【花想】peace for my dear
キャラクターノベル制作 炙りとろ左門納品 2021年06月19日 13時53分33秒
頁を繰る。さまざまな花の彩色スケッチと、その花についての解説が読者の好奇心をくすぐるその本の題名は、『日々の色彩、誕生花』といった。花にはそれぞれ、花言葉なるものがあるのはよく聞く話だが——先日偶然「誕生花」という存在を知り、この本を手に取った。
その本では、一年日毎に異なる花が割り当てられている。本によって設定が異なることもあるが、おそらく地域ごとの文化の違いや、口さがない言い方をすれば商業戦略上の兼ね合いもあるのだろう。
ハーヴィの幼馴染みは、花を育てている。彼が仕える女神への捧げ物ということで、神殿の庭は一年中花が見られるように手入れがされているのだ。しかし一年を通しても、やはり春が一番美しいとハーヴィは思っている。
開け放された窓から吹き抜けてくる風は、まだ冷たいが、かすかに春の訪れを感じさせる柔らかな匂いをはらんでいる。季節は冬の終わり。ところどころで春の訪れを告げる花が蕾をもたげていた。
(そういや、そろそろ誕生日じゃなかったっけ)
孤児だという幼馴染みの正確な誕生日は、実際のところ分からないのだろう。たが、正確さなどはさほど問題ではない。一年に一度、生まれてきたことを祝われる、無事にまた一年を生きられたことを喜び、次の一年も息災であれと願う——そのことが、大切なのだ。
そう思うのは、ハーヴィ自身が明日も知れない身だったことも大きいかもしれない。今でこそ風邪程度で命を危ぶまれることこそなくなったが、抵抗力の低い子供のうちは、周囲にどれだけ心配をかけたか。
花の命もまた、短い。お見舞いにと届けられる花がそのうちに枯れてしまうのを、ハーヴィはどこか寂しく思っていた。いつか自分もあんなふうになるのではないか。そんな不安に押しつぶされそうになっていた矢先、幼馴染みが持ってきてくれたものを、今もよく覚えている。
(今年は……苗でも贈ってみようかな)
病気の相手に鉢植えを送るのはあまり好まれないとされる。だがハーヴィはその時、根を張れ、生きろ、と言われた気がしたのだ。言葉少なな彼は多くを語らないので、これはハーヴィの個人的な解釈なのだが。
頁を繰る。彼の誕生花は、ルピナス。ちょうど今の時期に苗木が出回るらしい。庭師を自負する彼ならきっと、うまく育てられるだろう。
ハーヴィは本を閉じて、出かける支度をした。リブラネスタの花屋を一軒ずつ巡る。春を前にいっそう華やかな装いとなっている軒先を眺め、店員に声かけながら回ること三軒目。ようやく苗木も取り扱っている店にたどり着いた。
花屋は季節の花を取り扱うのが基本だ。園芸店を兼ねているところでなければ、苗木を置くところは少ない。まだ青々とした若葉が並ぶその一角に立ち、店員から助言をもらいながら吟味する。
「この品種が一番色が豊富ですね。咲くまで色はわからないんですけど。お庭があるんですか?」
元気そうな苗を五つ選び、購入する。それを紙袋に詰めながら、店員はハーヴィに水を向けた。
「あ、プレゼントなんだ。彼は植物を育てるのが上手で……これは彼の誕生花」
なるほど、と店員は頷く。
「では、贈答用にラッピングしますか?」
「できる?」
「苗をラッピングするのは初めてですけど」
ふふ、と二人で笑い合う。色とりどりの美しい花を包むことが殆どである店員には、苗という選択肢は物珍しく映ったようだ。
「花言葉はご存知ですか?」
「想像力、いつも幸せ、貪欲、そして……」
——あなたは私の安らぎ。
目を伏せて、そう小さく呟いたハーヴィの表情を、店員は目を瞬かせて見つめる。
「恋人、」
「ではないかな」
顔を上げて微笑む。恋慕ではないが、大切だと思う気持ちは確かだ。
(花言葉、彼は知っているかな?)
荒っぽい彼に、花言葉という繊細で情緒溢れるイメージが重ならないというのはある。知っているなら、咲いた時の反応が楽しみだし、知らなくてもそれでいい。
ただ、この想いを咲かせて欲しいだけ。
それぞれポットに異なる色のリボンを巻かれた苗を抱えて帰路につく。彼は喜んでくれるだろうか。嬉しそうに笑ってくれるか、それとも、照れ隠しにぎゅっと眉を顰めるのか。いずれも、無愛想な彼が気を許した相手にだけ見せる表情だ。それでも、ありがとうと一言言った次の瞬間には、用土をどうするか、どこに植えるかなどで頭をいっぱいにするのだろう。
少し悔しい気もするが、それが、ハーヴィが大切にしている幼馴染みなのだ。
その本では、一年日毎に異なる花が割り当てられている。本によって設定が異なることもあるが、おそらく地域ごとの文化の違いや、口さがない言い方をすれば商業戦略上の兼ね合いもあるのだろう。
ハーヴィの幼馴染みは、花を育てている。彼が仕える女神への捧げ物ということで、神殿の庭は一年中花が見られるように手入れがされているのだ。しかし一年を通しても、やはり春が一番美しいとハーヴィは思っている。
開け放された窓から吹き抜けてくる風は、まだ冷たいが、かすかに春の訪れを感じさせる柔らかな匂いをはらんでいる。季節は冬の終わり。ところどころで春の訪れを告げる花が蕾をもたげていた。
(そういや、そろそろ誕生日じゃなかったっけ)
孤児だという幼馴染みの正確な誕生日は、実際のところ分からないのだろう。たが、正確さなどはさほど問題ではない。一年に一度、生まれてきたことを祝われる、無事にまた一年を生きられたことを喜び、次の一年も息災であれと願う——そのことが、大切なのだ。
そう思うのは、ハーヴィ自身が明日も知れない身だったことも大きいかもしれない。今でこそ風邪程度で命を危ぶまれることこそなくなったが、抵抗力の低い子供のうちは、周囲にどれだけ心配をかけたか。
花の命もまた、短い。お見舞いにと届けられる花がそのうちに枯れてしまうのを、ハーヴィはどこか寂しく思っていた。いつか自分もあんなふうになるのではないか。そんな不安に押しつぶされそうになっていた矢先、幼馴染みが持ってきてくれたものを、今もよく覚えている。
(今年は……苗でも贈ってみようかな)
病気の相手に鉢植えを送るのはあまり好まれないとされる。だがハーヴィはその時、根を張れ、生きろ、と言われた気がしたのだ。言葉少なな彼は多くを語らないので、これはハーヴィの個人的な解釈なのだが。
頁を繰る。彼の誕生花は、ルピナス。ちょうど今の時期に苗木が出回るらしい。庭師を自負する彼ならきっと、うまく育てられるだろう。
ハーヴィは本を閉じて、出かける支度をした。リブラネスタの花屋を一軒ずつ巡る。春を前にいっそう華やかな装いとなっている軒先を眺め、店員に声かけながら回ること三軒目。ようやく苗木も取り扱っている店にたどり着いた。
花屋は季節の花を取り扱うのが基本だ。園芸店を兼ねているところでなければ、苗木を置くところは少ない。まだ青々とした若葉が並ぶその一角に立ち、店員から助言をもらいながら吟味する。
「この品種が一番色が豊富ですね。咲くまで色はわからないんですけど。お庭があるんですか?」
元気そうな苗を五つ選び、購入する。それを紙袋に詰めながら、店員はハーヴィに水を向けた。
「あ、プレゼントなんだ。彼は植物を育てるのが上手で……これは彼の誕生花」
なるほど、と店員は頷く。
「では、贈答用にラッピングしますか?」
「できる?」
「苗をラッピングするのは初めてですけど」
ふふ、と二人で笑い合う。色とりどりの美しい花を包むことが殆どである店員には、苗という選択肢は物珍しく映ったようだ。
「花言葉はご存知ですか?」
「想像力、いつも幸せ、貪欲、そして……」
——あなたは私の安らぎ。
目を伏せて、そう小さく呟いたハーヴィの表情を、店員は目を瞬かせて見つめる。
「恋人、」
「ではないかな」
顔を上げて微笑む。恋慕ではないが、大切だと思う気持ちは確かだ。
(花言葉、彼は知っているかな?)
荒っぽい彼に、花言葉という繊細で情緒溢れるイメージが重ならないというのはある。知っているなら、咲いた時の反応が楽しみだし、知らなくてもそれでいい。
ただ、この想いを咲かせて欲しいだけ。
それぞれポットに異なる色のリボンを巻かれた苗を抱えて帰路につく。彼は喜んでくれるだろうか。嬉しそうに笑ってくれるか、それとも、照れ隠しにぎゅっと眉を顰めるのか。いずれも、無愛想な彼が気を許した相手にだけ見せる表情だ。それでも、ありがとうと一言言った次の瞬間には、用土をどうするか、どこに植えるかなどで頭をいっぱいにするのだろう。
少し悔しい気もするが、それが、ハーヴィが大切にしている幼馴染みなのだ。