迷子の学院散歩
王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 白葉うづき納品 2021年04月27日 19時26分23秒
鐘の音が校舎に響く。号令の後、一緒に授業を受けていたエルシー・サリバンとハル・チフは揃って校舎に入った。
「お疲れさまなのですよ、エル」
「ハルもお疲れさま! 箒に乗るのって難しいけど、楽しいね」
「エルは出来てたと思うのです。飛んでるの、格好よかったですよ」
「本当? よかった!」
初めての箒の授業を終えた、幼馴染同士の一年生。魔法の授業はもちろん不思議な校舎、素晴らしい先生、頼りになる先輩、そして仲間と過ごす日々はこれまでの生活とは打って変わるもので、毎日刺激的だ。
「次はなんの授業だっけ」
「魔法史ですね。場所は……三階の端っこにあるみたいです」
「三階……!」
思わず復唱したエルシーは辺りを見回す。まだまだ学院に来てから日が浅い彼女たちにとって、広大な校舎内は知らない場所ばかりだ。先輩や先生に教えてもらいながらでないと階段さえ見つけられない。
ただ、同じ授業を受ける皆と移動出来れば話は早い。黄色い集団を見つけたエルシーはその後ろに付こうと廊下に出て――手を引かれた。
「エル!」
「へっ?」
目の前を大きな白い物体が横切る。二人の耳と尻尾がぴんと立った。
「「召喚獣!?」」
「待て! 待てっつーの、落ち着け!」
白い鬣を持った獅子が咆哮し、逃げていくのを黄色い制服の何人かが追っていた。その咆哮に、肩にいたエルシーの友人が驚いて走り出す。
「ティム!」
「わっエル!? 待つのですよ!」
階段、廊下、色々な部屋を通って――そうして追いついたリスの友人をエルシーは抱きしめる。
「良かった……平気? びっくりしたんだよね」
よしよしと撫でているエルシーにハルが追いついてくる。しばらく再会を見守っていたが、きょろきょろと辺りを見回した。エルシーも釣られて見回す。見慣れない景色に顔を見合わせた。
「エル、僕たち……」
「迷っちゃった……?」
***
廊下は四方に広がり、教室が並んだ先にもまた他の場所へ伸びる廊下が続いていた。窓の外を見ると三階……四階だろうか。もしかしたら五階かもしれない。
「とりあえず、人がいたら聞いてみるですよ」
「そうだね! 授業は遅れちゃうかもしれないけど……変なところに迷い込むのも怖いし」
入ってはいけない侵入禁止区域もあるらしい。さっきのように召喚獣が暴れていることもあるし、危険な場所も知らないだけでたくさんあるだろう。
「エル」
「!」
不安な気持ちが芽生え始めていたエルシーの手をハルが握る。顔を上げると、ハルが優しく笑っていた。
「僕が一緒だから大丈夫なのですよ」
「! うん!」
「とりあえず教室を覗いてみて、聞けそうだったら聞くのです」
「そうだね!」
二人で手を繋ぎ、時折教室を覗いては次に進んでいく。授業の鐘はもう鳴ってしまい、廊下は人通りがなく二人の足音がやけに響いていた。
「……て……」
「? ハル、何か言った?」
「言ってないのですよ?」
「こらー! 待てー!」
「待たなーい!」
びゅーん、と二人の上を風が切る。驚いて見上げると、箒に乗った黒い影が回転をしながら飛び去った。その後に慌ただしい足音が響く。
「おや、迷子かい? そっちに階段があるよ、案内できなくて悪いね!」
同じ黒制服の、少女だろうか。走りながら指を差し、再び箒を追いかけていった。
「びっくりしたー! ああいうこと、よくあるのかな?」
「この前も同学年が授業エスケープしてたのです」
「一年生で!?」
「よっぽど嫌な授業だったのかもしれないです?」
「不思議……あ、階段! ハル、行ってみよう!」
階段を下りると石造りの廊下が並んでいた。大きめの広場には出たが、一階二階でもなさそうだ。
ぷしゅううう!
「わっ!?」
突然、傍の教室から紫色の煙が噴き出す。そこから数人の生徒たちが折り重なって倒れ込んできた。
「ど、どうしたのです!」
「しぬ……」
ぱたりと手を落とした生徒に二人は戦慄する。二人にも紫の煙が迫り、そして――
「「くさーい!!」」
気絶しそうなほど強烈な臭気。二人は思わず鼻を摘まんで叫んだ。
「何事です!? ……調合の失敗? やれやれ……」
騒ぎを聞きつけた生徒たちが集まってくる。そこかしこで治療が始まり、エルシーとハルは邪魔にならないところへ。教室の中も煙が充満していて大惨事だ。
「魔法薬……失敗したらあんな風になるのかなぁ……」
「ちょっと細かい作業は自信ないのです……」
「私も自信ないけど、一緒だから大丈夫! 頑張ろ!」
「君たちは?」
治療をしていた青年に話しかけられ、二人ははっと今の状況を思い出した。
「あの! 私たち、迷子で!」
「魔法史の教室に行きたいのです!」
「ああ。それなら送ってあげるね」
ふんわりと微笑んだ彼が案内してくれるようだ。ほっと胸を撫で下ろす。
「探検してるみたいで、ちょっと楽しかったね」
「僕もなのです。秘密の散歩なのですよ」
並んで歩く二人は笑い合う。まだまだ、楽しみがいっぱいだ。
「お疲れさまなのですよ、エル」
「ハルもお疲れさま! 箒に乗るのって難しいけど、楽しいね」
「エルは出来てたと思うのです。飛んでるの、格好よかったですよ」
「本当? よかった!」
初めての箒の授業を終えた、幼馴染同士の一年生。魔法の授業はもちろん不思議な校舎、素晴らしい先生、頼りになる先輩、そして仲間と過ごす日々はこれまでの生活とは打って変わるもので、毎日刺激的だ。
「次はなんの授業だっけ」
「魔法史ですね。場所は……三階の端っこにあるみたいです」
「三階……!」
思わず復唱したエルシーは辺りを見回す。まだまだ学院に来てから日が浅い彼女たちにとって、広大な校舎内は知らない場所ばかりだ。先輩や先生に教えてもらいながらでないと階段さえ見つけられない。
ただ、同じ授業を受ける皆と移動出来れば話は早い。黄色い集団を見つけたエルシーはその後ろに付こうと廊下に出て――手を引かれた。
「エル!」
「へっ?」
目の前を大きな白い物体が横切る。二人の耳と尻尾がぴんと立った。
「「召喚獣!?」」
「待て! 待てっつーの、落ち着け!」
白い鬣を持った獅子が咆哮し、逃げていくのを黄色い制服の何人かが追っていた。その咆哮に、肩にいたエルシーの友人が驚いて走り出す。
「ティム!」
「わっエル!? 待つのですよ!」
階段、廊下、色々な部屋を通って――そうして追いついたリスの友人をエルシーは抱きしめる。
「良かった……平気? びっくりしたんだよね」
よしよしと撫でているエルシーにハルが追いついてくる。しばらく再会を見守っていたが、きょろきょろと辺りを見回した。エルシーも釣られて見回す。見慣れない景色に顔を見合わせた。
「エル、僕たち……」
「迷っちゃった……?」
***
廊下は四方に広がり、教室が並んだ先にもまた他の場所へ伸びる廊下が続いていた。窓の外を見ると三階……四階だろうか。もしかしたら五階かもしれない。
「とりあえず、人がいたら聞いてみるですよ」
「そうだね! 授業は遅れちゃうかもしれないけど……変なところに迷い込むのも怖いし」
入ってはいけない侵入禁止区域もあるらしい。さっきのように召喚獣が暴れていることもあるし、危険な場所も知らないだけでたくさんあるだろう。
「エル」
「!」
不安な気持ちが芽生え始めていたエルシーの手をハルが握る。顔を上げると、ハルが優しく笑っていた。
「僕が一緒だから大丈夫なのですよ」
「! うん!」
「とりあえず教室を覗いてみて、聞けそうだったら聞くのです」
「そうだね!」
二人で手を繋ぎ、時折教室を覗いては次に進んでいく。授業の鐘はもう鳴ってしまい、廊下は人通りがなく二人の足音がやけに響いていた。
「……て……」
「? ハル、何か言った?」
「言ってないのですよ?」
「こらー! 待てー!」
「待たなーい!」
びゅーん、と二人の上を風が切る。驚いて見上げると、箒に乗った黒い影が回転をしながら飛び去った。その後に慌ただしい足音が響く。
「おや、迷子かい? そっちに階段があるよ、案内できなくて悪いね!」
同じ黒制服の、少女だろうか。走りながら指を差し、再び箒を追いかけていった。
「びっくりしたー! ああいうこと、よくあるのかな?」
「この前も同学年が授業エスケープしてたのです」
「一年生で!?」
「よっぽど嫌な授業だったのかもしれないです?」
「不思議……あ、階段! ハル、行ってみよう!」
階段を下りると石造りの廊下が並んでいた。大きめの広場には出たが、一階二階でもなさそうだ。
ぷしゅううう!
「わっ!?」
突然、傍の教室から紫色の煙が噴き出す。そこから数人の生徒たちが折り重なって倒れ込んできた。
「ど、どうしたのです!」
「しぬ……」
ぱたりと手を落とした生徒に二人は戦慄する。二人にも紫の煙が迫り、そして――
「「くさーい!!」」
気絶しそうなほど強烈な臭気。二人は思わず鼻を摘まんで叫んだ。
「何事です!? ……調合の失敗? やれやれ……」
騒ぎを聞きつけた生徒たちが集まってくる。そこかしこで治療が始まり、エルシーとハルは邪魔にならないところへ。教室の中も煙が充満していて大惨事だ。
「魔法薬……失敗したらあんな風になるのかなぁ……」
「ちょっと細かい作業は自信ないのです……」
「私も自信ないけど、一緒だから大丈夫! 頑張ろ!」
「君たちは?」
治療をしていた青年に話しかけられ、二人ははっと今の状況を思い出した。
「あの! 私たち、迷子で!」
「魔法史の教室に行きたいのです!」
「ああ。それなら送ってあげるね」
ふんわりと微笑んだ彼が案内してくれるようだ。ほっと胸を撫で下ろす。
「探検してるみたいで、ちょっと楽しかったね」
「僕もなのです。秘密の散歩なのですよ」
並んで歩く二人は笑い合う。まだまだ、楽しみがいっぱいだ。