない)
セリーヌは翠瞳を見開いたまま息を吐く。
一拍でも回避動作が遅れていたら首を貫かれ死んでいただろう。
腹の底から冷たいものが這い上がってきて、身体が勝手に震え出す。
「くっ――」
セリーヌは恐怖に負けぬよう歯を喰いしばると態勢を立て直し、両足で馬の脇腹を叩いて加速させた。猪を中心に円弧を描くよう反時計回りに駆けさせる。
腰の後ろの矢筒から二本目の矢を引き抜き、短弓に番え、鞍上で上半身を左へと捻りつつ撃ち放つ。
矢は猪の頭部に命中し、しかし、突き刺さる事なく弾き飛ばされた。
(固いっ?!)
猪から闇の槍が伸びる。
エルフ少女はかわさんと馬の軌道を変化させる。
が、鋭く伸びた闇は、今度はセリーヌを狙わず、その乗騎を狙っていた。
輝く闇の槍が馬の皮膚を破って脇腹に深々と突き刺さる。
葦毛馬が悲痛な叫び声をあげ、身が傾ぎ、その足がガクリと折れる。セリーヌの身は宙へと浮き上がり、発石車より放たれる石弾の如く投げ出された。
――受け身はね、面倒だと思ってもしっかり練習しとかないと駄目だよ! 落馬して死ぬ人多いんだから!
部活動時のフィーネの声が脳裏にフラッシュバックする。地面が迫って来る。
セリーヌは手を傾斜させながら伸ばすと、手、腕、肩の順に接地した。考えての行動ではない。普段から素直に先輩より言われた通りに練習していたので、覚えたばかりの受け身の動作を反射的に取れていたのだ。
身を丸めた少女がごろごろと草原を転がってゆく。
「――うっ、く」
受け身は取れたが、しかし、凄まじい勢いで放り出されたので、身体のあちこちに痛みが走っていた。
葦毛馬の苦悶に満ちた絶叫が響き渡る。
痛みを堪えつつ身を起こし、視線を向けると、輝闇巨猪から何本もの闇の蛇が伸びて、次々に葦毛馬を貫いていた。
闇が脈打ち、血飛沫が噴出してゆく。
(た……食べてる?!)
闇の蛇はどうやら、葦毛馬の血肉を喰らっているようだった。みるみるうちに葦毛馬の身が削られて、草原が真っ赤に染まってゆく。
なんて事、とセリーヌは忠実だった馬の死に嘆きと怒りを覚えると同時に、
(に、逃げなきゃ!)
その思いに駆られ走り出した。
巨猪が食事の為に足を止めているなら、今が生き残る為の千載一遇のチャンスかもしれない。
セリーヌの短弓ではどうやってもこの巨猪を倒すのは無理だ。生きるには、逃げるしかない。
カーミラ達は安全圏まで逃げ延びてくれただろうか。フィーネはどうなっただろう。
そんな思いも脳裏をかすめる。
だが、セリーヌが駆け出すと同時、輝闇巨猪が反応した。食事を止めてセリーヌの方へと向き直る。
再びセリーヌ目がけて輝く闇の巨躯が走り出す。
――あ、私、死ぬのね。
ストンとその感慨が胸に落ちた。
逃れるべく駆けつつ、肩越しに後方を振り返って、迫り来る輝闇巨猪の姿を視界に捉えながら、セリーヌは己へと鋭く伸びて来る血肉を喰らう暗黒の蛇を、意外な程に冷静に見つめていた。
極大の光の波動が空間を貫き、セリーヌへと迫り来ていた暗黒蛇を吹き飛ばした。
「えっ?」
何が起こったか解らず、翠瞳を瞬かせていると、
「――離れてッ!!」
足が止まっていたセリーヌへとフィーネの声が響いた。
風を切る音と共に鹿毛の騎馬がセリーヌの横をすり抜けてゆく。
ポニーテールの少女は銀色の髪を靡かせつつ乗騎を旋回させ、放たれる輝く闇の蛇を次々にかわしながら矢継ぎ早に矢を撃ち込んでゆく。
セリーヌはその光景を見つめつつ後ろに下がった。
(凄い!)
フィーネと輝闇巨猪の死闘は短くも激しいものだった。
無数に放たれる闇の蛇をかわしきれず鹿毛馬が倒れたが、フィーネの側も巨猪の目へと矢を撃ち込んで潰していた。
鞍上から投げ出された銀髪娘は宙で身を捌いて足から草原に着地すると、即座に低く横っ飛びに跳んで続く闇の槍を回避する。
少女は一回転して起き上がると腰の矢筒から矢を引き抜きざま一射し、残った片目を射抜いた。
輝闇猪が身の毛もよだつような苦悶の叫びをあげ、四方八方へと暗黒の蛇を伸ばす。草原に真っ直ぐに立つフィーネは弓を月が満ちるように限界一杯まで引き絞り、太陽光のような眩い黄金の光を矢に収束させてゆく。
「――異界に還れ化け物!!」
叫びと共に一閃、極大の光が弓より射出され、輝闇巨猪の頭部を吹き飛ばした。
●
闇の巨大猪の骸が陽炎のように消えていったのを目撃するとフィーネはその場に片膝をついた。
「フィーネ殿!」
負傷していたのかとセリーヌが急ぎ駆け寄ってたずねると、
「いや、大丈夫、気が抜けただけ。それよりセリーヌの方は怪我は無い?」
「落馬した際に少し身体を打ちましたが、受け身はきちんと取れていたので、大事ありません」
「おぉ、なら良かった。よくやった、さすがは私の弟子だ」
ほっとしたようにフィーネは笑った。
その後、狩猟部の面々が駆けつけてきた。
彼等はセリーヌ達から話を聞くと、
「こんな王都にほど近い場所にそんな大物のクリーパーが出るとは」
と大層不思議がっていた。
カーミラ達と再会すると黄金少女はセリーヌの手を取り、
「セリーヌさんとフィーネさんは命の恩人ですわ! この御礼は必ずいたしますわ!」
と、涙ながらに言った。
その勢いにエルフ少女はたじたじとなりつつ、
「ちょっとちょっと、フィーネ殿はともかく、私は少し足止めしただけで大して役に立ってないのよ。大袈裟なのよ」
「そんな事ないですわ! セリーヌさんが足止めしてくださらなかったら追いつかれて私達はきっと殺されてましたもの!」
カーミラの言葉に使用人達がうんうんと頷いている。
「そ、そう……?」
「ええ!!」
金髪縦ロールのお嬢様が頷く。
(そっか、なら少しは役に立てたのかな……)
そう思いつつもセリーヌは、初めて経験した実戦で、己の力不足を痛感していたのだった。
艶やかに光る草々が、風に吹かれ波のように揺れている。
鞍上の少女は、己がまるで緑色の大海原に浮かんでいるかのような感覚を覚えていた。
(今度も上手くやれるかしら?)
弓を片手に手綱を握る少女の年の頃は十四歳程度だろうか。ブラウンの長い髪が草原を渡る風に吹かれ揺れている。
乗馬用のタイトな白ズボンを穿いて鞍に跨り足には革ブーツを履き鐙の上に乗せていた。葦毛の馬の背から周囲へとエメラルド色の瞳を向け、エルフの特徴である長い耳の先端が音を逃すまいとピクピクと動いている。
夜天の末裔セリーヌである。
「お、来たよ!」
同じく乗馬服姿で銀髪を頭の後ろで結い上げている少女が、鹿毛馬の鞍上で彼方を指差した。フィーネだ。
彼女が指す方を見やれば丘の頂きより大型のウサギが駆け来ていた。背後の空には鷹が翼を広げ追い立てるように旋回している。
「いきますわよ!」
セリーヌの隣、やはり乗馬服姿で栗毛の馬に跨っている縦ロールの金髪娘が、短弓に矢を番えはっしと放った。
矢はへろへろっと放物線を描いて飛び、疾駆する大ウサギを掠め地に突き刺さる。
「あぁんすばしっこい!」
黄金ドリルお嬢様が鞍上で身を捩らせる。
友人のそんな声を聞きつつセリーヌは馬を大ウサギの進路上へと走らせ正面へと回り込んでいた。
鞍上で上半身を捻り、弓に矢を番え、向かってくる大ウサギ目がけ撃ち放つ。
錐のように旋転しながら真っ直ぐに飛んだ矢が、大ウサギの身へと吸い込まれるように迫り、白い毛の奥へと入って、鋭く突き立った。
短く悲鳴をあげ大ウサギが草原に転倒する。
「あたったのよ!」
「お見事」
「おぉ~、やりますわねセリーヌさん!」
フィーネが拍手しカーミラが感心したように賞賛の声をあげる。
「有難う。でもちょっと可哀想かも」
セリーヌは矢が刺さって倒れ伏している大ウサギを見つめ微かな罪悪感を覚えていると、
「美味しいお肉は殺生せねば手に入らないのですわ。神と生命の恵みに感謝しつついただきましょう」
カーミラが印を切って祈るようなポーズを取りつつきっぱりと言った。
「カーミラは割りきりが良いのよ」
「この世の摂理ですからね」
そんな会話をかわしている間にカーミラの使用人の一人が大ウサギへと駆け寄って拾い上げ、もう一人の使用人が腕を伸ばして鷹を止まらせる。鷹はよく訓練されているようだ。カーミラが鷹匠の使用人の名を呼んで大ウサギをここまで追い込んできた手腕を褒め、使用人が一礼した。
獲物を拾い上げた使用人はセリーヌ達の元へと駆けてきて、大ウサギを掲げた。
「結構大物だね」
「お肉が沢山とれそうですわ~!」
フィーネが言って、カーミラが頷くと使用人は大ウサギを側に置かれている荷馬車の荷台の上へと置く。
セリーヌが視線を向けると荷台には他にもこれまでに狩った獲物が載せられていた。
「今日は良いペースですね」
「そうだね、私達の組が一番かも」
本日は休日であったが、狩猟部の活動の一環として草原に狩りに来ていた。
その際、狩猟部のメンバーは何組かに別れたのだが、セリーヌはフィーネとカーミラと一緒の組になっていた。
「カーミラの家の鷹匠殿のおかげですね」
「確かに、次々に追い立てて来てくれるから助かるよ」
セリーヌもフィーネも使用人はいなかったので、専ら獲物を追い立てるのはカーミラが連れて来た鷹匠がこなしている。
セリーヌ達がするのは追い立てられてきた獲物の退路を塞いで矢を射るだけだ。狩猟部の――というか貴族達の狩猟というのは、概ねそのようなものだった。庶民のそれとは違う。
「ほほほ、お褒めに預かり光栄ですわ。この者はドラクリヤ家でも指折りの猟師ですのよ」
黄金ドリラーなお嬢様が得意気な顔で踏ん反り返っている。鷹匠は無言で一礼した。
使用人の手柄は主人の手柄なのである。その責任もまた然りであるが。
貴族社会だなぁとセリーヌは思った。良くも悪くも封建貴族の社会というのはそういうもののようだと改めて実感する。
「それでは貴方、もう一つ頼みますわよ」
カーミラが言うと鷹匠は頷き、腕を振るって再び鷹を大空へと舞い上がらせた。
鷹が翼を広げて彼方へと羽ばたいてゆく。
「鷹殿、頑張ってなのよー」
「次は何が来るかなぁ」
「今度こそわたくしが仕留めて見せますわ!」
そんな会話をかわしつつ待つ事しばし、やがて丘上よりソレが姿を現した。
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一言で形容するなら、それは光輝く闇を纏い、人の身の丈を優に超える体高を誇る巨大な猪だった。
闇は粘性を持つ液体のように流動しながら大猪の体表に纏わりつき身の大半を覆っている。そして時々、一部が蛇のように細長く宙へと噴出しては弧を描いてまた体表へと戻ってゆく。
瞳の部分はあらゆる光を吸い込む闇球の如くに巨大な漆黒だった。光が塗り潰されている。
「なっ……」
なにこれ?
セリーヌは突如出現した異形の大猪を見つめ呆然とした。カーミラや使用人達も驚きのあまり硬直してしまっている。
輝く闇を纏った大猪はセリーヌ達の方へと向かって来ているようだった。丘上から駆け降り迫り来る。
「――逃げるよっ!! 『這い寄るもの』だ!!」
最初に我に返ったのはフィーネだった。
銀髪少女は叫び、一同へと退避を促す。手綱が引かれ馬が棹立ちになり嘶いた。
――クリーパー、これが?!
「そ、そうですわね! ほら、貴方達! ぼさっとしてないで! いきますわよ!!」
硬直していた使用人達がカーミラの言葉を受け弾かれたように駆け出す。荷馬車に飛び乗ると鞭を入れ急ぎ発進させた。
ガラガラと音を立て荷馬車が動き出してゆく。
「セリーヌさんも!」
「う、うん!」
手綱を引いて馬首を巡らせると、両脚で馬の腹を挟み込むように蹴り入れ合図を送る。狩猟部から借りている葦毛の馬は良く調教されているらしく、こんな状況でも落ち着いて素直にセリーヌの指示通り駆け出してくれた。
視界が激しく揺れ、風に少女のブラウンの長い髪が靡いてゆく。
「逃げられるでしょうか……?」
並走してきたフィーネへと問いかける。
銀髪ポニーテールの少女は、結い上げた髪を鞍上で馬尾のように揺らしつつ、肩越しに背後を振り返っていた。
「……この速さなら逃げ切れると思うけど……げぇっ、加速した!!」
「ええっ?!」
激しく揺れる鞍上でなんとか身を捻り背後を振り返ると、輝く闇の巨大猪は確かに先程よりも速度を上げてきている様子だった。
徐々に距離が詰まってきてしまっている。
「……仕方ない」
フィーネが顔を顰めつつ背中から弓を取り出す。
「私が足止めするから! 皆はこのまま逃げて!!」
「フィーネ殿、大丈夫なんですか?!」
「多分だけれど、あれくらいならまぁなんとかなるよ! 私は最強じゃあないけどそれなりには強いんだぜ! 知らない?!」
銀髪赤眼の少女はセリーヌの方を見やるとふふんと不敵に笑ってみせた。
フィーネの凄さはセリーヌは良く知っている。彼女は己の事を最強では無いと言っているが、恐らく狩猟部内では最強だろう。
だから素直に頷いた。
「知っています」
「よし! なら先輩命令だ! 行け!!」
「はいっ! どうかご武運を!!」
セリーヌが言うとフィーネは片目を瞑って片手を上げサインし、騎馬を旋回させた。
銀髪少女を乗せた鹿毛馬が向きを百八十度変え、駆ける闇輝の巨大猪と真っ向から向き合う、両者の距離が瞬く間に詰まってゆく。
鞍上でフィーネが弓に矢を番え放つ。矢が鋭く飛び、巨大猪の顔面に突き立つ。大気を震わせるような奇声が轟いた。巨大猪が纏っている闇の一部が槍のように伸びる。
鋭い闇はフィーネを貫くかに見えたが、騎馬はそれを先読みしていたかのように一拍前にすばやく旋回した。闇の槍が虚しく空のみを貫いて抜けてゆく。
(凄い!)
フィーネが跨る鹿毛馬は弧を描くように駆け、鞍上の銀髪少女は次々に矢継ぎ早に矢を射かけてゆく。
暗輝の巨大猪は怖気を誘う奇怪な咆哮を轟かせた。伸びきった闇が再び勢い良く巨大猪の体表へと戻ってゆく。猪がフィーネを追うように旋回してゆく。
どうやら注意はセリーヌ達から完全に逸れたようだ。
(さすがフィーネ殿)
この調子ならセリーヌ達は無事に逃げ切れるだろう。後はフィーネの無事を祈るばかりだが、見る限りではフィーネなら多分、大丈夫そうだ。
そう、セリーヌが安堵を覚えた時だった。
「セ、セリーヌさん! 二時の方向!!」
カーミラの悲鳴じみた声が響いた。
●
稜線の陰より漆黒に輝く闇が溢れ出した。
人の身の丈を超える体高を誇る巨躯が姿を現す。
怖気を振るう奇怪な雄叫びを発し、四肢を高速で動かして巨大猪が迫り来る。
「あ、新手っ?! 左へ!!」
セリーヌは叫んで慌てて手綱を操った。
葦毛の馬が左へと旋回し、カーミラの栗毛馬と使用人達が駆けさせている荷馬車もまた左へと旋回する。
だが巨大猪もそれに併せて進路を調整しながら駆け距離を詰めて来ていた。
「ひぃぃぃぃぃぃっ!! この化け物超キモイですわぁああああああああ!!」
黄金ドリルのお嬢様が鞍上より振り返り迫り来る闇猪を涙目で睨み悲鳴をあげている。この十四歳の少女は学園内では恐れられていたが、異形の化け物への耐性は年相応にあまりないようだ。
――このままでは追いつかれる。
セリーヌは直感した。
翠瞳のエルフ少女は意を決し叫んだ。
「……カーミラ! 二人と一緒に逃げて! こいつは私が止める!」
「え、えええっ?! そ、そんな無茶ですわセリーヌさんっ?!」
カーミラは顔を真っ青にして叫んだ。
「無茶でもなんでもやらなけりゃ! このままじゃ皆やられてしまうのよ!」
誰かが止めなければならない、そう思った。
「あ、貴方はフィーネさんじゃないんですのよ?! 授恵者じゃないただの女の子で」
「問答無用! 行って!!」
並走するカーミラをセリーヌが睨みつけると黄金少女は息を呑んだ様子だった。
お嬢様は唇を噛みしめ涙目でエルフ少女を睨み返すと、
「が、頑固ですわねっ! 絶対生き残るんですわよっ?!」
「わかってるのよ!」
セリーヌは叫ぶと馬首を巡らせ乗騎を急旋回させる。
右手を腰の後ろに回して矢筒から矢を引き抜き、左手で弓身を握り、右手の矢を番え、引き絞る。
輝く闇を纏い爆走する巨大な猪を睨んだ。
心臓が激しく脈打っている。
風が頬を裂かんばかりに吹き付け、ブラウンの長い髪が風圧に暴れている。
少女は乱れそうになる呼吸を抑え、息を静かに吐き出した。
(やってやるわっ!)
精神を集中させ引き絞った矢を解き放つ。
激しく揺れる鞍上より射出された矢は、狙いがやや逸れたが、しかし的が大きい、輝闇巨猪の肩部へと勢い良く命中した。
セリーヌの脳裏によぎったのは先程のフィーネの姿だった。
(確かこの後――)
エルフ少女は銀髪娘の動きに習い、馬を急旋回させんと足で合図を入れた。
輝く闇を纏う巨大猪が身の毛もよだつ咆吼を轟かせる。
巨体を覆う闇の一部が膨れ上がり、セリーヌ目がけ爆発音と共に槍の如くに豪速で伸びた。
「――っ?!」
セリーヌが跨っている葦毛馬が旋回する。
ブラウンの長髪の少女は鞍上で咄嗟に曲芸師のように身を大きく傾けた。
輝く闇が少女の首元へと喰らいつくように伸びて来て、そして首端を掠めて後方へと抜けてゆく。
(あ、危ない)
セリーヌは翠瞳を見開いたまま息を吐く。
一拍でも回避動作が遅れていたら首を貫かれ死んでいただろう。
腹の底から冷たいものが這い上がってきて、身体が勝手に震え出す。
「くっ――」
セリーヌは恐怖に負けぬよう歯を喰いしばると態勢を立て直し、両足で馬の脇腹を叩いて加速させた。猪を中心に円弧を描くよう反時計回りに駆けさせる。
腰の後ろの矢筒から二本目の矢を引き抜き、短弓に番え、鞍上で上半身を左へと捻りつつ撃ち放つ。
矢は猪の頭部に命中し、しかし、突き刺さる事なく弾き飛ばされた。
(固いっ?!)
猪から闇の槍が伸びる。
エルフ少女はかわさんと馬の軌道を変化させる。
が、鋭く伸びた闇は、今度はセリーヌを狙わず、その乗騎を狙っていた。
輝く闇の槍が馬の皮膚を破って脇腹に深々と突き刺さる。
葦毛馬が悲痛な叫び声をあげ、身が傾ぎ、その足がガクリと折れる。セリーヌの身は宙へと浮き上がり、発石車より放たれる石弾の如く投げ出された。
――受け身はね、面倒だと思ってもしっかり練習しとかないと駄目だよ! 落馬して死ぬ人多いんだから!
部活動時のフィーネの声が脳裏にフラッシュバックする。地面が迫って来る。
セリーヌは手を傾斜させながら伸ばすと、手、腕、肩の順に接地した。考えての行動ではない。普段から素直に先輩より言われた通りに練習していたので、覚えたばかりの受け身の動作を反射的に取れていたのだ。
身を丸めた少女がごろごろと草原を転がってゆく。
「――うっ、く」
受け身は取れたが、しかし、凄まじい勢いで放り出されたので、身体のあちこちに痛みが走っていた。
葦毛馬の苦悶に満ちた絶叫が響き渡る。
痛みを堪えつつ身を起こし、視線を向けると、輝闇巨猪から何本もの闇の蛇が伸びて、次々に葦毛馬を貫いていた。
闇が脈打ち、血飛沫が噴出してゆく。
(た……食べてる?!)
闇の蛇はどうやら、葦毛馬の血肉を喰らっているようだった。みるみるうちに葦毛馬の身が削られて、草原が真っ赤に染まってゆく。
なんて事、とセリーヌは忠実だった馬の死に嘆きと怒りを覚えると同時に、
(に、逃げなきゃ!)
その思いに駆られ走り出した。
巨猪が食事の為に足を止めているなら、今が生き残る為の千載一遇のチャンスかもしれない。
セリーヌの短弓ではどうやってもこの巨猪を倒すのは無理だ。生きるには、逃げるしかない。
カーミラ達は安全圏まで逃げ延びてくれただろうか。フィーネはどうなっただろう。
そんな思いも脳裏をかすめる。
だが、セリーヌが駆け出すと同時、輝闇巨猪が反応した。食事を止めてセリーヌの方へと向き直る。
再びセリーヌ目がけて輝く闇の巨躯が走り出す。
――あ、私、死ぬのね。
ストンとその感慨が胸に落ちた。
逃れるべく駆けつつ、肩越しに後方を振り返って、迫り来る輝闇巨猪の姿を視界に捉えながら、セリーヌは己へと鋭く伸びて来る血肉を喰らう暗黒の蛇を、意外な程に冷静に見つめていた。
極大の光の波動が空間を貫き、セリーヌへと迫り来ていた暗黒蛇を吹き飛ばした。
「えっ?」
何が起こったか解らず、翠瞳を瞬かせていると、
「――離れてッ!!」
足が止まっていたセリーヌへとフィーネの声が響いた。
風を切る音と共に鹿毛の騎馬がセリーヌの横をすり抜けてゆく。
ポニーテールの少女は銀色の髪を靡かせつつ乗騎を旋回させ、放たれる輝く闇の蛇を次々にかわしながら矢継ぎ早に矢を撃ち込んでゆく。
セリーヌはその光景を見つめつつ後ろに下がった。
(凄い!)
フィーネと輝闇巨猪の死闘は短くも激しいものだった。
無数に放たれる闇の蛇をかわしきれず鹿毛馬が倒れたが、フィーネの側も巨猪の目へと矢を撃ち込んで潰していた。
鞍上から投げ出された銀髪娘は宙で身を捌いて足から草原に着地すると、即座に低く横っ飛びに跳んで続く闇の槍を回避する。
少女は一回転して起き上がると腰の矢筒から矢を引き抜きざま一射し、残った片目を射抜いた。
輝闇猪が身の毛もよだつような苦悶の叫びをあげ、四方八方へと暗黒の蛇を伸ばす。草原に真っ直ぐに立つフィーネは弓を月が満ちるように限界一杯まで引き絞り、太陽光のような眩い黄金の光を矢に収束させてゆく。
「――異界に還れ化け物!!」
叫びと共に一閃、極大の光が弓より射出され、輝闇巨猪の頭部を吹き飛ばした。
●
闇の巨大猪の骸が陽炎のように消えていったのを目撃するとフィーネはその場に片膝をついた。
「フィーネ殿!」
負傷していたのかとセリーヌが急ぎ駆け寄ってたずねると、
「いや、大丈夫、気が抜けただけ。それよりセリーヌの方は怪我は無い?」
「落馬した際に少し身体を打ちましたが、受け身はきちんと取れていたので、大事ありません」
「おぉ、なら良かった。よくやった、さすがは私の弟子だ」
ほっとしたようにフィーネは笑った。
その後、狩猟部の面々が駆けつけてきた。
彼等はセリーヌ達から話を聞くと、
「こんな王都にほど近い場所にそんな大物のクリーパーが出るとは」
と大層不思議がっていた。
カーミラ達と再会すると黄金少女はセリーヌの手を取り、
「セリーヌさんとフィーネさんは命の恩人ですわ! この御礼は必ずいたしますわ!」
と、涙ながらに言った。
その勢いにエルフ少女はたじたじとなりつつ、
「ちょっとちょっと、フィーネ殿はともかく、私は少し足止めしただけで大して役に立ってないのよ。大袈裟なのよ」
「そんな事ないですわ! セリーヌさんが足止めしてくださらなかったら追いつかれて私達はきっと殺されてましたもの!」
カーミラの言葉に使用人達がうんうんと頷いている。
「そ、そう……?」
「ええ!!」
金髪縦ロールのお嬢様が頷く。
(そっか、なら少しは役に立てたのかな……)
そう思いつつもセリーヌは、初めて経験した実戦で、己の力不足を痛感していたのだった。