Dream Battle!
王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 白葉うづき納品 2021年05月03日 16時36分10秒
風を切る感覚、音、匂い。目を開けたキリクは、自分が箒に乗って飛んでいるのだと理解した。握っていた箒の柄を慌てて握り直して、辺りを見回す。
「キリク!」
呼ばれた方向に友人であるゲルトがいた。同じように箒に乗り、紫色の制服に身を包んでいる。瞳をきらきら輝かせ、喜色満面の笑みで叫んでいた。
「わかるだろ? 出来たんだよ!」
「もしかして……!」
「そう!」
「「成功だ!!」」
サーペント寮は弱体魔法の他に毒物や薬品の精製を得手とした、または興味のある者が多い。同じ寮の二人も例に漏れず、そして今日はゲルトの調合した新しい魔法薬を試してみたのだ。
それはお互いの夢を共有できる薬。夢と認識した上で、同じ場所に居て同じ体験が出来る不思議な魔法薬――そしてそれは目論見通り成功。二人は箒を近付けハイタッチした。
「これってどっちかが起きると解除されるんだろうか」
「それは起きた時にしよう。それよりも、夢なら何でもできるってことにならないか?」
色々試してみたい、といわんばかりに瞳を輝かせたゲルトにキリクは頷く。
「多分……想像を膨らませればいいと思う、いつもの夢みたいに」
「よし」
頷いたゲルトはイメージする。強く目を閉じた彼のベルトに、鮮やかな色の試験管が現れた。
「見てキリク!」
「魔法薬?」
「そう! オレじゃまだ作れない高等魔法薬だ。使ってみたいなぁ……」
「へえ、僕もやってみよう」
腰に付けた管をうっとり見つめるゲルトを傍目に、キリクも集中する。
「――やった!」
「何か出したのか?」
「ほら、見てみろよ」
キリクが視線を下ろす。ゲルトが辿ったその先には彼の乗っている箒があり、これは……
「最新の雷音!? いつの間に!?」
「今出した。しかもそれより速い速度で飛べるし、魔力の通りもばっちりだ」
最新鋭の箒、それを頭に入れたうえで上位の魔法アイテムをも生み出せる。夢という場所は想像が物を言う世界、限りない可能性に二人の瞳は輝いていた。
夢中で話している二人に――突然巨大な魔法弾が撃ち込まれる。
「……え?」
「ゲルト!」
突き飛ばすようにゲルトを押し、キリクも咄嗟にそれを避ける。ふらついたゲルトと一緒に放たれた方向へ視線を向けると、巨大な怪鳥が二人を睨み付けていた。
「な、んだこれ」
「さあ。少なくとも僕らに好意的じゃないのは確かだ」
光の無い黒い瞳、燃えさかるような真っ赤な毛並みと尾羽――現れた怪鳥は甲高い声を上げると、身体から幾つもの分身のような鳥を生み出し、それが二人に突っ込んでくる。箒を操り避けてから、呆然としていたゲルトも敵を睨み付けた。
「喋ってる暇もないか、戦うぞキリク!」
「もちろんだ!」
応えたキリクは既に戦闘準備に移っていた。なおも突っ込んでくる鳥を躱しながら、箒を足場に立ち上がって手の中に愛用の魔法弓を造りだす。常人なら有り得ないとさえ言える、箒に乗っての弓術。それをキリクの類稀ない身体能力と集中力が可能にしていた。
「魔力充填――」
ぎりぎりと弓を引き絞り、魔力の矢をつがえて標的を見定める。静かな瞳で捉えた的へ一射、また一射と高速で打ち、次々に光の矢が突き刺さった。
「さすが! おっと」
ゲルトに向かって炎が吐かれる。ちりちりとした熱さを感じながら、追い縋ってくる鳥の群れへ試験管を一つ放り投げた。
「埋火、火蜥蜴の火袋、火炎茸――これを混ぜたものに大量の空気が加わり、さらに衝撃を与えた時どうなるか知ってるか?」
散った液体が鳥たちにかかり、大爆発が起こる。黒炭になった襤褸布が幾つも地上に落ちた。
「効果というものは、言葉よりも実際見た方が早い。身をもって体験してくれて何よりだ」
***
怪鳥の猛攻を退けながら、行き先も分からぬまま二人の箒は進んでいく。
「これ、誘導されてないか」
「ってことは……この鳥は召喚獣?」
「ありえなくはない」
「これだけ大型を扱えるってことはとんでもない相手だな……キリク、心の準備をしておこう」
「! もしかしたら、この先にあの人がいるかもしれない」
シリアスな空気を纏いながら川を、草原を、山を越えると、やがて深い森が見えてきた。その中心がやけに仄暗い……いや、中心を見ようとしても視覚がぼやける。
「隠蔽魔法?」
「巨大すぎないか……いや、だから魔法がとけかけてる……? はっ」
その言葉に応えるようぼやけた箇所が次第にはっきりしてくる。透明の幕が上がるように現れたのは、赤い屋根の大きな館だった。
「あらあら、ここまで来ちゃったのね」
二人は急ブレーキをかける。
目の前に、赤を身に纏った人が浮かんでいた。炎が花の形に燃えさかっていると言っていいほど真っ赤で鮮やかなドレス、溢れだす魔力を押さえたような鍔広の三角帽子。三つ編みは解かれ、その手には赤い宝石を伴った杖が握られていた。
二人はこの人物を知っている。
かつて学院を襲った召喚獣を倒した一人――『鮮烈のルアンナ』。
「ああ、お前が学院から盗んだ禁書を取り返さないと帰れないんでな」
「大人しく返すなら手荒な事はしないが?」
それでも二人が退くことはない。口端を上げ、挑戦的な二人の様子にルアンナはおかしそうに口元に手を当て、笑った。
「あれは私の一族の歴史が刻まれた大切な本。どうして私が持っていてはいけないのかしら」
「本当にそれだけだったらな」
キリクの言葉に、ルアンナの笑みが濃くなる。
「隠されていたんだろう? お前の一族が開発して、世界を破壊できるほどの威力に使用を禁じられた呪文が」
「答えはもう、わかっているでしょう」
軽やかな笑い声を立て、楽しそうにルアンナは微笑んだ。
「そう、この招待は、いわば貴方たちへの餞別。私の手を取るか……それとも、恐れを抱きながら死ぬか」
優雅に差し出した手を見て、キリクも、ゲルトも小さく笑う。
「茶番は止めようぜ」
「オレたちの答えも……わかってるんだろ?」
「残念ね」
深紅の魔女が杖を一振りする。何もないところから棘が生まれ、それは瞬く間に炎に包まれた。
「友人としての情けよ。せめて塵も残さず送ってあげるわ」
「黙ってやられる僕たちじゃないぞ」
「ああ、行くぞキリク。オレたちの力を見せてやろう」
もう一度杖が降られると、無数の炎棘が二人に降りそそぐ。咄嗟に杖を構えた二人で障壁を張るが、幾つかの棘が二人を焼いた。
キリクが箒の上に立ち、ゲルトは手の中からぽんぽんと鮮やかな色の試験管を生み出す。光の矢と強力な魔法薬は鮮烈の魔女を襲い、火の鳥と魔女もまた二人へ魔法弾を放つ。
空中戦は熾烈を極めた。爆発音は止まず、青空は瞬く間に赤く染められていく。炎の中で笑う魔女に、二人は思わず叫んでいた。
「「ルアンナ!!」」
***
瞳を開けると、キリクが顔を覗き込んでいた。それにほっとしたよう彼は息を吐く。
「よかった、死んでしまったのかと思った」
「……ええと、……! そうだ、オレたちは……」
あの魔女と戦って、でもそれは、
「全部は夢の中だな」
「すっかり現実だと思ってたよ……改良も必要そうだな。手伝ってくれるか?」
「ああ。……それより、何か騒がしいな」
「行ってみようか」
差し出された手を取り立ち上がると、騒がしい方……図書館だろうか、それを二人で見に行く。転がった試験管から紫色の液が垂れ、赤く蒸発して消えた。
「キリク!」
呼ばれた方向に友人であるゲルトがいた。同じように箒に乗り、紫色の制服に身を包んでいる。瞳をきらきら輝かせ、喜色満面の笑みで叫んでいた。
「わかるだろ? 出来たんだよ!」
「もしかして……!」
「そう!」
「「成功だ!!」」
サーペント寮は弱体魔法の他に毒物や薬品の精製を得手とした、または興味のある者が多い。同じ寮の二人も例に漏れず、そして今日はゲルトの調合した新しい魔法薬を試してみたのだ。
それはお互いの夢を共有できる薬。夢と認識した上で、同じ場所に居て同じ体験が出来る不思議な魔法薬――そしてそれは目論見通り成功。二人は箒を近付けハイタッチした。
「これってどっちかが起きると解除されるんだろうか」
「それは起きた時にしよう。それよりも、夢なら何でもできるってことにならないか?」
色々試してみたい、といわんばかりに瞳を輝かせたゲルトにキリクは頷く。
「多分……想像を膨らませればいいと思う、いつもの夢みたいに」
「よし」
頷いたゲルトはイメージする。強く目を閉じた彼のベルトに、鮮やかな色の試験管が現れた。
「見てキリク!」
「魔法薬?」
「そう! オレじゃまだ作れない高等魔法薬だ。使ってみたいなぁ……」
「へえ、僕もやってみよう」
腰に付けた管をうっとり見つめるゲルトを傍目に、キリクも集中する。
「――やった!」
「何か出したのか?」
「ほら、見てみろよ」
キリクが視線を下ろす。ゲルトが辿ったその先には彼の乗っている箒があり、これは……
「最新の雷音!? いつの間に!?」
「今出した。しかもそれより速い速度で飛べるし、魔力の通りもばっちりだ」
最新鋭の箒、それを頭に入れたうえで上位の魔法アイテムをも生み出せる。夢という場所は想像が物を言う世界、限りない可能性に二人の瞳は輝いていた。
夢中で話している二人に――突然巨大な魔法弾が撃ち込まれる。
「……え?」
「ゲルト!」
突き飛ばすようにゲルトを押し、キリクも咄嗟にそれを避ける。ふらついたゲルトと一緒に放たれた方向へ視線を向けると、巨大な怪鳥が二人を睨み付けていた。
「な、んだこれ」
「さあ。少なくとも僕らに好意的じゃないのは確かだ」
光の無い黒い瞳、燃えさかるような真っ赤な毛並みと尾羽――現れた怪鳥は甲高い声を上げると、身体から幾つもの分身のような鳥を生み出し、それが二人に突っ込んでくる。箒を操り避けてから、呆然としていたゲルトも敵を睨み付けた。
「喋ってる暇もないか、戦うぞキリク!」
「もちろんだ!」
応えたキリクは既に戦闘準備に移っていた。なおも突っ込んでくる鳥を躱しながら、箒を足場に立ち上がって手の中に愛用の魔法弓を造りだす。常人なら有り得ないとさえ言える、箒に乗っての弓術。それをキリクの類稀ない身体能力と集中力が可能にしていた。
「魔力充填――」
ぎりぎりと弓を引き絞り、魔力の矢をつがえて標的を見定める。静かな瞳で捉えた的へ一射、また一射と高速で打ち、次々に光の矢が突き刺さった。
「さすが! おっと」
ゲルトに向かって炎が吐かれる。ちりちりとした熱さを感じながら、追い縋ってくる鳥の群れへ試験管を一つ放り投げた。
「埋火、火蜥蜴の火袋、火炎茸――これを混ぜたものに大量の空気が加わり、さらに衝撃を与えた時どうなるか知ってるか?」
散った液体が鳥たちにかかり、大爆発が起こる。黒炭になった襤褸布が幾つも地上に落ちた。
「効果というものは、言葉よりも実際見た方が早い。身をもって体験してくれて何よりだ」
***
怪鳥の猛攻を退けながら、行き先も分からぬまま二人の箒は進んでいく。
「これ、誘導されてないか」
「ってことは……この鳥は召喚獣?」
「ありえなくはない」
「これだけ大型を扱えるってことはとんでもない相手だな……キリク、心の準備をしておこう」
「! もしかしたら、この先にあの人がいるかもしれない」
シリアスな空気を纏いながら川を、草原を、山を越えると、やがて深い森が見えてきた。その中心がやけに仄暗い……いや、中心を見ようとしても視覚がぼやける。
「隠蔽魔法?」
「巨大すぎないか……いや、だから魔法がとけかけてる……? はっ」
その言葉に応えるようぼやけた箇所が次第にはっきりしてくる。透明の幕が上がるように現れたのは、赤い屋根の大きな館だった。
「あらあら、ここまで来ちゃったのね」
二人は急ブレーキをかける。
目の前に、赤を身に纏った人が浮かんでいた。炎が花の形に燃えさかっていると言っていいほど真っ赤で鮮やかなドレス、溢れだす魔力を押さえたような鍔広の三角帽子。三つ編みは解かれ、その手には赤い宝石を伴った杖が握られていた。
二人はこの人物を知っている。
かつて学院を襲った召喚獣を倒した一人――『鮮烈のルアンナ』。
「ああ、お前が学院から盗んだ禁書を取り返さないと帰れないんでな」
「大人しく返すなら手荒な事はしないが?」
それでも二人が退くことはない。口端を上げ、挑戦的な二人の様子にルアンナはおかしそうに口元に手を当て、笑った。
「あれは私の一族の歴史が刻まれた大切な本。どうして私が持っていてはいけないのかしら」
「本当にそれだけだったらな」
キリクの言葉に、ルアンナの笑みが濃くなる。
「隠されていたんだろう? お前の一族が開発して、世界を破壊できるほどの威力に使用を禁じられた呪文が」
「答えはもう、わかっているでしょう」
軽やかな笑い声を立て、楽しそうにルアンナは微笑んだ。
「そう、この招待は、いわば貴方たちへの餞別。私の手を取るか……それとも、恐れを抱きながら死ぬか」
優雅に差し出した手を見て、キリクも、ゲルトも小さく笑う。
「茶番は止めようぜ」
「オレたちの答えも……わかってるんだろ?」
「残念ね」
深紅の魔女が杖を一振りする。何もないところから棘が生まれ、それは瞬く間に炎に包まれた。
「友人としての情けよ。せめて塵も残さず送ってあげるわ」
「黙ってやられる僕たちじゃないぞ」
「ああ、行くぞキリク。オレたちの力を見せてやろう」
もう一度杖が降られると、無数の炎棘が二人に降りそそぐ。咄嗟に杖を構えた二人で障壁を張るが、幾つかの棘が二人を焼いた。
キリクが箒の上に立ち、ゲルトは手の中からぽんぽんと鮮やかな色の試験管を生み出す。光の矢と強力な魔法薬は鮮烈の魔女を襲い、火の鳥と魔女もまた二人へ魔法弾を放つ。
空中戦は熾烈を極めた。爆発音は止まず、青空は瞬く間に赤く染められていく。炎の中で笑う魔女に、二人は思わず叫んでいた。
「「ルアンナ!!」」
***
瞳を開けると、キリクが顔を覗き込んでいた。それにほっとしたよう彼は息を吐く。
「よかった、死んでしまったのかと思った」
「……ええと、……! そうだ、オレたちは……」
あの魔女と戦って、でもそれは、
「全部は夢の中だな」
「すっかり現実だと思ってたよ……改良も必要そうだな。手伝ってくれるか?」
「ああ。……それより、何か騒がしいな」
「行ってみようか」
差し出された手を取り立ち上がると、騒がしい方……図書館だろうか、それを二人で見に行く。転がった試験管から紫色の液が垂れ、赤く蒸発して消えた。