俺の村、燃えましたの

キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2021年06月17日 13時26分10秒

 今日は一つ面白い話を語ってやろう。

 悲運、悲恋、悲劇……話は数あれど、どれとも違う実に面白い話だ。

 ああ、酒の肴に聞いていくといい。決して損はさせないぞ。

 それじゃ、話そうか。途方もない夢を追いかけた熱い研究者達の物語を――。


 昔、とある場所に『ゴブリナ美少女計画推進村』という、実にドストレートな名前を冠した村があった。ああ、その通りだ。読んで字のごとく『とてつもなく美少女なゴブリナを生み出そう』という理念の元、同志たちが集まり作り上げた村だ。
 そこでは日夜研究者たちが研鑽を積み、数々の素晴らしい実験が執り行われていた。ヒト種の生態研究から各種族の遺伝的特徴の解明、隔世遺伝の仕組みの研究など、おおよそ神がこのロスガリアの大地に生み出した種族という種族の全てを解明しようと、研究者たちは躍起になったものさ。

 え? ゴブリナはどうしたって?

 まぁ焦るな。盛り上がるのはこっからだ。
 中でも目玉は、やはり『ゴブリンの交配』。そして『ゴブリナの誕生』だ。神のいたずらか気まぐれか、亜人であったはずのゴブリンがヒト族として迎えられた事は、お前等も知っているだろう? そう、今では当たり前のようにいるその辺のゴブリンどもだ。
 あれも一昔前まではただの敵。人とは相容れぬ亜人だったんだ。信じられるか?
 まぁ、今でもヒトの血が入らぬゴブリンも大勢……というか、そちらの方が多いが、知性を得たゴブリンがヒトとして迎え入れられたのは、随分前の話だ。

 そして、そのゴブリンだ。ゴブリンの何がすごいか、お前等にはわかるか? うん? 興味がない? かぁー! 勿体ない! これ程に心躍る研究題材に興味がない! お前等人生半分以上損をしとる!

 ……っと、話がそれたな。すまんすまん。

 村に集った研究者たちはゴブリンの特異性に早くから気付いた。全ての種を受け入れる大器としての資質をな。
 そこに目をつけたとある研究者が声を上げ、賛同者が集った村、それが『ゴブリナ美少女化計画推進村』だ。

 なに? もうちょっと、気の利いた名前は無かったのかだって? 馬鹿もん! 名は体を表す! シンプル・イズ・ザ・ベスト! これ以上に相応しい名前があるか!

 ……おっと、すまんすまん、またしても興奮してしまったな。話を戻そう。

 そして集った者たちにより研究は進められた。先ほども言ったが、主となる研究目的は『ゴブリナの誕生』だ。自然交配の末にゴブリンとは思えぬような美少女を生み出そうという、実に画期的で遠大な計画だ。
 集まった研究者、そして、集められた『協力者』。皆が一丸となって目的に向かい、日々交配に勤しんだものだ。

 なに? ただの――――じゃないかって?

 はっは! 若いお前等にはそう感じるかもしれんが、これはあくまで研究、そして実験だ! そのようなやましい感情で……まぁ、0とは言わんが……行っていたのではない!

 ……はぁはぁ、あまり興奮させてくれるな。古傷がうずく。

 計画は10年、いや20年。なんのなんの、30年を超え、気の遠くなるような歳月をかけ交配は続けられていった。
 そしてついに、私……い、いや、研究者たちは生み出したのだ!
 究極にして完璧。完全にして無敵。最強最かわのゴブリナ少女をな!

 ……おい、もっと盛り上がれ。ここ、いいとこ!

 おほんっ! とにかくだ。生み出されたゴブリナの少女はそれはもう、美しかった。生まれ落ちた時より、透明感ともっちり感を併せ持つ類まれな白磁の肌を持ち、頭部に生えた毛髪は、輝く様な金髪で一本一本が極上の金糸のようだった。顔の造詣は、最早筆舌に尽くしがたいほどに美しい。ぷるんと弾力に富んだ唇は、朝露に濡れた様に瑞々しく輝き、翡翠色の大きな瞳を長い睫毛が華やかに彩る。小さくもツンと立った鼻は美形の証。額に生えた二本の小ぶりな角が慎ましやかさを表し、寒くなると冬毛に換毛するという特典付き! すらりとした顎のラインながら、モチモチの頬っぺたなんて、それはもう、たまらん……!

 ……あ、ああ、大丈夫だ。私はおちついている。

 そうして、村の皆の祝福の元生まれ落ちたゴブリナの少女は、村民からの多大な愛情を注がれ、すくすくと育っていった。金糸の髪は自然とクセがついて来たのか、まるで貴族の令嬢のような縦巻きロールへアーに変化し、少女の美しさをより一層引き立てた。

 そして……そしてだ! 赤子から少女へと成長したゴブリナは、なんと授恵者としての才にまで恵まれたのだ!!

 最初に気付いたのは、わた……おほんっ! 一人の研究者だった。まだ幼い少女の教育係(父親役)を拝命していたその男は、少女の知育に必要だろうと高価な本や紙、筆やペンなどを与え、その容姿に見合った知性を獲得させるべく心を鬼にして教育に当たっていた。
 しかし、ある時気まぐれに木剣やら木杖やらを渡してみたのだ。そうすればどうか。少女は木剣を振り回しては近所の野良猫を追いかけ、木杖をぶん投げては近所の野良犬を追っ払っていたのだ。
 実に奔放にして自由! そう思った男はいいぞもっとやれと、どんどんと与えるものをエスカレートさせていった。そして、ついにはその辺に転がっていた冒険者用のナイフや杖を与えてみたのだ。

 そうしたらどうだ! いきなり、わた……その男は火球の餌食となった!

 一体何が起こったかわからないって? そうだろう、わた……その男もわからなかったんだからな。
 結果、炎に焼かれたその男は、三日三晩生死の境を彷徨う羽目になったものの、仲間達の懸命の蘇生もあって一命をとりとめる。これがその時できた傷……え? 興味ない? それより少女だって? ……そうか、そうだな。うん……(ぐすん

 少女に聞けば、何気なく本に書いてあったことを実践したらしい。何気なしに実践できてしまう才能に、研究者たちは歓喜と畏怖の念を同時に抱いた。
 そして、翌日から少女の授恵者としての特訓(実験)が始まったのだ。
 まずは適性を見極めるための試験。とはいえ、既に火球を創造しうるのでキャスターで間違いないだろうと、研究者たちは様々な魔導書を与えた。少女は大人ですら難解なそれらの本をまるで絵本でも読むかのように次々と読破していき、自らの糧としていく。
 火球が火焔となり、業火に変わるのにそう時間はかからなかった。
 更には既存の魔法発動原理に異を唱え、後に自ら開発したエーテル制御理論『制魔』の原型まで編み出す始末。

 完璧であったモノが神の寵愛までも手にした。この世の全てを手に入れた完璧生命体。それが少女だった。

 研究者たちは歓喜に打ち震え涙した。ここに誕生したのだ、究極のゴブリナがと!

 だが、それで満足するほど、私……おほんっ! 研究者たちは寡欲ではなかった。日々成長していく少女を、更なる高みへと至らせるべく研究者たちは、少女を村の外へと出す決断を下した。
 外といっても周りは人気のない深い森。経験を積ませるにはいささか不十分かと思われたのだが、おあつらえ向きに近くには遺跡が存在した。
 既に宝物などは盗り尽くされ何の価値もない遺跡ではあったが、研究者たちにとって……いや、少女にとってそれはさほど重要ではなかった。授恵者としての訓練……そう、戦闘だ。その遺跡にはネズミほどの小さな魔獣が大量に巣食っていたのだ。
 研究者たちに見送られ、少女は一人遺跡へと入っていく。まだ、物心がつくかつかないかという幼い少女がだ。
 遺跡へと消えた少女の帰りを研究者たちは固唾を飲んで待った。昼が過ぎ、日が陰り、夜になり……そして、一夜が明けた。
 最初は遺跡の中から聞こえていた戦闘音も、一夜明けた朝にはまったく聞こえない。研究者たちの間に、まさか……と、不穏な空気が流れ始めた。まさにその時だった。

 自分の身長ほどもある巨大な鼠を引きずりながら、少女が遺跡から出てきたのだ!!

 研究者たちは歓喜した。中には涙を流して喜ぶ者もあったほどだ。それはそうだろう、何十年とかけた努力の結晶が、期待値以上の性能を示してそこに立っていたのだから、研究者としてこれ程まで喜ばしい事があるだろうか! いや、ない!
 少女は流石に眠たそうに欠伸を繰り返しつつも、大鼠の死骸をぽいっと研究者たちに投げて寄こした。そして、そのまま顔面から地面に倒れ込むと、それはもう可愛らしい寝息を立て眠ったのだ。

 その後も少女の教育(特訓)は続いた。遺跡やダンジョンを見つけては少女を放り込み、実戦と積ませていく。少女は研究者たちの想像をはるかに凌ぐハイペースで成長を続けていった。

 最早、完璧だ。

 誰もがそう思った。

 しかし、私(父親役)はまだ納得していなかったのだ。
 確かに容姿・能力・成長速度、どれも申し分のない。性格もいたって従順。こちらの意に背く事など一度としてない。他の研究者たちは何一つ不安要素、不満点のないこの少女を褒めたたえ、自らの研究成果に狂喜乱舞している。

 だが、本当にそうだろうか。

 私(父親役)はつぶらな瞳で見上げてくる少女を見て、考えた。深く深く考えた。
 完璧すぎる完全生命体。
 それが少女。しかし、果たして本当に完璧なのだろうかと。

 そして、疑問が浮かんでしまえばそれを解明しなくては収まらないのが研究者。
 私(父親役)は、必死で考えた。この完全完璧なゴブリナに足りないものはなんなのか。果たしてそんなものがあるのか。

 そして、ある時……私は閃い――――むっ!?

 すまない、いい所だが今日はここまでだ。急にお腹が痛くなってしまってね。それじゃ、アデュー!!

 呆然とする客を残し、親父は猛スピードで店から出ていった。
 一体何だったのかと、狐につままれたような顔をしていた客達の元に、別の人物が訪れる。

「つかぬことを伺いますわ。今、ここに変な親父の気配がしたのですけれど、何かご存知ありません?」

 と、ふらりと現れた一人の少女に酒場の客達は目を剥いた。

「どうかなさいまして?」

 小柄なゴブリナの少女。白磁の肌に金のロールヘア。それはまさに先ほどまで酒の肴に聞いていた、完全完璧なゴブリナの少女の姿だったのだから。
 客達は驚きつつも、先ほどまで聞いていた胡散臭い親父の話を少女に聞かせる。

「ふむふむ、なるほど……ですが、その話には続きがありますわ」

 と、現れた少女は空いていた席に腰を掛けると、マッハのスピードで給仕娘を呼び、光の速さで注文を終える。

「……あれは、そう。俺が14になったばかりの冬――」

 そして、注文の到着を待たずして先ほどの親父が言い損ねたであろう、続きを口にし始めた。

「秋も深まり、冬の足音も聞こえだした11月も終わり頃、そろそろ冬毛に変わろうかという時期にそれは起きましたの」

 少女は長い睫毛を揺らしながら伏目がちにゆっくりと話を進めていく。

「あの日、家事全般の訓練だと川へ洗濯に参りましたの。川の水はそれはもう冷たいお水でしたわ。小さなお手々を真っ赤にしつつ、村人全員分の洗濯を終えて村へと戻ろうとしたその時でした」

 そこまで話して、少女はふと視線を上げた。見れば、給仕の娘が注文の品を運んできた所だった。
 少女はぺこりと頭を下げると、注文の品を受け取り神速のナイフ捌きで胃にかき込んでいく。
 客達はそのあまりの速さにあんぐりと口を開けつつ見守った。

「――ふぅ、なかなかの美味でしたわ」

 瞬く間に料理を平らげ、上品に口元をナプキンで拭った少女は、はぅと満足げな溜息をつくと、再び大きな瞳を客達へ向ける。

「お待たせいたしましたわ。それで、どこまで話しましたかしら」

 かくりと首をかしげる少女に、客の一人が途切れていた話のあらましを語った。

「そうでしたわ。洗濯を終えて戻った時の事でしたわね」

 食後の酒精なしエールで唇を湿らせつつ、少女は口を開く。

「森を抜け、村へと辿り着いた俺は――――獄炎を目にしましたの」

 まるで道端でタンポポでも見つけた時と同じトーンで、驚くようなことを口にする。

「それはひどい猛火でしたわ。数は多くありませんでしたが、それなりにあった家屋が全て炎に包まれ、火柱は天を突きいていましたの。これは、洗濯物がよく乾くなと思わず考えてしまう程に」

 客達からごくりと唾をのむ音が聞こえる。

「そんな中、村の方から人影が歩いてきましたの。俺は生き残りかと思い近づいてみたのですが……」

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0