約束の木の下で
キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年06月13日 14時03分51秒
今日もしとしとと雨が降っている。
花色の無かった庭園には紫陽花が植えられ、青雨に煙っていた。
「わぁ……」
ゲートをくぐり、水上庭園へと足を踏み入れたテス・クラルスは声にならない声を上げる。
「悪くないだろう?」
そんな反応にロイ・アウレアは得意げに問いかけた。
「ああ、とても綺麗だよ。ここにこんな場所があったなんて知らなかった。よく見つけたね」
「実は見つけたのは偶然……というか依頼でなんだ」
「依頼? 庭園で依頼なんてあったのかい?」
「うん、まぁ、そうかな。そんな事より、せっかく来たんだし一緒に散歩でもしよう」
何処か含みのある言い方で話を切ったロイをテスはしばらく見つめていたが。
「ふふ、いいよ。それじゃエスコートしてもらおうかな」
自分の傘を畳むとロイの傘に潜り込む。
腕を絡ませ、さぁ案内してくれと相方の顔を見上げた。
「もちろんだ。それじゃ、まずは……あそこだ」
テスに腕を取られたロイは、左腕に温もりを感じつつ、庭園の奥を指さした。
「あれは……何かの施設だね」
庭園の奥にある木製の建物。壁面をガラスで覆われた実にお洒落な建物だ。
「ロイが一番に推すんだ、素敵な場所なんだろう?」
「ああ、もちろんだ。中はカフェになってる」
「カフェか。いいね、ここに来るまでに少し濡れてしまったから、休める所があるのはありがたいよ」
「だろ?」
気を遣ってそう言ったテスに、ロイは得意げな顔を向けてくる。
そんな様子がおかしくて、テスは笑ってしまった。
「な、なんだよ。人の顔見ていきなり笑うとかないだろ……」
「いや、ごめんごめん。今日のロイは紳士なのか少年なのか測りかねていてね」
「紳士か少年……? オレはいつだって紳士だろ?」
「うーん、そうだね。そういう事にしておこうか」
「なんだよそれ、なんか釈然としない答えだな」
そんな他愛のない会話を交わしながらも、二人は一つ傘の下、雨の庭園をゆっくりと歩く。
綺麗に整えられた池の脇を歩き、紫陽花たちに迎えられながらカフェの入る建物へ。
ドアベルを鳴らし店内へと入った二人を、珈琲の香しい薫りが迎えてくれた。
「コート、預かろうか」
「ああ、ありがとう」
実に紳士的に手を伸ばしてきたロイに、テスは濡れたコートを預ける。
二人は人気の少ない店内へ歩き、窓際の席についた。
「注文してくる。何かリクエストはあるか?」
「いや、ロイに任せるよ」
「ん、わかった」
そう言うと、ロイはテスを残しカウンターへと歩いていく。
「……すごくいい雰囲気のお店だね」
ロイを追っていた視線を店内へ移したテス。
気の温もりが感じられる落ち着いた雰囲気の店内は、どこか故郷の森を思わせる。
「これが、ロイがお勧めする理由かな」
長い事戻っていない故郷の森。もしかしたらもう二度と戻る事がないかもしれない小さな崖傍の集落。長らく共にあった森での生活は、今は昔となってしまったけれど、かけがえのない思い出だ。
テスは蘇る記憶と共に、店内を見渡していた。
「お待たせ……って、どうかした?」
「……いや、なんでもないよ」
戻ってきたロイが正面に座るのを嬉しそうに眺めるテス。
一方、ロイは頭に「?」を浮かべ首をかしげた。
「さて、何が出てくるのかな。ロイのイケメン力が試されるね」
「なんだよ、そのイケメン力って……。まぁでも、きっと驚いてくれるかな」
にこやかに見つめるテスに、ロイは悪戯な笑みで返す。
「それでどうかな、この店。テスなら気に入ってくれると思ったんだけど」
「ああ、もうすっかりお気に入りスポットの仲間入りになってしまったよ」
「おぉ、そうか! よかった、きっとテスならそう言ってくれると思ったんだ!」
そう言って微笑むテスに、ロイはまるで子供のように無邪気に喜んだ。
「ちなみにロイは、この店の何が気に入ったんだい?」
本当に紳士なのか子供なのかよくわからない相棒を微笑ましく見つつ、テスは問いかける。
「え? なにがって……雰囲気?」
「随分と漠然としてるね」
「そう言われても……なんか、自然を感じると言うか、故郷の森を思い出すというか……なんとなく懐かしい……というか?」
「……はは、そうだね。私も同意見だよ」
うまく気持ちを言葉に出来ないロイに、テスは嬉しそうに同意した。
そんな事をしていると、テーブルに注文の品が運ばれてくる。
「お、来た来た。さぁ、どうぞ、召し上がれ!」
「これって……」
どうだと両手を広げて料理をアピールするロイに、テスは思わず目を見開いた。
「そうさ、テスの好物だっただろ?」
「ああ……よく覚えていたね。でも、なんでこれがここにあるんだい?」
「それは……内緒だ」
テスが見上げてみれば、ロイはまるで悪戯が成功して喜んでいる童子の顔をしている。
「……なるほど、そういう事か。依頼で来た時に仕込んでいたんだね?」
「えっ! 何でわかったんだ!?」
「何年一緒にいると思っているんだ」
そう言いつつもテスは机に置かれた皿を見る。
大好物の焼きたてワッフル、ブランデーソースがけ。しばらく食べていなかったから、ロイもすっかり忘れていたものだと思っていたのに……。
「いただいてもいいのかい?」
「もちろんだ! テスの為にお願いしてたんだからな!」
子供のような笑顔でそう言われ、テスは少し照れながら切り分けたワッフルを口に運ぶ。
「……どうだ?」
咀嚼するテスに、待ちきれないとばかりに感想を聞いてくるロイ。
「――ああ、とても美味しいよ」
「そうか! よかった!」
テスはグッとガッツポーズするロイに、満面の笑みを向けた。
「あ、実はもう一つあるんだ」
テスの口にワッフルが消えていく様を楽しそうに見つめていたロイが、機を待って声をかけた。
「――もう一つ?」
「ちょっと行ってくる」
首をかしげるテスを置いて、ロイは再びカウンターへと向かいマスターと何やら話し込んでいる。
「今度はどんなことで驚かせてくれるのかな」
何やら楽し気に話しているロイを遠巻きに見つめながら、テスは小さく微笑んだ。
「お待たせ……って、また笑ってる」
「うん? 私、笑ってたかい?」
「ああ、さっきも笑ってた」
「そうか。楽しいから仕方がないね」
「? 変なテス」
そう言いつつ正面に座るロイ。
「さて、次は何が出てくるんだい?」
「ふっふっ、見て驚けよ?」
ロイは得意げに答えると、トレイをもって歩いてくるマスターを急かす。
マスターは机に二つのグラスを置き、去っていった。
「……ゼリーだね?」
「ああ、ゼリーだよ」
青いゼリーの入ったグラスを見て首をかしげるテスに、ロイはニヤニヤが止まらない。
「……ふむ、味も普通に美味しいゼリーだね?」
「ああ、美味しいゼリーだ?」
「これがロイのおすすめなのかい?」
「ふっふ……お楽しみはこれからだ」
と、ロイがグラスの脇に置かれていた小さなミルクポットを取り上げた。
「これをこうしてっと……」
そして、そこに入っていた透明な液体をゼリーにかける。
すると――。
「すごい……色が変わっていく」
見る見るうちに色は紫、そしてピンクへと変化していった。
「魔法の紫陽花ゼリー! 気に入ってもらえたかな?」
「ああ、とても綺麗なゼリーだね。ありがとう、ロイ」
悪戯が成功した童子のように満面の笑みを向けてくるロイに、テスはお返しにととろける様な笑みを向けた。
花色の無かった庭園には紫陽花が植えられ、青雨に煙っていた。
「わぁ……」
ゲートをくぐり、水上庭園へと足を踏み入れたテス・クラルスは声にならない声を上げる。
「悪くないだろう?」
そんな反応にロイ・アウレアは得意げに問いかけた。
「ああ、とても綺麗だよ。ここにこんな場所があったなんて知らなかった。よく見つけたね」
「実は見つけたのは偶然……というか依頼でなんだ」
「依頼? 庭園で依頼なんてあったのかい?」
「うん、まぁ、そうかな。そんな事より、せっかく来たんだし一緒に散歩でもしよう」
何処か含みのある言い方で話を切ったロイをテスはしばらく見つめていたが。
「ふふ、いいよ。それじゃエスコートしてもらおうかな」
自分の傘を畳むとロイの傘に潜り込む。
腕を絡ませ、さぁ案内してくれと相方の顔を見上げた。
「もちろんだ。それじゃ、まずは……あそこだ」
テスに腕を取られたロイは、左腕に温もりを感じつつ、庭園の奥を指さした。
「あれは……何かの施設だね」
庭園の奥にある木製の建物。壁面をガラスで覆われた実にお洒落な建物だ。
「ロイが一番に推すんだ、素敵な場所なんだろう?」
「ああ、もちろんだ。中はカフェになってる」
「カフェか。いいね、ここに来るまでに少し濡れてしまったから、休める所があるのはありがたいよ」
「だろ?」
気を遣ってそう言ったテスに、ロイは得意げな顔を向けてくる。
そんな様子がおかしくて、テスは笑ってしまった。
「な、なんだよ。人の顔見ていきなり笑うとかないだろ……」
「いや、ごめんごめん。今日のロイは紳士なのか少年なのか測りかねていてね」
「紳士か少年……? オレはいつだって紳士だろ?」
「うーん、そうだね。そういう事にしておこうか」
「なんだよそれ、なんか釈然としない答えだな」
そんな他愛のない会話を交わしながらも、二人は一つ傘の下、雨の庭園をゆっくりと歩く。
綺麗に整えられた池の脇を歩き、紫陽花たちに迎えられながらカフェの入る建物へ。
ドアベルを鳴らし店内へと入った二人を、珈琲の香しい薫りが迎えてくれた。
「コート、預かろうか」
「ああ、ありがとう」
実に紳士的に手を伸ばしてきたロイに、テスは濡れたコートを預ける。
二人は人気の少ない店内へ歩き、窓際の席についた。
「注文してくる。何かリクエストはあるか?」
「いや、ロイに任せるよ」
「ん、わかった」
そう言うと、ロイはテスを残しカウンターへと歩いていく。
「……すごくいい雰囲気のお店だね」
ロイを追っていた視線を店内へ移したテス。
気の温もりが感じられる落ち着いた雰囲気の店内は、どこか故郷の森を思わせる。
「これが、ロイがお勧めする理由かな」
長い事戻っていない故郷の森。もしかしたらもう二度と戻る事がないかもしれない小さな崖傍の集落。長らく共にあった森での生活は、今は昔となってしまったけれど、かけがえのない思い出だ。
テスは蘇る記憶と共に、店内を見渡していた。
「お待たせ……って、どうかした?」
「……いや、なんでもないよ」
戻ってきたロイが正面に座るのを嬉しそうに眺めるテス。
一方、ロイは頭に「?」を浮かべ首をかしげた。
「さて、何が出てくるのかな。ロイのイケメン力が試されるね」
「なんだよ、そのイケメン力って……。まぁでも、きっと驚いてくれるかな」
にこやかに見つめるテスに、ロイは悪戯な笑みで返す。
「それでどうかな、この店。テスなら気に入ってくれると思ったんだけど」
「ああ、もうすっかりお気に入りスポットの仲間入りになってしまったよ」
「おぉ、そうか! よかった、きっとテスならそう言ってくれると思ったんだ!」
そう言って微笑むテスに、ロイはまるで子供のように無邪気に喜んだ。
「ちなみにロイは、この店の何が気に入ったんだい?」
本当に紳士なのか子供なのかよくわからない相棒を微笑ましく見つつ、テスは問いかける。
「え? なにがって……雰囲気?」
「随分と漠然としてるね」
「そう言われても……なんか、自然を感じると言うか、故郷の森を思い出すというか……なんとなく懐かしい……というか?」
「……はは、そうだね。私も同意見だよ」
うまく気持ちを言葉に出来ないロイに、テスは嬉しそうに同意した。
そんな事をしていると、テーブルに注文の品が運ばれてくる。
「お、来た来た。さぁ、どうぞ、召し上がれ!」
「これって……」
どうだと両手を広げて料理をアピールするロイに、テスは思わず目を見開いた。
「そうさ、テスの好物だっただろ?」
「ああ……よく覚えていたね。でも、なんでこれがここにあるんだい?」
「それは……内緒だ」
テスが見上げてみれば、ロイはまるで悪戯が成功して喜んでいる童子の顔をしている。
「……なるほど、そういう事か。依頼で来た時に仕込んでいたんだね?」
「えっ! 何でわかったんだ!?」
「何年一緒にいると思っているんだ」
そう言いつつもテスは机に置かれた皿を見る。
大好物の焼きたてワッフル、ブランデーソースがけ。しばらく食べていなかったから、ロイもすっかり忘れていたものだと思っていたのに……。
「いただいてもいいのかい?」
「もちろんだ! テスの為にお願いしてたんだからな!」
子供のような笑顔でそう言われ、テスは少し照れながら切り分けたワッフルを口に運ぶ。
「……どうだ?」
咀嚼するテスに、待ちきれないとばかりに感想を聞いてくるロイ。
「――ああ、とても美味しいよ」
「そうか! よかった!」
テスはグッとガッツポーズするロイに、満面の笑みを向けた。
「あ、実はもう一つあるんだ」
テスの口にワッフルが消えていく様を楽しそうに見つめていたロイが、機を待って声をかけた。
「――もう一つ?」
「ちょっと行ってくる」
首をかしげるテスを置いて、ロイは再びカウンターへと向かいマスターと何やら話し込んでいる。
「今度はどんなことで驚かせてくれるのかな」
何やら楽し気に話しているロイを遠巻きに見つめながら、テスは小さく微笑んだ。
「お待たせ……って、また笑ってる」
「うん? 私、笑ってたかい?」
「ああ、さっきも笑ってた」
「そうか。楽しいから仕方がないね」
「? 変なテス」
そう言いつつ正面に座るロイ。
「さて、次は何が出てくるんだい?」
「ふっふっ、見て驚けよ?」
ロイは得意げに答えると、トレイをもって歩いてくるマスターを急かす。
マスターは机に二つのグラスを置き、去っていった。
「……ゼリーだね?」
「ああ、ゼリーだよ」
青いゼリーの入ったグラスを見て首をかしげるテスに、ロイはニヤニヤが止まらない。
「……ふむ、味も普通に美味しいゼリーだね?」
「ああ、美味しいゼリーだ?」
「これがロイのおすすめなのかい?」
「ふっふ……お楽しみはこれからだ」
と、ロイがグラスの脇に置かれていた小さなミルクポットを取り上げた。
「これをこうしてっと……」
そして、そこに入っていた透明な液体をゼリーにかける。
すると――。
「すごい……色が変わっていく」
見る見るうちに色は紫、そしてピンクへと変化していった。
「魔法の紫陽花ゼリー! 気に入ってもらえたかな?」
「ああ、とても綺麗なゼリーだね。ありがとう、ロイ」
悪戯が成功した童子のように満面の笑みを向けてくるロイに、テスはお返しにととろける様な笑みを向けた。