追及の果ては
王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 真柄 葉納品 2021年04月17日 23時43分52秒
「抗議してもどうせはぐらかされるわよ? 証拠もないんだし」
肩を怒らせて歩くヒルルクに、リサ・ベイカーは半ば呆れ気味に声をかけた。
「あれだけの事やらかしたんだから、せめて説明はあって然るべきでしょ!」
「だから、証拠はないって」
憤慨しながら歩くスワン寮寮長。確かにここ最近の事を思えば、文句の一言も言いたくなるのはわかるのだが。
「ねぇ、どこへ行くの? もしかして原因の調査?」
と、そんな二人の元へ自慢の箒に跨るアンネエルカが並んだ。
「ええ、そうよ。とは言っても、おおよそ元凶はわかってるけどね!」
「何度も言うけど証拠はないからね?」
「証拠? 元凶? なになに、私にも教えてほしいわ!」
独り言のように呟いたヒルルクに困った様な表情を浮かべるリサ。二人の会話の内容にふわふわと浮かびながら並走するアンネエルカの瞳がきらりと輝く。
「アンネエルカには関係ないわ。これはスワン寮としての質問だから」
しかし、ヒルルクは素っ気なく答えた。まるで、巻き込むのをよしとしないように。
「関係なくはないでしょ。アンネエルカさんが一番の被害者なんだし」
「む、そうだけど……」
ふぅと溜息をつくとリサはアンネエルカに説明を始めた。
「実は最近似たようなトラブルがいくつか起こっているんです。被害の規模こそ大小様々ですけどね。そして、その原因がどれも人為的である可能性があるんですよ」
「確かにここ最近他の寮でもトラブルがあったって聞いたけど……それが何故、人為的だとわかるの?」
「それは、ちょっとした情報源が――」
と、リサがアンネエルカに説明しようとしたその時。
「あー! ヒルルクちゃん見つけましたわ!!」
前方に仁王立ちする人影に、ヒルルクが足を止めた。
「うげっ!」
「うげってなんですの、うげって!」
ヒルルクの反応にプンスカと歩いてくる【ドラゴン寮】の制服。
「え、キャロライン先輩?」
と、同寮のアンネエルカがその人物に気付いた。
「あら、ご機嫌よう、アンネ様」
仁王立ちの人影――キャロライン・スノーイーリスもヒルルクの隣に浮く人物に気付いたようで、優雅に膝を折る。
一転、駆け寄って来てはヒルルクの頭を自慢のお胸に挟み込むキャロライン。「い、息が……」と手足をばたつかせるヒルルクを見つつ、アンネエルカはリサに問いかけた。
「お二人はお知り合いだったの?」
「ええ、キャロライン先輩はヒルルクの従姉妹に当たる人なんですよ」
二人の仲睦まじい(?)交流を見つつ、リサは苦笑する。
「そうだったのね。だからあんなに仲……良く?」
というには少し行き過ぎてるように見えるスキンシップに、アンネエルカは首を傾げた。
「それで、みんなしてどこへ行かれるの?」
と、窒息しそうになったヒルルクを一旦解放し後ろに回ったキャロラインが問いかける。
「キャロライン先輩、わたし達はちょっとグリフォン寮に質問に行くところなんです」
「グリフォン寮? 質問という事はウィリアム様に会いに行くのかしら?」
「はい。実は先ほど多数の負傷者が出る『門』暴走事件がありまして……その件に関してウィリアム寮長にお話を聞きに行くんです」
「それは、スワン寮権限の質問という事?」
と、キャロラインがリサに問いかける。
【スワン寮権限】。この学院の生命線であるスワン寮には一つの特権が与えられていた。それは、スワン寮の救護が必要な案件が起こった場合の調査権である。原因を究明し、同種の案件が再び発生しないよう予防を行うための権限であった。
「そうよ。わかったら放してくれる? 歩きにくいんだけど」
キャロラインを引きずる様に歩くヒルルクが不機嫌に抗議する。
「なるほど、わかりましたわ!」
キャロラインはそんなヒルルクの不機嫌など気にもせず、解放するとパンと手を叩いた。
「お姉ちゃんも手伝ってあげます!」
「うげっ!」
そして、ぐっと決意の拳を握るキャロラインに、ヒルルクは頬をひくつかせる。
「ほら、また『うげっ』なんて、女の子が言うものじゃありませんわ」
そんな、従姉妹の醜態にキャロラインは頬を膨らませた。
「なんで、おね――キャロが手伝う必要があるのよ! 関係ないでしょ!」
「まぁ、関係ありますわ。ここにアンネ様がいるという事は【ドラゴン寮】がかかわっているのでしょう?」
「うっ……」
「ほら、図星じゃないですか」
ニコニコとヒルルクを見つめていたキャロラインは、くるりと視線を移しアンネエルカを見る。
「アンネ様、何があったか教えていただけます?」
「え、あ、はい。実は――」
と、話を振られたアンネエルカは、つい先ほど起こった大事件の事の顛末を話して聞かせた。
「そうなのね。わかりましたわ、それじゃ行きましょう! 後輩達を怪我させた落とし前、ウィリアム様にきちんととっていただきますわ!」
「まだ、ウィリアム寮長がかかわってると決まったわけじゃないんですけどね」
闘志の炎を瞳に宿したキャロラインに、リサが肩を竦める。
結局、キャロラインも加えた4人で、グリフォン寮棟のドアを叩くことになった。
●
「残念ながら、ウィリアム寮長は不在です」
ドアを開け4人を迎えたのは、【グリフォン寮】6年、エヴァン・ピオネロだった。
「不在? どこ行ったの?」
「さぁ、寮長の行動はよくわかりませんので、我々寮生でも把握することが難しいんですよ」
ヒルルクの問いに困ったように首をかしげるエヴァン。
「生徒会会計のあなたが行動を把握できないなんて、あなた方の寮長様、ちょっと自由過ぎはしませんこと?」
そんなエヴァンに、キャロラインがどこか不機嫌に話しかけた。
「自由ですね。本当に自由過ぎて困っています。逆にどこにいるのか聞きたいくらいです」
答えたエヴァンは、深くため息をつく。寮内でも最上級生として寮生を纏めるエヴァンは、生徒会会計として学院生全体を把握しなければいけない立場でもある。そして何より、このグリフォン寮では寮長ウィリアムの補佐的役割も担っていた。
「エヴァン先輩。わたし達は先ほど起きたとある事件の件で、スワン寮権限をもってグリフォン寮へ質問しなければいけません。ウィリアム寮長が不在だというのであれば、次々席であるあなたの回答でも構いません」
うっすらとクマの浮かぶエヴァンに、リサは毅然と質問する。
「ぼくのわかる範囲でなら回答しましょう。『今回の事件』というものを詳しく教えてもらえますか?」
エヴァンの答えにリサはこくりと頷き、【天獄の罠】事件の展望を語った。
「――なるほどお話は分かりました。ですが、ぼくに回答できることはありませんね」
リサの話を聞き終え顔を上げたエヴァンだったが、すぐに首を横に振る。
「そもそも我々の――いえ、寮長がその件に関わっている証拠がないでしょう」
眼鏡を持ち上げながらエヴァンが鋭い視線を4人に向けた。
「証拠がなくても確信があるのよ! だから、早く居場所を教えなさい!」
「いやいや、ヒルルク寮長、言ってる事が滅茶苦茶ですよ……」
憤慨するヒルルクに困惑を通り越して呆れるエヴァン。
「とにかく、スワン寮権限でお話だけでも伺いたいのですけど、本当にわかりませんか?」
「ええ、わかりません。先ほども言いましたが、知っているのならぼくが教えて欲しいですよ」
はぁと深くため息をついたエヴァンに、リサも困り顔。
「これは本当に知らないようですわね」
「ですから、最初からそう言ってますよ」
キャロラインの言葉にエヴァンは肩を落とした。
「仕方ありません。あの人を頼りますか……」
「さっき言ってた情報源という人の事かしら?」
少し嫌そうに話すリサに、アンネエルカが問いかける。
「はい、出来ればあまりかかわりたくはないんですけどね」
そう言いつつ、リサはケータイを取り出した。
●
「これはこれは、スワン寮の面々――となんかいっぱいいやがるな。まぁ、いい。まいどあり」
「まだ何も注文してないでしょ」
不遜にも魔法学院創始者の銅像の台座に腰かけ、こちらを見下ろすフードの少年。
「俺を呼んだって事はそういう事だろ? なんだ、何が知りたい?」
「ええ、人の居場所を知りたいの」
「人探しか。いいぜ、いくら出す?」
「『ユニコーンの心黄石』でどう? ただし、後払いね」
ヒルルクの提示した報酬内容に、フードの少年はフムと考え込んだ。
「リサさん、もしかして情報源って……」
「ええ、そうです。『情報屋』ナハシュです」
「ナハシュ君、そんな事もやっていたのね」
リサから出た名前に、同級生であるアンネエルカは感心する。
目深にかぶったフードの切れ目から、ニヤリと笑う口元に牙が光った。
「あまり公にはできない話とかもあるので、内緒ですけどね」
「確かになんだかいつもと雰囲気が違うわ。もっと、明るい感じの子だと思っていたのに」
「お仕事モード、という奴らしいですよ」
と、二人が話していると、ナハシュが顔を上げた。
「……いいぜ、常連のよしみだ。まけといてやるよ」
「吹っ掛けてやるよの間違いじゃないの?」
ヒルルクの怪訝な表情を気持ちよさそうに受け止めながら、ナハシュは視線を下げフードの上から両手で耳を押さえる。
「――ああ、そうだ。……金髪――ちがう、それじゃねぇ」
そして、誰かと会話しているようにぶつぶつと独り言を呟いた。
「あれは何をしているの?」
「詳しくはわかりませんけど、精霊との交感だそうです。彼の『門』はフードの中にあるそうですよ」
「フードの中に『門』が」
リサに言われアンネエルカは興味深そうにナハシュを見た。
「――見つけた。西の湖にある洞窟に向かったってよ」
「また随分と変なとこに向かったわね……これは怪しいわ」
ナハシュの答えにヒルルクは疑うそぶりも見せず考え込む。
「いいわ、ありがとう。それじゃ、急いで向かいましょう。またにか変な事企む前にね!」
と、顔を上げたヒルルクはナハシュに礼を言うと、リサ達の元へと戻りすぐに出発の準備を始めた。
●
「で、なんであんた達もついてきてるわけ?」
準備も整い、学院の敷地を出ようとしてヒルルクが振り返った。
「もぉ、さっきお姉ちゃんに任せておきなさいって言ったの忘れたの?」
そんなヒルルクに、腰に手を当てプンスカ怒るキャロライン。
「俺は報酬待ちだ。情報の食い逃げされても困るんでな」
そして、ケラケラと笑うナハシュ。
「寮長を連れ戻したいのはあなた達だけではありません」
さらにグリフォン寮を代表してエヴァンまで。
そこにヒルルク、リサ、アンネエルカの当事者三人。
結局、ウィリアム捜索隊(仮)は6名の大所帯となっていた。
「はぁ、もうわかったわよ。皆まとめてついてくるといいわ」
どう言っても帰りそうにない強者達の顔ぶれに、ヒルルクは諦めのため息をつくと、森へと足を踏み入れた。
森は学院が管理してはいるが、あくまで管理しているだけ。生態系をいじる事はしないので、原生生物や魔法生物がそこかしこに生息している。
ヒルルク達は比較的安全な石畳で舗装された道から外れないよう、一路西の湖を目指していた。
「高い空を飛べればもっと早いのに」
と、箒に乗りながら地面から1m程の所をふわふわと移動するアンネエルカが、空を見上げた。
「この時期はロック鳥が子育てしていますのよ。下手に飛んだらパクリですわ」
そんなアンネエルカに、ヒルルクの手を取りピクニック気分なキャロラインが答える。
「学院と違って結界がありませんからね。本来、この時期に空を飛ぶのは気持ちがいいんですけど」
と、エヴァンも木々の間から見える青い空を見上げた。
「ロック鳥ぶっ倒せばいいんじゃねぇ? ドラゴンの『火焔の華』に『金羊』、グリフォンの『蒼騎士』。スワンの『征竜の巫女』に『お嬢様』。この面子ならやれるぜきっと」
そう無責任に言うのはナハシュ。自分の名を出さないのはそもそも参加する気がないからだろう。
「わたし、お嬢様なんて二つ名付けられてるんですか?」
「けけ、もうちょっと自分の出してるオーラ自覚した方がいいぜ、お嬢様」
ムスッと問いかけるリサに、ナハシュは軽薄に笑って返した。
そんな事をしていると程なく、6人は目的地である湖の畔の洞窟へと辿り着いた。
肩を怒らせて歩くヒルルクに、リサ・ベイカーは半ば呆れ気味に声をかけた。
「あれだけの事やらかしたんだから、せめて説明はあって然るべきでしょ!」
「だから、証拠はないって」
憤慨しながら歩くスワン寮寮長。確かにここ最近の事を思えば、文句の一言も言いたくなるのはわかるのだが。
「ねぇ、どこへ行くの? もしかして原因の調査?」
と、そんな二人の元へ自慢の箒に跨るアンネエルカが並んだ。
「ええ、そうよ。とは言っても、おおよそ元凶はわかってるけどね!」
「何度も言うけど証拠はないからね?」
「証拠? 元凶? なになに、私にも教えてほしいわ!」
独り言のように呟いたヒルルクに困った様な表情を浮かべるリサ。二人の会話の内容にふわふわと浮かびながら並走するアンネエルカの瞳がきらりと輝く。
「アンネエルカには関係ないわ。これはスワン寮としての質問だから」
しかし、ヒルルクは素っ気なく答えた。まるで、巻き込むのをよしとしないように。
「関係なくはないでしょ。アンネエルカさんが一番の被害者なんだし」
「む、そうだけど……」
ふぅと溜息をつくとリサはアンネエルカに説明を始めた。
「実は最近似たようなトラブルがいくつか起こっているんです。被害の規模こそ大小様々ですけどね。そして、その原因がどれも人為的である可能性があるんですよ」
「確かにここ最近他の寮でもトラブルがあったって聞いたけど……それが何故、人為的だとわかるの?」
「それは、ちょっとした情報源が――」
と、リサがアンネエルカに説明しようとしたその時。
「あー! ヒルルクちゃん見つけましたわ!!」
前方に仁王立ちする人影に、ヒルルクが足を止めた。
「うげっ!」
「うげってなんですの、うげって!」
ヒルルクの反応にプンスカと歩いてくる【ドラゴン寮】の制服。
「え、キャロライン先輩?」
と、同寮のアンネエルカがその人物に気付いた。
「あら、ご機嫌よう、アンネ様」
仁王立ちの人影――キャロライン・スノーイーリスもヒルルクの隣に浮く人物に気付いたようで、優雅に膝を折る。
一転、駆け寄って来てはヒルルクの頭を自慢のお胸に挟み込むキャロライン。「い、息が……」と手足をばたつかせるヒルルクを見つつ、アンネエルカはリサに問いかけた。
「お二人はお知り合いだったの?」
「ええ、キャロライン先輩はヒルルクの従姉妹に当たる人なんですよ」
二人の仲睦まじい(?)交流を見つつ、リサは苦笑する。
「そうだったのね。だからあんなに仲……良く?」
というには少し行き過ぎてるように見えるスキンシップに、アンネエルカは首を傾げた。
「それで、みんなしてどこへ行かれるの?」
と、窒息しそうになったヒルルクを一旦解放し後ろに回ったキャロラインが問いかける。
「キャロライン先輩、わたし達はちょっとグリフォン寮に質問に行くところなんです」
「グリフォン寮? 質問という事はウィリアム様に会いに行くのかしら?」
「はい。実は先ほど多数の負傷者が出る『門』暴走事件がありまして……その件に関してウィリアム寮長にお話を聞きに行くんです」
「それは、スワン寮権限の質問という事?」
と、キャロラインがリサに問いかける。
【スワン寮権限】。この学院の生命線であるスワン寮には一つの特権が与えられていた。それは、スワン寮の救護が必要な案件が起こった場合の調査権である。原因を究明し、同種の案件が再び発生しないよう予防を行うための権限であった。
「そうよ。わかったら放してくれる? 歩きにくいんだけど」
キャロラインを引きずる様に歩くヒルルクが不機嫌に抗議する。
「なるほど、わかりましたわ!」
キャロラインはそんなヒルルクの不機嫌など気にもせず、解放するとパンと手を叩いた。
「お姉ちゃんも手伝ってあげます!」
「うげっ!」
そして、ぐっと決意の拳を握るキャロラインに、ヒルルクは頬をひくつかせる。
「ほら、また『うげっ』なんて、女の子が言うものじゃありませんわ」
そんな、従姉妹の醜態にキャロラインは頬を膨らませた。
「なんで、おね――キャロが手伝う必要があるのよ! 関係ないでしょ!」
「まぁ、関係ありますわ。ここにアンネ様がいるという事は【ドラゴン寮】がかかわっているのでしょう?」
「うっ……」
「ほら、図星じゃないですか」
ニコニコとヒルルクを見つめていたキャロラインは、くるりと視線を移しアンネエルカを見る。
「アンネ様、何があったか教えていただけます?」
「え、あ、はい。実は――」
と、話を振られたアンネエルカは、つい先ほど起こった大事件の事の顛末を話して聞かせた。
「そうなのね。わかりましたわ、それじゃ行きましょう! 後輩達を怪我させた落とし前、ウィリアム様にきちんととっていただきますわ!」
「まだ、ウィリアム寮長がかかわってると決まったわけじゃないんですけどね」
闘志の炎を瞳に宿したキャロラインに、リサが肩を竦める。
結局、キャロラインも加えた4人で、グリフォン寮棟のドアを叩くことになった。
●
「残念ながら、ウィリアム寮長は不在です」
ドアを開け4人を迎えたのは、【グリフォン寮】6年、エヴァン・ピオネロだった。
「不在? どこ行ったの?」
「さぁ、寮長の行動はよくわかりませんので、我々寮生でも把握することが難しいんですよ」
ヒルルクの問いに困ったように首をかしげるエヴァン。
「生徒会会計のあなたが行動を把握できないなんて、あなた方の寮長様、ちょっと自由過ぎはしませんこと?」
そんなエヴァンに、キャロラインがどこか不機嫌に話しかけた。
「自由ですね。本当に自由過ぎて困っています。逆にどこにいるのか聞きたいくらいです」
答えたエヴァンは、深くため息をつく。寮内でも最上級生として寮生を纏めるエヴァンは、生徒会会計として学院生全体を把握しなければいけない立場でもある。そして何より、このグリフォン寮では寮長ウィリアムの補佐的役割も担っていた。
「エヴァン先輩。わたし達は先ほど起きたとある事件の件で、スワン寮権限をもってグリフォン寮へ質問しなければいけません。ウィリアム寮長が不在だというのであれば、次々席であるあなたの回答でも構いません」
うっすらとクマの浮かぶエヴァンに、リサは毅然と質問する。
「ぼくのわかる範囲でなら回答しましょう。『今回の事件』というものを詳しく教えてもらえますか?」
エヴァンの答えにリサはこくりと頷き、【天獄の罠】事件の展望を語った。
「――なるほどお話は分かりました。ですが、ぼくに回答できることはありませんね」
リサの話を聞き終え顔を上げたエヴァンだったが、すぐに首を横に振る。
「そもそも我々の――いえ、寮長がその件に関わっている証拠がないでしょう」
眼鏡を持ち上げながらエヴァンが鋭い視線を4人に向けた。
「証拠がなくても確信があるのよ! だから、早く居場所を教えなさい!」
「いやいや、ヒルルク寮長、言ってる事が滅茶苦茶ですよ……」
憤慨するヒルルクに困惑を通り越して呆れるエヴァン。
「とにかく、スワン寮権限でお話だけでも伺いたいのですけど、本当にわかりませんか?」
「ええ、わかりません。先ほども言いましたが、知っているのならぼくが教えて欲しいですよ」
はぁと深くため息をついたエヴァンに、リサも困り顔。
「これは本当に知らないようですわね」
「ですから、最初からそう言ってますよ」
キャロラインの言葉にエヴァンは肩を落とした。
「仕方ありません。あの人を頼りますか……」
「さっき言ってた情報源という人の事かしら?」
少し嫌そうに話すリサに、アンネエルカが問いかける。
「はい、出来ればあまりかかわりたくはないんですけどね」
そう言いつつ、リサはケータイを取り出した。
●
「これはこれは、スワン寮の面々――となんかいっぱいいやがるな。まぁ、いい。まいどあり」
「まだ何も注文してないでしょ」
不遜にも魔法学院創始者の銅像の台座に腰かけ、こちらを見下ろすフードの少年。
「俺を呼んだって事はそういう事だろ? なんだ、何が知りたい?」
「ええ、人の居場所を知りたいの」
「人探しか。いいぜ、いくら出す?」
「『ユニコーンの心黄石』でどう? ただし、後払いね」
ヒルルクの提示した報酬内容に、フードの少年はフムと考え込んだ。
「リサさん、もしかして情報源って……」
「ええ、そうです。『情報屋』ナハシュです」
「ナハシュ君、そんな事もやっていたのね」
リサから出た名前に、同級生であるアンネエルカは感心する。
目深にかぶったフードの切れ目から、ニヤリと笑う口元に牙が光った。
「あまり公にはできない話とかもあるので、内緒ですけどね」
「確かになんだかいつもと雰囲気が違うわ。もっと、明るい感じの子だと思っていたのに」
「お仕事モード、という奴らしいですよ」
と、二人が話していると、ナハシュが顔を上げた。
「……いいぜ、常連のよしみだ。まけといてやるよ」
「吹っ掛けてやるよの間違いじゃないの?」
ヒルルクの怪訝な表情を気持ちよさそうに受け止めながら、ナハシュは視線を下げフードの上から両手で耳を押さえる。
「――ああ、そうだ。……金髪――ちがう、それじゃねぇ」
そして、誰かと会話しているようにぶつぶつと独り言を呟いた。
「あれは何をしているの?」
「詳しくはわかりませんけど、精霊との交感だそうです。彼の『門』はフードの中にあるそうですよ」
「フードの中に『門』が」
リサに言われアンネエルカは興味深そうにナハシュを見た。
「――見つけた。西の湖にある洞窟に向かったってよ」
「また随分と変なとこに向かったわね……これは怪しいわ」
ナハシュの答えにヒルルクは疑うそぶりも見せず考え込む。
「いいわ、ありがとう。それじゃ、急いで向かいましょう。またにか変な事企む前にね!」
と、顔を上げたヒルルクはナハシュに礼を言うと、リサ達の元へと戻りすぐに出発の準備を始めた。
●
「で、なんであんた達もついてきてるわけ?」
準備も整い、学院の敷地を出ようとしてヒルルクが振り返った。
「もぉ、さっきお姉ちゃんに任せておきなさいって言ったの忘れたの?」
そんなヒルルクに、腰に手を当てプンスカ怒るキャロライン。
「俺は報酬待ちだ。情報の食い逃げされても困るんでな」
そして、ケラケラと笑うナハシュ。
「寮長を連れ戻したいのはあなた達だけではありません」
さらにグリフォン寮を代表してエヴァンまで。
そこにヒルルク、リサ、アンネエルカの当事者三人。
結局、ウィリアム捜索隊(仮)は6名の大所帯となっていた。
「はぁ、もうわかったわよ。皆まとめてついてくるといいわ」
どう言っても帰りそうにない強者達の顔ぶれに、ヒルルクは諦めのため息をつくと、森へと足を踏み入れた。
森は学院が管理してはいるが、あくまで管理しているだけ。生態系をいじる事はしないので、原生生物や魔法生物がそこかしこに生息している。
ヒルルク達は比較的安全な石畳で舗装された道から外れないよう、一路西の湖を目指していた。
「高い空を飛べればもっと早いのに」
と、箒に乗りながら地面から1m程の所をふわふわと移動するアンネエルカが、空を見上げた。
「この時期はロック鳥が子育てしていますのよ。下手に飛んだらパクリですわ」
そんなアンネエルカに、ヒルルクの手を取りピクニック気分なキャロラインが答える。
「学院と違って結界がありませんからね。本来、この時期に空を飛ぶのは気持ちがいいんですけど」
と、エヴァンも木々の間から見える青い空を見上げた。
「ロック鳥ぶっ倒せばいいんじゃねぇ? ドラゴンの『火焔の華』に『金羊』、グリフォンの『蒼騎士』。スワンの『征竜の巫女』に『お嬢様』。この面子ならやれるぜきっと」
そう無責任に言うのはナハシュ。自分の名を出さないのはそもそも参加する気がないからだろう。
「わたし、お嬢様なんて二つ名付けられてるんですか?」
「けけ、もうちょっと自分の出してるオーラ自覚した方がいいぜ、お嬢様」
ムスッと問いかけるリサに、ナハシュは軽薄に笑って返した。
そんな事をしていると程なく、6人は目的地である湖の畔の洞窟へと辿り着いた。