学院生と秘密の召喚獣
王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 白葉うづき納品 2021年04月23日 16時20分02秒
●夜へ続く道
夜の学院は不気味だ。
幾つもある曲がり角、階段の隙間、探せば幾らでもある暗闇には未知が潜んでいる。絵画の住民は眠りにつき、石像は灯りを向ければその瞳を光らせた。
(すっかり遅くなっちゃったな……)
光を灯した杖を片手に、ジュンは自分の寮への道を足早に歩く。つい先輩と話し込み、消灯時間を大幅に過ぎてしまっていた。進むのは絵画がいくつもあるジュンが通い慣れた道。殆ど部屋もないし、ここならば先生も滅多に来ない。
不意に、前方から音が聞こえた。咄嗟に身を隠すもこちらに来る気配はない。そっと覗き込むと――赤服の生徒が絵画に向かって拳を振り上げるところだった。
「ちょっ! 待って! 駄目だ!!」
「ん?」
目の前に躍り出た少年に、白羽・ヒバリは拳に集束させていた魔力をしゅうしゅうと音を立てながら散らす。真っ赤な魔力。その密度にジュンはぞっとした。
「こんなところでどうしたんですか」
「俺の台詞だよ。何でこの絵を殴ろうとしたの、これはかつてペガサス寮が召喚したという伝説の魔物を描いた――」
動揺したのかそのまま絵の説明を少年は始めた。よほどこれが大切らしい。
「すみません、絵画が外れなかったので破壊すればいいかなと」
「もうちょっと考えよう。……外す?」
「そう。私はこの奥に用事があるんです。――後ろから漏れ出る強烈な魔力に」
「アーテルー……?」
周りを見回し、控えめな声量で呼びかけながらネーヴェ・グラヌローザは歩いていく。本当は今頃寮室でのんびりしているはずだったけれど、使い魔であるアーテルがするりと学院へ入っていったのだ。
夜の校舎は、怖い。小さな物音にも驚き、心をざわつかせながら、けれど子猫のために進むネーヴェに音が聞こえる。そのまま耳を澄ませていると――からから、からから。
「きゃっ!?」
「あっ」
背後からの音。咄嗟に杖を構えたネーヴェは、車椅子に乗った黒い制服の少女と目が合った。
「ごめんなさいなの、驚かせちゃった」
「あ……いいえ、わたくしこそごめんなさい。あなたも大丈夫ですか?」
その問いに朝霞・杏音は頷く。
「大丈夫なの。魔装具の調整に夢中になってたらこんなに暗くなっていたの。あなたは?」
「わたくしは、アーテル……使い魔の子猫を探していたの」
「迷子なの?」
見たところネーヴェは初々しい一年生だ。話を聞いた杏音は色違いの瞳を瞬かせる。
「大事ならすぐに探した方が良いの。……あのね。夜の学院には化け物が出て、異空間に引きずり込んじゃうって噂なの」
「え!? 大変、なら早く……、!」
鈴の音が聞こえた。咄嗟にその方向を振り返ったネーヴェは、黒尻尾が壁に吸い込まれていくのを見た。
「アーテル!」
――伸ばした手は壁を抜ける。
「きゃああ!?」
「!? 待つの!」
そのままネーヴェは吸い込まれる。手を掴んだ杏音も、同じように壁の向こうへ消えていった。
●奥へ、奥へ
「人物画と話すのはわかりますが、それ以外とも会話できるなんて変わってますね」
「そう、かな。小さい頃からそうだったから」
「にしても何故一緒に来ているんですか? 怪物なら私の獲物ですよ」
「君を放っておけなかったから、かな」
「……」
「?」
「それは激やばでやんす。お気持ちにキュンですね」
「いきなりどうしたの」
様子のおかしくなったヒバリに不安を感じながら、二人で暗がりの部屋を進んでいく。やけに広い空間だった。
先程の絵画の怪物は、ある人との約束で動かないことを決めていたらしい。ヒバリの説得もあって退いてもらえたが……この先に何が待っているというのだろう。
「止まってください」
――壁の向こう。遠くからごろごろ……という音が近づいてくる。ヒバリは音の鳴る壁に向き合うと、腰を落とした。
「「きゃあああ!!」」
「わっ!?」
壁を通り抜けるようにして車椅子、そして少女が二人飛び出してきた。構えていたヒバリが真正面から受け止め、椅子ごと抱きしめるようにして壁への衝突を止める。
「ヒバリ!?」
「平気ですよ、伊達に鍛えていませんから」
「それにしたって無茶するなぁ……! 君たちも大丈夫?」
「え、ええ……あ、ごめんなさい、わたくしったら」
「平気、なの」
杏音の上から降り、ネーヴェたちはジュンに怪我を見てもらう。その間にヒバリの話を聞くと、
「わたくしもお供します! アーテルがいるかもしれません」
「わたしも。こんなところ、学院にあったなんて初めて知ったの」
一人は決意に、一人は好奇心に目を輝かせた。
四人組となった学院生たちは奥に進んでいく。急に道が狭まり、進める方向が増え、時折行き止まりにも行きあたる。
「まるで迷路みたいだ」
「密です」
「あの、気のせいかもしれませんが……先程から同じ道を通っていません?」
ネーヴェに言われ辺りを見回す。天井も低いせいで判別がつきづらいが、確かに一向に進んでいる気がしない。杏音は考え込むとそっと壁に触れる。――覚えのある力。
「この壁。魔力が通ってるの。たぶん、どこかに核があって、そこから魔力を送り込まれてメイズ化してるの。壊してもきっと再生するの」
「そんなことまでわかるのですか!? 杏音様、すごいです!」
「なるほど、破壊できないのはやばたんですね」
「ええと……なら、この魔力の流れを追っていけばいいんだね」
「この?」
細く、脈のように這う流れがジュンの瞳に見えていた。
(黒くて、けれど綺麗な力)
導かれるように進んでいくと、黒くて小さい宝石が壁に収まっていた。それをヒバリは軽く握り込み、ぱらぱらと砂に帰す。
「第一ステージクリア、ですね」
「今第一って」
「まだ先は続きそうですから。ノリピーナッツです」
「ねえ今の貴重な魔法媒体だったの。壊す必要なかったの」
「すいやせぇん」
「あの、ヒバリ様。先程から聞き慣れないお言葉を聞くのですが……もしや、それがヒバリ様の強さの秘訣でしょうか!」
「ぴったりカンカンです!」
「この人きっと適当言ってるの、騙されちゃだめなのネーヴェちゃん」
同じドラゴン寮ということで、後輩はヒバリのことを知っているらしい。だが果たして会話が成立しているかヒバリにはわからない。そのまま思いつくままの言葉を交わしていると、はっと気付く。
何者かの気配。――しかもかなりの数だ。
「周りに複数います、構えて!」
「怪物!?」
「小さなゴーレムがいますわ!」
「トロールもいるの!」
1mに満たない個体がわらわらと周りを囲み、トロールが進む先に立ちはだかった。
「守護神かな……!?」
「お喋りしてる時間もなさそうです! 『五大精霊の祖に連なる炎の精霊――』」
何度も練習した呪文だ、大丈夫。構えたネーヴェの杖先に赤が灯り、火球が放たれる。ゴーレムに着弾して円心状に焼いた。
「これ、キリがないかもなの」
「どんどん出てくる……あ、あそこ!」
杏音は椅子に纏わせた植物の蔓で、ジュンは空中に引いた絵の具の線を操りゴーレムを拘束する。ジュンが指した先には紫に光る地面があった。湧いて出てくるそこを、トロールが守っている。
「引きつけないとなの!」
「そこをヒバリに壊してもらって、それから――」
「そんな細々したことは必要ありませんよ」
メリケンサックを嵌め、ヒバリは息を整えた。そして真正面を見据える。
「はぁっ!」
乾坤一擲。集束された魔力が放たれ一直線上に魔法の閃光が走る。それはゴーレムを滅し、トロールすら突き抜け、地面ごと抉り取った。
「大したことありませんでしたね」
皆が絶句し、きらきらとした光が舞い散る中、ヒバリは楽しそうに口端を上げた。
●秘密の召喚獣
「いやいや、ハッスルし過ぎだろアンタら」
青年が暗がりから歩いてくる。その手には黒猫が抱えられていた。
「アーテル!」
「アンタのか。良い使い魔なんだからちゃんと面倒見ろよ?」
「アーテル……ああもう、心配したのよ……!」
黒猫が駆け寄り、そのままネーヴェの胸へ飛び込む。ぎゅっと抱きしめると小さな鳴き声が返り、無事だよと報せるよう頬を舐める。
「ペガサス寮の寮長?」
「何故こんなところに」
「俺のセリフだから! つーかよく色々突破したな……」
視線が集まっているのを感じ、レイジはがりがりと頭を掻く。
「ここは……あー、いわゆる秘密の倉庫? この学院が危険な魔法アイテムとか預かってるの知ってるだろ。そういうのを保管するとこ」
これまでに突破してきたものは、例え生徒が迷い込んでも追い返す魔法だったということらしい。
「だから魔法アイテムも守護神も気合いが入ってたの」
「でも殺傷力はないんだぜ」
「ここに化け物がいるという噂を聞いたんですが。魔力もかなりのものです」
「そりゃ封印されてる召喚獣の魔力が漏れたのかもな……納得したか? 転送戸棚で送ってやるから真っ直ぐ寮に帰れよ。俺が先生たちに言いつけねぇとも限らねえからな」
「君は?」
「寮長サマだしな。これもお仕事ってヤツだ」
「今日のところは帰りましょう」
しばらくレイジに視線を遣った後、真っ先にヒバリが戸棚の奥に消える。
「あっヒバリ様! お早いですわね……杏音様、ジュン様。途中までご一緒してもよろしいでしょうか」
「もちろんなの」
「うん。送っていくよ」
「気を付けてけなー」
なし崩しに参加した夜の探索はここでおしまい。ジュンは一度振り返ると、戸棚の中へと入っていった。
「……良い保管場所だと思ったんだけどなぁ。妙な噂が立つ前に別の所に行くか、ウシュムガル」
残されたレイジが奥へと進むと、大きな宝石のはめ込まれた宝剣があった。ここに彼が封印されている。
「面白い魔法使う奴らだったし、手ぇ貸してもらうのもいいかもしれねぇ。……ちゃんと還してやるから、それまで大人しくな」
世界に取り残された竜を思いながら柄を撫でると、空気が震えた気がした。
夜の学院は不気味だ。
幾つもある曲がり角、階段の隙間、探せば幾らでもある暗闇には未知が潜んでいる。絵画の住民は眠りにつき、石像は灯りを向ければその瞳を光らせた。
(すっかり遅くなっちゃったな……)
光を灯した杖を片手に、ジュンは自分の寮への道を足早に歩く。つい先輩と話し込み、消灯時間を大幅に過ぎてしまっていた。進むのは絵画がいくつもあるジュンが通い慣れた道。殆ど部屋もないし、ここならば先生も滅多に来ない。
不意に、前方から音が聞こえた。咄嗟に身を隠すもこちらに来る気配はない。そっと覗き込むと――赤服の生徒が絵画に向かって拳を振り上げるところだった。
「ちょっ! 待って! 駄目だ!!」
「ん?」
目の前に躍り出た少年に、白羽・ヒバリは拳に集束させていた魔力をしゅうしゅうと音を立てながら散らす。真っ赤な魔力。その密度にジュンはぞっとした。
「こんなところでどうしたんですか」
「俺の台詞だよ。何でこの絵を殴ろうとしたの、これはかつてペガサス寮が召喚したという伝説の魔物を描いた――」
動揺したのかそのまま絵の説明を少年は始めた。よほどこれが大切らしい。
「すみません、絵画が外れなかったので破壊すればいいかなと」
「もうちょっと考えよう。……外す?」
「そう。私はこの奥に用事があるんです。――後ろから漏れ出る強烈な魔力に」
「アーテルー……?」
周りを見回し、控えめな声量で呼びかけながらネーヴェ・グラヌローザは歩いていく。本当は今頃寮室でのんびりしているはずだったけれど、使い魔であるアーテルがするりと学院へ入っていったのだ。
夜の校舎は、怖い。小さな物音にも驚き、心をざわつかせながら、けれど子猫のために進むネーヴェに音が聞こえる。そのまま耳を澄ませていると――からから、からから。
「きゃっ!?」
「あっ」
背後からの音。咄嗟に杖を構えたネーヴェは、車椅子に乗った黒い制服の少女と目が合った。
「ごめんなさいなの、驚かせちゃった」
「あ……いいえ、わたくしこそごめんなさい。あなたも大丈夫ですか?」
その問いに朝霞・杏音は頷く。
「大丈夫なの。魔装具の調整に夢中になってたらこんなに暗くなっていたの。あなたは?」
「わたくしは、アーテル……使い魔の子猫を探していたの」
「迷子なの?」
見たところネーヴェは初々しい一年生だ。話を聞いた杏音は色違いの瞳を瞬かせる。
「大事ならすぐに探した方が良いの。……あのね。夜の学院には化け物が出て、異空間に引きずり込んじゃうって噂なの」
「え!? 大変、なら早く……、!」
鈴の音が聞こえた。咄嗟にその方向を振り返ったネーヴェは、黒尻尾が壁に吸い込まれていくのを見た。
「アーテル!」
――伸ばした手は壁を抜ける。
「きゃああ!?」
「!? 待つの!」
そのままネーヴェは吸い込まれる。手を掴んだ杏音も、同じように壁の向こうへ消えていった。
●奥へ、奥へ
「人物画と話すのはわかりますが、それ以外とも会話できるなんて変わってますね」
「そう、かな。小さい頃からそうだったから」
「にしても何故一緒に来ているんですか? 怪物なら私の獲物ですよ」
「君を放っておけなかったから、かな」
「……」
「?」
「それは激やばでやんす。お気持ちにキュンですね」
「いきなりどうしたの」
様子のおかしくなったヒバリに不安を感じながら、二人で暗がりの部屋を進んでいく。やけに広い空間だった。
先程の絵画の怪物は、ある人との約束で動かないことを決めていたらしい。ヒバリの説得もあって退いてもらえたが……この先に何が待っているというのだろう。
「止まってください」
――壁の向こう。遠くからごろごろ……という音が近づいてくる。ヒバリは音の鳴る壁に向き合うと、腰を落とした。
「「きゃあああ!!」」
「わっ!?」
壁を通り抜けるようにして車椅子、そして少女が二人飛び出してきた。構えていたヒバリが真正面から受け止め、椅子ごと抱きしめるようにして壁への衝突を止める。
「ヒバリ!?」
「平気ですよ、伊達に鍛えていませんから」
「それにしたって無茶するなぁ……! 君たちも大丈夫?」
「え、ええ……あ、ごめんなさい、わたくしったら」
「平気、なの」
杏音の上から降り、ネーヴェたちはジュンに怪我を見てもらう。その間にヒバリの話を聞くと、
「わたくしもお供します! アーテルがいるかもしれません」
「わたしも。こんなところ、学院にあったなんて初めて知ったの」
一人は決意に、一人は好奇心に目を輝かせた。
四人組となった学院生たちは奥に進んでいく。急に道が狭まり、進める方向が増え、時折行き止まりにも行きあたる。
「まるで迷路みたいだ」
「密です」
「あの、気のせいかもしれませんが……先程から同じ道を通っていません?」
ネーヴェに言われ辺りを見回す。天井も低いせいで判別がつきづらいが、確かに一向に進んでいる気がしない。杏音は考え込むとそっと壁に触れる。――覚えのある力。
「この壁。魔力が通ってるの。たぶん、どこかに核があって、そこから魔力を送り込まれてメイズ化してるの。壊してもきっと再生するの」
「そんなことまでわかるのですか!? 杏音様、すごいです!」
「なるほど、破壊できないのはやばたんですね」
「ええと……なら、この魔力の流れを追っていけばいいんだね」
「この?」
細く、脈のように這う流れがジュンの瞳に見えていた。
(黒くて、けれど綺麗な力)
導かれるように進んでいくと、黒くて小さい宝石が壁に収まっていた。それをヒバリは軽く握り込み、ぱらぱらと砂に帰す。
「第一ステージクリア、ですね」
「今第一って」
「まだ先は続きそうですから。ノリピーナッツです」
「ねえ今の貴重な魔法媒体だったの。壊す必要なかったの」
「すいやせぇん」
「あの、ヒバリ様。先程から聞き慣れないお言葉を聞くのですが……もしや、それがヒバリ様の強さの秘訣でしょうか!」
「ぴったりカンカンです!」
「この人きっと適当言ってるの、騙されちゃだめなのネーヴェちゃん」
同じドラゴン寮ということで、後輩はヒバリのことを知っているらしい。だが果たして会話が成立しているかヒバリにはわからない。そのまま思いつくままの言葉を交わしていると、はっと気付く。
何者かの気配。――しかもかなりの数だ。
「周りに複数います、構えて!」
「怪物!?」
「小さなゴーレムがいますわ!」
「トロールもいるの!」
1mに満たない個体がわらわらと周りを囲み、トロールが進む先に立ちはだかった。
「守護神かな……!?」
「お喋りしてる時間もなさそうです! 『五大精霊の祖に連なる炎の精霊――』」
何度も練習した呪文だ、大丈夫。構えたネーヴェの杖先に赤が灯り、火球が放たれる。ゴーレムに着弾して円心状に焼いた。
「これ、キリがないかもなの」
「どんどん出てくる……あ、あそこ!」
杏音は椅子に纏わせた植物の蔓で、ジュンは空中に引いた絵の具の線を操りゴーレムを拘束する。ジュンが指した先には紫に光る地面があった。湧いて出てくるそこを、トロールが守っている。
「引きつけないとなの!」
「そこをヒバリに壊してもらって、それから――」
「そんな細々したことは必要ありませんよ」
メリケンサックを嵌め、ヒバリは息を整えた。そして真正面を見据える。
「はぁっ!」
乾坤一擲。集束された魔力が放たれ一直線上に魔法の閃光が走る。それはゴーレムを滅し、トロールすら突き抜け、地面ごと抉り取った。
「大したことありませんでしたね」
皆が絶句し、きらきらとした光が舞い散る中、ヒバリは楽しそうに口端を上げた。
●秘密の召喚獣
「いやいや、ハッスルし過ぎだろアンタら」
青年が暗がりから歩いてくる。その手には黒猫が抱えられていた。
「アーテル!」
「アンタのか。良い使い魔なんだからちゃんと面倒見ろよ?」
「アーテル……ああもう、心配したのよ……!」
黒猫が駆け寄り、そのままネーヴェの胸へ飛び込む。ぎゅっと抱きしめると小さな鳴き声が返り、無事だよと報せるよう頬を舐める。
「ペガサス寮の寮長?」
「何故こんなところに」
「俺のセリフだから! つーかよく色々突破したな……」
視線が集まっているのを感じ、レイジはがりがりと頭を掻く。
「ここは……あー、いわゆる秘密の倉庫? この学院が危険な魔法アイテムとか預かってるの知ってるだろ。そういうのを保管するとこ」
これまでに突破してきたものは、例え生徒が迷い込んでも追い返す魔法だったということらしい。
「だから魔法アイテムも守護神も気合いが入ってたの」
「でも殺傷力はないんだぜ」
「ここに化け物がいるという噂を聞いたんですが。魔力もかなりのものです」
「そりゃ封印されてる召喚獣の魔力が漏れたのかもな……納得したか? 転送戸棚で送ってやるから真っ直ぐ寮に帰れよ。俺が先生たちに言いつけねぇとも限らねえからな」
「君は?」
「寮長サマだしな。これもお仕事ってヤツだ」
「今日のところは帰りましょう」
しばらくレイジに視線を遣った後、真っ先にヒバリが戸棚の奥に消える。
「あっヒバリ様! お早いですわね……杏音様、ジュン様。途中までご一緒してもよろしいでしょうか」
「もちろんなの」
「うん。送っていくよ」
「気を付けてけなー」
なし崩しに参加した夜の探索はここでおしまい。ジュンは一度振り返ると、戸棚の中へと入っていった。
「……良い保管場所だと思ったんだけどなぁ。妙な噂が立つ前に別の所に行くか、ウシュムガル」
残されたレイジが奥へと進むと、大きな宝石のはめ込まれた宝剣があった。ここに彼が封印されている。
「面白い魔法使う奴らだったし、手ぇ貸してもらうのもいいかもしれねぇ。……ちゃんと還してやるから、それまで大人しくな」
世界に取り残された竜を思いながら柄を撫でると、空気が震えた気がした。