【不良学園】悪童七番勝負

王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 おおくまねこ納品 2021年04月28日 11時34分52秒

●プロローグ
「俺はこの学院で天辺(てっぺん)を取ってやる!」
 グリフォン寮1年、青柳(アオヤギ)・龍一(リュウイチ)。十二才。
 このアプリーリス魔法学院に入学したばかりながら、早くも学園の天辺(てっぺん)を狙っている問題児だ。龍一は学院内で聞いた噂を頼りに、まずは強そうな奴探し、見つけたら片っ端から果たし状を送るつもりである。とりあえず果たし状を七通ほど用意した龍一の覇道が今幕を開ける!

●第一話 二ノ宮鉄騎
 龍一が一人目の果し合いの相手に選んだのは、二ノ宮 鉄騎(テツキ)というオウル寮の五年生だった。彼は学院内でも有名な札付きのワルだ。龍一が彼を最初の相手に選んだのは、とりあえず強そうな奴をシメておけばすぐてっぺんに近づけるだろう、という極めて単純な理由である。

「果たし状? 今時古風だな……まあいい。いつも通りぼっこぼこにしてやんよ」
 鉄騎は龍一からの呼び出しに応じてやることにした。相手は四才年下だと思われるが、手を抜くつもりはない。指定された時間に鉄騎が屋上に足を運ぶと、バットを持った生意気そうな少年がウンコ座りしていた。
「アンタが鉄騎だな。俺は青柳・龍一。悪いが、アンタには俺がてっぺん取るための踏み台になって貰うぜ。俺に敗けたらてめえは俺の子分になるんだ、いいな?」
 見た目通りの不遜さだった。俺の腹ぐらいまでしか身長の無いこのガキは、本気で俺に勝てるつもりでいるらしい。
「いいぜ。だが、男なら拳(こっち)で来な」
 立ち上がり、ニヤリと悪どい笑みを浮かべる青柳少年に鉄騎は手の甲を示した。男同士の会話(ケンカ)はやはり拳と拳に限る。
 龍一は「いいぜ」とバットを床に放った。龍一はこの魔法杖(バット)で学院を制覇するつもりだが、相手が素手での勝負をお望みなら、相手の土俵で戦ってこそ男だ!
「行くぞ、二ノ宮ァ!」
「来いや、一年坊!」
 勝負は二ノ宮がやや優勢だった。喧嘩の場数やリーチは二ノ宮が有利だったが、青柳は身体強化魔法(フィジカルエンチャント)を駆使し、その差を埋めてきたのだ。
両者の激突は乱打戦になり、互いに血反吐を吐く死闘となったが、先に膝を着いたのは龍一の方だった。
「てっぺんが取りてぇ……? 面白れぇじゃねぇか。そんなもん俺を倒せねぇようじゃとれねぇけどなぁ。テメェの本気、見せてみろや!!」
 ちょいちょいと、手招きをする鉄騎。龍一はニヤリと笑うと、二ノ宮に向かって渾身のストレートを放った!
 ガンッ!
 屋上に凄まじい衝突音がした。そしてどさりと人が倒れる音。勝ったのは、クロスカウンターを叩き込んだ鉄騎の方だった。
「いい根性してんじゃねえか、龍一」
 口からぺっと血を吐き出し、鉄騎はニヤリと笑った。

●第二話 角染雅殻
「お前がリューイチだろ? っかー、天辺からつま先まで血気盛んでよろしいことで! 話聞いたぜ、おもしれーことすんだろ? 俺にも一枚噛ませろや!」
 授業をサボり、屋上でダべっていた龍一と鉄騎にフレンドリーに話しかけてきたのは、銀髪の貴公子然とした青年だった。名を角染(スミゾメ) 雅殻(マサキ)。ただし、その足取りは妙にふらついている。自作の薬(ポーション)でいい感じにキマッているからである。
「ん? あんた、俺の舎弟希望者か?」
 龍一はじろりとで雅殻を見た。敵意は無さそうだが……。
「んー。どっちかと言うと、同盟だな。お前がこの学院の天辺(てっぺん)取るの、俺がサポートしてやるぜ。この学院の上級生は曲者揃い。お前らだけでは手に負えん」
 雅殻はぷはーと、ハーブの香りがするブレスを吐いた。
「なんかうさんくせえなあ……俺はどんなヤツが相手でもこのバットでぶっ飛ばすだけだぜ!」
 龍一はぶんぶんと自慢の魔法杖(バット)を素振りした。
「つっても上級生連中ガチでやべぇやつばっかだしなー。一筋縄じゃあいかんぞ、うん。てなわけでだ、脱げ!」
「なんでだよ!」
 突然の脱衣要求に龍一は困惑した。まさか、この男にはヤバい趣味が!?
「上だけでええ。背中に俺が開発した短期決戦用の強化魔法の文様を彫ってやるよ。しかもドラゴンの模様だ。かっこいいだろ?」
「それはカッコイイな! ぜひ頼むぜ!」
 龍一はイイ笑顔で即答した。突っ張っていてもまだ十二才。龍(ドラゴン)とか大好きなお年頃なのであった。
「よし、同盟成立や。任せとけ!」
 こうして、龍一と雅殻の同盟が成立し、龍一の背には雅殻メイドの強化紋章が刻まれたのであった。

●第三話 ハガネ・シラスミ
「で、次の相手は誰だ? 龍一」
 晴れて龍一の仲間になった雅殻はにこやかに問いかけた。
「ハガネ・シラスミってヤツだな。結構噂になってたから、果たし状を送ったぜ!」
「あのグリフォン寮の『狂犬』か。奴は大人しそうな見た目の割に手ごわいぞ」
 ハガネの噂は鉄騎も聞いたことがある。温厚そうな顔立ちながらも激情家で、ひとたび火が付けば、手が付けられなくなると言われているヤツだ。そしてついたあだ名は「狂犬」。
「なんでも、噂じゃあヤツは頭突きで岩を砕けるらしい」
「そいつは凄えな。倒しがいがあるぜ」
「頼もしいじゃねえか。早速、俺がやった紋章も役に立ちそうだな」
 ハガネの噂を聞かせても、龍一はもの怖じしない。鉄騎はこいつはしょーがねえな、と苦笑した。

「やあ、君がおれに手紙をくれた一年生かな?」
 校舎裏へとやってきたハガネは、にこやかに龍一へと問いかけた。
「おう! 俺は青柳・龍一! アンタに決闘(タイマン)を申し込む! 俺が勝ったら舎弟になってもらうぜ!」
「いいよ。君みたいな子、嫌いじゃあない。ルールは何でもありでいいのかな?」
「応ッ! 俺はこの魔法杖(バット)を使う! アンタも好きなだけ魔法を使え!」
「OK。じゃあ、始めよう。かかっておいで」
 ハガネはあっさりと決闘を受諾し、悠然と両手を広げた。
「行くぞオラァ!」
「よっしゃ、行けリューイチ! 背中の龍は短期決戦用やぞ!」
 背中に輝く龍の紋章を背負った龍一は、突進して一気に距離を詰め、ハガネに向かって魔法杖(バット)をフルスイングした。ハガネは手を前に突き出すと、光の盾で龍一のバットを受け止めた。
 ビリビリと、激突の衝撃が龍一の腕に痺れを残す。龍一は構わず、バットを何度も振りかぶった。バキン、バキンと音が響き、少しずつ盾にヒビが入っていく。
 そして、龍一のバットはついにハガネの防壁魔法を突破した!
「ドタマ、カチ割ったらぁ!」
 龍一のバットが、ハガネの額を直撃し、額から一筋の血が流れた。会心の一撃。確かな手ごたえが龍一の手に残った。
 だが――。
「ふんッ!」
「何ッ!?」
 なんと、龍一のバットの直撃をもらったはずのハガネはまだ意識を保っており、頭突きで反撃してきた。予想外の反撃をもらい、龍一は一撃でグロッキーになる。
「いい一撃だった。頭以外ならおれが負けてたかも」
 額から一筋の血を流しながら、にこにことハガネが言った。
「な、なんつー石頭だ……」
 ふらふらとよろける龍一を、ハガネは優しく抱き留める。笑顔のまま、龍一を強化魔法モリモリの両腕で担ぎ上げ、ヘブン高い高いを敢行。
「これは頑張ったご褒美だよ」
「ぎゃああああ! 高けーよ! 降ろせー!」
 龍一は百メートルの高所からの自由落下(フリーフォール)を何度も体験させられ、ギブアップした。
「あ、そういえばあのドラゴンの強化魔法、副作用あるの言って無かったな。うっかり言い忘れた」
 ポンと、手を打つ雅殻。
 翌日、龍一は全身筋肉痛になって体中日焼けしまくったように火照った状態になってしまったのだった。

●第四話 十六島甘美
 ペガサス寮三年生、十六島(ウップルイ)・甘美(カンミ)はゾンビである。今日も青白い顔で彼女が廊下を徘徊していると、なんだか廊下に人だかりが出来ていた。甘美がなんだろう、と近づいてみると――。

「おい龍一。もうすぐ先公がくんぞ。勝っても負けてもいいから早くカタ付けろ」
 人払いの結界を張っていた鉄騎が龍一に忠告した。龍一は今、生意気な新入生の噂を聞いてタイマンを挑んできた上級生と決闘をしているのだ。
「おう! すぐ終わる!」
 龍一は魔法杖(バット)をフルスイングし、上級生を打ちのめした。上級生は廊下をかっとんでいき、甘美と激突した。
「おいおい」
「あんなとこでボサッと見ている方が悪……い!?」
 鉄騎と龍一は顔面蒼白になった。なんと、とばっちりを受けた女性徒は、哀れ、首がもげていたのである。
「……」
 痛々しいほどの沈黙が場を支配する。
「ムショでも元気でな。時々差し入れはしてやる」
「ああ……。筋は通さねえとな……」
「あの、私死んでませんよ? 元々死んでるので……」
「!?」
 突然、廊下に転がっていた生首がしゃべりだし、二人は仰天した。甘美の胴体はもげた首をひょいと拾い、くっつけて元通りにした。
 甘美は硬直している二人にぺこりと一礼し、そのまま立ち去ろうとした。
 
「待ってくれ! アンタ! ゾンビって強そうだな! これを受け取ってくれ!」
 龍一の強い奴センサーが発動したのだ。龍一は去ろうとする甘美に追いすがり、果たし状を渡した。
「ええっ! つ、強くない! 強くないよ私! ぞ、ゾンビってそんなに強くないから……!」

●
 その日の夕方、甘美は校舎裏で龍一と向き合っていた。
「俺が勝ったら舎弟になって貰うぜ、ゾンビ先輩!」
「いや、私決闘とかできないから! そっちの不戦勝でいいから、もう校舎の中で暴れないってお姉さんと約束してよ!」
「なるほど、三年生の校舎はアンタのシマなんだな? ペガサス組のアンタが俺の下につく代わりに不可侵条約を結びたいと……いいぜ!」
 ヤクザ脳の龍一は、甘美の言い分を見事に勘違いした。
「いや、そうじゃなくて……でもまあ、もう暴れないならそれでもいいや……」
 こうして、甘美は龍一の軍門に下ったのだった……。

「龍一君、困ってることがあったら何でも言ってね。お姉さんが力になってあげるから」
 その後、なんかかんやで甘美は龍一の世話を焼こうとしていた。
「十六島パイセン! 焼きそばパン買ってきて!」
「はいっ! ……あれ……? 私もしかして良いように使われてる……?」

●第五話 北斗・順凪
「龍一ってのはお前か?」
「おう! 俺が青柳龍一だ! 俺とタイマンしろや、『バンカラ番長』北斗(ホクト)・順凪(カズナ)!」
 龍一の威勢のいい名乗りを聞いて、順凪は肩を竦めた。
(何でも、この一年生はこの学校の天辺を取る為、俺を倒したいらしい)
 何を言っているのかよくわからないが、自分がバンカラ番長と呼ばれていることは事実だ。俺は自分から喧嘩を売ることは無いが、ガラが悪く、腕っぷしが立つので、今回のように喧嘩を売られることが多い。降りかかる火の粉を払っていたら、いつの間にかバンカラ番長と呼ばれるようになっていた。

「別にいいけど、その前に聞かせろ。お前、なんで天辺なんか目指してるんだ?」
 そもそも天辺って何だ。屋上か?
「それは俺が、男に生まれたからだ! 男に生まれたからには、天辺を目指すべきだ。そうだろ?」
 そう答えた龍一の瞳はキラキラと輝いていた。龍一はこのアプリーリス魔法学院を平定し、いずれは全国制覇を成し遂げるという夢を語った。
「卒業までに、俺の名をこのビクーニャ王国に轟かせてやる! この魔法杖(バット)でな! だから俺は天辺を取るんだよ!」
「……」
 やったらキラキラした瞳で天辺への憧れを語る龍一を見ていて、俺の考えは変わってきた。
(考えてみたら、今まで俺は天辺からの景色なんて見た事もないし想像した事もなかった。それを、このガキは……)
「俺も見てみたいもんだな、天辺からの景色を」
 俺は微笑み、つかつかと龍一の側に近づくと、しゃがみこんで龍一の肩をがっしと掴む。
「行こうぜ、俺達で! 天辺へ!」
 
 こうして、順凪も龍一の仲間になったのだった。……果し合いどこいった。

●第六話 パヴェル・A・サムルガチェフ
「すみません青柳くん、また焼きそばパン、買えませんでした……」
 甘美はしょんぼりと項垂れた。この学院では焼きそばパンは超人気商品であり、熾烈な競争に勝ち抜かねば買えないのであった。
「そっかー。まあ無ェもんは仕方ねえ。ご苦労さん、十六島パイセン」
 龍一は(舎弟だと思っている)甘美の労をねぎらった。
「龍一君、焼きそばパンが欲しいのかい?」
「ハガネ先輩」
 龍一たちが屋上でたむろしていると、ハガネが姿を現した。彼は決闘の件で龍一のことが気に入ったらしく、時折たまり場に遊びに来るのだ。
「この学校には焼きそばパンにまつわる伝説があってね……『彼』を倒せば、焼きそばパンがいつでも手に入るかもしれないよ」
「何ッ!?」
 ハガネの言葉に、全員の視線が集中した。そして、ハガネは「最速の焼きそばパン」と呼ばれる男について語り始めた……。

●
「なぜ……お、俺の所にこんなものが……?」
 果たし状と書かれた一通の手紙を見て、少年は青くなっていた。何を隠そう彼こそ、『最速の焼きそばパン』の異名を持つ生ける伝説、パヴェル・A・サムルガチェフである。
「決闘なんてできないよ……」
 パヴェルはガタガタと震えた。彼は恵まれた体躯をしており、幼少の頃はもっと明るい性格だったのだが、学院で人々の好奇の視線に晒され続けたことですっかり気弱な性格になってしまったのだ。
「でもすっぽかしたら……後が怖いしなぁ……」
 結局、パヴェルは震えながらも、呼び出しに応じたのであった……。

●
「お、俺に……何の用だろうか……」
 びくびくしながらパヴェルが待ち合わせ場所に行くと、そこにはやけに威勢のいい少年が仁王立ちしていた。
「でけえ……」
 龍一は、運動場に現れたパヴェルの姿を見上げた。パヴェルは馬の下半身を持っている。十二才の龍一と比べれば、身長は三倍近くあるだろう。
「アンタがウマ雄か。ここに呼ばれた理由は分かるよな。俺と決闘しろ! 俺が勝ったら、アンタには毎日俺の為に焼きそばパンを買ってきてもらう!」
「なに……」
 そんなことでいいのか。自分は毎日学食だし、一個余分にパンを買うぐらいなら、代金さえ貰えれば構わないのだが……。
「決闘の種目はアンタの得意そうな障害物レースだ。嫌だ、とは言わせないぜ」
 青柳は不敵な笑みを浮かべた。
「分かった……受けて立とう……本当に……殴らないんだな……?」
 殴り合いならともかく、競争なら別に痛くない。パヴェルは龍一の挑戦をおっかなびっくり受けたのだった。
 そして――。

「おい、龍一! 引き離されてるぞ! もっと気合を入れろ! お前が負けたら俺の全財産が……!」
「よし! ネットくぐりは龍一が有利だ! とにかくちっこいからな!」
「ああっ! パン食い競走も龍一君が不利では!? 誰です、あんな短い紐にしたのは!」 

 仲間達の熱い声援も空しく、レースの勝者はパヴェルとなった。
「負けたぜ……アンタは今日から俺のライバルだ」
「あ、ありがとう。久々に、楽しい走りだった……」
 龍一が差し出した手を、パヴェルは力強く握り返した。

●第七話 リンタロウ・イナバ
「なに、果たし状……? 差出人は……グリフォン寮、ウィリアムんとこの一年坊? ったくあの坊っちゃん、てめえんとこの奴の手綱くらい握ってろってんだ」
 オウル寮の自室に届いた果たし状を見て、リンタロウ・イナバは顔をしかめた。彼は不良のような外見をしているが、特段問題児というわけではない。むしろ勉学に励む優良学生である。顔のせいで周囲からは不良扱いされることが多いのだが。
「あー面倒くせえ。いちいち相手してられっか俺ァ逃げんぞ」
 リンタロウは果し合いの日、龍一に指定された場所には行かず、普通に授業を受けて寮に帰った。そしてその翌日。
「おい先輩! よくも俺との勝負すっぽかしやがったな!」
 昼休み、リンタロウの教室に魔法杖(バット)を持った龍一が殴り込みに来た。
「チッ! うぜぇ! 一年坊(ガキ)の相手してるほど暇じゃねえんだ! あばよ!」
 リンタロウは教室で絡まれるのも面倒だと、一目散に逃げ出した!
「あっ! てめー! 待ちやがれ! あと十六島パイセン! 焼きそばパンとカレーパン買っとけ!」
 全力ダッシュで標的(リンタロウ)を追いかける龍一。ここに、二人の壮絶な鬼ごっこが始まった!

「はい、よってらっしゃい。今日のトトカルチョ対象は龍一とリンタロウの鬼ごっこ! 龍一が追い付くか、それともリンタロウが逃げ切れるか! さあ、一口500Gから……」
「あの……教室でギャンブルは校則違反なのでは?」
 教室の隅っこでは、空いている机を占拠して雅殻が賭博を開催し始め、甘美が突っ込みを入れていた。

●
「何年この学園にいると思ってんだ、秘密の抜け穴も近道も全部把握してらァ」
 俺は在学期間十年(※アプリーリス魔法学院は六年制)とも噂される学生生活で培った知識をフル活用し、龍一の追跡から逃げ回っていた。俺は知識を司る梟(オウル)寮の六年生。ただの脳筋とは違うのだ。
「……って思ってたんだが……結構しつけえなおい!! 元気が有り余ってるようで何よりだよ畜生!!」
「待ちやがれー!」
 龍一はどこまでも執拗に俺を追いかけてきた。
「おい、龍一! あっちにいったぞ!」
「龍一、こっちの土管はワープゾーンだ!」
 さらに上級生である鉄騎と順凪の入れ知恵もあり、俺はなかなか龍一を撒けないでいた。というか、あの二人はなんで一緒に追いかけて来やがるんだ。

「こうなりゃ奥の手の転移魔法陣カーペット試作機一号の出番か?」
 俺は懐から一枚のカーペットを取り出した。これは瞬間移動を可能とするマジックアイテムだ。だがまだ試作品故、魔力コスパはいいが転移先が不安定、あらぬところに飛ばされたりもする。
「ええい、ままよ!」
 さっさとしないと昼休みが終わっちまう。俺は天に祈りながら、カーペットに魔力を籠めた。

「よし! 捕まえたぞ!」
「なんでじゃああああ!」
 俺が転移した先は、龍一のすぐ目の前であった。もちろん、そのまますぐに引きずり倒され、俺はあえなく捕縛された。
「好きにしろや……」
 すっかりくたびれたリンタロウは、バタリとダウンしたのであった。

●第八話 最凶人魚・影
 サーペント寮4年生、影(ミカゲ)。人魚である彼女は、常に水球の中に入って生活している。しかし、そのファンタスティックな姿とは裏腹に、影は学園最凶説も囁かれる札付きのワルである。彼女は喧嘩っ早く、売られた喧嘩は全て倍返しで叩きのめしてきた。そんな彼女の元に、一通の果たし状が届いたのである。
「グリフォン寮一年、青柳龍一……楽しめそうじゃないか」

●
 そして、おなじみの河川敷で龍一は影と一対一で向かい合っていた。
「チィ……」
 リンタロウは野次馬の中に混ざり、苛立たし気に成り行きを見守っていた。彼は怨敵龍一がまた騒動を起こしたと聞き、見物に来たのだ。
「これは好カードだな。儲かりそうだ」
 相変わらず龍一の決闘で賭けをしている雅殻はほくほく顔だ。
「龍一。久々に小細工抜きの決闘(タイマン)だぞ。気合を入れろ!」
 鉄騎は龍一を激励した。
 ルールは何でもあり。二人の誇(プライド)りを賭けた決闘が今始まる!

「お友達が多いじゃないか。なら、あたしとも仲良くしてくれるよな!」
 先に仕掛けたのは影だった。錨型のマジカルステッキを片手で振り上げた影はぶんぶんと遠心力を付け、龍一へと叩きつける!
 龍一は後ろに飛び、ひらりと身を躱した。すると、超重量の錨との衝突で地面が大きく抉れ、砕けた地面の破片が龍一の頬を叩いた。
「ハハハハッ楽しいなァ、楽しいなァ。こうしてるのが一番好きなんだよ」
 影は続けて、飛び道具の水球を連続で放った。
「うおおおッ!」
 龍一は魔法杖(バット)で水球の一つを打ち返し、ピッチャー返しの要領で影へと跳ね返した。影は反射的に水球を避けたが、その隙に龍一は強化魔法を足に集中させ、一気に距離を詰める!
「うるぁああ!」
 腰を狙った一打が影に突き刺さり、影の胴体がくの字に曲がる。龍一はさらにバットを振り上げ、トドメの一発を叩き込もうとした。だが、その直前、影を包む水が腕の形に盛り上がり、龍一の胸倉をつかんだ。龍一は水中へと引きずり込まれた上、バットだけを弾き飛ばされ、丸腰で水球に捕獲された!
「今どんな気持ちだ? フフ」
 妖艶な笑みを浮かべる影に対し、龍一は不敵な笑みで応えた。
 両者の戦いは接近戦(クロスレンジ)での乱打戦となった。我慢比べだ。だが、水中戦は影が圧倒的有利。ならば、龍一が破れるのは必定なのか。
「そらそらぁ!」
 そして、影の執拗なボディブローに体力を奪われ……龍一はついに意識を失った。
「フフ、久々に楽しかったぞ」
 勝利を確信し、影は龍一を水球から弾き出した。
 だが――。
「龍一! 根性見せろや! 俺と勝負(クロスカウンター)した時みてーによォ!」
「リューイチ、立てよ! お前の力はそんなもんじゃねえだろ?」
「龍一君、頑張れ! 勝ったらまた高い高いしてあげるから!」
「青柳君、立って下さい! お姉さんも応援してますよ!」
「龍一君! 立つんだ! もう一度俺と競争するんじゃなかったのかい!?」
「龍一ィ! てめぇ、俺と一緒に天辺取るんじゃねえのかよ! 最後まで同じ夢、見せろよ!」
「おい龍一、てめェ、もう終わりなのかよ? オレを捕まえた時の元気はドコ行ったんだ、コラァ!」
 これまで龍一と戦い、強敵(とも)となった者達が口々に龍一の名を呼んだ。その叫びが聞こえたのか、龍一は近くに転がっていた魔法杖(バット)を支えに再び立ち上がった。
「馬鹿な、立てるはずが……」
「俺は! 天辺を取る!」
 吠える龍一。再び輝く背中の龍(ドラゴン)の紋様。そして、龍一が最後の力を籠めて倒れ込むように放ったスイングは、影の顎を撃ち抜いた。
「がはっ……!」
 どさりと倒れる影。すぐに立ち上がろうとするが、彼女の闘志に体は呼応しなかった。そして無情の10カウント。この勝負、龍一の勝利だ。
「くそ……! 負けた! だが、おまえとの喧嘩は楽しかった。それに、良い仲間を持ったな。龍一」
 負けたことは素直に悔しいが、影は満足していた。
「何、他人事みたいに言ってるんだ。決闘で負けたからには俺の舎弟だ。アンタも『龍一組』の一員として働いてもらうんだよ!」
 ふらふらになりながらも、倒れた影に手を差し出す龍一。その言葉に、影の口元が綻ぶ。
「そうか、私も龍一組の一員か。それは仕方ないな。くくく。はっはっはっはっは!」
 大笑いしながら、影は龍一の手を取った。

 心地よい春風が河川敷を吹き抜け、風に乗った桜の花びらが宙を舞う。龍一組の覇道はまだ始まったばかりである――。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0