大召喚vs大召喚

王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 真柄 葉納品 2021年04月13日 20時48分34秒

 その日、学院には季節外れの雪が降っていた。

「……雪か。珍しいな」
 舞い落ちてくる粉雪を見上げ、アレックス=T=マークス(Alex=Tee=Marks)が呟く。
「まだ4月だしな」
 隣を歩くレオネベルも空を見上げようするが、頭上の存在を思い出し両手を頭の上にやった。
「ちょっと降りててくれよ」
 両手で掴んだ大型のひよこを胸に抱くと、改めて空を見上げる。
「あれ、雲がないな。天気雪か?」
「……いや、ドラゴン寮の生徒辺りが、氷雪魔法でも放ったのだろう」
 そう言いながら、アレックスは足元を共に歩く大型犬の長い毛並みを梳いていた。
「あいつ等、またか。効果範囲には気を付けろってこないだ抗議した所なのにな」
「……うちにも方々から抗議文は来ているから、お互い様だな」
 心当たりがないわけでもないレオネベルは憤慨から一転、苦笑を浮かべる。
「お、止んだな。やっぱ魔法か」
「……だからそう言っただろう。このペガサス寮6年アレックス、この程度の魔法――」
「うん、あれはベアトリーチェか?」
 と、校庭を歩きながら演習場へと辿り着いた二人。そこで後輩の3年生、ベアトリーチェ・カロッサを見つけた。
「あ、6年の先輩’sじゃん。こんちーっす!」
 ベアトリーチェも二人を見つけ、ぶんぶんと手を振る。
「二人揃ってるなんて珍しいじゃん? デート?」
 近づいてきたベアトリーチェが二人の回を交互に見つつ、問いかけた。
「たまたまそこで会っただけだ。そんな事より、ベアトリーチェは何してるんだ? 授業……でもなさそうだが」
 「……な、なぜ俺がこいつと」と愛犬の背に顔を埋めながら呟くアレックスを放っておいて、レオネベルが問い返す。
「アタシ? アタシはもち召喚術の特訓中の特訓よ! 今日、やっと白鱗蝶の召喚に成功したの! 見る? 見ていく!? 超やばいんだから!」
 答えたベアトリーチェは興奮気味に、きらきらにデコった杖を持ってポーズを決めると、杖を頭上で一回転させ、空中に魔法陣を描いた。
「かむかむかもーん! ゲートオープン!」
 バシッと決まったポーズと共に、異界へと繋がる『門』が開く。
「さぁ、成功してるっかな~♪」
 期待に胸膨らませ開いた門を見上げるベアトリーチェ。程なくして、何匹もの白銀の蝶が姿を現した。
「よっしゃぁ! どう、先輩's! めっちゃよくない?! 蝶もめっちゃ綺麗なんだけど、この鱗粉! どう、本物の雪みたいっしょ!? ヤバくない! もぉ、語彙力消滅!」
 キラキラと舞う蝶の中、自らもくるくると踊るベアトリーチェを、二人はそっと見守りながら――。

「……鱗粉だったな」
「……そう言っただろう」
「……言ってないけどな」
「……はぁ、犬最高」
 人の背丈ほどもある相棒の背に顔を埋めながらアレックスは、現実逃避した。

●
「あ、なんという毛艶。まるで黒曜石のようだ」
「うむうむ、そうだろ」
 目の前に召喚された黒猫に、完全に目を奪われる1年生のサクマ(朔真)。隣では召喚主で、先輩でもある5年生カズマ・イチノセ(一ノ瀬 和真)が、自慢げに胸を反らしていた。
「一方、俺の猫は……くっ!」
 悔しさに拳を握る朔真は、自らが呼びだした三毛猫を見やる。
 見た目の可愛さだけであれば引けを取らない。しかし、魔法生物が内包する魔力量には天地ほどの差があった。
「まぁ、なんだ。俺くらいの猫召喚士になれば、この程度の使い魔を召喚するなんて、朝飯ま――」
「あ、先輩、マーキングされてます」
「おわっ!!」
 サクマに言われカズマは視線を下げると、粗相する黒猫と目が合った。
「こいつ、召喚主様になんて事をしやがるんだ!」
 濡れたズボンの裾を気にしつつ、カズマは我知らずな黒猫に対峙する。
「だけど流石です、先輩。ここまで猫に似た召喚獣に呼ぶなんて……一体どうやるんですか?!」
「は……?」
 と、いつの間にかメモを取り出したサクマに詰め寄られ、カズマは一瞬たじろいだ。
「やはり雨の前日には顔を洗ったり、胡瓜を見て飛び上がったりするんですか? ちなみに、エサは何を上げる予定なんでしょう? 排泄をするという事は、トイレを仕込む必要があると思うのですが、その辺りはどうお考えですか? あ、そうそう。この子のお名前は何といいます?」
 ぐいぐい押してくる猫ガチ勢サクマに、カズマはじりじりと後退する。
「な、名前? そんなもんねぇけど……」
「ない! そうなんですね! なら名付け放題ですね!」
「お、おう……名付け放題?」
「俺の三毛猫が『ハオルチア』なので、『ユーフォルビア』なんてどうでしょう」
「い、いいんじゃないか? 好きに呼んだら」
「おぉ、お許しが出たのでこの子は『ユーフォルビア』に決定です。『ユーフォルビア』。うん、いい名前だ」
 人見知りで恥ずかしがり屋な彼はいったいどこへ。早口でまくし立てるサクマにカズマが渇いた笑いを上げていると――。
「……うん? 一匹増えてる?」
 いつの間にか2匹の猫に、別の白猫が混じっていた。
「こ、これは……!」
 カズマの声に、サクマも3匹目の猫に気付く。
「……まるでシルクのような見事な白毛。そして、背に生えた翼! この子は、俺の極秘文書(アカデミア・キャット・ファイル)の379番、アルフィー先輩のエルドじゃないか!」
 呼び出されたばかりの新顔(ユーフォルビア)に興味津々と匂いを嗅ぐ白猫『エルド』を見て、サクマ大興奮。
「なんでエルドがこんな所に居るんだ? おい、エルド。アルフィーの奴は何処だ?」
 そんなエルドに、カズマが問いかけた。
「迷子……な訳はないですよね」
「ないな。使い魔は主人と魔力で繋がってるから、どこにいてもわかる」
「もしかして、アルフィー先輩の身に何か……」
「なっ!?」
 神妙な表情で考え込んだサクマに、カズマは驚いて白猫を見下ろすと――。
「……あれ、どこいった?」
 先ほどまで居たエルドの姿がいつの間にか消えていた。

「おーい!」

 きょろきょろとエルドを探す二人の元に、2年生のアルフィー・リッパーが駆けてきた。
「あれ、アルフィーじゃないか。さっきエルドがいたぞ。どっかに消えちまったけど」
 息を切らし二人の元に辿り着いたアルフィーに、カズマが問いかける。
「あ、やっぱりか。エルドの奴、機嫌損ねて逃げたもんだから、見つけられなくて」
「なに、逃げた……?」
 使い魔が主人から逃亡するなんてまず聞かない。カズマはアルフィーの言葉に首を傾げた。
「はい、ちょっと昨日徹夜して……。朝のエサ(魔力供給)サボったら、すねて逃げました」
「な、なんだって!? まさか使い魔が主人に対して魔力回路を遮断したのですか? 召喚獣が主人との繋がりを断つなんて、自殺行為にも等しい事ですよ!」
 軽い口調で告白するアルフィーに、サクマは愕然。すごい勢いでまくし立てる。
「サクマの言う通りだ、アルフィー。ほっといたらエルドが消えちまうぞ」
「ええ、だからこうやって一生懸命探してるんですけど……」
「仕方ねぇ、おいサクマ!」
「準備万端ですよ、カズマ先輩」
 「手伝うぞ」と声をかけようかとしたカズマだったが、サクマの準備はすでに整っていた。
「よし、アルフィー。行くぞ!」
「あ、ありがとうございます!」

●
 魔法学院の中庭に、二胡の澄んだ音色が流れている。

「せいっ!」

 細い弦が紡ぎ出す高音は、中庭に春の訪れを告げている様でもあった。

「このっ!」

 まるで音楽の女神の祝福を受けたかのように、たおやかなメロディーは、聴く者を魅了してやまない。

「行ってください、ニラさん!」

 ――のだが。

「ふぅ、終わったよ。コルネ、今日も付き合ってくれてありがとうね」
「いえいえ、どういたしまして。私も魔法の練習になって丁度いいですから」
 音楽の終わりと共に汗をぬぐう、ペガサス寮4年生コンビ、コルネリウス・アーラとサラ・サギサカ(匂坂 沙羅)。
「今日は一段と気合が入っていましたね。危うく何匹か取りこぼすところでした」
「はは、そうかな? 春になったから興が乗ったのかもしれないね」
 不壊の魔法がかけられた鳥籠をぽんぽんと叩きながら言うコルネリウスに、サラは朗らかに笑う。
 サラの紡ぐ音には、魔力がこもっている。歌に魔力がこもる『呪歌者』と混同されることもあるが、サラの魔法は紡がれた音楽に宿っていた。
 古くは音楽の神と契りを結んだとされる家系の末裔で、彼女が奏でる音楽はそれ自体が召喚術式を有する。なので――。
「コルネが居てくれるから遠慮なく演奏できて、ほんと助かるよ」
 自然発生的に『門』が開き、そこから音に誘われる様に魔法生物が出てくるのだ。そして、出てきた魔法生物は何とかしないといけない。しかし、サラは演奏を止めない。さて、どうするか――。
「ニラさんもいい運動になったみたいです」
 そう『狩るもの』と共に居ればいい。
 サラは、学院で音楽を奏でる時は決まって、同期で同寮のコルネリウスに声をかける。
「ニラ、今日はどの世界に繋がった?」
 二胡を亜空間イヤリングへと収納したサラは、コルネリウスの肩で羽を休める大型の鳥『ニラミズク』に問いかける。
「草原の世界、だそうですよ」
 口を開いたのはコルネリウス。ニラと繋がる魔力回路の僅かな揺れから、その感情と考えをある程度読み取れる彼女は、話せぬニラに代わりサラへ答えた。
「へぇ、春にはぴったりの世界だね」
「出てきたのも昆虫系が多かったですね」
「ああ、蝶とか飛蝗だったね。ニラ、あんまり変なもの食べて、お腹壊さないでよ?」
 心配するつもりでかけた言葉が気に食わなかったのか、ニラはぎろりとサラを睨む。
「ふふ、その辺の鳥と一緒にするな。ですって」
「はは、そりゃ失礼した」
 サラは勇敢な空の勇者に向け、頭を下げた。
「でも、大変ですね。大好きな事をすればするほど、周りに……その」
「迷惑をかける?」
「はい」
「はは、そうだね。それがうちの家系に生まれた人間の宿命みたいなもんだからね」
 言いにくそうに頷くコルネリアスに、サラは軽快に笑う。
「サラは気にしてないんですか? その体質の事」
「気にしてないさ、むしろ感謝しているくらいだ」
「感謝?」
「ああ、この体質のおかげでこの魔法学院に入学できたし、コルネとも会えた」
 そう言ってニッと笑う同級生に、コルネリウスは途端に気恥ずかしくなり視線を外した。
「……もぉ、恥ずかしい事を真面目な顔で言わないでください」
「なんだ、照れたのか? 愛い奴め。うりうり」
 にやにやと笑うサラが、コルネリウスの腕を肘で小突いていると、主人を護るナイトの如くニラが大きな翼をばたつかせる。
「あー、悪かったってニラ。もうしないから」
 再び睨み付けてくるニラに、サラは手を合わせ謝罪。
「あ、そうそう。聞きました?」
 そんな時、コルネリウスがふと何かを思い出した。
「新入寮生の話」
「入寮生だって? この時期に?」
「ええ、珍しいですよね。何でも――」
 サラは首を傾げ、コルネリウスの話に耳を傾けた――。

●
「ん、これで入寮手続き完了だ。ようこそ、ペガサス寮へ」
 サイン(肉球スタンプ)の書かれた(押された)書類を確認した、ペガサス寮寮長レイジが、両手を広げ歓迎の意を表すと、並びの悪い歯を見せつけた。
「よ、よろしくお願いしますなのだ! 頑張りますのだ!」
 一方、書類を提出した人物。短い手足を懸命に伸ばし直立させるダイフク(大福)は、震える声でレイジに挨拶する。
「おいおい、そんなガッチガチじゃ、『門』を通ってくる召喚獣も言うこと聞かねぇぜ?」
「そ、そうなのだ……?」
「おうよ! 召喚獣ってのはな、召喚主の命に絶対服従のよき従者だからな!」
 持論をもってダイフクに教えを授けるレイジがくるりと杖を一振り、何もなかった空間に『門』を呼びだすと、中から白い小鳥が飛び出してきた。
「どうだ、従順だろう?」
 出てきた小鳥は、レイジの掌の上で大人しく羽を休めている。
「まぁ、こんなものだ。ダイフクは召喚が初めてだって事だから、同級生や先輩に教えてもらって来い。あいつ等、今なら校庭にいるんじゃねぇかな」
 と、小鳥を『門』へと還しながら、レイジは窓から外を覗いた。
「え、レイジ寮長さんは教えてくれないのだ……?」
「うん? ああ、俺も教えてやりてぇんだけどな、どうやら俺は教えるのに向いてないらしい」
「向いてない……のだ?」
「まぁ、詳しくは教えられねぇけど、そういう事だから、校庭に行って寮生探しな」
 首をかしげるダイフクにそう言ったレイジが、再び杖を振ると部屋のドアが勝手に開く。
「まぁ、変なのも多いが、皆愉快な奴等だ。悪いようにはしねぇさ」
 そう言うと、レイジは再び並びの悪い歯が見えるように笑った。

●
「そう言われても、いきなり声かけるのは、ちょっと怖いのだ……」
 レイジの部屋を辞したダイフクは、校庭へ――は行かず、校舎裏へとやって来たていた。
「せめて、少しくらい練習してから行くのだ」
 熱い決意を胸に秘め、ダイフクは授業で習った召喚術式を反芻する。
 召喚魔法は異世界との『門』を開き、そこからこの世界にはいない魔法生物を呼びだす術。ダイフクは教科書に書かれてあった内容を思い出しながら、ゆっくりと魔法陣を描いてく。
「確か教科書には、魔力の流れをコントロールして、ゲートを開くイメージを膨らませるって書いてたのだ」
 書き終わった魔法陣と、教科書を照らし合わせ間違いがないか確認したダイフクは、魔力の流れを意識する為に瞳を閉じた。
「体の中心から腕へと流すイメージなのだ……」
 体内を流れる魔力を両手へと集中させ――ぽふんとなんとも気の抜けた音と共に両手を合わせた。瞬間、腕にはめられた腕輪型の魔法具がダイフクの魔力に感応し光を発する。
「今なのだ!」
 確かな魔力の流れを肉球に感じつつ、ダイフクは高々と天へと掲げた。

――。

―――。

――――ボフン!!

「あばばばば! あちっちちっちっ!!!」
 はじけ飛んだ魔法具の破片を慌てて投げ捨てたダイフクは、真っ赤になった手首にふーふーと息を吹きかける。
「うぅ……また爆発したのだ……教科書通りでも駄目なのだ……」
 しょぼんと項垂れるダイフク。
「ちっちゃい召喚獣すら呼べないのだ……こんなんじゃ、ペガサス寮の皆に笑われてしまうのだ……」
 ダイフクはペガサス寮へ入寮するまでにも何度も召喚にチャレンジしている。しかし、魔法具の力を借りて行う召喚ですら、まだ一度も成功したことがない。
「ダイフクには向いてないのだ……?」
 ぺたんとへたり込み、自然と湧き上がってくる涙に手を添えようとした、その時。

「なんか音がしたけど?」

 校舎の影から人の声がした。
「……『あばばばば』なる悲鳴にも似た慟哭が聞こえたようだな」
「慟哭って……それは流石に言い過ぎだと思うけど。でも確かに聞こえたな」
 声の主は二人、三人と増えていく。

「こっちだ! わずかだけどこっちからエルドの気配がする!」
「ってか、猫のくせに飛ぶの卑怯だろ!?」
「ふ……こちらにも箒がある。飛んでいようが泳いでいようが必ず捕まえる。そして、吸う!」
 別の角から四人、五人、六人。

「でさ、変化術の教師がやらしい目であたしを見るんだよ」
「ああ、あの先生ですか。確かにちょっと目つき悪いですよね。私もたまに見られます」
 またまた別の路地から七人、八人。

「だだだ、誰か来るのだ……!?」
 四方八方から聞こえる人の声に、ダイフクは急いで涙をぬぐうと立ち上がり、お尻についた土を払った。
「あれ、うちの寮服じゃん」
 と、最初に姿を見せたのはベアトリーチェだった。
「……確かに同寮の生徒のようだが……見ない……顔……かおぉぉ!!」
 続いて現れたのは6年の二人だったのだが、アレックスがダイフクの姿を確認するや、絶叫した。
「うわっ!? なんだよ、いきなり大声出すな――っていない!?」
 アレックスは光の速さでベアトリーチェを追い抜くと、ダイフクの前で膝を折る。
「……いぬ」
 最早挨拶すらままならないアレックスに、ダイフクは呆然と口を開けた。
「あはは! もぉ、アレックス先輩焦りすぎ! 超ウケるぅ」
 追いついてきたベアトリーチェが、ダイフクに熱視線を送るアレックスを見て笑う。
「へぇ、見ない顔だな。獣人種か。こんな所で同族に会うとはな」
 その後ろからレオネベルもやって来た。
「あわわわわ……」
 同じ制服を着た三人に囲まれ、ダイフクはぐるぐると目を回す。
「ごめんな後輩君。こいつ、犬には目が無くてな」
 ダイフクに手を伸ばそうとするアレックスの腕を阻止しつつ、レオネベルが苦笑した。
「ははは、はじめましてなのだ! ダイフクはダイフ――」
 ダイフクが慌てて挨拶をしようと声を上げた、その時。
「あれ、この子、アルフィーのエルドじゃん。なんでこんな所に?」
 ダイフクの頭の上に、真っ白な翼付きの猫が降り立った。
「……猫か。ちっ」
「うっわ、舌打ちとか、超ウケるんですけど!」
 ダイフク(犬)の上にエルド(猫)が乗っかるのがよほど気に食わないのか、アレックスが露骨に表情を歪めるのを、ベアトリーチェがけらけらと笑う。

「あー、いた! 先輩、そいつ捕まえてください!!」

 と、別の角(コーナー)から飛び出してきたアルフィーが、エルドを囲む四人に大声で叫んだ。
「何、どこだ! 俺のエルド!」
 逃げるアルフィーを追い、サクマが猛烈な追い込みを見せる。
「お前のじゃねぇからな!?」
 三番手を走るカズマが離されまいと必死で食らい付いた。
 三つ巴となったエルド捜索隊は、一塊となってダイフクの頭上に輝く栄光のエルド(ゴール)へと突っ込んでくる。
「よし、逃げないぞ! そろそろ魔力切れか!」
「なっ……! 最早、一刻の猶予もない。待っていてくれ、俺のエルド!」
「だからお前のじゃねぇ! ってか、どさくさに紛れて俺の呼んだ黒猫を懐にしまってんじゃねぇよ!」
 低空で箒を飛ばし、土煙を巻き上げながらデッドヒートを繰り広げる三人は、我先にと手を伸ばし――。

「はい、ストップ!!」

 レオネベルが突如三人の前に立ち塞がった。
 突然現れた障害物に三人はバランスを崩し落箒。頭から地面に突っ込む。
「危ないだろ、そんなにスピードだしたら。一体何の騒ぎなんだ?」
 地面に転がる三人を見下ろし、レオネベルが問いかけた。
「いてて……実は、今朝、エルドが――」
 と、赤くなった鼻頭を摩りながらアルフィーが、事の顛末を話す。

「なるほどな。それはアルフィーが全面的に悪い」
「うっ……」
 話を聞き終えたレオネベルの結論に、アルフィーは言葉に詰まる。
「とにかく、早く回路を戻せ」
 と、抱えていたエルドをアルフィーに返そうとした、その時。

「あれ、なんでここに人が居るの?」
「本当ですね。折角の秘密の場所だったのに」

 サラとコルネリウスが別の路地から現れた。
「あ、サラ先輩にコルネ先輩じゃん! 今日もラブいねぇ!」
 二人に真っ先に気付いたベアトリーチェが、手を振りながらひゅーひゅーと口笛を鳴らす。
「って、みんなペガサス寮生じゃない。なに? 今日何かあるの?」
 ベアトリーチェの冷やかしを「はいはい」と軽く流しつつ、サラは皆の元へと歩いてきた。
「ベアトリーチェさん。今日はなんか集まる予定ありました?」
「ううん、そういう訳じゃないんだけどさ――」
 サラの問いに答えたベアトリーチェは、アレックスにぐいぐい迫られるダイフクに視線を落とした。
「ああ、噂の新寮生君?」
「あれ、サラ先輩しってんの?」
 サラの言葉に首を傾げたベアトリーチェが問い返す。
「コルネに聞いたんだよ。へぇ、あんたが」
 隣で頷くコルネリウスと共にサラは、きょろきょろと落ち着かないダイフクを見下ろした。

「ははは、はじめました! あわわわ、違うのだ! はじめめめ……あばば! 噛んじゃったのだ!?」

 沢山の視線にさらされ、お目目ぐるぐるするダイフクは勇気を振り絞り自己紹介をしようとするがうまくいかず更に混乱する。
「……大丈夫だ。安心しろ、俺が一生ついている。さぁ、ゆっくりでいいんだ、お前の名前を教えてくれ」
 そんな、ダイフクに熱視線を送るアレックスがそっと手を取った。
「何どさくさに紛れて告白してんすか、先輩!? って、うごかねぇ!」
 カズマが引き剝がしにかかるも微動だにしないアレックス。
「はぁ、まったく。おいアレックス。お前の犬が猫に襲われてるぞ」
 同級生の痴態に嘆息するレオネベルが、手慣れた様子でアレックスに声をかけた。
「なぁにぃ~!!」
 聞き捨てならぬその言葉に、勢いよく振り向いたアレックスは目撃してしまった。愛しい使い魔に猫ども(エルドや使い魔達)が襲い掛かっている(じゃれついている)現場を。
 アレックスは名残惜しそうにダイフクの手を離すと、愛しの使い魔の元へ駆けて行った。
「ごめんね。あの先輩、ちょっと変わり者でね。後輩君、よかったら名前を聞かせてもらえる?」
 解放されてもなお緊張しているダイフクに、サラが優しく話しかける。
「は、はいなのだ! えっと……ダイフクはダイフクというのだ! 今日、ペガサス寮に編入された1年生なのだ! よろしくお願いしますのだ!」
 サラの後押しにダイフクは勇気を振り絞り自己紹介。そのまま、大きな頭を下げた。
「ダイフクか。よろしくな。俺も同じ1年のサクマだ」
「同級生なのだ!? よろしくなのだ!」
 サクマの差し出した手を取ったダイフクは、同級生の存在に安心したのかにこりと笑顔を見せ――ぷにぷに。
「……えっと、何してるのだ?」
「……なるほど、やや硬めではあるものの、実に見事な肉球だ。しかし……しかし、何故に犬なんだ……!」
 肉球を勝手に堪能しつつ悔しがるサクマに、ダイフクは首をかしげる。
「悪いな。こいつ猫派なんだ」
 どうしていいか困るダイフクに、サクマの頭に手を置いたアルフィーが苦笑しながら声をかけた。
「でも、新寮生が一人で何やってるんだ? レイジ先輩はどうしたんだ」
「どーせレイジの事だから、『俺様は忙しいんだ。その辺で適当に寮生つかまえて教えてもらえ!』とか言ったんじゃない?」
 心配げに問いかけたアルフィーに、ベアトリーチェが絶妙なモノマネで返す。
「そ、そうなのだ! よくわかったのだ!? 寮長さんに、皆に教えてもらえって言われたのだ。でも、ダイフク、召喚術はうまくないから、最初に練習してからと思ったのだ」
 気恥ずかしそうに語るダイフクに、皆がお互いの顔を見合わせた。

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アーカイブ生成日時 2026年08月05日 14時56分25秒 ・ world0