煉獄の牙 霹靂の角

キャラクターノベル(グループ)制作 真柄 葉納品 2021年06月06日 10時38分52秒

 その日、ギルドに一枚の張り紙が張り出された。

 張り紙の内容は――神匠ヴィンダールヴルによる、ドワーフに伝わる秘伝『武器・防具の改良』の開放を知らせるものだった。

 自らの武器を強化できるとあって、冒険者達は目の色を変えた。しかもそれが、準伝説級の武具にまで高められる可能性のあるものだと知ればなおさらだ。
 冒険者達は強化素材を集めるべく、我先にと依頼を受注していた。

 そんなギルドの一角で――。
「だから無理だって言ってるだろ。そんな簡単に強化出来たら鍛冶屋はいらないんだよ」
「わかってるって! だから鍛冶師のあんたにこうやって頼んでんだろ!」
 ギルドへの定期武器納品を終えたサイラスは、ブレイブファング傭兵団団長ハヤト=ガラン=ヴォルファングに捕まっていた。
「頼まれたって、できないものはできないんだよ!」
「なんでだよ! 秘法って奴は解禁されたんだろ!」
「ああ、確かに解禁された。だがな、一朝一夕で出来る様な簡単なものじゃないんだよ! いいか、鍛冶の道ってのはな――」
 と、尚も食い下がるハヤトにサイラスは鍛冶の道の険しさと師匠の恐ろしさを語っていく……。

「……うーむ、やっぱ素材か」
 サイラスの話を聞き真剣な表情で考え込むハヤト。
「おい、なに聞いてたんだ、まったく……まぁ、それも必要なのは違いないが」
 一方、熱弁が徒労に終わりがくりと肩を落とすサイラス。
「これは素材探しの依頼を受けなきゃなんねぇな」
「そうだな。ただ……」
「うん?」
 と、サイラスの視線を追ったハヤトが目にしたのは、ギルドの掲示板だった。
「うお、なんだよ。あの盛況ぶり」
「当たり前だ。あんたも神匠の張り紙見たんだろ? なら、考える事は皆同じって事だ」
 そう、掲示板の前は我先にと依頼書を手に取る冒険者達で溢れている。
「目ぼしい依頼はもうないだろうな」
「マジかよ……」
「まぁ、そう肩を落とすな。今はちょっと過熱気味なだけで、すぐに収まってくる」
 がくりと肩を落とすハヤトを、サイラスがもう少し待っていろと慰めた。

「おや、ハヤト殿こんな所にいましたか」

 そんな二人の元へ、ハリス・アル・ターミルがやって来る。
「うん? ハリスじゃねぇか。どうした?」
「どうしたもこうしたもありませんよ。貴殿の団への依頼書が私の所に届いていましたよ?」
「は? なんでだよ」
「それは依頼主に言ってください」
 と、ハリスは困ったように、封のされた依頼書をハヤトに手渡した。
「そうは言っても心当たりがなぁ。まぁ、とりあえず見てみるか……」
 ハヤトは早速依頼書を開く。それはとある村の窮状を知らせるものだった。
 依頼書を読み進めていくハヤトの表情が次第に重く険しいものになる。
 そんな表情を二人のリザードマンは嫌な予感と共に見つめていた。
「……こりゃなかなか厄介だな。ちくしょ、今は団員出払ってんだよな」
 一通り依頼書に目を通したハヤト。依頼はハヤト個人宛ではなく、傭兵団宛てではあったが、生憎団員たちは別件で出払っている。
「なぁ――」
 と、ハヤトはリザードマンの二人を見上げた。
「やりませんよ」
「おれもパスだ」
「まだ何も言ってねぇだろ!?」
 しかし二人は、ハヤトが何か言うよりも早く自分の勘が正しかったときっぱり断る。

「あれ、ハヤトじゃん。こんなとこに突っ立って何してんの?」

 二人に即断されぐぬぬと拳を握っていたハヤトの元に、サフィラ・アズラク・ナハルハルアリーブがぬっと顔を出した。
「おう、サフィラか。って、どっから顔出してんだよ」
「え? 脇?」
「そんなの見りゃわかる! って、そうじゃなくて……」
 きょとんと見上げてくるサフィラに、ハヤトは目頭を押さえる。
「……うん? ああ、そうだ、サフィラ! 今暇か?」
「うっ……うん、別に暇だけど……なに?」
 ハヤトにグッと顔を寄せられ、サフィラは思わず目を逸らしながら答える。
「一狩り行こうぜ!」
「……一狩り?」
 ハヤトの提案が思っていたものと違った事に若干肩を落としつつも、サフィラはどういう事と問いかけた。
「これだ!」
 そんなサフィラにハヤトは依頼書を見せる。
「ふむふむ、依頼書だね? なになに……」
 目の前に突き出された依頼書にサフィラは目を通していく。
「えっと……出没したのは『雷の魔獣』? なんだろ、それ」

「なに?」

 サフィラの声に、サイラスの瞼がピクリと動く。

「被害は……折角村の衆が一生懸命育てた春キャベツが根こそぎ……か。むむ、害獣かな?」

「なんですって?」

 首を傾げたサフィラに、ぴくぴくッとハリスの唇が動いた。

「結構ひどい被害だね。でも、流石に二人でやるにはきつい――」

「「ちょっと、見せろ(てください)」」

「わわっ!?」

 ハヤトの差し出した依頼書と睨めっこしていたサフィラを退かし、二人のリザードマンが食い入るように依頼書の文字を追う。
「これは、まさか。……噂で聞いて事があるぞ、確か……いや待てよ、本当に出るんだとしたら、これは千載一遇のチャンスじゃないのか?」
「旬を迎えた春キャベツを根こそぎですと……村人達が丹精込めて育てた農作物を食い荒らすなど、断固として許せません!」
 文字を追うごとにサイラスの目つきが急に真剣になり、ハリスの口元が怒りで歪む。

「「ハヤト(殿)!!」」

「な、なんだ!?」
 突然二人の巨躯に迫られ、ハヤトは思わずのけぞった。
「私も同行しましょう。そもそもこの依頼書が私の所に来たことが運命だったのかもしれません!」
「おれも行くぞ。これが噂通りの奴なら出会える機会は滅多にないからな!」
「お……! そうかそうか! 一緒に行ってくれるのか!」
 二人のリザードマンの力強い言葉に、ハヤトは表情を明るくした。

「うーん、二人を足して……シーフ2のウォーリア2かぁ。人数も少ないし、ちょっとバランス悪いね。後衛職の誰かが手伝ってくれると助かるけど、団員は居ないの?」
「ああ、それが生憎全員出払っちまっててな」
「むむ……となると、普通に募集かぁ」
 ハヤトの返事にサフィラは唸った。
「なぁに、すぐに集まる。今素材関係の依頼は大盛況だしな」
 と、そんなサフィラにサイラスが、あの人だかりを指さす。
「依頼の数も全然足りてないって話だしな!」
「この依頼がハヤト殿を名指しで舞い込んできたのは幸運であったのかもしれませんね」
「ははっ! 日頃の行いってやつだなっ!」
 周りに沢山の冒険者達がいるのも気にせず高笑いを上げるハヤトを、三人は呆れながら見つめた。

●
 サイラスの言う通り、張り出された依頼書にはすぐに応募がかかった。

 キャスターのパヴェル・A・サムルガチェフ。
 同じくキャスターのバンビ。
 そして、シーフで鍛冶師のカズマ クレセントブラッド。

 先の4人を加えれば、7人。人数的にも十分だと判断したハヤトは募集を打ち切り、依頼があった村へと向かう準備に入った。
「村はリブラネスタからビッグオウムで半日。山に囲まれた谷間の村だな」
 地図を指さしながらカズマが周りの地形を追っていく。
「依頼書によると、標的は山から降りてくるようですわね」
 地図の横に置かれた依頼書に目を遣りつつバンビが答えた。
「被害が多いのは夜か。住民とかち合わなくてよかったなぁ」
 安堵のため息をつくパヴェルに皆が頷く。
 新しく加わった仲間も含め、7人は討伐作戦の概要を組み立てていた。
「募集のおかげで陣容が厚くなりました。これをもって敵と対する訳ですが……まずは敵を知らねば始まりません。サイラス殿、お願い出来ますか」
「おれも文献でしか読んだことがないからあんまり詳しくは話せないが、見た目通り――」
 ハリスに話を振られ、サイラスは記憶をたどりつつ敵の特徴や生態を知りうる限り皆に話して聞かせる。

「――ってな感じだ。正直レア魔獣だから、あの文献がどこまで信用できるかはわからないが……まぁ、情報は無いよりあったほうがいいだろ」
「ああ、助かる。大体のイメージはつかめた」
 話し終えたサイラスにカズマが軽く頭を下げた。
「雷かぁ……発電器官とか潰す感じかなぁ?」
「まどろっこしい事をせずに、薙ぎ払えばいいのですわ」
「そんなにうまくいくかぁ?」
 話を聞き終えたバンビとパヴェルも頭の中で戦闘イメージを組み立てていく。
「とりあえず、村に着いたら色々調べた方がいいかもね。ぶっつけで当たるにはちょーっと、おっかなそうな敵だし」
 言って、サフィラが皆を見渡した。
「んじゃ、到着したら手始めに依頼主への挨拶と周辺の調査。後は寝床の確保だな」
 これ以上の議論は不毛と考えたのか、相談を纏めたハヤト。
「出発は明朝。集合はビッグオウム乗り場って事でいいか?」
 ハヤトの提案に否は出ず、作戦会議は終了。明朝の出発に備え各自休息と準備を行う為、この日はお開きとなった。

●
 翌日、村の外へと降り立った冒険者達は、運んでくれたビッグオウムに別れを告げ、村へと足を向ける。
 村に入った一行は、村人からの歓迎を受けつつ依頼主である村長宅へと向かっていた。

「とりあえず、村長に挨拶してくる」
「あ、あたしも行くよ」
 ハヤトは同行を申し出たサフィラと共に村長宅のドアを叩く。
「それじゃぁ、俺達は辺りの偵察だな」
「採取のついでに周辺調査ですわね。最速でまいりますわよ」
 パヴェルとバンビが山を指さし早速と駆けていった。
「では、私は被害調査を」
 と、ハリスが畑の方角を見やり。
「俺達は鍛冶場の確保だな」
「ああ、素材の鮮度を保つためにも必要不可欠だ」
 サイラスとカズマが村の住民へと交渉に出ていった。

●

「おぉ……よくぞ来てくだされた、団長殿! 貴方の勇名はこんな辺鄙な村にまで届いておりますぞ!」
 ハヤトとサフィラを迎えた村長と思しき老人。よぼよぼと頼りない足取りで二人の元へやってきて、ハヤトの手を取った。
 村長はハヤトの顔を見上げつつ村の窮状を滔々と語り始める。魔獣による農作物の被害は元より、魔獣出没の噂が広まり行商人の脚も遠のいている。このままでは、陸の孤島と化してしまうと、村長は涙すら浮かべながら語っていく。
「俺達に、任せとけって! 速攻退治してやるからよ!」
 涙ながらに訴えてくる村長に、ハヤトはどんと胸を叩いた。
「おぉ、やはり私の眼には狂いはなかった! 何と頼もしいお姿じゃ!」
「いやぁ、それほどでもあるけどな!」
 光明を見たとばかりにハヤトに羨望の視線を向ける村長は、ありったけの賛辞をハヤトに向けた。

「……ちょいちょい、ハヤト」
 そんな、村長に持ち上げられまくって上機嫌のハヤトの腰ひもを、サフィラがくいっと引っ張る。
「うん? どうしたサフィラ」
「ちょっと外いこ。村長さん、私達ちょっと準備があるから、また来るね!」
 と、ぶんぶんと手を振ったサフィラは、そのままハヤトの腰ひもを引っ張りながら村長宅から退出した。

「なんだ。どうしたんだ、サフィラ」
 村長宅を出て村を歩く二人。
「あの村長さんちょっと調子よすぎない?」
「調子? そうか、よぼよぼだったぞ?」
「ちがうっ! そうじゃなくて、話がうますぎるって言うか……」
「あー、そっちか。まぁ、たぶんなんかあるだろうな」
「……ハヤト、気付いてたの?」
「んー、なんとなく言葉が軽かったからな」
「……うーん、ハヤトって時たまビックリするくらい、鋭くなることあるよね」
「それ褒めてんのか?」
 眉を寄せるハヤトに、サフィラは苦笑する。
「とにかくハヤトの野生の勘が正しいかもしれないって事だけは頭に入れておこうよ」
「おう、そうだな。他の奴等にも一応知らせとくか」
「そうだね」
 そう言って、サフィラはじっとハヤトを見下ろす。
「なんだ? まだ気になる事があるのか?」
「ううん、流石団長だなぁと思ってね」
「なんだそれ? ああ、うちに入りたいのか? サフィラならいつでも歓迎だぞ」
「うーん、そういう訳じゃないんだけど……。ま、いいや。ありがと、考えとくよ」
 そんな取り止めの無い会話を重ねながら、二人は村の中ほどで別れ仲間達の元へと走っていった。

●
「はぁ、やっと追いついた。随分早いねぇ」
「当然ですわ。最速へと至る為には一分一秒として無駄にはできませんもの」
 村を囲むように連なる山々は、雑木林が茂っていた。
 村で聞いた話では、この山のどこからか件の魔獣が降りてくるという。パヴェルとバンビは協力し、その出所を探っている――はずだったのだが。
「なにしてるんだ?」
「薬草採集に決まっていますわ」
「薬草……?」
 ようやく追いついたバンビは雑木林に生える植物をまじまじと見つつ選別を行っている。パヴェルが何の事だと手元を覗き込んでみると。
「ありましたわ! 『スゴイハヤイ茸』!」
 ついに見つけたとバンビは毒々しい濃緑色の茸を引き抜き天高く掲げた。
「なんだぁ、その明らかに怪しい名前の茸は……」
 一方、パヴェルはその茸を怪訝そうに見つめる。
「後は『ヤバイハヤイ草』さえそろえば……」
 そんなパヴェルの事など気にもせず、バンビは再び別の薬草を探すために雑木林を掻き分けた。
「おーい、あんまり一人で森にはいると迷子になるぞー」
 どんどん小さくなるバンビに、呆れたように声をかけるパヴェル。しかし、バンビはそんなことお構いなし。
「まったく……仕方ないなぁ」
 このまま放っておいてはどこへ行くかわかったものじゃない。一応PTを組む身としては放っておけないと、パヴェルは渋々バンビの後を追っていった。

●
 若い農夫に案内されハリスが辿り着いたのは、特産品だという春キャベツの畑。
 しかし、その光景を見たハリスは絶句し立ち尽くした。
「無事だったものは何とか収穫したんですが……」
「ふむ……この様子ですと、収穫量は10分の1にも満たないのでは?」
「は、はい。その通りです。よくわかりますね」
 畑の荒れよう、畝の形状、散乱したキャベツの葉。畑を一目見ただけで、収穫量を予想し、どれほどの被害に遭ったのかをズバリ言い当てたハリスに、若い農夫は驚きの声を上げる。
「私も少々農業の経験がありますので。それよりも、キャベツの事です。この谷間の土地。きっと昼夜の寒暖差も激しいのでしょう。となればそれは糖分をふんだんに含んだ上質なものが収穫できるはず。さぞかし美味なキャベツが採れるのでしょうね」
「は……はぃ!! それはもう自慢のキャベツです! 近くの街でも評判で、商人さんも高値で買い取ってくれるんです!」
 自分たちの努力の結晶である作物の価値を一目で見抜くこのリザードマンに、農夫は喜色を露にした。二人はその後、実に有意義な農業談義に花を咲かせる。キャベツの後はスイカがお勧めだとか。堆肥はやはりビヒモーのものがベストだとか――。
「――すごい! すごいです、ハリスさん! 師匠って呼ばせてください!」
「師匠などとおこがましい。我々は共に農業に従事する土の友。そう、同士です。貴殿達この集落の農夫がどれほどの汗と涙の先にこの作物を作り上げられたか……こうして瞼を閉じればその努力がありありと――」

「おーい、ハリスさーん……」

「む……これはサフィラ殿。どうしましたか?」
 土と風と水と太陽の気配を感じながら命の芽吹きに思いを馳せていたハリスに、サフィラが声をかけた。
「いや、どうしたかじゃなくて……。状況はどうだったの?」
「状況はよくありませんね。今年は雨に恵まれていないそうです。山からの湧き水はありますが、やはり雨の水量とは比べようがない。このままでは二毛作を予定しているスイカの収穫にも影響が出てくる。雨ごいを行う準備を早々に――」
 そんなサフィラの質問に、ハリスは農地の実情を克明に話していく。
「う、うん。そうなんだ……。それはわかったからさ、犯人の目星はついた?」
 畑とちらりと見つつも、サフィラはハリスに問いかけた。
「……」
「……」
「…………」
「…………調べてないんだね」
 ジトッと見上げてくるサフィラに、ハリスはくるりと体の向きを変え。
「サムス殿、被害状況を確認させてもらえますか?」
 何事もなかったかのように、農夫の若者へと話しかけた。

 その後、農夫の案内もあり、畑に残った足跡や体毛、分泌物と思われる液体を回収する事が出来た。

●
「ふーむ……」
「これじゃ、火力が足りないな」
「だよなぁ、どうしたもんか」
 集落の鍛冶場を訪れていたサイラスとカズマだったが、目の前にある施設に眉をひそめていた。
「作っても農具とかナイフ位だろうし……まぁ、村としてはこんなもんか」
「そうだな。ただの村で武具迄作る必要があるとも思えん。考えてみれば、これ以上の設備は過剰だろう」
 確かに、施設としての鍛冶場はあったのだが、その設備はお世辞にも立派とはいえない。二人もそこまで期待していたわけではないが、あまりに粗末な設備に困惑していた。
「結局持って帰るって事になるか。輸送代かかりそうだなぁ」
「それは仕方ないだろう。必要経費という事で何とか村長と交渉するしかない」
「ふーむ……」
 二人は鍛冶場を眺めながら、狩猟後の事を考える。
「お、この砥石は悪くないな」
 と、サイラスが鍛冶場に置かれていた砥石を持ち上げた。
「……ああ、悪くない。近くにいい採掘場があるのかもな。これなら、ナイフを大量に用意して、解体時間を短縮できる」
「そうだな。その辺が落とし所だろうな。ここで打ち直しやら強化は流石に厳しいわ」
 二人は改めて粗末な鍛冶場を見る。

「おーい。どんな感じだー」

 そんな時、村の中心からハヤトが歩いてきた。
「ダメだな。ここは使えない」
「む、そうなのか」
 やって来たハヤトにカズマがゆっくりと首を振る。
「って事は、ここで強化は無理か」
「もし仮に討伐できたとして、素材が確保して終わりだな。輸送代かかるが、大きな街まで運ぶしかない」
「むぅ……必要経費か」
「だな。まぁ、折角運ぶんだ、いいとこ紹介するぜ」
 と、頭の中で経費計算を更新しているだろうハヤトに、サイラスが口元を歪ませた。
「へぇ、あんたの紹介か。期待していいのか?」
「もちろんだ。腕だけは保証するぜ」
 いって苦笑するサイラスに、ハヤトは頼むと手を差し出した。

(おっし! おっさん、未来の上客確保だ。これであん時のサボりはチャラな!)

「うん? どうかしたのか?」
「い、いや、何でもない。それより、他の奴等はどうなったんだ?」
 差し出された手を取りつつサイラスが問いかける。
「ああ、それなら――」
 と、ハヤトは二人に村の外を指さした。

●
「やっと来たか。待ってたぜ」
 街の外でハヤトたちを待っていたのはパヴェルだった。
「お、他の奴等はどうした?」
「もう先に行った」
 問いかけられたパヴェルは村を囲む山に一つを指さす。
「って事は見つけたんだな」
「ああ、バンビの嬢ちゃんのお手柄だねぇ」
 パヴェルは三人を案内しつつ、発見の経緯を話していく。
 山へと入ったパヴェルは、バンビの薬草探索を手伝いながらも魔獣の痕跡を追っていた。
 そして――。
「足跡?」
「だけじゃない。獣道もあった、とびっきりでっかいのがな」
 カズマの問いに答えたパヴェルは、その時の様子を説明する。

 薬草を探し森を奥へ奥へと入っていく中、それは突然現れた。
 まるで森を割ったように続く一本の道。そして道の周りの木には青い体毛が付着していた。
 パヴェルとバンビはそれこそが魔獣の通り道だと確信し、山を更に登っていく。そして、山の中腹に巣穴を発見したという。

「他の奴等はもう現場まで行ってるのか?」
「たぶんそろそろ着いてる頃だと思うなぁ」
 サイラスの問いに答えたパヴェルが山を見上げる。
「急ごう。あいつらの事だから大丈夫だとは思うが、万が一って事もある」
 と、ハヤトが皆を急かす様に足を速めた。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0