ターン・オーバー・ア・ニュー・リーフ
王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 鹿崎シーカー納品 2021年04月19日 12時15分16秒
放課後。大方の生徒が帰宅し、静かになった校舎の廊下を、エルシー・サリバンとハル・チフは並んで歩いていた。
二人そろって尻尾は垂れ下がり、獣耳は半ばで折れ曲がっている。肩を落とした二人は、意気消沈して同時に溜め息を吐く。
今にも泣き出しそうな声で呟くエルシー。
「別寮に移動か留年……。うう、どうしよう……」
「どうしよう、と言われても……うーん……」
ハルは困り顔で片耳の裏を掻きながら言った。
「そもそも僕は今日に至るまで、何かを召喚したことがないのですよ。エルがいるからペガサス寮に決めちゃったけど……正直、本の角で殴る方が早そうなのですよね?」
「でもそれじゃあ留年だよー……」
下顎を上げ、エルシーが嘆く。
二人の後方には遠ざかっていく職員室の扉。その奥で、つい先ほど彼女たちを呼び出した教師は頭痛を堪えるような顔で言ったのだ。『召喚魔法より攻撃魔法の方が得意みたいだし、そっちを活かす方が良いと思うのよ』、と。
エルシーの頭と両肩が、再びがっくりとうなだれる。
「はぁー……こんなはずじゃなかったのになぁ……。精霊とかドラゴンとか呼んで、すごい召喚魔術師になってたくさんお金稼ぎたかったのに……」
彼女のぼやきを聞きながら、ハルは気まずげな表情で明後日の方へ視線を投げる。
(僕はエルと一緒なら、どこでもいいのですけど)
(でも、エルが言うなら、僕も頑張りたいし……)
頭上にふわふわと雲が浮くように、ハルのイメージが展開された。
そろってファードラゴンの背中に乗り、並んで凱旋するハルとエルシー。歓声と割れるような拍手で迎え入れる人々。
(王国いちの召喚師夫婦……えへへへへへ……)
「ちょっとハル、聞いてる?」
「ふぁっ!?」
だらしのない笑みを浮かべていたハルが我に返った。エルシーはそんな彼を半眼で見つめながら、頬を膨らませる。
ハルは慌てて両手を振った。
「き、聞いてる! 聞いてるのです!」
「ほんとかなぁー……」
「本当なのです!」
疑わしげなエルシーに頷いてみせるハル。エルシーはしばしハルを見つめていたが、三度目の溜め息とともに前を向いた。
「とにかく、なんとかしないと……これじゃあ凄い魔法使いどころか、卒業も出来ないよ……」
「そうなのですよねぇ……」
二人はとぼとぼと歩き、帰路についた。
(と、言っていたのが三日前。なのですけど……!)
ペガサス寮の裏庭。ハルは建物の陰から顔を出し、少し離れたところで両手を虚空に掲げるエルシーの背中を見ていた。
彼女の輪郭を白銀色の光が包み、同じ色をした光の粒子が飛び立つ蛍のようにいくつも舞い上がっていく。それは魔法が放たれるサイン。エルシーの詠唱が風に乗ってハルの耳に届く。
「遊覧闊歩、風吹くが如し。淡き鈴の音、静かな足音。波打つ毛皮が細波蹴立てる」
エルシーが括目し、声を張る。
「彼方より来る者、我が声に応えよ!」
そしてハルは見た。エルシー目前の地面に小ぶりな魔法陣が開き、その中央から光の球が窮屈そうにぐいぐいせり上がり、ぽんと音を立てて跳ね出したのを。
エルシーの頭より高く跳んだ白い光の塊は弾け、中から白い毛並みの子猫が現れた。背中には小さな翼。
「ほわぁ……!」
目を丸くし、感嘆の息を吐くハル。彼に気づかぬエルシーは、子猫を両手を捕まえると笑顔で大きくジャンプした。
「やったぁーっ! またまた成功っ! やったやった!」
輝くような笑顔でぴょんぴょんと跳ねるエルシーに持ち上げられ、翼を生やした白い子猫は大欠伸をする。ハルにはその姿が、きらきらと光を放っているように見えた。
「か、かわいい……」
頬を染めながら呟いた瞬間、ハルの眉間に針が刺さったかのような閃き。彼は口元に手を当てて思考する。
(うん? いや、ちょっと待つのです)
(……もし、僕が可愛いもふもふを召喚出来たら……エルがもふもふしに来てくれて……ってなったり?)
ハルの視界に白い煙がほわほわと広がり、イメージを展開。浮き上がるのは、アルミラージとジャッカロープを抱いて喜ぶエルシーの表情。
「すごい! ハル、かわいいの召喚できるんだね! 私、ハルのもふもふもっと見たい!」
「ふわあああ!」
イメージに笑いかけられたハルは尻尾を左右にぶんぶんと振った。沸騰したケトルが勢いよく蒸気を噴き出すような興奮が湧き上がる。
(これは召喚、大事なのでは!?)
弾かれたように飛び出したハルが、エルシーの元へ突っ走っていく。それに気づいて振り返ったエルシーが、驚愕の面持ちをした。
「エ、エル! エル!」
「ハル!? 見てたの!?」
「はい!」
すぐにエルシーの前に達したハルは、彼女の両手を握りしめてまくしたてた。
「エル、お願いなのです! 僕にも召喚を教えて!」
(動機不純でも構わないのです! 僕はいつか、エルをお嫁さんにするのが目標なのですから!)
二人そろって尻尾は垂れ下がり、獣耳は半ばで折れ曲がっている。肩を落とした二人は、意気消沈して同時に溜め息を吐く。
今にも泣き出しそうな声で呟くエルシー。
「別寮に移動か留年……。うう、どうしよう……」
「どうしよう、と言われても……うーん……」
ハルは困り顔で片耳の裏を掻きながら言った。
「そもそも僕は今日に至るまで、何かを召喚したことがないのですよ。エルがいるからペガサス寮に決めちゃったけど……正直、本の角で殴る方が早そうなのですよね?」
「でもそれじゃあ留年だよー……」
下顎を上げ、エルシーが嘆く。
二人の後方には遠ざかっていく職員室の扉。その奥で、つい先ほど彼女たちを呼び出した教師は頭痛を堪えるような顔で言ったのだ。『召喚魔法より攻撃魔法の方が得意みたいだし、そっちを活かす方が良いと思うのよ』、と。
エルシーの頭と両肩が、再びがっくりとうなだれる。
「はぁー……こんなはずじゃなかったのになぁ……。精霊とかドラゴンとか呼んで、すごい召喚魔術師になってたくさんお金稼ぎたかったのに……」
彼女のぼやきを聞きながら、ハルは気まずげな表情で明後日の方へ視線を投げる。
(僕はエルと一緒なら、どこでもいいのですけど)
(でも、エルが言うなら、僕も頑張りたいし……)
頭上にふわふわと雲が浮くように、ハルのイメージが展開された。
そろってファードラゴンの背中に乗り、並んで凱旋するハルとエルシー。歓声と割れるような拍手で迎え入れる人々。
(王国いちの召喚師夫婦……えへへへへへ……)
「ちょっとハル、聞いてる?」
「ふぁっ!?」
だらしのない笑みを浮かべていたハルが我に返った。エルシーはそんな彼を半眼で見つめながら、頬を膨らませる。
ハルは慌てて両手を振った。
「き、聞いてる! 聞いてるのです!」
「ほんとかなぁー……」
「本当なのです!」
疑わしげなエルシーに頷いてみせるハル。エルシーはしばしハルを見つめていたが、三度目の溜め息とともに前を向いた。
「とにかく、なんとかしないと……これじゃあ凄い魔法使いどころか、卒業も出来ないよ……」
「そうなのですよねぇ……」
二人はとぼとぼと歩き、帰路についた。
(と、言っていたのが三日前。なのですけど……!)
ペガサス寮の裏庭。ハルは建物の陰から顔を出し、少し離れたところで両手を虚空に掲げるエルシーの背中を見ていた。
彼女の輪郭を白銀色の光が包み、同じ色をした光の粒子が飛び立つ蛍のようにいくつも舞い上がっていく。それは魔法が放たれるサイン。エルシーの詠唱が風に乗ってハルの耳に届く。
「遊覧闊歩、風吹くが如し。淡き鈴の音、静かな足音。波打つ毛皮が細波蹴立てる」
エルシーが括目し、声を張る。
「彼方より来る者、我が声に応えよ!」
そしてハルは見た。エルシー目前の地面に小ぶりな魔法陣が開き、その中央から光の球が窮屈そうにぐいぐいせり上がり、ぽんと音を立てて跳ね出したのを。
エルシーの頭より高く跳んだ白い光の塊は弾け、中から白い毛並みの子猫が現れた。背中には小さな翼。
「ほわぁ……!」
目を丸くし、感嘆の息を吐くハル。彼に気づかぬエルシーは、子猫を両手を捕まえると笑顔で大きくジャンプした。
「やったぁーっ! またまた成功っ! やったやった!」
輝くような笑顔でぴょんぴょんと跳ねるエルシーに持ち上げられ、翼を生やした白い子猫は大欠伸をする。ハルにはその姿が、きらきらと光を放っているように見えた。
「か、かわいい……」
頬を染めながら呟いた瞬間、ハルの眉間に針が刺さったかのような閃き。彼は口元に手を当てて思考する。
(うん? いや、ちょっと待つのです)
(……もし、僕が可愛いもふもふを召喚出来たら……エルがもふもふしに来てくれて……ってなったり?)
ハルの視界に白い煙がほわほわと広がり、イメージを展開。浮き上がるのは、アルミラージとジャッカロープを抱いて喜ぶエルシーの表情。
「すごい! ハル、かわいいの召喚できるんだね! 私、ハルのもふもふもっと見たい!」
「ふわあああ!」
イメージに笑いかけられたハルは尻尾を左右にぶんぶんと振った。沸騰したケトルが勢いよく蒸気を噴き出すような興奮が湧き上がる。
(これは召喚、大事なのでは!?)
弾かれたように飛び出したハルが、エルシーの元へ突っ走っていく。それに気づいて振り返ったエルシーが、驚愕の面持ちをした。
「エ、エル! エル!」
「ハル!? 見てたの!?」
「はい!」
すぐにエルシーの前に達したハルは、彼女の両手を握りしめてまくしたてた。
「エル、お願いなのです! 僕にも召喚を教えて!」
(動機不純でも構わないのです! 僕はいつか、エルをお嫁さんにするのが目標なのですから!)