大陸を渡る鳥の伝書
キャラクターノベル制作 夏八木ヒロ納品 2021年05月22日 11時25分33秒
我が尊敬する“大森林から見通す父なる鳥”へ宛てる
此方リブラネスタにて、緑の風吹く季候となりました。お変わりはありませんか?
大陸の喧噪は其方にもある程度届いているものと思いますが、いつものように、ここには私が見たままを記したく思います。
シルトラース帝国の崩壊は、今も大きな波紋を残しておりますね。滅亡と共に溢れた難民達は未だ落ち着くことが叶わぬ状況ではありますが、多くの冒険者の手を借り力強く日々を生きているのを目にしています。過酷な地であれど、人々の心が豊かさを忘れなければ膝をつくことはない。そういった人々の強さを感じます。
難民キャンプと外に通じないエルフ達との間でいざこざもありましたが、これらも冒険者が奔走し丸く収まりつつあります。このタイミングで侵略を開始した、コボルト達の動向が少し気がかりでしょうか。
また、この地で帝国皇子であるレイウェスト・バルダスが倒れた噂をもう聞かれたかもしれません。センセーショナルな事件ですので、様々な憶測が飛び交っているものと思われます。しかしながら、帝国の希望は決して潰えてなどいないことをお伝えしておきたい。どうかさえずりに惑わされることが無きよう、冷静に今後の動きに注視されるようお願い申し上げます。
また、王党派と貴族派の間の関係にも大きな動きがあります。パンクリアース学園へ聴講生として冒険者を受け入れる制度ができたようです。
各方面の情勢を受け、王家側が強硬策に打って出た形ですね。長年変わらなかった形に新しい風が入ることで、様々な反発が予想されますが……良くも悪くも変化せざるを得ない現状でしょう。対立がいよいよ表面化し、彼らがどのような選択をしていくのか、非常に興味深く感じています。
以上、大陸を渡る鳥が森の外に吹く風をお伝え致しました。大森林を守り導く指標の一つになれば幸いです。
改めましてティーンダウ殿へ。温かな季節になりましたが、いかがお過ごしでしょうか?
心配し過ぎるのも無礼と心得てはおりますが、きっと貴方を心配できる方は多くは居ないのも事実でしょう。くれぐれも無理はなく、ご自身のご健康も大切に考えてくださるとイズレンディルは嬉しいです。
我が母、ノールシリスへ。大森林の恵みも芽吹き始める頃ですね。きっと、いっそう忙しくされているのでしょう。どうか、くれぐれもご自愛をされてください。いつまでも豊かな日々を送られますよう、大陸より祈っております。
また、次に帰郷した際には折り入って相談したいことがございます。決して悪い報告などではありませんが、少し頼らせて頂けたら幸いです。
未来担う小鳥達へ。元気に飛び回っているでしょうか? 遊ぶことも、また大きく大切な経験となります。ですのでどうか、楽しい日々を過ごしてください。
次に帰った時は、私も一緒に遊びたいですね! 旅の最中には珍しいものも沢山ありましたよ。きっとまた新しく面白い話を、手土産にできると思います。
少し大きくなったあなた達からも、大森林でのお話をお聞かせ願えたらとても嬉しいです。会える日を楽しみにしています。
さて、話したいことは尽きず名残惜しくもありますが、ここで一度筆を置かせていただきます。
今、大森林を流れる時が、皆にとって豊かであり続けることを願って。
“広く深く、大陸を渡る自由な鳥”より
●
さて。丁寧に書きしたためた便箋を並べ、イズレンディル・パラリムは今一度内容に目を通す。筆が乗って心を抑えきれず、つい文体が砕けてしまった部分も見られたが、私信であるし問題は無いだろう。インクが乾いたのを確認して、綺麗に三つ折りにする。
旅する身なれどこうして想いを届けられる、手紙というものをイズレンディルは好んでいた。大森林にて暮らすパラリム氏族へ、手紙を書くのは年に二回ほど。ゆったりとした時間を過ごす森エルフである彼らにしてみれば、そのくらいの頻度が丁度良いということも知っている。
パラリムの使命は『大森林の目となり情勢を見通す』こと。
旅をするイズレンディルが見るここ数年から現在にかけて、世界は激動ともいうべき変化をはじめていた。これらが最中であるのか、それとも序章に過ぎないのか、イズレンディルは計りかねている。
長き時を生きるエルフにとって、変化とは概ねが恐ろしいものだった。けれど、
「ええ、わかっています。この変化から逃げ続けるだけでは、いずれ衰退してしまう」
イズレンディルは今、自身の長い旅にあった意味を静かに噛み締めていた。いつか呑まなければならないなら、それがどういうものであるか正しく見極めるのもまたパラリムの役目。不安はある。それともう一つ、明日にどんな風が吹くのかわくわくしている自分もいる。
一呼吸の後、便箋をそっと封筒へと収める。幸運を呼ぶという青を帯びた鳥の羽を一つ同封して、想いは固く封蝋をした。
此方リブラネスタにて、緑の風吹く季候となりました。お変わりはありませんか?
大陸の喧噪は其方にもある程度届いているものと思いますが、いつものように、ここには私が見たままを記したく思います。
シルトラース帝国の崩壊は、今も大きな波紋を残しておりますね。滅亡と共に溢れた難民達は未だ落ち着くことが叶わぬ状況ではありますが、多くの冒険者の手を借り力強く日々を生きているのを目にしています。過酷な地であれど、人々の心が豊かさを忘れなければ膝をつくことはない。そういった人々の強さを感じます。
難民キャンプと外に通じないエルフ達との間でいざこざもありましたが、これらも冒険者が奔走し丸く収まりつつあります。このタイミングで侵略を開始した、コボルト達の動向が少し気がかりでしょうか。
また、この地で帝国皇子であるレイウェスト・バルダスが倒れた噂をもう聞かれたかもしれません。センセーショナルな事件ですので、様々な憶測が飛び交っているものと思われます。しかしながら、帝国の希望は決して潰えてなどいないことをお伝えしておきたい。どうかさえずりに惑わされることが無きよう、冷静に今後の動きに注視されるようお願い申し上げます。
また、王党派と貴族派の間の関係にも大きな動きがあります。パンクリアース学園へ聴講生として冒険者を受け入れる制度ができたようです。
各方面の情勢を受け、王家側が強硬策に打って出た形ですね。長年変わらなかった形に新しい風が入ることで、様々な反発が予想されますが……良くも悪くも変化せざるを得ない現状でしょう。対立がいよいよ表面化し、彼らがどのような選択をしていくのか、非常に興味深く感じています。
以上、大陸を渡る鳥が森の外に吹く風をお伝え致しました。大森林を守り導く指標の一つになれば幸いです。
改めましてティーンダウ殿へ。温かな季節になりましたが、いかがお過ごしでしょうか?
心配し過ぎるのも無礼と心得てはおりますが、きっと貴方を心配できる方は多くは居ないのも事実でしょう。くれぐれも無理はなく、ご自身のご健康も大切に考えてくださるとイズレンディルは嬉しいです。
我が母、ノールシリスへ。大森林の恵みも芽吹き始める頃ですね。きっと、いっそう忙しくされているのでしょう。どうか、くれぐれもご自愛をされてください。いつまでも豊かな日々を送られますよう、大陸より祈っております。
また、次に帰郷した際には折り入って相談したいことがございます。決して悪い報告などではありませんが、少し頼らせて頂けたら幸いです。
未来担う小鳥達へ。元気に飛び回っているでしょうか? 遊ぶことも、また大きく大切な経験となります。ですのでどうか、楽しい日々を過ごしてください。
次に帰った時は、私も一緒に遊びたいですね! 旅の最中には珍しいものも沢山ありましたよ。きっとまた新しく面白い話を、手土産にできると思います。
少し大きくなったあなた達からも、大森林でのお話をお聞かせ願えたらとても嬉しいです。会える日を楽しみにしています。
さて、話したいことは尽きず名残惜しくもありますが、ここで一度筆を置かせていただきます。
今、大森林を流れる時が、皆にとって豊かであり続けることを願って。
“広く深く、大陸を渡る自由な鳥”より
●
さて。丁寧に書きしたためた便箋を並べ、イズレンディル・パラリムは今一度内容に目を通す。筆が乗って心を抑えきれず、つい文体が砕けてしまった部分も見られたが、私信であるし問題は無いだろう。インクが乾いたのを確認して、綺麗に三つ折りにする。
旅する身なれどこうして想いを届けられる、手紙というものをイズレンディルは好んでいた。大森林にて暮らすパラリム氏族へ、手紙を書くのは年に二回ほど。ゆったりとした時間を過ごす森エルフである彼らにしてみれば、そのくらいの頻度が丁度良いということも知っている。
パラリムの使命は『大森林の目となり情勢を見通す』こと。
旅をするイズレンディルが見るここ数年から現在にかけて、世界は激動ともいうべき変化をはじめていた。これらが最中であるのか、それとも序章に過ぎないのか、イズレンディルは計りかねている。
長き時を生きるエルフにとって、変化とは概ねが恐ろしいものだった。けれど、
「ええ、わかっています。この変化から逃げ続けるだけでは、いずれ衰退してしまう」
イズレンディルは今、自身の長い旅にあった意味を静かに噛み締めていた。いつか呑まなければならないなら、それがどういうものであるか正しく見極めるのもまたパラリムの役目。不安はある。それともう一つ、明日にどんな風が吹くのかわくわくしている自分もいる。
一呼吸の後、便箋をそっと封筒へと収める。幸運を呼ぶという青を帯びた鳥の羽を一つ同封して、想いは固く封蝋をした。