約束の鍵

王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 真柄 葉納品 2021年04月24日 19時19分38秒

「キリク、それとってー」
「自分で取れよ、僕は今手が離せない」
 ここはサーペント寮備品倉庫。一番上が見えないほど高い棚がぎっちりと並び、様々な薬、材料、触媒、毒――揃わないものはないかと思える程の膨大な品ぞろえが自慢の魔法学院きっての保管庫だ。
 そんな場所で、キリクとゲルトのサーペント寮2年生コンビは、薬棚を漁っていた。
「まったく、先輩にも困るよな。欲しいなら自分で取りに来いっての」
 細い箒の上に、まるで軽業師のように立ち高所の薬品に手を伸ばすキリク。
「教えてもらう立場なんだから、これ位はしないと駄目だろ」
 一方、床で別の薬品を探しているゲルト。
「はぁ、早く一人で調合できるようになりたいな。授業だるいし」
「そうかな? オレはゆっくりでもいいな。授業聴くの楽しいし、文字を書くのはもっと楽しい」
「そういやこの間、レポートを先輩に褒められてたな」
「ああ、マンドラゴラの葉っぱの活用法か。あれは我ながらよく書けたなって思ってる。キリクもよかったら読んでくれよ」
「えー、やだよ。面倒くさい」
「いやいや、面倒臭いって……なんでサーペント寮に入寮したんだ。もっと探求心を燃やそうよ!」
「そう言うのは、もうちょっと上級の素材を使えるようになってからだな。基礎調合じゃ結果が見えててつまらないし」
「何言ってるんだ、基本こそ一番大事なんじゃないか。何事も基本ができていないと上級生になった時に苦労するんだぞ」
 棚の上下で作業しながら、二人はいつものように他愛のない会話を重ねる。
「必要な物だけ習得すればそれでいいんだよ。広く浅くは要らない。一極集中で得たい知識があるからな」
「また言ってる。だからあれは伝説にの類する話だって、先輩も言ってたじゃないか」
「伝説じゃない。あれは実在するんだ」
「小さい頃見たから、でしょ? あんまり疑いたくはないけど、本当なのか?」
「本当だって何度も言ってるだろ」
「でも、この倉庫にもないんだぞ? ここにないって事はよっぽだどレアか、そもそも存在しないって事だよ」
「だから『開かずの薬棚』を探してるんだろ」
「いやいや、それこそ学院七不思議なんかよりも、もっと伝説に近い噂話だよ?」
 いつの間にかふわりと箒に乗って降りてきたキリクは、ムスッと不機嫌に顔を背けている。
「ごめんって。そりゃオレも手伝いえるなら手伝いたいよ? でもさ、流石に何のヒントもないのは、手伝いようが――」
「だから、あるって言ってるだろ!」

――ドンッ!

「わわっ!! 棚を叩いたら駄目だろ、キリク! ――いてっ!」
 キリクが苛立ちに任せ棚を叩いた拍子に落ちてきたのだろう、小さな瓶がゲルトの頭を直撃した。
「す、すまん、ゲルト。大丈夫か……?」
「いてて……うん、大丈夫。……って、これ」
「うん? あ、これは……」
 と、二人して床に転がる瓶に目を向ける。
「「『ジェオイフェの伸縮薬』だ」」
 古びて剥がれかかったラベルを見て二人同時に呟いた。
「懐かしいな。でも、こんな所に誰が置いたんだ?」
 それは二人にとってとても思い出深いものだった。
「誰だろうね。でも、本当に懐かしい」
 ゲルトはまだ少し瓶の底に残っている青色の液体を見つめる。

 この薬は二人にとって大切なもの。今まですっかり忘れていたけど、こうして見ているとあの日の事を思い出す。そう、あの日、この薬が二人を繋いだ日の事を――。

●
 それはゲルトが入学して半年ほど経った頃だった。
「あ……」
 校舎の影からそれを見つけ、ゲルトは思わず足を止める。
 静かに校舎に身を寄せ、そっとそちらを覗いた。
「う……どうしよう」
 そこには赤い寮服を着た生徒が数人、何やら楽し気に話をしている。
「なんでこの時間に居るんだ」
 今は授業時間真っ最中。ゲルトのように教授から頼まれ事をして教室を抜けでもしないと、こんな所に生徒がいるのはおかしな時間だ。
「サボってるのかな……」
 角の向こうから、ぎゃははと下品な笑い声が聞こえた。ついで爆発音も。
「どうしよう。ここを通らないと時間に間に合わない」
 遠回りをすることもできるが、それだとずいぶん時間がかかってしまう。教授に指定された時間までに戻る事は難しくなるだろう。
「こっちを見てないうちに急いで通れば」
 と、ゲルトは再び角から向こう側をちらりと覗く。すると――。
「うっ……もしかして、今目が合った……?」
 すぐに角に引っ込んだものの、一瞬だけだがリーダー格の男と目が合ったような気がする。
「……きっと気のせいだよね」
 角の向こうからは相変わらず下品な声が聞こえていた。

「おい、そこに居るんだろ、『出来損ない』」

 突然、角の向こうから聞こえた声にゲルトはびくりと肩をすくませる。
 それはリーダー格の男の声。いつもいつもゲルトを見る度に悪絡みしてくる苦手な上級生の声だった。
 ゲルトはどうしていいかわからず校舎の壁に背を預け、息を殺す。

登場キャラクター

アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0