赤き竜人のブラックスミス

キャラクターノベル制作 おおくまねこ納品 2021年06月10日 13時12分13秒

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 竜人(リザードマン)サイラスは鍛冶師(ブラックスミス)である。だが、鍛冶屋として成功しているかと言われると、微妙だ。何しろ、店が基本空いていない。たまに空いているかと思えば、内容次第では断ることも平気でする。その為、一般の客からの評判は微妙であった。その結果、「滅多に店が開いていない赤き竜人の鍛冶屋」は知る人ぞ知る幻の名工として、マニアックな界隈で名が知られていき、いつしか高確率で妙な客が来るようになっていた。
 これは、鍛冶屋サイラスと、常連客の一人の戦いの物語である。

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 トントン。カンカン。小気味よい槌の音が響く。その日、サイラスは自分用の剣の鍔飾りを打っていた。暇な時、武器の装飾をいじるのは彼の趣味なのだ。今日は珍しく店を開けていたのだが、午前中は客が来ず暇だったので、こうやって遊んでいたのである。
「よし、これは我ながらお洒落になったな」
 鍔飾りを打ち終え、サイラスは汗を拭った。装飾をこないだ冒険者の方の仕事で倒した魔獣っぽい感じに変えてみたのだが、なかなかよく出来たと思う。
「さて、次は弓でも改造してみようかな……なんやかんやたまに使うし……」

 カランコロン。
 サイラスが他の武器の装飾もいじってみようかと棚をいじっていると、店の扉が開き、取り付けられていた鈴が鳴った。
 
「……相変わらず狭い店ですわね」
「お嬢様。店主に失礼でございますよ」
 店を訪れたのは、ドリルのような巨大な縦ロールを天に向かって生やした、いかにも貴族といった風体のお嬢様と、中年執事だった。

「なんだ、あんたか。らっしゃい」
 サイラスは頬杖を突き、やる気のない声で挨拶をした。彼女達はサイラスの店の常連客だ。見た目は金持ちそうな癖にめっちゃ値切ってくる上、注文内容もエキセントリックなので、サイラスにとっては疫病神のような存在であった。

「赤き竜人の鍛冶師(ブラックスミス)……久々に仕事を持ってきて差し上げましたわ」
「それはどうも。で、何の用?」
 サイラスは作りかけだった銀細工を手に取りながら、投げやりな返事をした。

「その前に少し、商品を見せて頂いても構いませんこと?」
「どーぞ」
 ドリル令嬢(注:サイラスが付けたあだ名。本名は忘れた)の問いかけをサイラスは了承する。すると、ドリル令嬢と執事は店内に展示されていた武器を手に取り、熱心に物色し始めた。態度は悪いが、二人はサイラスの熱狂的なファンなのだ。
「見なさい、アレキサンダー。このクレイモア、鍔にドラゴンの紋章が彫ってありますわ」
「ほう。これは見事な征竜の彫刻ですな。ちなみにお嬢様、これはクレイモアではなくグラディウスです。こんな小さな両手剣はございません」

 ひとしきり店内の商品を見た後、執事はサイラスへと切り出した。
「サイラス殿。腕にますます磨きがかかりましたな。貴方の腕を見込んで、お嬢様の剣を一振り作っていただきたい。少々希少な鉱物をふんだんに使用しますので、素材の調達からお願いすることになるやもしれませんが」
「ふーん。一応聞いてあげよう。どんな剣がお望み?」
 サイラスは執事の方に向き直った。依頼の内容自体は面白そうだったからだ。
 冒険者を兼業している鍛冶屋には時折こういう素材の調達込みの依頼が来ることがある。無論、手間賃も(色を付けて)経費として要求するので、制作価格は跳ね上がることになるが……。

「わたくしの予備の武器にふさわしい剣をお願いしますわ。こちらが完成イメージの図案。どのぐらいでできますの?」
(実用兼儀礼剣か。純度の高い鉄がたくさんいるな……仕入れるより自分で取ってきた方がてっとり早いか。儀礼用なら装飾も凝らないと。制作期間にはちょっと余裕を持たせて……)
 サイラスは少し悩み、こう答えた。
「……二か月あれば出来る。で、お代はちゃんと払えるの?」
「月々10Gの500回払いのローンでお願いいたしますわ」
 何故か自信満々にドリル令嬢は言った。
「いやいや。完済まで何年かかるんだよ……却下」

 サイラスは呆れた。この令嬢はいつもこうなのだ。貴族の癖にやたらと代金の支払いを渋る。資産自体はちゃんと持っているのだが、やたら財布の紐が硬いのだ。サイラスが同業者ネットワークで調査したところによると、彼女は親子二代に続く放漫な領地経営が祟り、莫大な借金を背負っているらしい。その癖、オーダーメイドの儀礼剣などの凝った商品を欲しがる。ちなみに彼女もそこそこの力量(レベル)の冒険者なのだが、一攫千金を夢見てこの仕事に就いたらしい。ケチではあるが、逆さに振ればちゃんと金が出てくるタイプなので、サイラスはこのエセ令嬢には容赦しないことにしている。

「では、ローン払いの保証として私の領地の一部の抵当権をお付けしましょう。万が一お支払いが滞った際はこの土地が貴方のものになりますわよ」
 ドリル令嬢は一枚の権利書を取り出した。ちゃんと王国の保証印も押してあるし、本物っぽい。
「土地。土地かー……それは悪くないかも…………待て。その土地、登記はどうなってる?」
「ぎくっ」
 サイラスはドリル令嬢が見せびらかしていた無記名の権利書をむしり取ると、穴が空くほど内容を精査した。書類自体は本物だが、よくよく確認すると、権利書に書かれた土地には、既に二重三重に抵当が入っており、優先権下位のサイラスに権利が回ってくる見込みはまるでなかった。

「危ない危ない。また騙されるところだったぜ。おれに注文がしたいなら現金(キャッシュ)持ってこい!」
 サイラスは権利書を放り投げ、しっしっと追い払うような仕草をした。

 実は、サイラスが商売人として鍛えられた原因の一つは、コイツのせいだったりする。店を構えた頃は世間知らずでピュアなリザードマンだったサイラスだが、常連客の一部が詐欺師の如く、時には政治の話まで持ち出してあの手この手で代金を踏み倒そうとしてくるので、サイラスはだんだんと料金交渉(たたかい)に熟達していったのだ。ついでに、人間社会の法律や社会情勢にも詳しくなった。

「仕方ありませんわね。では、こちらでお支払いいたしますわ」
 肩をすくめたドリル令嬢がパチンと指を鳴らすと、執事は持っていた金属製の箱をパカッと開き、サイラスが見たことのない謎の紙幣の束をドン、とカウンターに置いた。

「ナニコレ?」
 サイラスは目を丸くした。

「あら、御存じありませんのね。これだから大湿原の田舎者は……これは『ドリム紙幣』。今は紙ですが、わたくしが出世するごとに価値が跳ね上がっていく、まさに夢の紙幣なのです」
 ドリル令嬢はドヤ顔で紙幣を見せびらかした。御丁寧に、紙幣の中央にはドリル令嬢自身の似顔絵が印刷されている。言うまでもなく、通貨としての価値はないただの紙切れである。
「ふふ。感動の余り声も出ないようですわね。さあ、未来への投資と思って――」
「……」
 サイラスはおもむろに、店の壁にかけてあった一番でかい盾を取りはずし、左手に持つ。そして、サイラスのエーテルが火を吹いた。
「ドラゴンチャリオッツ!」
「あ~れ~!!」
 コークスクリュー気味に放たれたシールドバッシュが炸裂し、ドリル令嬢は螺旋(スパイラル)を描きながら飛んでいった。
「お嬢様~!」
 執事は吹き飛んでいったお嬢様を追いかけ、全力疾走で店から出ていった。たぶん死にはしないだろう。サイラスは静かになった店で盛大に溜息を吐く。
「もうちょっとまともなお客さん来ないかな……」

登場キャラクター

  • サイラスサイラス
アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0