夜明け
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2021年06月21日 14時16分34秒
くすぶっていた炎はようやく消え、辺りに焦げた匂いだけが残る。
消火に当たった村人達は鎮火を確認し、一斉に安堵すると共にとある事実を思い出し途方に暮れた。
「これでよかったのか……」
気落ちした様子で解散する村人達を見つめながら、クルススは呟く。
村人達が意気消沈する理由はよくわかっている。それはこの村が古くから心の依り代にしていた『象徴』が失われたからに他ならない。皆、途方に暮れているのだ。これからどうなるのか、そして、これからどうすればいいのかと。
「これからどうするつもりだ」
一人、村の光景を眺めながら佇むクルススに、建物の影から声がかけられた。声の主は陰に潜めながら様子を伺っていたスヴァン=ウォルフ=ユーウェンだった。
「まだ決めていません……」
「……決めていないのか。随分と無計画な依頼だったんだな」
言いにくそうに答えたクルススに、スヴァンは突き放す様に話す。
「この腐った因習を破壊する事が全ての始まり、そう考えています。今後の事はこれから考えます。村の皆の意見も聞かないといけない……」
「呑気な事だ」
「……」
建物向こうからの言葉に、クルススは口籠った。
「まぁいい。村の事は村の人間で考えればいい事だ。俺は後始末に戻る。あれがあっては色々とまずいだろうからな」
それだけを言い残し、建物向こうの気配が消えた。
「村の事は村の人間で……当然か」
スヴァンの気配が消えた事にどこか寂しさを覚えながら、クルススは再び村を見渡す。
昨夜の騒ぎで空き家をいくつかを燃やした。年々住民の数が減少し、今は百にも満たない。例え征竜の因習がなくなったからといって、村が活気を取り戻すわけではない。それはわかっている……。
「兄様!」
と、クルススが「これからどうすべきか」と悩んでいたら、村の奥から妹のクシェンが駆けてきた。
息を弾ませクルススの元まで来たクシェンは、生贄に捧げられそうになった後遺症などまるで感じさせない普段通りの様子で兄に問いかける。
「ねぇ兄様、気付いていた? あの人、たぶん雪豹よ」
「あの人……ああ、あの冒険者か。なぜそう思うんだ?」
「だって、あの尻尾。あれ、どう見ても雪豹の尻尾よ」
「……確かに、そう見えなくもないな。だけど、あの体毛の色は」
「うん、真っ黒よね。あんな色をした雪豹なんて聞いたことないわ」
クシェンはスヴァンが去っていった方向を眺めながら呟く。
「でも、色以外の特徴はわたし達そっくり。体のつくりも、顔も」
「……なにが言いたいんだ」
「うーん、別に何が言いたいとかじゃないんだけど……世の中不思議な事もあるなって思っただけ」
そう言うとクシェンはクルススへと振り返り、ニコっと笑みを浮かべた。
「それに結構イケメンじゃない?」
「君って子は……だけど、君の予測はもしかしたら間違いじゃないのかもしれない」
「うん?」
クルススの言葉の意図がわからずクシェンは首を捻る。
「あの男は……この村を、いや、あの家を自分の家だと言ったんだ」
「……は?」
思いもしない言葉に、クシェンはぽかんと口を開けた。あの家とクルススが視線を向けたのは、自分たちの家だったのだから。
「なに、どういう事? もしかして彼ってばこの村の出身者だって言うの?」
「それは……わからない。ただ、僕達に特徴が酷似しているのは……認める」
「……ふーん、兄様も認めるんだ。ちょっと面白いじゃない、少し試してみようかしら」
言って不敵な笑みを浮かべるクシェンに、クルススは不安を覚える。
「試す? 一体何を試すというんだ」
「ふふふ、いいこと思いついたの。ちょっと任せてもらっていい?」
「あれは冒険者だ。あまり深くかかわる……って、おい、クシェン!」
クシェンはクルススの返事も待たず、意気揚々とスヴァンの消えた方角へと跳ねていった。
●
「毛皮はいただくとして……肉は村に提供するか。ヒトを食っているから、少し臭うが……まぁ食えるだろう」
仲間達に手伝ってもらい皮の剥離は済んでいるが、巨大な肉塊はまだそのままだ。村から見えない位置に隠しているとはいえ、探そうと思えばすぐにでも探せる。出来るだけ早く解体しなくてはと、スヴァンは手際よくナイフを入れていく。
四肢を外し終え、いよいよ体へとナイフを立てた瞬間、スヴァンはぴたりと動きを止めた。
「……誰だ」
スヴァンは振り返らず、背後の気配に声をかける。
「うわ、わかるんだ。すっごいわね」
と、スヴァンの察知能力に驚きつつ、「やっほー」と手を振りながら現れたのはクシェンだった。
「お前は……妹の方か」
「ええ、クシェンって言うの。昨夜はありがとうね」
偽征竜の血に塗れたスヴァンを恐れもせず、クシェンは陽気な足取りで近づいてくる。
「何の用だ。俺は忙しい」
背後から迫る気配を無視し、スヴァンは再び解体の手を動かした。
「つれないのね。でも、嫌いじゃないわよ」
ぶっきら棒なスヴァンの態度も気にせず、クシェンは更に距離を詰める。
「ねぇ、あなた。この村の出身なんだって?」
「……何の話だ。俺はただの冒険者だ」
「ふーん」
そう言いつつ、クシェンはスヴァンの顔を左側から覗き込んだ。
「へぇ、空色だ」
クシェンはスヴァンの左の瞳をまじまじと見つめる。
それは淡い青色。空の色にも似たスヴァンの瞳に、クシェンはなぜか納得する様に首を上下させた。
「……用が済んだのなら帰れ。あの無計画な兄の事でも手伝ってやればいい」
「まだ済んでないので帰りませーん」
そう言いつつクシェンはスヴァンの背後に回る。
「やっぱり黒豹のじゃないわね」
と、クシェンはスヴァンの尻尾をまじまじと見つめると、すっと手を伸ばした。
「お、おいっ! 触るな!!」
しかし、スヴァンは毛を逆立たせ慌てて自分の尻尾を抱きかかえる。
「ご、ごめん。そんなに怒ると思わなかったから」
牙剥く勢いでこちらを睨み付けるスヴァンに、クシェンは驚いて両手を上げた。
「うっ、な、なによ。じろじろ見ないでくれる……? 触ろうとしたのは謝ったでしょ」
両手を上げてもう触りませんと示すクシェンを、今度はスヴァンがじっと見つめる。
「……ねぇ、もう依頼は終わったんでしょ?」
その沈黙に耐えきれなくなったのか、クシェンが上目遣いにスヴァンに問いかけた。
「これの処理がまだ済んでいない」
「じゃ、それ終わったら、空いてるの?」
「空いてる……? 何の話だ」
「わたしも手伝うわ! さぁ、ちゃちゃっとバラしちゃうわよ!」
「おい」
スヴァンの声に耳を貸さず、クシェンは腰からナイフを抜くと勝手に偽征竜の解体を手伝い始めた。
●
「……どうして彼がここに居るんだ、クシェン」
「えっ、色々してもらったしお招きするくらいは常識じゃないの? お肉もたくさんもらったわよ? 他の人は帰っちゃったみたいだけど」
「いや、間違ってはいない。間違ってはいないが……なぜ彼を」
席に着くスヴァンを前に、こそこそとクシェンに問いかけるクルスス。
偽征竜の解体をあらかた終えた二人だったが、すっかり夜も更けてしまった。そこでクシェンは「血も洗い流さないといけないでしょ」とスヴァンを家に誘ったのだ。
そしてスヴァンはというと、特に何も言わずクシェンに誘われるままに椅子についていた。
「もうすぐシチューができるから少し待っててね。お肉入り! ……と言いたい所だけで、お肉の正体があれだから、そんなに期待しないでね」
そう言うと、クシェンはクルススを残し台所へと姿を消す。
残ったのはスヴァンとクルスス。居間に流れる微妙な沈黙に堪り兼ねたのか、クルススが口を開いた。
「今回は助かりました。おかげで悪しき因習に終止符を打つことができました。改めてお礼を」
「……礼などいらない。俺は仕事をしたまでだ」
「ですが、貴方達のおかげで――」
「そんなものを聞くために、人一人殺めたわけじゃない」
自分と同じ空色の瞳でじっと見つめられ、クルススは言葉を失う。
そう、自分の望みをかなえてくれる為に、目の前の男はその手を血で染めたのだ。
答えが用意できない。返せる言葉がない。
クルススが視線を落としグッと奥歯を噛んでいると――。
「おまたせー!」
陽気な声が戻ってきた。
クシェンは手には大きな鍋を抱え、湧き出る湯気といい薫りを一緒に連れて来る。
「もっと臭くなるかと思ったんだけど、意外や意外、なかなか美味しくできたわ!」
自らの料理の腕をさらりと自慢しつつ、クシェンは慣れた手つきで皿にシチューをより分けていき、さぁどうぞと振舞った。
二人は期待に満ちたクシェンの瞳に押される様に匙を取り、シチューを口へと運ぶ。
「……悪くないな」
味音痴だと自覚しているが、この温かなシチューにはちゃんと『味』がした。
スヴァンは『味』を感じる自分に驚きつつも、匙を進める。
「ねぇ、ここってあなたの家だったんでしょ?」
そんな様子をじっと見ていたクシェンが、スヴァンに問いかけた。
「何の事だ」
「あれ? 兄様がそう言ってたんだけど」
と、予想と違った返答にクシェンはクルススを見る。
「あれはやはり嘘だったのですか?」
「……さぁな」
クルススの問いかけに視線を上げる事無く答えたスヴァンは、それ以上話す事無くシチューを食べ進めた。
二人はそんなスヴァンの様子をちらちらと見ながら、自らも食事を進める。
そして、鍋も空になった頃、スヴァンが懐からあるものを取り出した。
「礼だ」
「礼……? 開けていいの?」
それは小さな包みだった。
頷くスヴァンにクシェンはそれじゃと包みを開ける。
「うげっ!? 何なのよこれ! 鹿の糞じゃない!!」
中に入っていたのは小さな黒い球体。それはまさに、クシェンの言った物そのままだった。
クシェンはスヴァンに包みを投げ返す勢いで振り上げるが。
「それはチョコレートというんだ。毒はない。食べてみるといい」
消火に当たった村人達は鎮火を確認し、一斉に安堵すると共にとある事実を思い出し途方に暮れた。
「これでよかったのか……」
気落ちした様子で解散する村人達を見つめながら、クルススは呟く。
村人達が意気消沈する理由はよくわかっている。それはこの村が古くから心の依り代にしていた『象徴』が失われたからに他ならない。皆、途方に暮れているのだ。これからどうなるのか、そして、これからどうすればいいのかと。
「これからどうするつもりだ」
一人、村の光景を眺めながら佇むクルススに、建物の影から声がかけられた。声の主は陰に潜めながら様子を伺っていたスヴァン=ウォルフ=ユーウェンだった。
「まだ決めていません……」
「……決めていないのか。随分と無計画な依頼だったんだな」
言いにくそうに答えたクルススに、スヴァンは突き放す様に話す。
「この腐った因習を破壊する事が全ての始まり、そう考えています。今後の事はこれから考えます。村の皆の意見も聞かないといけない……」
「呑気な事だ」
「……」
建物向こうからの言葉に、クルススは口籠った。
「まぁいい。村の事は村の人間で考えればいい事だ。俺は後始末に戻る。あれがあっては色々とまずいだろうからな」
それだけを言い残し、建物向こうの気配が消えた。
「村の事は村の人間で……当然か」
スヴァンの気配が消えた事にどこか寂しさを覚えながら、クルススは再び村を見渡す。
昨夜の騒ぎで空き家をいくつかを燃やした。年々住民の数が減少し、今は百にも満たない。例え征竜の因習がなくなったからといって、村が活気を取り戻すわけではない。それはわかっている……。
「兄様!」
と、クルススが「これからどうすべきか」と悩んでいたら、村の奥から妹のクシェンが駆けてきた。
息を弾ませクルススの元まで来たクシェンは、生贄に捧げられそうになった後遺症などまるで感じさせない普段通りの様子で兄に問いかける。
「ねぇ兄様、気付いていた? あの人、たぶん雪豹よ」
「あの人……ああ、あの冒険者か。なぜそう思うんだ?」
「だって、あの尻尾。あれ、どう見ても雪豹の尻尾よ」
「……確かに、そう見えなくもないな。だけど、あの体毛の色は」
「うん、真っ黒よね。あんな色をした雪豹なんて聞いたことないわ」
クシェンはスヴァンが去っていった方向を眺めながら呟く。
「でも、色以外の特徴はわたし達そっくり。体のつくりも、顔も」
「……なにが言いたいんだ」
「うーん、別に何が言いたいとかじゃないんだけど……世の中不思議な事もあるなって思っただけ」
そう言うとクシェンはクルススへと振り返り、ニコっと笑みを浮かべた。
「それに結構イケメンじゃない?」
「君って子は……だけど、君の予測はもしかしたら間違いじゃないのかもしれない」
「うん?」
クルススの言葉の意図がわからずクシェンは首を捻る。
「あの男は……この村を、いや、あの家を自分の家だと言ったんだ」
「……は?」
思いもしない言葉に、クシェンはぽかんと口を開けた。あの家とクルススが視線を向けたのは、自分たちの家だったのだから。
「なに、どういう事? もしかして彼ってばこの村の出身者だって言うの?」
「それは……わからない。ただ、僕達に特徴が酷似しているのは……認める」
「……ふーん、兄様も認めるんだ。ちょっと面白いじゃない、少し試してみようかしら」
言って不敵な笑みを浮かべるクシェンに、クルススは不安を覚える。
「試す? 一体何を試すというんだ」
「ふふふ、いいこと思いついたの。ちょっと任せてもらっていい?」
「あれは冒険者だ。あまり深くかかわる……って、おい、クシェン!」
クシェンはクルススの返事も待たず、意気揚々とスヴァンの消えた方角へと跳ねていった。
●
「毛皮はいただくとして……肉は村に提供するか。ヒトを食っているから、少し臭うが……まぁ食えるだろう」
仲間達に手伝ってもらい皮の剥離は済んでいるが、巨大な肉塊はまだそのままだ。村から見えない位置に隠しているとはいえ、探そうと思えばすぐにでも探せる。出来るだけ早く解体しなくてはと、スヴァンは手際よくナイフを入れていく。
四肢を外し終え、いよいよ体へとナイフを立てた瞬間、スヴァンはぴたりと動きを止めた。
「……誰だ」
スヴァンは振り返らず、背後の気配に声をかける。
「うわ、わかるんだ。すっごいわね」
と、スヴァンの察知能力に驚きつつ、「やっほー」と手を振りながら現れたのはクシェンだった。
「お前は……妹の方か」
「ええ、クシェンって言うの。昨夜はありがとうね」
偽征竜の血に塗れたスヴァンを恐れもせず、クシェンは陽気な足取りで近づいてくる。
「何の用だ。俺は忙しい」
背後から迫る気配を無視し、スヴァンは再び解体の手を動かした。
「つれないのね。でも、嫌いじゃないわよ」
ぶっきら棒なスヴァンの態度も気にせず、クシェンは更に距離を詰める。
「ねぇ、あなた。この村の出身なんだって?」
「……何の話だ。俺はただの冒険者だ」
「ふーん」
そう言いつつ、クシェンはスヴァンの顔を左側から覗き込んだ。
「へぇ、空色だ」
クシェンはスヴァンの左の瞳をまじまじと見つめる。
それは淡い青色。空の色にも似たスヴァンの瞳に、クシェンはなぜか納得する様に首を上下させた。
「……用が済んだのなら帰れ。あの無計画な兄の事でも手伝ってやればいい」
「まだ済んでないので帰りませーん」
そう言いつつクシェンはスヴァンの背後に回る。
「やっぱり黒豹のじゃないわね」
と、クシェンはスヴァンの尻尾をまじまじと見つめると、すっと手を伸ばした。
「お、おいっ! 触るな!!」
しかし、スヴァンは毛を逆立たせ慌てて自分の尻尾を抱きかかえる。
「ご、ごめん。そんなに怒ると思わなかったから」
牙剥く勢いでこちらを睨み付けるスヴァンに、クシェンは驚いて両手を上げた。
「うっ、な、なによ。じろじろ見ないでくれる……? 触ろうとしたのは謝ったでしょ」
両手を上げてもう触りませんと示すクシェンを、今度はスヴァンがじっと見つめる。
「……ねぇ、もう依頼は終わったんでしょ?」
その沈黙に耐えきれなくなったのか、クシェンが上目遣いにスヴァンに問いかけた。
「これの処理がまだ済んでいない」
「じゃ、それ終わったら、空いてるの?」
「空いてる……? 何の話だ」
「わたしも手伝うわ! さぁ、ちゃちゃっとバラしちゃうわよ!」
「おい」
スヴァンの声に耳を貸さず、クシェンは腰からナイフを抜くと勝手に偽征竜の解体を手伝い始めた。
●
「……どうして彼がここに居るんだ、クシェン」
「えっ、色々してもらったしお招きするくらいは常識じゃないの? お肉もたくさんもらったわよ? 他の人は帰っちゃったみたいだけど」
「いや、間違ってはいない。間違ってはいないが……なぜ彼を」
席に着くスヴァンを前に、こそこそとクシェンに問いかけるクルスス。
偽征竜の解体をあらかた終えた二人だったが、すっかり夜も更けてしまった。そこでクシェンは「血も洗い流さないといけないでしょ」とスヴァンを家に誘ったのだ。
そしてスヴァンはというと、特に何も言わずクシェンに誘われるままに椅子についていた。
「もうすぐシチューができるから少し待っててね。お肉入り! ……と言いたい所だけで、お肉の正体があれだから、そんなに期待しないでね」
そう言うと、クシェンはクルススを残し台所へと姿を消す。
残ったのはスヴァンとクルスス。居間に流れる微妙な沈黙に堪り兼ねたのか、クルススが口を開いた。
「今回は助かりました。おかげで悪しき因習に終止符を打つことができました。改めてお礼を」
「……礼などいらない。俺は仕事をしたまでだ」
「ですが、貴方達のおかげで――」
「そんなものを聞くために、人一人殺めたわけじゃない」
自分と同じ空色の瞳でじっと見つめられ、クルススは言葉を失う。
そう、自分の望みをかなえてくれる為に、目の前の男はその手を血で染めたのだ。
答えが用意できない。返せる言葉がない。
クルススが視線を落としグッと奥歯を噛んでいると――。
「おまたせー!」
陽気な声が戻ってきた。
クシェンは手には大きな鍋を抱え、湧き出る湯気といい薫りを一緒に連れて来る。
「もっと臭くなるかと思ったんだけど、意外や意外、なかなか美味しくできたわ!」
自らの料理の腕をさらりと自慢しつつ、クシェンは慣れた手つきで皿にシチューをより分けていき、さぁどうぞと振舞った。
二人は期待に満ちたクシェンの瞳に押される様に匙を取り、シチューを口へと運ぶ。
「……悪くないな」
味音痴だと自覚しているが、この温かなシチューにはちゃんと『味』がした。
スヴァンは『味』を感じる自分に驚きつつも、匙を進める。
「ねぇ、ここってあなたの家だったんでしょ?」
そんな様子をじっと見ていたクシェンが、スヴァンに問いかけた。
「何の事だ」
「あれ? 兄様がそう言ってたんだけど」
と、予想と違った返答にクシェンはクルススを見る。
「あれはやはり嘘だったのですか?」
「……さぁな」
クルススの問いかけに視線を上げる事無く答えたスヴァンは、それ以上話す事無くシチューを食べ進めた。
二人はそんなスヴァンの様子をちらちらと見ながら、自らも食事を進める。
そして、鍋も空になった頃、スヴァンが懐からあるものを取り出した。
「礼だ」
「礼……? 開けていいの?」
それは小さな包みだった。
頷くスヴァンにクシェンはそれじゃと包みを開ける。
「うげっ!? 何なのよこれ! 鹿の糞じゃない!!」
中に入っていたのは小さな黒い球体。それはまさに、クシェンの言った物そのままだった。
クシェンはスヴァンに包みを投げ返す勢いで振り上げるが。
「それはチョコレートというんだ。毒はない。食べてみるといい」