幸せの香りに包まれて
キャラクターノベル(グループ)制作 白葉うづき納品 2021年07月11日 11時20分54秒
「すー……すー……」
その部屋は光で満たされていた。
窓から陽光が差し込み、柔らかな暖かさが微睡みを運んでくる。のどかな空間は動物たちも居心地が良いようで、黒猫と白猫、そして――一人の少女も陽だまりの中で穏やかな一時を過ごしていた。
「すー……すー……」
先程からしていた空気が零れるような音は、少女が黒猫を吸っている音だった。陽光の中で寝転ぶ黒猫の、ふわふわの毛の中に顔を埋もれさせている。とても幸せそうだ。気の済むまで吸い、コルネリウス・アーラは満足そうに顔を緩ませながら息を吐く。
「まるちゃん、ありがとうございます。かきちゃんも吸わせてくれますか?」
黒猫――「まるこげ」の喉を柔らかく撫でた後、横で丸まる「かきがら」に話しかけながらにじり寄る。コルネリウスは陽光の中で優しく微笑むと、躊躇いなくそのお腹に顔を突っ込んだ。
「すー……」
何とも言えない香り。幸福感がコルネリウスを包み、ふにゃりと表情をとろけさせた。どうしてこんなにも落ち着くのだろう。多幸感に包まれながら白猫が身じろいだ拍子に、いつの間にか閉じていた瞳を緩慢に開く。
――優しい瞳とぱち、と目が合った。
「! イズさん!」
「はい、ここに居りますよ」
「……あの、いつからそこに……」
「ええと……数分前からでしょうか」
穏やかな笑みを湛えるイズレンディル・パラリムに、コルネリウスはぱっと体を起こして背筋を伸ばす。急な動きにかきがらが立ち上がり、気まぐれに部屋を歩き出した。
「お声掛けしてくださっても良かったんですよ?」
「コルネさんがあまりにお幸せそうでしたから。それに、とても可愛らしかったので」
「少し、恥ずかしいですね」
屈託のない言葉に、コルネリウスは頬を染め耳を動かす。緩んだ姿を見られたのも恥ずかしいが、心からの言葉だと分かるからこそ顔が熱くなった。
その姿もまた可愛らしい。微笑ましげに見つめながら布地の多い服をふわりとさせ、イズレンディルが傍に座る。どこででも猫たちと遊べるよう、床は柔らかなカーペットが敷かれていた。
「ふふ。かきがらさんの匂いはいかがでしたか?」
「……幸せの匂いがしました」
「それは素敵ですね。……あ、コルネさん」
「はい、……わ」
「猫の毛がついていました。まるこげさんとかきがらさんのものですね」
髪に付いていた白と黒をイズレンディルが丁寧に取っていく。コルネリウスは大人しくしながら、こんな僅かな触れ合いでも心が温まるのを感じていた。
コルネリウスは今日、イズレンディルのいるこの出張所をいつも通りに訪れていた。ゆっくりと出来る時間があれば一緒に過ごしたい。そう思って彼がいない間、この二匹が生活する部屋に来たのだ。
「今は何をされていたんですか?」
「イズさんがお忙しそうだったので、まるちゃんたちに……遊んで貰って……」
「そうなのですね! 私の方は落ち着いたので、ご一緒しても良いでしょうか?」
「もちろんです!」
イズレンディルがぱたぱたと揺らす猫じゃらしに、白と黒のふわふわが遊ぶよう追いかける。二匹へ呼びかけながら遊ぶ彼をコルネリウスは眺めていた。陽光に金糸を透かしながら猫たちを見つめ、心から楽しんでいる姿は綺麗で、微笑ましい。それと同時に、少女の心にふつふつと願いごとが沸いてくる。
気まぐれな遊びを一緒に楽しみながら、イズレンディルはふと自分を見つめる視線に気づいた。
「コルネさん?」
「あの……」
コルネリウスは意を決したように真剣な瞳を向けた。
「イズさんも、吸っていいでしょうか?」
「私をですか?」
申し出に目が瞬く。その真っ直ぐで綺麗な瞳に、コルネリウスは小さく狼狽える。
「ええと、断っても大丈夫ですよ。私の我儘ですし、あと、吸うというのは具体的に……」
どう説明すべきだろう。単純に言えば――恥ずかしさを捨てれば、匂いをかがせてほしい、になってしまうのだろうか。それは少し……大分恥ずかしい。悩んでいると、イズレンディルがふわりと笑った。
「ふふ、そういえば好きと仰ってましたね。ええ。もちろん喜んで」
「いいんですか?」
「はい。私も、ということは、先程まるこげさんにしていたように、で合っていますでしょうか」
「そ、そうです」
ほっと胸を撫で下ろしていると、イズレンディルがコルネリウスに向き合う。そのまま僅かに首を傾げた。
「コルネさん、私はどうしていればいいですか?」
「ええと、そのままでいてください。……腕を広げていただけると、嬉しいです」
「はい」
柔らかに広げられた腕の中に、コルネリウスはゆっくりと収まる。自分からも腕を広げて緩く背に回し、胸元に顔を埋めるようにして寄り添った。
温かい。耳をすませば彼の音が聞こえる。コルネリウスは長く息を吐くと、思いきり吸い込んだ。――この香りだ。自分が一番安心して、胸をときめかせる香り。息を吐いてもう一度吸い込む。もう一度、……もう一度。抱きしめていてもらうとより彼を近くに感じられる。嬉しくて、とても幸せで。体中が満たされていくような感覚だ。
イズレンディルも緩く背に腕を回しながら、ゆっくりと呼吸を繰り返す。表情は窺いしれないが、様子を見ると堪能してもらえているらしい。瞳を柔らかく細め、口元を緩めながら柔らかに抱きしめる。
「イズさんの匂いがします……森のような、良い香りです」
「コルネさんにとって落ち着くでしょうか」
「はい! それはもう」
「! ……ふふ。よかった」
勢いよく顔を上げたコルネリウスと見守るイズレンディル。その瞳が絡み、二人で微笑みあった。再び胸元に顔を埋める彼女の背を、穏やかに撫でる。
「コルネさんは鳥さん達と季節の花の匂いがします」
「そう、なんですか?」
「はい」
柔らかに髪を撫でると、さらさらとした赤銅色が美しく陽に透けていた。コルネリウスは口の中で言葉を反芻し、耳を揺らしながらさらに寄り添う。
「花鳥園の匂いでしょうか。いつの間にか私に移っていたんですね」
「とても素敵な香りですね。私も落ち着く気が致します」
「本当ですか? ……ふふ、それはとても嬉しくて、幸せです」
腕の中から見上げて笑いかけると、イズレンディルも同じように微笑んでいる。
静かで穏やかな時間が、二人の傍で流れていた。
「そろそろご飯の時間でしょうか」
「そうですね。コルネさん、この後はお時間ありますか?」
「いえ。イズさんと過ごせればな、と」
二人で立ち上がるとイズレンディルが声を掛ける。コルネリウスがそう返せば、嬉しそうな笑顔が浮かんだ。
「ふふ、私も同じです。お茶を頂いてから、散歩に出かけるのは如何でしょうか。この近くにもアジサイという花が咲いているのを見かけたので、コルネさんと見に行けたらと思っていたのです」
「それは素敵ですね! ぜひご一緒したいです。そうだ、今日のお茶にと思って花の紅茶を持ってきたんですよ」
「花の紅茶! それは頂くのが楽しみですね!」
猫たちのご飯を用意しながら、それからもお喋りは弾む。
「夏が近づいてきましたね。まるこげさんとかきがらさんは、暑さは平気なのでしょうか」
「猫ちゃんたちでそれぞれでしょうし、こまめに様子をみてあげた方が良いかもしれませんね」
何でもない会話も、お茶の時間も、二人でのお出掛けもすべてが楽しい。大切な相手との時間は、今日も暖かさで溢れていた。
その部屋は光で満たされていた。
窓から陽光が差し込み、柔らかな暖かさが微睡みを運んでくる。のどかな空間は動物たちも居心地が良いようで、黒猫と白猫、そして――一人の少女も陽だまりの中で穏やかな一時を過ごしていた。
「すー……すー……」
先程からしていた空気が零れるような音は、少女が黒猫を吸っている音だった。陽光の中で寝転ぶ黒猫の、ふわふわの毛の中に顔を埋もれさせている。とても幸せそうだ。気の済むまで吸い、コルネリウス・アーラは満足そうに顔を緩ませながら息を吐く。
「まるちゃん、ありがとうございます。かきちゃんも吸わせてくれますか?」
黒猫――「まるこげ」の喉を柔らかく撫でた後、横で丸まる「かきがら」に話しかけながらにじり寄る。コルネリウスは陽光の中で優しく微笑むと、躊躇いなくそのお腹に顔を突っ込んだ。
「すー……」
何とも言えない香り。幸福感がコルネリウスを包み、ふにゃりと表情をとろけさせた。どうしてこんなにも落ち着くのだろう。多幸感に包まれながら白猫が身じろいだ拍子に、いつの間にか閉じていた瞳を緩慢に開く。
――優しい瞳とぱち、と目が合った。
「! イズさん!」
「はい、ここに居りますよ」
「……あの、いつからそこに……」
「ええと……数分前からでしょうか」
穏やかな笑みを湛えるイズレンディル・パラリムに、コルネリウスはぱっと体を起こして背筋を伸ばす。急な動きにかきがらが立ち上がり、気まぐれに部屋を歩き出した。
「お声掛けしてくださっても良かったんですよ?」
「コルネさんがあまりにお幸せそうでしたから。それに、とても可愛らしかったので」
「少し、恥ずかしいですね」
屈託のない言葉に、コルネリウスは頬を染め耳を動かす。緩んだ姿を見られたのも恥ずかしいが、心からの言葉だと分かるからこそ顔が熱くなった。
その姿もまた可愛らしい。微笑ましげに見つめながら布地の多い服をふわりとさせ、イズレンディルが傍に座る。どこででも猫たちと遊べるよう、床は柔らかなカーペットが敷かれていた。
「ふふ。かきがらさんの匂いはいかがでしたか?」
「……幸せの匂いがしました」
「それは素敵ですね。……あ、コルネさん」
「はい、……わ」
「猫の毛がついていました。まるこげさんとかきがらさんのものですね」
髪に付いていた白と黒をイズレンディルが丁寧に取っていく。コルネリウスは大人しくしながら、こんな僅かな触れ合いでも心が温まるのを感じていた。
コルネリウスは今日、イズレンディルのいるこの出張所をいつも通りに訪れていた。ゆっくりと出来る時間があれば一緒に過ごしたい。そう思って彼がいない間、この二匹が生活する部屋に来たのだ。
「今は何をされていたんですか?」
「イズさんがお忙しそうだったので、まるちゃんたちに……遊んで貰って……」
「そうなのですね! 私の方は落ち着いたので、ご一緒しても良いでしょうか?」
「もちろんです!」
イズレンディルがぱたぱたと揺らす猫じゃらしに、白と黒のふわふわが遊ぶよう追いかける。二匹へ呼びかけながら遊ぶ彼をコルネリウスは眺めていた。陽光に金糸を透かしながら猫たちを見つめ、心から楽しんでいる姿は綺麗で、微笑ましい。それと同時に、少女の心にふつふつと願いごとが沸いてくる。
気まぐれな遊びを一緒に楽しみながら、イズレンディルはふと自分を見つめる視線に気づいた。
「コルネさん?」
「あの……」
コルネリウスは意を決したように真剣な瞳を向けた。
「イズさんも、吸っていいでしょうか?」
「私をですか?」
申し出に目が瞬く。その真っ直ぐで綺麗な瞳に、コルネリウスは小さく狼狽える。
「ええと、断っても大丈夫ですよ。私の我儘ですし、あと、吸うというのは具体的に……」
どう説明すべきだろう。単純に言えば――恥ずかしさを捨てれば、匂いをかがせてほしい、になってしまうのだろうか。それは少し……大分恥ずかしい。悩んでいると、イズレンディルがふわりと笑った。
「ふふ、そういえば好きと仰ってましたね。ええ。もちろん喜んで」
「いいんですか?」
「はい。私も、ということは、先程まるこげさんにしていたように、で合っていますでしょうか」
「そ、そうです」
ほっと胸を撫で下ろしていると、イズレンディルがコルネリウスに向き合う。そのまま僅かに首を傾げた。
「コルネさん、私はどうしていればいいですか?」
「ええと、そのままでいてください。……腕を広げていただけると、嬉しいです」
「はい」
柔らかに広げられた腕の中に、コルネリウスはゆっくりと収まる。自分からも腕を広げて緩く背に回し、胸元に顔を埋めるようにして寄り添った。
温かい。耳をすませば彼の音が聞こえる。コルネリウスは長く息を吐くと、思いきり吸い込んだ。――この香りだ。自分が一番安心して、胸をときめかせる香り。息を吐いてもう一度吸い込む。もう一度、……もう一度。抱きしめていてもらうとより彼を近くに感じられる。嬉しくて、とても幸せで。体中が満たされていくような感覚だ。
イズレンディルも緩く背に腕を回しながら、ゆっくりと呼吸を繰り返す。表情は窺いしれないが、様子を見ると堪能してもらえているらしい。瞳を柔らかく細め、口元を緩めながら柔らかに抱きしめる。
「イズさんの匂いがします……森のような、良い香りです」
「コルネさんにとって落ち着くでしょうか」
「はい! それはもう」
「! ……ふふ。よかった」
勢いよく顔を上げたコルネリウスと見守るイズレンディル。その瞳が絡み、二人で微笑みあった。再び胸元に顔を埋める彼女の背を、穏やかに撫でる。
「コルネさんは鳥さん達と季節の花の匂いがします」
「そう、なんですか?」
「はい」
柔らかに髪を撫でると、さらさらとした赤銅色が美しく陽に透けていた。コルネリウスは口の中で言葉を反芻し、耳を揺らしながらさらに寄り添う。
「花鳥園の匂いでしょうか。いつの間にか私に移っていたんですね」
「とても素敵な香りですね。私も落ち着く気が致します」
「本当ですか? ……ふふ、それはとても嬉しくて、幸せです」
腕の中から見上げて笑いかけると、イズレンディルも同じように微笑んでいる。
静かで穏やかな時間が、二人の傍で流れていた。
「そろそろご飯の時間でしょうか」
「そうですね。コルネさん、この後はお時間ありますか?」
「いえ。イズさんと過ごせればな、と」
二人で立ち上がるとイズレンディルが声を掛ける。コルネリウスがそう返せば、嬉しそうな笑顔が浮かんだ。
「ふふ、私も同じです。お茶を頂いてから、散歩に出かけるのは如何でしょうか。この近くにもアジサイという花が咲いているのを見かけたので、コルネさんと見に行けたらと思っていたのです」
「それは素敵ですね! ぜひご一緒したいです。そうだ、今日のお茶にと思って花の紅茶を持ってきたんですよ」
「花の紅茶! それは頂くのが楽しみですね!」
猫たちのご飯を用意しながら、それからもお喋りは弾む。
「夏が近づいてきましたね。まるこげさんとかきがらさんは、暑さは平気なのでしょうか」
「猫ちゃんたちでそれぞれでしょうし、こまめに様子をみてあげた方が良いかもしれませんね」
何でもない会話も、お茶の時間も、二人でのお出掛けもすべてが楽しい。大切な相手との時間は、今日も暖かさで溢れていた。