貴方の幼き花精より
キャラクターノベル制作 夏八木ヒロ納品 2021年07月25日 11時45分12秒
フェアロス・アーラ・アスプロス――親愛なる父へ
父さん、お元気ですか? 私は元気です。……なんて、ライラお姉ちゃんから近況は聞いているでしょうか。
弟達は元気ですか? エルフの私達とは時間の流れが違うから、きっと大きくなっていますね。次に会ったらお互いびっくりしてしまうかもしれません。
まずはじめに、謝らせてください。辛く当たって飛び出してしまった。それが気まずくて、恥ずかしくて、ずっと手紙を書くことから逃げていました。父さんは優しい人だから、そんなことは気にするなと笑って仰るかもしれません。けれど合わせる顔も無いまま、三年もの時が経ってしまって。多く心配もかけてしまったと思います。本当にごめんなさい。
でも私、家を出たことを後悔はしていません。三年間、本当にいろいろなことがありました。楽しいこと、悲しいこと、良い出会いも沢山。自分の足で歩くことは苦しいことも多いですけれど、日々新しい発見を噛み締めて旅を続けております。
家族のことを忘れたことは一度も無いです。昔も今も変わらず、父さんのことは尊敬しています。いえ、外の世界に出てもっともっと、父さんがすごい人だって知ることができたんです。
父さんは、あの日の私の問いかけを憶えているでしょうか?
思えば父さんだって同じように辛かったはずなのに、私は思うままに言葉をぶつけてしまいましたね。兄さんの死は、それくらいに不条理でした。今でも胸を裂くほどに悲しい。心の傷は時が癒やすといいますが、私達の長い未来の果てであっても、きっと忘れることは無いのでしょう。
けれど今のコルネリウスは、あの日に何もわからず飛び出した私のままではありません。
――ああ、父さん。あの別れの時、本当なら私は叱責されたっておかしくはなかったと思うのです。なのに父さんは優しくて穏やかでした。あの時にくれた『いつでも帰っておいで』という言葉が、辛い時にどれほど心を支えてくれたかわかりません。私にも帰る場所がちゃんとあって、待っていてくれる皆がいる。迷うことも沢山あるけれど、だから私は前に進むことができます。
父さんにも、ライラお姉ちゃんにも、弟妹達にも会いたいと思っています。三年間で見聞きしたいろいろな話をしたいし、家であった出来事も沢山聞きたいです。
けれど、やっぱり、私はまだ帰れません。
カリス兄さんの意志を継ぐ中で、私にも護るべきもの、成すべきことができました。そんな私を支えてくれる人がいて、頼ってくれる人もいます。
今はロスガリアも激動の時、離れることはできません。でも大丈夫、コルネリウスは一人では無いのです。頼れる仲間も多く得ましたので、そこは安心してください。
一人では手が届かなかった様々なことに、皆が届かせてくれました。その縁を大事に、私は私の力で返していきたいと願います。私の力を必要としてくれる皆のために、今はできることを精一杯やりたいです。……まだまだ力不足な部分もありますけれど!
もっともっと強くなってみせます。雪割草に誓って、必ず。
だから、もう少しだけ。しばらくかかっても、必ず生きて帰りますから。
実は、帰ったら真っ先に伝えたいこともあるんです。幼き花の精は大陸を渡る鳥に出会えたから、きっと父さんもライラお姉ちゃんも喜んでくれると思います。
その日は笑顔で会いに行きます。約束しますね。
それでは。どうか皆、健勝で。
愛しています。
――コルネリウスより、フェアロスへ捧ぐ
●
蜂蜜色の目が一層強さを増し、薄い便箋を凝視していた。何度か書き直した中でも一番良い出来映えだし、文字も間違えてはいないはず。それでも、友人や姉へ宛てる手紙よりずっと緊張してしまう。父さんのことだもの、きっと優しい顔でこれを読んでくれるとわかっているのに。
コルネリウス・アーラにとってこの三年間は本当に長く濃いものだった。花鳥園の経営に、フィルエス大森林出張所での交流促進活動。その傍らで、彼女は戦いに身を置く冒険者でもある。“ロモズ歩兵団重兵3番隊長”もまた、彼女の肩書きの一つだ。身辺報告をしようにも容易にはまとまらないほど、彼女の現在は充実していた。
(これはきっと、里帰りをした時には話が尽きませんね)
想像して、思わず眉を下げて笑ってしまった。あの頃のまま、どうか元気でいて欲しい。
コルネリウスの今は、家で過ごした全ての地続きにあった。迷いながら、少しずつでも前に進めているのは父と兄と、家族の皆のお陰でもある。
だからこそ――今は帰れないのだ。もう少し、もう少しだけ、胸を張れる自分になるまでは。
コルネリウスは長い睫を伏せて、暫し思考し。便箋を封筒へ入れると、温室で育てた花を押し花にした栞を一つ同封する。
これもまた前へと進む彼女の一歩。ひとひらの大切な想いを託し、コルネリウスは深く呼吸を吐く。
父さん、お元気ですか? 私は元気です。……なんて、ライラお姉ちゃんから近況は聞いているでしょうか。
弟達は元気ですか? エルフの私達とは時間の流れが違うから、きっと大きくなっていますね。次に会ったらお互いびっくりしてしまうかもしれません。
まずはじめに、謝らせてください。辛く当たって飛び出してしまった。それが気まずくて、恥ずかしくて、ずっと手紙を書くことから逃げていました。父さんは優しい人だから、そんなことは気にするなと笑って仰るかもしれません。けれど合わせる顔も無いまま、三年もの時が経ってしまって。多く心配もかけてしまったと思います。本当にごめんなさい。
でも私、家を出たことを後悔はしていません。三年間、本当にいろいろなことがありました。楽しいこと、悲しいこと、良い出会いも沢山。自分の足で歩くことは苦しいことも多いですけれど、日々新しい発見を噛み締めて旅を続けております。
家族のことを忘れたことは一度も無いです。昔も今も変わらず、父さんのことは尊敬しています。いえ、外の世界に出てもっともっと、父さんがすごい人だって知ることができたんです。
父さんは、あの日の私の問いかけを憶えているでしょうか?
思えば父さんだって同じように辛かったはずなのに、私は思うままに言葉をぶつけてしまいましたね。兄さんの死は、それくらいに不条理でした。今でも胸を裂くほどに悲しい。心の傷は時が癒やすといいますが、私達の長い未来の果てであっても、きっと忘れることは無いのでしょう。
けれど今のコルネリウスは、あの日に何もわからず飛び出した私のままではありません。
――ああ、父さん。あの別れの時、本当なら私は叱責されたっておかしくはなかったと思うのです。なのに父さんは優しくて穏やかでした。あの時にくれた『いつでも帰っておいで』という言葉が、辛い時にどれほど心を支えてくれたかわかりません。私にも帰る場所がちゃんとあって、待っていてくれる皆がいる。迷うことも沢山あるけれど、だから私は前に進むことができます。
父さんにも、ライラお姉ちゃんにも、弟妹達にも会いたいと思っています。三年間で見聞きしたいろいろな話をしたいし、家であった出来事も沢山聞きたいです。
けれど、やっぱり、私はまだ帰れません。
カリス兄さんの意志を継ぐ中で、私にも護るべきもの、成すべきことができました。そんな私を支えてくれる人がいて、頼ってくれる人もいます。
今はロスガリアも激動の時、離れることはできません。でも大丈夫、コルネリウスは一人では無いのです。頼れる仲間も多く得ましたので、そこは安心してください。
一人では手が届かなかった様々なことに、皆が届かせてくれました。その縁を大事に、私は私の力で返していきたいと願います。私の力を必要としてくれる皆のために、今はできることを精一杯やりたいです。……まだまだ力不足な部分もありますけれど!
もっともっと強くなってみせます。雪割草に誓って、必ず。
だから、もう少しだけ。しばらくかかっても、必ず生きて帰りますから。
実は、帰ったら真っ先に伝えたいこともあるんです。幼き花の精は大陸を渡る鳥に出会えたから、きっと父さんもライラお姉ちゃんも喜んでくれると思います。
その日は笑顔で会いに行きます。約束しますね。
それでは。どうか皆、健勝で。
愛しています。
――コルネリウスより、フェアロスへ捧ぐ
●
蜂蜜色の目が一層強さを増し、薄い便箋を凝視していた。何度か書き直した中でも一番良い出来映えだし、文字も間違えてはいないはず。それでも、友人や姉へ宛てる手紙よりずっと緊張してしまう。父さんのことだもの、きっと優しい顔でこれを読んでくれるとわかっているのに。
コルネリウス・アーラにとってこの三年間は本当に長く濃いものだった。花鳥園の経営に、フィルエス大森林出張所での交流促進活動。その傍らで、彼女は戦いに身を置く冒険者でもある。“ロモズ歩兵団重兵3番隊長”もまた、彼女の肩書きの一つだ。身辺報告をしようにも容易にはまとまらないほど、彼女の現在は充実していた。
(これはきっと、里帰りをした時には話が尽きませんね)
想像して、思わず眉を下げて笑ってしまった。あの頃のまま、どうか元気でいて欲しい。
コルネリウスの今は、家で過ごした全ての地続きにあった。迷いながら、少しずつでも前に進めているのは父と兄と、家族の皆のお陰でもある。
だからこそ――今は帰れないのだ。もう少し、もう少しだけ、胸を張れる自分になるまでは。
コルネリウスは長い睫を伏せて、暫し思考し。便箋を封筒へ入れると、温室で育てた花を押し花にした栞を一つ同封する。
これもまた前へと進む彼女の一歩。ひとひらの大切な想いを託し、コルネリウスは深く呼吸を吐く。