スターリィ・スパークル・コンソール
王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 鹿崎シーカー納品 2021年04月18日 23時08分10秒
ドラゴン寮の裏手にある、トレーニンググラウンドを夕暮れが照らす。
一日の終わりが近づく中、巨大な砂の楕円形を描くグラウンドの片隅に配置されたベンチに、沈んだ面持ちのエルシー・サリバンと心優しい笑みを浮かべたネーヴェ・グラヌローザが並んで腰かけている。
エルシーの膝上には彼女に撫でられる黒猫が甘えた声で鳴きながら手にじゃれつき、ネーヴェが肩に左肩に乗った栗鼠の額を指先で掻くようにして愛でる。
黒髪から突き出た赤い狐耳を半ばで折ったエルシーは、ぽつりとつぶやいた。
「ネーヴェ……期末試験、どうだった?」
「わたくしですか? うーん……」
ネーヴェが困った顔で笑う。脳裏には、つい昨日このグラウンドで行われた試験が―――ドラゴン寮寮長を含む教師三人が立つ中で、サンドバッグ代わりの案山子へ生徒が魔法攻撃する光景が蘇る。
ネーヴェは、目の前で光が泡のように虚しく爆ぜ消えたのを思い出し、内心でぼやいた。
(散々だったーなんて、エルには知られたくないかも……)
胸元を指で押されるような、ほんの小さな恐怖の感覚を抱きながら応える。
「まあまあ、でしたよ?」
「……そう」
エルが生返事をした。ネーヴェの愛猫アーテルは、エルの手を前足で抱きかかえて無邪気に一声鳴く。
エルはくしゃっと顔を歪めた。
「私ね、全然だめだった。先生に……このままだと進級できないって……」
ネーヴェの微笑が、憂いを帯びた表情に変わる。かき抱いたエルの手が震えはじめたのを受け、アーテルが不思議そうにエルを見上げた。
エルは空いた片手で、目に浮かび始める涙をぬぐう。
「召喚するのをもっと強くイメージし引き寄せるって教えて貰って……ずーっと練習してきて……それでもだめだった……。沢山イメージしてるのだけどなぁ……なにがわるいのかな……」
やがてエルシーはすすり泣き、アーテルに雫を落とし始めた。
アーテルが居住まいを正してエルシーに鳴き、栗鼠のティムが主の落涙を察知してネーヴェの肩から飛び移る。
ネーヴェは、心臓を針でチクリと刺されたような痛みを感じた。彼女は不意に立ち上がり、数歩進み出る。そして、ベルトに差したガラス棒めいたタクトを引き抜いた。
「エル、ちょっと見てて」
肩越しに振り返って微笑むネーヴェ。赤く腫らした両目を上げるエルシーの前で、ネーヴェはタクトを上下に揺らす。
「3、2、1、はいっ!」
ピンと突きつけたタクトの先端に光が灯り、泡のように弾けた。ネーヴェは苦笑するともう一度タクトを揺らし始めた。
「3、2、1……それっ!」
突き上げたタクトの先から、細かな星に似た光がきらきらと輝き、螺旋を描いてネーヴェを包む。
夕焼けの中に散る煌めきに、エルシーは黒猫と栗鼠と一緒に目を奪われた。
ネーヴェは照れくさそうに笑う。
「えへへ、成功です! ……と言っても、試験の時には出来なかったんですけどね。ごめんなさい、エル。わたくし、ちょっと嘘ついちゃいました」
「え……?」
聞き返すエルシーに、ネーヴェは所在なさげにタクトの先を弄りながら告解する。
「わたくしもその……だめで。ほんとは攻撃魔法、あんまり得意じゃないんです。きっと、召喚魔法より簡単なのに、それも出来なくって」
ネーヴェは気まずげに、ちらちらとエルシーの顔を伺いながら言った。
「エルのやってる召喚魔法……想像を形にするのって、とても難しい……って聞きます。そんな難しい魔法に挑戦するエルは凄いのよ。親友のわたくしが言うんですから間違いないです」
「すごい……? 私が?」
「はい!」
笑顔で強く頷いたネーヴェは、エルシーの隣に戻って彼女の肩を抱きしめる。良く晴れた日の草原めいた香りがネーヴェの鼻孔をくすぐった。
「エルはイメージする為の、わくわくやドキドキ、キラキラを沢山持ってます。だから大丈夫、エルならきっと出来ます」
エルシーが再び涙ぐむ。胸の内側にわだかまる、優しい温もり。エルシーはネーヴェに身をゆだねた。
「ありがとうね……ネーヴェは気付くとそっと包んでくれてる雪みたい……雪の精霊はネーヴェみたいなのかな?」
「ふふふ、どうでしょう。もしかしたら、出てきちゃうかもしれませんね」
アーテルが喉を鳴らしながらエルシーの腹に頬ずりをし、ティムは主の目元を嗅ぎまわる。
エルシーは己の両手を見下ろした。カラの指先に、白い煌めきを幻視する。それは数瞬前の、ネーヴェの出した魔法に似ていた。エルシーは両手を握り込む。
「……次、やってみていいかな」
「はい」
ネーヴェはエルシーを離し、アーテルとティムを抱き寄せる。
立ち上がり、深呼吸をひとつ入れるエルシーを、涼やかな風が撫でた。
一日の終わりが近づく中、巨大な砂の楕円形を描くグラウンドの片隅に配置されたベンチに、沈んだ面持ちのエルシー・サリバンと心優しい笑みを浮かべたネーヴェ・グラヌローザが並んで腰かけている。
エルシーの膝上には彼女に撫でられる黒猫が甘えた声で鳴きながら手にじゃれつき、ネーヴェが肩に左肩に乗った栗鼠の額を指先で掻くようにして愛でる。
黒髪から突き出た赤い狐耳を半ばで折ったエルシーは、ぽつりとつぶやいた。
「ネーヴェ……期末試験、どうだった?」
「わたくしですか? うーん……」
ネーヴェが困った顔で笑う。脳裏には、つい昨日このグラウンドで行われた試験が―――ドラゴン寮寮長を含む教師三人が立つ中で、サンドバッグ代わりの案山子へ生徒が魔法攻撃する光景が蘇る。
ネーヴェは、目の前で光が泡のように虚しく爆ぜ消えたのを思い出し、内心でぼやいた。
(散々だったーなんて、エルには知られたくないかも……)
胸元を指で押されるような、ほんの小さな恐怖の感覚を抱きながら応える。
「まあまあ、でしたよ?」
「……そう」
エルが生返事をした。ネーヴェの愛猫アーテルは、エルの手を前足で抱きかかえて無邪気に一声鳴く。
エルはくしゃっと顔を歪めた。
「私ね、全然だめだった。先生に……このままだと進級できないって……」
ネーヴェの微笑が、憂いを帯びた表情に変わる。かき抱いたエルの手が震えはじめたのを受け、アーテルが不思議そうにエルを見上げた。
エルは空いた片手で、目に浮かび始める涙をぬぐう。
「召喚するのをもっと強くイメージし引き寄せるって教えて貰って……ずーっと練習してきて……それでもだめだった……。沢山イメージしてるのだけどなぁ……なにがわるいのかな……」
やがてエルシーはすすり泣き、アーテルに雫を落とし始めた。
アーテルが居住まいを正してエルシーに鳴き、栗鼠のティムが主の落涙を察知してネーヴェの肩から飛び移る。
ネーヴェは、心臓を針でチクリと刺されたような痛みを感じた。彼女は不意に立ち上がり、数歩進み出る。そして、ベルトに差したガラス棒めいたタクトを引き抜いた。
「エル、ちょっと見てて」
肩越しに振り返って微笑むネーヴェ。赤く腫らした両目を上げるエルシーの前で、ネーヴェはタクトを上下に揺らす。
「3、2、1、はいっ!」
ピンと突きつけたタクトの先端に光が灯り、泡のように弾けた。ネーヴェは苦笑するともう一度タクトを揺らし始めた。
「3、2、1……それっ!」
突き上げたタクトの先から、細かな星に似た光がきらきらと輝き、螺旋を描いてネーヴェを包む。
夕焼けの中に散る煌めきに、エルシーは黒猫と栗鼠と一緒に目を奪われた。
ネーヴェは照れくさそうに笑う。
「えへへ、成功です! ……と言っても、試験の時には出来なかったんですけどね。ごめんなさい、エル。わたくし、ちょっと嘘ついちゃいました」
「え……?」
聞き返すエルシーに、ネーヴェは所在なさげにタクトの先を弄りながら告解する。
「わたくしもその……だめで。ほんとは攻撃魔法、あんまり得意じゃないんです。きっと、召喚魔法より簡単なのに、それも出来なくって」
ネーヴェは気まずげに、ちらちらとエルシーの顔を伺いながら言った。
「エルのやってる召喚魔法……想像を形にするのって、とても難しい……って聞きます。そんな難しい魔法に挑戦するエルは凄いのよ。親友のわたくしが言うんですから間違いないです」
「すごい……? 私が?」
「はい!」
笑顔で強く頷いたネーヴェは、エルシーの隣に戻って彼女の肩を抱きしめる。良く晴れた日の草原めいた香りがネーヴェの鼻孔をくすぐった。
「エルはイメージする為の、わくわくやドキドキ、キラキラを沢山持ってます。だから大丈夫、エルならきっと出来ます」
エルシーが再び涙ぐむ。胸の内側にわだかまる、優しい温もり。エルシーはネーヴェに身をゆだねた。
「ありがとうね……ネーヴェは気付くとそっと包んでくれてる雪みたい……雪の精霊はネーヴェみたいなのかな?」
「ふふふ、どうでしょう。もしかしたら、出てきちゃうかもしれませんね」
アーテルが喉を鳴らしながらエルシーの腹に頬ずりをし、ティムは主の目元を嗅ぎまわる。
エルシーは己の両手を見下ろした。カラの指先に、白い煌めきを幻視する。それは数瞬前の、ネーヴェの出した魔法に似ていた。エルシーは両手を握り込む。
「……次、やってみていいかな」
「はい」
ネーヴェはエルシーを離し、アーテルとティムを抱き寄せる。
立ち上がり、深呼吸をひとつ入れるエルシーを、涼やかな風が撫でた。