八尺五寸のおおいたち
キャラクターノベル制作 真柄 葉納品 2021年05月02日 22時17分36秒
ロスガリア大陸で最もナウでヤングな街リブラネスタには、その急速な成長に伴って取り残された場所も数多い。旧市街、旧大通り、旧港等――。華やかな冒険者街とは打って変わり、古き良きリブラネスタの風情を残す街には、地元のものしか知らない様なディープなスポットが数多く存在した。
『打ち捨てられたどこかの神を祀る教会の中庭』『路地裏行き止まりの謎の占い小屋』『旧港の端にある祠付き洞窟』。少し足を城壁の外に向ければ『月写しの用水池』『旧市壁の崩れた夕日スポット』『星見の丘』等々――。数えればきりがないほどのスポットが隠されている。決してガイドブックに載る事のないディープすぎるこれらのスポットを巡るのが、冒険者バンビにとってのライフワークとなっていた。
今日も今日とて忙しい依頼の合間を縫って、バンビはリブラネスタ旧市街へと訪れている。目的はもちろんライフワークであるディープスポット巡り。今日はどこへ行こうか。何を見ようか。新たなスポットを探すのも悪くない。そんな事を依頼の最中からずっと考えていた。
「今日から新しい月。やはり、初心に帰ってあの場所ですわね」
冒険者ギルドで少なくない報酬を受け取ったバンビは、それを無造作にポケットに突っ込むと旧市街へ足を向ける。
目的地は既に決めた。リブラネスタ旧市街の一角、半スラムになっているあの場所にある見世物小屋。初めてリブラネスタを訪れた時、旧市街に迷い込み、見知らぬ場所を彷徨い、そして、辿り着いた思い出深い場所だ。
「今日の見世物は何でしょうか。いつもの『アレ』であればいいのですけど」
バンビは幾度となく見た一発芸的見世物を思い浮かべる。一目見れば唖然とし、二目見れば怒りに我を忘れ、三目見れば愚かな自分に嘆息する。そんな『アレ』をバンビは殊の外気に入っていた。
●
リブラネスタ旧市街。冒険者の姿もまばらなこの街を、バンビは勝手知ったる様子でたったと駆ける。のんびりと歩くのは性に合わない。目的を決めたら一直線。どれだけ世界を短縮できるかだけを無意識の内に考え、足を前に出した。
別に足が速い訳でも特別なスキルを使える訳でもない。当たり前だ。自分はシーフでもなんでもない。しかし、だからスピードを求めないのか? 違う、スピードこそ全てに勝る最良。時間の短縮はそれすなわち行動数の増加。出来る事がいっぱい増えるのだから、得しかない。やりたい放題だ。
そんな事を考えながら路地へと入る。細く、暗く、じめじめして、臭い路地をスピードを緩める事無く駆けていく。これが近道。大通りを通ってもいけるが、それだと倍は時間がかかる。
「見えましたわ」
薄暗い路地を通り抜け、辿り着いたのは空き地の裏側。中央には小屋がある。建材の殆どを廃材を利用して作られた、今にも潰れそうな廃墟。それが目的の場所だった。
バンビは表に回ると廃屋の前でピタリと停止し、汚い字で手書きされた看板を覗き込む。
「今日の出し物は――『アレ』ですわね」
お題目を確認するや怪しげな幕がかかる入口へ何の躊躇もなく飛び込んだ。
「おや、いつものあんちゃんじゃありませんわね」
入ってすぐにある受付。何度も通う内に顔見知りのなった受付の青年がいない。代わりに初めて見る親父の顔。
しかし、親父は答えず金を出せと手を差し出してくる。
バンビは無礼な態度に怒りを露に――なんて無駄な事はせず、さっさと駄賃を渡して奥へと足を向けた。
『……なんで客が来るんだ、こんなつまらん見世物に』
などと、聞き捨てならない声が受付の奥から聞こえるが、聞かなかったことにしておく。それくらい今のバンビは胸が高鳴っていた。ハイスピードキャスターの名に恥じぬスピードと、ゴブリン美少女化計画の被験体としての優雅さ、最速かつ最雅の所作をもって、見世物小屋の奥へ奥へと突き進む。
真暗な部屋へと入り、定位置である最前列へと移動した。周りに障害物の気配はない。完全なる貸し切り。絶好のお一人様時間だ。
バンビは今か今かと灯が点灯するのを心待ちにする。
この見世物小屋最大の名物『八尺五寸のおおいたち』。
3m超のただの木の板に、血の色をした塗料をぶちまけただけの定番のいんちき見世物だ。
しかし、バンビはそれが気に入っていた。安い仕掛けで最大限の収益をもたらす。詐欺だとキレられようが、騙された奴が悪い。いや、看板には一切の偽りがないのだから、詐欺でもなんでもない。まさに言葉の勝利。口先三寸で超常の力を発揮する冒険者とそっくりではないか、とバンビは『アレ』に親近感さえ抱いていた。
「む……遅いですわね」
だが、小屋の灯は点灯する気配をまるで見せない。早く来すぎたか、とも思ったが開演時間などあってない様なものだ。それに……。
「……おかしな匂いがしますわ」
元々バラックもいい所のボロ屋だ。決していい匂いが漂うような場所ではない。だが、今日は特別変わった匂いがする。そう、これは嗅ぎ慣れた、あの匂い。
「今日は本物の血を使っていますの……?」
いつもは赤ければ何でもいいとばかりに、うっすい塗料を使う事が多いが、今日のは違う。これは本物の血の匂いだ。
『――っ! ――――っ!!』
突然、部屋の奥で声がした。さっき受付を通る時に天幕の後ろから聞こえた声と同じだ。残念ながら何を言っているのかわからないが、どうも焦っているように聞こえる。
「……今日は随分ときな臭いですわね。演出に凝り出したのかしら」
そう口には出してみるが、もちろんそう思っているわけではない。むしろ、この声を聞いて天幕の向こうの声がどう反応するか見ている。
『――っ!!』
再び天幕の後ろから声がした。今度の感情は……怒り?
「何かありますわね」
バンビは口の中で素早く呪文を唱える。魔力はすぐに反応し、指先に小さな光球を作り出した。
「これは……どういう事か説明してもらえますの?」
そして、照らし出された部屋に、思わずそう呟いてしまった。
部屋の見世物台。いつもはただの血のりの付いたデカい板があるだけの場所に『檻』がある。そして、その中には幽鬼かと見紛うばかりの巨大な『白』が閉じ込められていた。
「見世物を替えた……訳ではなさそうですわね」
と、つぶやいたバンビの声に『白』が反応する。
もたげていた頭を起こし、ぐるりと体を捻った。
巨大だった。まさに八尺五寸。壁のような白い巨体に血の瞳。裂けるように開いた口には、鮫でももう少し上品だと思う程にびっしりと牙が生えそろう。
「魔獣……ですわね。趣旨変更も行き過ぎはよろしくないですわ」
言いつつバンビは僅かに腰を落とす。
先ほど聞こえた声が『食わせてしまえ』と聞こえたから。
先制すべきか一瞬戸惑う。相手は囚われの魔獣。もしかしたら、無理やりに連れてこられたのかもしれない。ならば、元いた場所へと還してやるのが道理か。
――シャギャァァァ!!
「……こちらからの善意は受け取る気がないようですわね」
魔獣の咆哮にバンビは慈悲を捨てた。そして、すぐさま状況の整理を開始する。
部屋……密室。壁材、床材……木。天井……布。檻……木。
波紋を広げるにはいささか心許ない造りの建物ではあるが、幸いにして天井は布だ。破壊しても押し潰されることはないだろう。
そこからのバンビは早かった。魔獣がこちらを獲物と認識すると同時に、詠唱は完了している。
「あんたに恨みはありませんが、食われてやるわけにはまいりませんの」
拒絶の言葉と共に、練成した魔力を吐き出した。
吐き出された魔力の塊が弾丸となり、白い魔獣を打つ。これは小手調べ。効果と魔力の相性を調べるためのただの牽制。
「――無傷ですか」
着弾痕はついている。しかし、白い魔獣にダメージらしいダメージが見られない。
バンビは得た情報を元に、頭の中で魔力を編纂する。
「ならばこれですわ」
魔獣は既に木の檻を破壊した。だが、破片に気を取られて隙だらけ。
バンビは編纂し直した魔力に姿を与える。
「檻が気に食わなかったのでしたら、オレがとっておきをプレゼントいたしますわ」
囁かれる言葉と共に吐き出された魔力が結実。そそり立つ鉄壁へと変じた。
突然目の前に現れた鉄壁に、魔獣は一瞬躊躇するも標的が壁向こうだと思い出し、丸太のような腕を振るった。
鉈のような鋭く太い爪が鉄壁をひっかき、耳障りな高音を発する。そして、鉄壁はあっさりと破壊された。
「なるほど、あれを喰らえばただでは済まない。というよりも、一撃必殺ですわね」
そんなバンビの声は、破壊された檻の方から。
鉄壁を目くらましに移動したバンビは、魔獣の背後を取る。そして、移動中に練成してあった魔力に実を持たせた。
バンビから、氷嵐の姿を借りた純然たる攻撃の魔力が魔獣に襲い掛かる。魔獣は魔力の攻撃力よりもその姿に驚いたのか、大きく距離を取るように跳躍すると、腕で頭を抱え込み防御姿勢を取った。
「弱点は寒さですわね」
その動作に魔獣の弱点を見抜くも、バンビは気温変化をもたらす魔法は会得していない。有効打を見つけても、使えなければ意味はない。
「――と、普通は諦めますわよね」
しかし、バンビは更に魔力を練り上げ、追加の氷嵐を見舞った。
再び室内に氷嵐の姿を借りた魔力の奔流が乱れ飛ぶ。
魔獣は防御姿勢のまま、部屋の入り口付近で伏せ、ぎらつく血色の目でこちらを睨み付けていた。
「本能に嘘はつけませんわ。あんたは所詮、獣ですもの」
バンビは三度目の氷嵐を放ちながら、勝ち誇ったように魔獣に近づいていく。
伏してなお自分の倍ほども高さがある魔獣に、あまりにも無防備に歩み寄った。
これにはさすがの魔獣もプライドが傷つけられたのか、防御姿勢を解き両腕を上げ立ち上がる。
「かかりましたわね」
だが、それがバンビの狙いだった。
『打ち捨てられたどこかの神を祀る教会の中庭』『路地裏行き止まりの謎の占い小屋』『旧港の端にある祠付き洞窟』。少し足を城壁の外に向ければ『月写しの用水池』『旧市壁の崩れた夕日スポット』『星見の丘』等々――。数えればきりがないほどのスポットが隠されている。決してガイドブックに載る事のないディープすぎるこれらのスポットを巡るのが、冒険者バンビにとってのライフワークとなっていた。
今日も今日とて忙しい依頼の合間を縫って、バンビはリブラネスタ旧市街へと訪れている。目的はもちろんライフワークであるディープスポット巡り。今日はどこへ行こうか。何を見ようか。新たなスポットを探すのも悪くない。そんな事を依頼の最中からずっと考えていた。
「今日から新しい月。やはり、初心に帰ってあの場所ですわね」
冒険者ギルドで少なくない報酬を受け取ったバンビは、それを無造作にポケットに突っ込むと旧市街へ足を向ける。
目的地は既に決めた。リブラネスタ旧市街の一角、半スラムになっているあの場所にある見世物小屋。初めてリブラネスタを訪れた時、旧市街に迷い込み、見知らぬ場所を彷徨い、そして、辿り着いた思い出深い場所だ。
「今日の見世物は何でしょうか。いつもの『アレ』であればいいのですけど」
バンビは幾度となく見た一発芸的見世物を思い浮かべる。一目見れば唖然とし、二目見れば怒りに我を忘れ、三目見れば愚かな自分に嘆息する。そんな『アレ』をバンビは殊の外気に入っていた。
●
リブラネスタ旧市街。冒険者の姿もまばらなこの街を、バンビは勝手知ったる様子でたったと駆ける。のんびりと歩くのは性に合わない。目的を決めたら一直線。どれだけ世界を短縮できるかだけを無意識の内に考え、足を前に出した。
別に足が速い訳でも特別なスキルを使える訳でもない。当たり前だ。自分はシーフでもなんでもない。しかし、だからスピードを求めないのか? 違う、スピードこそ全てに勝る最良。時間の短縮はそれすなわち行動数の増加。出来る事がいっぱい増えるのだから、得しかない。やりたい放題だ。
そんな事を考えながら路地へと入る。細く、暗く、じめじめして、臭い路地をスピードを緩める事無く駆けていく。これが近道。大通りを通ってもいけるが、それだと倍は時間がかかる。
「見えましたわ」
薄暗い路地を通り抜け、辿り着いたのは空き地の裏側。中央には小屋がある。建材の殆どを廃材を利用して作られた、今にも潰れそうな廃墟。それが目的の場所だった。
バンビは表に回ると廃屋の前でピタリと停止し、汚い字で手書きされた看板を覗き込む。
「今日の出し物は――『アレ』ですわね」
お題目を確認するや怪しげな幕がかかる入口へ何の躊躇もなく飛び込んだ。
「おや、いつものあんちゃんじゃありませんわね」
入ってすぐにある受付。何度も通う内に顔見知りのなった受付の青年がいない。代わりに初めて見る親父の顔。
しかし、親父は答えず金を出せと手を差し出してくる。
バンビは無礼な態度に怒りを露に――なんて無駄な事はせず、さっさと駄賃を渡して奥へと足を向けた。
『……なんで客が来るんだ、こんなつまらん見世物に』
などと、聞き捨てならない声が受付の奥から聞こえるが、聞かなかったことにしておく。それくらい今のバンビは胸が高鳴っていた。ハイスピードキャスターの名に恥じぬスピードと、ゴブリン美少女化計画の被験体としての優雅さ、最速かつ最雅の所作をもって、見世物小屋の奥へ奥へと突き進む。
真暗な部屋へと入り、定位置である最前列へと移動した。周りに障害物の気配はない。完全なる貸し切り。絶好のお一人様時間だ。
バンビは今か今かと灯が点灯するのを心待ちにする。
この見世物小屋最大の名物『八尺五寸のおおいたち』。
3m超のただの木の板に、血の色をした塗料をぶちまけただけの定番のいんちき見世物だ。
しかし、バンビはそれが気に入っていた。安い仕掛けで最大限の収益をもたらす。詐欺だとキレられようが、騙された奴が悪い。いや、看板には一切の偽りがないのだから、詐欺でもなんでもない。まさに言葉の勝利。口先三寸で超常の力を発揮する冒険者とそっくりではないか、とバンビは『アレ』に親近感さえ抱いていた。
「む……遅いですわね」
だが、小屋の灯は点灯する気配をまるで見せない。早く来すぎたか、とも思ったが開演時間などあってない様なものだ。それに……。
「……おかしな匂いがしますわ」
元々バラックもいい所のボロ屋だ。決していい匂いが漂うような場所ではない。だが、今日は特別変わった匂いがする。そう、これは嗅ぎ慣れた、あの匂い。
「今日は本物の血を使っていますの……?」
いつもは赤ければ何でもいいとばかりに、うっすい塗料を使う事が多いが、今日のは違う。これは本物の血の匂いだ。
『――っ! ――――っ!!』
突然、部屋の奥で声がした。さっき受付を通る時に天幕の後ろから聞こえた声と同じだ。残念ながら何を言っているのかわからないが、どうも焦っているように聞こえる。
「……今日は随分ときな臭いですわね。演出に凝り出したのかしら」
そう口には出してみるが、もちろんそう思っているわけではない。むしろ、この声を聞いて天幕の向こうの声がどう反応するか見ている。
『――っ!!』
再び天幕の後ろから声がした。今度の感情は……怒り?
「何かありますわね」
バンビは口の中で素早く呪文を唱える。魔力はすぐに反応し、指先に小さな光球を作り出した。
「これは……どういう事か説明してもらえますの?」
そして、照らし出された部屋に、思わずそう呟いてしまった。
部屋の見世物台。いつもはただの血のりの付いたデカい板があるだけの場所に『檻』がある。そして、その中には幽鬼かと見紛うばかりの巨大な『白』が閉じ込められていた。
「見世物を替えた……訳ではなさそうですわね」
と、つぶやいたバンビの声に『白』が反応する。
もたげていた頭を起こし、ぐるりと体を捻った。
巨大だった。まさに八尺五寸。壁のような白い巨体に血の瞳。裂けるように開いた口には、鮫でももう少し上品だと思う程にびっしりと牙が生えそろう。
「魔獣……ですわね。趣旨変更も行き過ぎはよろしくないですわ」
言いつつバンビは僅かに腰を落とす。
先ほど聞こえた声が『食わせてしまえ』と聞こえたから。
先制すべきか一瞬戸惑う。相手は囚われの魔獣。もしかしたら、無理やりに連れてこられたのかもしれない。ならば、元いた場所へと還してやるのが道理か。
――シャギャァァァ!!
「……こちらからの善意は受け取る気がないようですわね」
魔獣の咆哮にバンビは慈悲を捨てた。そして、すぐさま状況の整理を開始する。
部屋……密室。壁材、床材……木。天井……布。檻……木。
波紋を広げるにはいささか心許ない造りの建物ではあるが、幸いにして天井は布だ。破壊しても押し潰されることはないだろう。
そこからのバンビは早かった。魔獣がこちらを獲物と認識すると同時に、詠唱は完了している。
「あんたに恨みはありませんが、食われてやるわけにはまいりませんの」
拒絶の言葉と共に、練成した魔力を吐き出した。
吐き出された魔力の塊が弾丸となり、白い魔獣を打つ。これは小手調べ。効果と魔力の相性を調べるためのただの牽制。
「――無傷ですか」
着弾痕はついている。しかし、白い魔獣にダメージらしいダメージが見られない。
バンビは得た情報を元に、頭の中で魔力を編纂する。
「ならばこれですわ」
魔獣は既に木の檻を破壊した。だが、破片に気を取られて隙だらけ。
バンビは編纂し直した魔力に姿を与える。
「檻が気に食わなかったのでしたら、オレがとっておきをプレゼントいたしますわ」
囁かれる言葉と共に吐き出された魔力が結実。そそり立つ鉄壁へと変じた。
突然目の前に現れた鉄壁に、魔獣は一瞬躊躇するも標的が壁向こうだと思い出し、丸太のような腕を振るった。
鉈のような鋭く太い爪が鉄壁をひっかき、耳障りな高音を発する。そして、鉄壁はあっさりと破壊された。
「なるほど、あれを喰らえばただでは済まない。というよりも、一撃必殺ですわね」
そんなバンビの声は、破壊された檻の方から。
鉄壁を目くらましに移動したバンビは、魔獣の背後を取る。そして、移動中に練成してあった魔力に実を持たせた。
バンビから、氷嵐の姿を借りた純然たる攻撃の魔力が魔獣に襲い掛かる。魔獣は魔力の攻撃力よりもその姿に驚いたのか、大きく距離を取るように跳躍すると、腕で頭を抱え込み防御姿勢を取った。
「弱点は寒さですわね」
その動作に魔獣の弱点を見抜くも、バンビは気温変化をもたらす魔法は会得していない。有効打を見つけても、使えなければ意味はない。
「――と、普通は諦めますわよね」
しかし、バンビは更に魔力を練り上げ、追加の氷嵐を見舞った。
再び室内に氷嵐の姿を借りた魔力の奔流が乱れ飛ぶ。
魔獣は防御姿勢のまま、部屋の入り口付近で伏せ、ぎらつく血色の目でこちらを睨み付けていた。
「本能に嘘はつけませんわ。あんたは所詮、獣ですもの」
バンビは三度目の氷嵐を放ちながら、勝ち誇ったように魔獣に近づいていく。
伏してなお自分の倍ほども高さがある魔獣に、あまりにも無防備に歩み寄った。
これにはさすがの魔獣もプライドが傷つけられたのか、防御姿勢を解き両腕を上げ立ち上がる。
「かかりましたわね」
だが、それがバンビの狙いだった。