それは魔法学院の夜の不思議の物語
王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 太郎丸コトノハ納品 2021年05月06日 10時19分55秒
●
暗い夜の校舎。手元に灯りは如何にも頼りなく、影の気配をより強く意識させる。
カツンカツンと響くのは、己の足音。
反響する音は、暗い天井に吸い込まれ、広い空間にポツリと立っている事を思い出させた。
果月・ルイは長い廊下を一人ゆっくりと歩いていた。
最初は、就寝時間を過ぎて歩き回る罪悪感から、出来るだけ足音を立てないようにコッソリと。
けれど、いつしか息をひそめるように。
カツンカツンと慎重に、石張りの床を革靴で叩く。
背にある翼も何かに縛られたように、僅かたりとも動かせない。
まるでナニカに出会ってしまうのではという、形のない恐怖から隠れるように。
「べ、別に……怖くねーし。ただちょっと静かだから緊張するだk」
――ぴちょん
「ひっ!! な、なんだ、水飲み場か」
それが締まりの甘かった水場の水音だと分かりホッとする。
だからこそ、余計な事を思い出してしまったのだ。
水場に纏わる怪談話は多いのだ、と。
誰も、居ない。居ないはずだ。
だって、こんなにも息を潜めていて物音がしないのだから。
いや、水の音が止まってるっておかしくない?
だって、オレは触ってイナイ……。
「ワッ!」
「ぴゃあああああ出たああ」
ルイの悲鳴と、
「アッハッハ、すごいジャンプ力じゃん」
快活に笑う声が廊下に響いた。
「やぁ、アンタも夜の探検?」
恐る恐る声の主を見て見れば、細見の美人が気楽そうに手をひらひらとさせていた。
「な、なんだ、他寮の生徒かよ……」
その彼女に足があるのが見えて、ルイはホッとした。
「ミオリ・シナガワ、よ。こんな時間に何してんの? って人の事言えないかー」
「果月・ルイです。先輩も抜け出してきた人だったのかー、怒られるかとおもった。それなら、さ。一緒に探検しよーぜ」
差し出された手に、ミオリはニンマリとと笑う。
「良いじゃん良いじゃん! 面白そうじゃん! 乗ったよ」
「夜の学校探検隊、結成☆ だな」
ルイにとっては、一人でこれ以上探索しなくていいのは心強い。まして上級生。
一方、ミオリは何故ここにいるかと言えば、彼女もまた噂を聞いてやってきたのだ。
*
――ミオリ・シナガワは、この「夜の学院七不思議」なる噂を聞いて大いに興味を引かれていた。
別に七不思議が怖いとかではない。なにせ6年もこの学院に在籍しているのだから。その手の話の10や20は一般常識だ。
だが、一つだけ気になる内容のものがあった。
噂曰く――
『美術部員達が描いた人物画が、夜な夜な自分を描いた部員の技術を評価しあっているらしい』
「美術部員のエースとしては、気になっちゃうところだよね」
そんな訳で彼女は、予め手伝いを要請した後輩と待ち合わせの夜の学校へと向かうのだった。
*
ミオリの話を聞いて、その後輩の姿がない事に気が付いた。
「後輩はこの近くにいるのか?」
「伝言に、待ち合わせ場所を書くの忘れててさ。アッハッハ」
多分、その後輩は困ってるんじゃないか? そもそも来てない気もする。
「大丈夫大丈夫、優秀な奴だし。それに、口で言うよりお人好しだし! 不思議のスポット回ってたら、会えると思うよ」
こうして二人は、夜の校舎を進み始めるのだった。
●
時間は少し戻る。
ルイがまだ自室でワクワクしながら寮内が寝静まるのを待っていた頃、ペガサス寮の一室の窓からスルスルと縄が地面に向かって伸びていた。
「うんしょっ……と」
背中に荷物を抱えた人影が、縄を頼りに外へを抜け出す。
「えーと、儀式の場所は……講堂の裏でいいのかな」
月明かりの下、気楽な足取りでその人影は講堂の方へと消えていく。
その様子を遠目に発見して、緊張に体を強張らせた人物がいた。
「こんな深夜に、灯りもつけずに大荷物で歩く……不審者か?」
高町・雪緒は、先輩からの伝言を受けて、コッソリと寮を抜け出していた。
曰く、夜の七不思議を調べるから手伝って欲しいと。
規則違反である事を、堂々と手伝えと言ってくる先輩はどうかと思う訳なのだが、そこで逆らえるなら苦労はない。
先輩の姿を思い浮かべれば、猶更。
と、仮想先輩にすら丸め込まれていたところに、不審な人影を見つけたという事だったのだ。
「希少なアイテムも多い。盗人だとすれば、宝の山か」
火力魔法は得意な方だ。不審者ならばやってしまっても構わんだろうとばかりに、魔法式を練りながら人影を追おうとした。
その時、背後から涼やかさと甘さの混同した薫りと共に声が訪れる。
「あらあら、なんだか騒がしい夜……楽しそうね?」
その声には覚えがあった。まして、香りを纏っているとなれば。
「……香墨」
「素敵な夜ね? 雪緒。でも、どうして攻撃魔法を練ってるのかしら?」
現れたのは黒髪の美少女、漆原・香墨であった。
彼女と雪緒は同学年であり、授業などで一緒になる為、それなりに顔見知りだ。
だからと言って、ここで暢気に立ち話をする状況でもない。
「不審者を見つけたから、排除を試みる所だ。邪魔をしないでくれ」
どこかマイペースな所の在る彼女が少しばかり苦手であった。マイペースな友人と同様に。
「あらあら、でもいいの?」
いつでも発動できる状態になる。
「何がだ」
あとは気持ち一つだ。
「あそこに居るのは、影拾みたいだけど」
「は?」
ボフッ
不完全燃焼を起こした魔法があわや暴発する。
のを慌てて止めた雪緒。その音と気配で気が付いて、その人物が雪緒たちの所へやってきた。
「あ、雪緒! 丁度良かった吸血コウモリ、この辺で見かけなかった? 材料が足りなくて」
ニコニコとマイペースにやってくる不審者は、確かに友人である夕星・影拾であった。
「ねぇ、香墨も知らない?」
「あらあら、どうかしら」
「あ、そうだ。コウモリの代わりに雪緒の体液でも……」
「何の話だ! それより門限はとっくに過ぎてるんだぞ。何をやってる? まさかとは思うが、噂話に乗せられたんじゃないだろうな」
問えば、影拾と香墨は揃ってコテンと首を傾げた。
「違うのか。ならいい、だったら早く帰って……」
「だめだよ~、まだ全部見てないし。そうだ、雪緒も手伝ってよ。魔法を仕掛けようとしたお詫びってことで」
多少罪悪感がないではない雪緒は、渋々聞き返す。
「見るって何をだ?」
「知らない? アプリリース学院・夜の七不思議!」
「あらあら、奇遇だわ。私も気になってたの」
きゃっきゃと華やぐ影拾と香墨。
「……しっかり、噂に乗せられてるじゃないかああああ!」
まったくペースが掴めない二人に、雪緒は人知れず叫ぶのだった。
勿論、協力させられた。
●
ミオリとルイは、取り合えず七不思議の現場へ行こうという事で。
「やっぱ一番に行きたいのは、『秘密の武器庫』だなー」
年上と居る安心感からか、最初に比べてかなりリラックスしてきたルイがうきうきと答える。
「英雄の使ってたすごい剣とか、精霊が宿った杖とかが眠ってるんだっけ」
「やっぱ、すげー武器なら、ちょっと見てみたい」
「良いねー! OK、そこ行ってみよ」
そうは言ったものの、隠されている秘密の武器庫。場所が分からない。
「西の講堂の近くらしーんだけど……」
「おや、誰か来るね」
通路の曲がり角の先から、灯りが揺れ動くのが見えたのだ。
念の為に、物陰に身を潜めてみると話し声も聞こえてくる。
「おい! 本当にこの辺なのか?」
「そうだよー、噂だと」
「何でもいいけど、声を落とせよ。結構響いてるぞ」
神経質な声、暢気な声、そして落ち着いた声。3つの声が段々と近づいてくる。
「あれ、この声って」
聞き覚えのある声に、ルイが声のする角をぱっと確認する。
「!?ッ」
「あ、やっぱり。バクルじゃん、蓮も、こんな時間に何やってんだよ」
●
夜の七不思議。その話をバクル・バスリーが聞いたのは、武器制作に取り掛かる前。
夜通し武器制作に明け暮れて、完成したのも束の間、パタリと倒れ伏したのが、多分今日の明け方。そのまま、授業も忘れスヤっと眠り目が覚めた時はすっかり夜の時刻。
きっとその所為なのだ。目が覚めたバクルが、なんとなく夜の探検をするのは楽しそうだと思ってしまったのは。
「ちょっとだけ、夜の学校ってダンジョンみたいだよね」
わくわくと探検を始めるのだった。
灯りの消えた学院内をほてほてと、尻尾を振り歩いていたバクルは、器用にも声を潜めて言い争う二つの影を見つける。
それとも言いあいに夢中だからだろうか、二人はまだこちらに気付いていない。
何者であるか分かると、同時にバクルはその様子に納得した。
「お前がこういうバカ騒ぎに付き合うような奴だとは、意外だな鴨井」
「それはこっちの台詞だ。いや、そうでもないか。自発的巻きこまれ体質な所あるもんな、沢田くん」
沢田・烈司と鴨井 蓮、バクルは同じオウル寮に所属しており、学年も近い事もあり知らない仲ではない。
だからと言って、仲がいい訳でもないのだ。
「おこっちゃだめだよ」
彼自身の発明品である刀身が明るく光る剣を手に持ち、話しかけた。
なかなか便利な明かりで、自信作。
「うわっ、ってバスリーくん」
「ッ ……何を、やっている」
しかしその結果、暗がりからぬっと現れた白銀の鱗は、青白い輝きが下からライティングされ、それなりに迫力が生まれ、悲鳴も生まれた。
「何って探検だよ。2人こそ、なにをしてるの?」
――騒がれている、夜の学院七不思議の謎を調べに
「これ以上バカ騒ぎが広がっても迷惑だからな」
烈司の言葉に、蓮も頷く。
「全くだ。そして万が一、姉さんに害があっても困る」
「腐れシスコン」
「シスコンは誉め言葉だし、腐らない」
再び言い争いを始めそうな二人を置いて、バクルはさっさと歩きだす。
「はやくきなよー! 7つもあるんだから」
「おい、全部僕たちでしらみつぶしに探すつもりか!?」
自分に影響がありそうなエリアだけ、解決すればいいと思っていた烈司がぎょっとする。
しかし、探検をするつもりだったバルクは勿論のこと、姉にどんな害が及ぶともしれない蓮も、中途半端で終わらせる予定もあるはずはなく。
なし崩し的に、烈司も付き合う事になるのであった。
●
「と、言う訳なの」
至った経緯を簡単に話すバクルを後目に、烈司は鼻を鳴らして言う。
「バカバカしい。無駄話は終わったか、ならさっさと行くぞ」
「武器庫の入り口が見つからないんだよね」
「やっぱ武器庫だよなー! バクルならそうだと思ってたぜ」
バクル達も入口が見つからなくて、辺りを調べてきた所らしい。
「ただ、無駄ではなかったぞ。隠蔽術式の効果範囲を示す痕跡は見つけた」
術式の影響範囲には、魔法的なプログラムが残る。それを読み解く事で、術式そのものを知る事も不可能ではない。だが、それには情報がまだ足りなかった。
「もう少し、術的な足掛かりがあれば……」
うーんと、考え込む少年たち。
「じゃあ、一度みんなで知ってる情報照らし合わせてみようか。多分ねぇ、ちょっとづつ皆知ってる事違ったりするんだよ。アタシの予想だけどね」
そして全員で知っている武器庫の噂を確認し合う。
すると。
「謎の儀式を行って、扉が現れる」
「扉は見えたり、見えなかったりする」
「ナニ? 扉は地下にあるんじゃないのか?」
印象に残る武器庫に剣や杖が眠る部分はブレないが、その手前が曖昧なまま伝わったようだ。
「儀式……、ねぇさっき見たやつって」
「何かの儀式の痕跡があったな」
辺りを調べている最中の話。
その時は、気味が悪いながらもそれ以上の収穫は得られなかったのだが。
「チッ、もう一度もっと調べてみるべきか」
そうして、バクル達の案内で、痕跡の場所へ向かうのだった。
●
一方その頃。
裏庭の噴水に小石を投げると、波紋に未来の自分が映る。その噂を確かめるべく、香墨と影拾が水面をじっと見守っていた。
しかし。
―― チャポン ……
「あらあら、どれが未来の私なのかしら?」
「平らな石を回転させながら投げたら、どうかな?」
「もういいだろう? 噴水で物見って言う時点で、大分怪しいんだよ」
噴水である以上、水面には常に波紋が広がり、小石の落ちた波紋も含めて、像が朧げに細かく乱れ続けている。
「定まらない、沢山の未来があるよ~っていう感じかも!」
「まぁ♪ それは素敵」
何が素敵なのか、雪緒にはさっぱりわからないが二人が満足したようだ。
「なら、次行くぞ」
何の因果かマイペースな二人に挟まれて、夜の校舎を率先して歩いている。
そもそも、校舎に来た事自体が、マイペースな人間による所なのだ。その事実に改めに気付いた雪緒は、出来るだけ速やかに事態を終わらせる方に努力するのだった。
「うふふ、次はどんな不思議なのかしら?」
「え~と、嘆きの自習室は見たでしょ」
「課題が終わらなくて、自習室の一角に巣を作ってる先輩がいたな」
「夜に狂い咲く魔桜と~」
「操木術の先生がこっそりと練習されていたわね。新人さんだから、苦労も多いのかしら」
「鳴りやまないピアノ、は修理中って看板が貼ってあったね」
「タイマーの自動演奏が誤作動したらしい」
調べてみれば、なんとも肩透かしなものばかり。
先ほどの噴水はどちらかと言えば、願掛けなのだろう。
「残りは、武器庫と美術室……ん、6つしかないな?」
「もうひとつは、満月の夜に儀式をすると、裏の森に第七の寮が現れるんだって! さっき雪緒の体液が無くて失敗したの」
「あってもそれは失敗するだろ! 仕方ない、一度戻るか」
そして雪緒たちは影拾の儀式の場所へと向かうのだった。
●
果たして。
「なんで、人を、呼び出しておいて、集合場所も時間も書いていないんですか!」
「アッハッハ、ごめんって。でも、
来てくれるって信じてたよ」
雪緒は己を巻きこんだ張本人、ミオリに漸く文句を言えた。
「蓮君こんばんは~。お姉さんは一緒じゃないだね」
「勿論です。こんな事に姉さんを巻きこみたくありませんから」
敬愛する姉と同学年である影拾に、蓮は自信をもって答えた。4年生の間でも、そのシスコンぶりは知られている。
「あらあら、こんな小さい子達も探検してるのね。手を繋いであげましょうか?」
「だ、大丈夫だよっ! もう子供じゃねぇーし、ガキ扱いはやめろよな!」
「ルイくん、先輩に失礼だよ。先輩からみたら小さいのはあってるよ」
ルイとバクルは、美人の先輩にドギマギしながら答えた。
夜の学校の恐ろしさは何処へやら。
これだけ人数が居て、しかもこれだけ好きにしゃべれば、当然である。
「お前ら、バカか! バカ騒ぎで年上面してる暇があったら、さっさと話しを進めろ。大体なんでこんな大所帯なんだよクソが」
そして最年少のド正論により、なんとか夜の学校は威厳を取り戻す。
コホンと、咳払いをして話の進行を買って出たのは雪緒。
「皆はこの儀式が武器庫の入り口を開く儀式だと思ってて、俺らは第七寮が現れるものだと思ってた訳だ」
「第七寮なんて、聞いたことないぞ? 先輩は?」
首を横に否定の意を示すミオリ。他のメンバーも同様で、それには影拾も含まれていた。
「あれ? そういえば去年まではそんな話、聞いたことなかったなぁ」
「オイ」
「入学したばかりの頃は、十二の不思議っていうのがあってね~」
「あったねー」
「ミオリ先輩、広げないでください。これは噂話が混ざったと見るのが良さそうだ」
そう、蓮が結論付けようとした時だ。
「なんか魔法陣光ってんじゃね?」
ルイが指差す先、儀式の魔法陣がぼんやりと光っていた。
否、魔法陣の在る地面が揺らいでいる。
「入口……ってことかな?」
誰ともなくバクルの問いに、誰も応えられずにいた。
が、
「ここで立ち止まっている時間ほど、無駄なものはない。さっさと行くぞ」
「勝手に動くな待てっ、くそっ」
烈司がそこへ飛び込むと、慌てて雪緒が続く。
踏み込んだ二人の姿が滲んで消える。
「流石雪緒は頼もしいね~」
「あっ、オレも行くぞ、と、突撃―!」
影拾とルイも一歩遅れて付いて行くと、やはり消えた。
「えーと、皆はここで待っててって、言うのが先輩としては筋なんだけど」
半数が消えた所で、ミオリは残った後輩たちを見る。
「何かあった時、一緒の方が対処しやすいと思うわ」
「そーだね、仕方ない。追いかけよう」
「今の消え方は、転移の術式でした。一方通行のようなプログラムはされてないようには見えました」
蓮の言葉にうなずき、残った四人も魔法陣へと足を踏み入れた。
●
そこは、埃が薄っすらと積もった倉庫のような場所だった。
箱や物品が置かれているが、総じて布が被されていて伺い知れない。
少なくとも、即座に脅威になるようなものはなさそうな事に、雪緒はホッとした。
「いいか、転送陣のようなものに不用意に入るのは危険なんだ。何もなかったからいいようなものの」
「うわぁ、ここが武器庫か? 伝説の剣ってどこだ」
「こっちに扉があるよ。開けられそう」
「人の話を聞け!」
つっこみきれなくなった悲鳴が響く中、残った四人が追いついてくる。
「はい、点呼しまーす! 番号」
「全員いるんじゃね」
「チッチッチ、かっこいいじゃん部隊って感じで」
おおっと素直な少年の賛同を集めるミオリ。一方素直じゃない方の少年は、勿論スルーしていたが。
そして、扉を開けた先に進むとここが何処であるかが判明する。
「これはキャンバスかしら?」
「こっちは刀剣かな」
「宝の山じゃん!」
彫像、壺、ガラス工芸、等々。確かに宝物殿のようだが、この場所をミオリはよく知っていた。何故なら、
「ここは――美術部の倉庫だわ」
何故、美術部の倉庫に繋がっていたのかは分からないが、そうであるなら確かめたい事があった。そう、作品を批評する絵の噂だ。
「何か作品がないとダメなのかしら」
香墨の言う通り、検証するには作品が必要になる。
自然と美術部に視線が集まる。彼女の在籍する部の倉庫であれば、作品も勿論ある。
「まぁ、あたしの絵は傑作だから、大丈夫だとは思うけど! 最高花丸一等賞だと思うけども!」
「美術室に飾ればいいのかな?」
「恐らく、中心辺りだ」
蓮の指示に従って、美術室の中央にイーゼルを立てるバクルとルイ。そこへミオリがかかってこいやーと言いながら、作品を乗せた。
作品を置いてしばらく見守っていると、教室の隅に置かれた彫像が、急にしゃべりだしたのだ。
基礎を忘れていないかとか、筆致が雑になっているとか、あり得そうな文句をあれこれ喋った。
けれど、誰もその批評が正しいと思えなかった。
その批評を真っ向から勝負して、妥当ではないと思えるほどに――ミオリの作品は素晴らしいものだったから。
「恐らく教師が創ったゴーレムだろう。倉庫から術式のラインが繋がっている」
蓮によると、倉庫への扉は倉庫側からは魔法で封印隠蔽されていたはずだと。
「じゃあ、あの転移魔法は」
「メンテ用だろうな」
どうして発動したのかは不明だったが、時々教師が使っていたのだろう。
尤もらしい課題点を喋って、反骨心を煽る意図なのかもしれない。
●
そして、これで全ての噂を回り切り、各々に振り返る。
「結局、どれも不思議じゃなかったなぁ~」
「なかなか興味深いプログラムを見れたのは、収穫か」
「これで、バカ騒ぎも終わりだ。全くいい迷惑だな」
「あら、でも楽しい夜になったわ」
「そういえば、七不思議なのに数があわないなぁ~」
「明日も授業あるぞ、俺は起こさないからな」
「…えっ、授業? ……、明日は頑張って出るよ」
噂の数と七不思議の数が噛み合わなかった事だけが、最後まで残ってしまった。
ふと、ミオリは先ほど影拾が話しかけた話を思い出す。
――不思議な噂を生徒に伝える謎の取材員。そんな噂があったな、と。
暗い夜の校舎。手元に灯りは如何にも頼りなく、影の気配をより強く意識させる。
カツンカツンと響くのは、己の足音。
反響する音は、暗い天井に吸い込まれ、広い空間にポツリと立っている事を思い出させた。
果月・ルイは長い廊下を一人ゆっくりと歩いていた。
最初は、就寝時間を過ぎて歩き回る罪悪感から、出来るだけ足音を立てないようにコッソリと。
けれど、いつしか息をひそめるように。
カツンカツンと慎重に、石張りの床を革靴で叩く。
背にある翼も何かに縛られたように、僅かたりとも動かせない。
まるでナニカに出会ってしまうのではという、形のない恐怖から隠れるように。
「べ、別に……怖くねーし。ただちょっと静かだから緊張するだk」
――ぴちょん
「ひっ!! な、なんだ、水飲み場か」
それが締まりの甘かった水場の水音だと分かりホッとする。
だからこそ、余計な事を思い出してしまったのだ。
水場に纏わる怪談話は多いのだ、と。
誰も、居ない。居ないはずだ。
だって、こんなにも息を潜めていて物音がしないのだから。
いや、水の音が止まってるっておかしくない?
だって、オレは触ってイナイ……。
「ワッ!」
「ぴゃあああああ出たああ」
ルイの悲鳴と、
「アッハッハ、すごいジャンプ力じゃん」
快活に笑う声が廊下に響いた。
「やぁ、アンタも夜の探検?」
恐る恐る声の主を見て見れば、細見の美人が気楽そうに手をひらひらとさせていた。
「な、なんだ、他寮の生徒かよ……」
その彼女に足があるのが見えて、ルイはホッとした。
「ミオリ・シナガワ、よ。こんな時間に何してんの? って人の事言えないかー」
「果月・ルイです。先輩も抜け出してきた人だったのかー、怒られるかとおもった。それなら、さ。一緒に探検しよーぜ」
差し出された手に、ミオリはニンマリとと笑う。
「良いじゃん良いじゃん! 面白そうじゃん! 乗ったよ」
「夜の学校探検隊、結成☆ だな」
ルイにとっては、一人でこれ以上探索しなくていいのは心強い。まして上級生。
一方、ミオリは何故ここにいるかと言えば、彼女もまた噂を聞いてやってきたのだ。
*
――ミオリ・シナガワは、この「夜の学院七不思議」なる噂を聞いて大いに興味を引かれていた。
別に七不思議が怖いとかではない。なにせ6年もこの学院に在籍しているのだから。その手の話の10や20は一般常識だ。
だが、一つだけ気になる内容のものがあった。
噂曰く――
『美術部員達が描いた人物画が、夜な夜な自分を描いた部員の技術を評価しあっているらしい』
「美術部員のエースとしては、気になっちゃうところだよね」
そんな訳で彼女は、予め手伝いを要請した後輩と待ち合わせの夜の学校へと向かうのだった。
*
ミオリの話を聞いて、その後輩の姿がない事に気が付いた。
「後輩はこの近くにいるのか?」
「伝言に、待ち合わせ場所を書くの忘れててさ。アッハッハ」
多分、その後輩は困ってるんじゃないか? そもそも来てない気もする。
「大丈夫大丈夫、優秀な奴だし。それに、口で言うよりお人好しだし! 不思議のスポット回ってたら、会えると思うよ」
こうして二人は、夜の校舎を進み始めるのだった。
●
時間は少し戻る。
ルイがまだ自室でワクワクしながら寮内が寝静まるのを待っていた頃、ペガサス寮の一室の窓からスルスルと縄が地面に向かって伸びていた。
「うんしょっ……と」
背中に荷物を抱えた人影が、縄を頼りに外へを抜け出す。
「えーと、儀式の場所は……講堂の裏でいいのかな」
月明かりの下、気楽な足取りでその人影は講堂の方へと消えていく。
その様子を遠目に発見して、緊張に体を強張らせた人物がいた。
「こんな深夜に、灯りもつけずに大荷物で歩く……不審者か?」
高町・雪緒は、先輩からの伝言を受けて、コッソリと寮を抜け出していた。
曰く、夜の七不思議を調べるから手伝って欲しいと。
規則違反である事を、堂々と手伝えと言ってくる先輩はどうかと思う訳なのだが、そこで逆らえるなら苦労はない。
先輩の姿を思い浮かべれば、猶更。
と、仮想先輩にすら丸め込まれていたところに、不審な人影を見つけたという事だったのだ。
「希少なアイテムも多い。盗人だとすれば、宝の山か」
火力魔法は得意な方だ。不審者ならばやってしまっても構わんだろうとばかりに、魔法式を練りながら人影を追おうとした。
その時、背後から涼やかさと甘さの混同した薫りと共に声が訪れる。
「あらあら、なんだか騒がしい夜……楽しそうね?」
その声には覚えがあった。まして、香りを纏っているとなれば。
「……香墨」
「素敵な夜ね? 雪緒。でも、どうして攻撃魔法を練ってるのかしら?」
現れたのは黒髪の美少女、漆原・香墨であった。
彼女と雪緒は同学年であり、授業などで一緒になる為、それなりに顔見知りだ。
だからと言って、ここで暢気に立ち話をする状況でもない。
「不審者を見つけたから、排除を試みる所だ。邪魔をしないでくれ」
どこかマイペースな所の在る彼女が少しばかり苦手であった。マイペースな友人と同様に。
「あらあら、でもいいの?」
いつでも発動できる状態になる。
「何がだ」
あとは気持ち一つだ。
「あそこに居るのは、影拾みたいだけど」
「は?」
ボフッ
不完全燃焼を起こした魔法があわや暴発する。
のを慌てて止めた雪緒。その音と気配で気が付いて、その人物が雪緒たちの所へやってきた。
「あ、雪緒! 丁度良かった吸血コウモリ、この辺で見かけなかった? 材料が足りなくて」
ニコニコとマイペースにやってくる不審者は、確かに友人である夕星・影拾であった。
「ねぇ、香墨も知らない?」
「あらあら、どうかしら」
「あ、そうだ。コウモリの代わりに雪緒の体液でも……」
「何の話だ! それより門限はとっくに過ぎてるんだぞ。何をやってる? まさかとは思うが、噂話に乗せられたんじゃないだろうな」
問えば、影拾と香墨は揃ってコテンと首を傾げた。
「違うのか。ならいい、だったら早く帰って……」
「だめだよ~、まだ全部見てないし。そうだ、雪緒も手伝ってよ。魔法を仕掛けようとしたお詫びってことで」
多少罪悪感がないではない雪緒は、渋々聞き返す。
「見るって何をだ?」
「知らない? アプリリース学院・夜の七不思議!」
「あらあら、奇遇だわ。私も気になってたの」
きゃっきゃと華やぐ影拾と香墨。
「……しっかり、噂に乗せられてるじゃないかああああ!」
まったくペースが掴めない二人に、雪緒は人知れず叫ぶのだった。
勿論、協力させられた。
●
ミオリとルイは、取り合えず七不思議の現場へ行こうという事で。
「やっぱ一番に行きたいのは、『秘密の武器庫』だなー」
年上と居る安心感からか、最初に比べてかなりリラックスしてきたルイがうきうきと答える。
「英雄の使ってたすごい剣とか、精霊が宿った杖とかが眠ってるんだっけ」
「やっぱ、すげー武器なら、ちょっと見てみたい」
「良いねー! OK、そこ行ってみよ」
そうは言ったものの、隠されている秘密の武器庫。場所が分からない。
「西の講堂の近くらしーんだけど……」
「おや、誰か来るね」
通路の曲がり角の先から、灯りが揺れ動くのが見えたのだ。
念の為に、物陰に身を潜めてみると話し声も聞こえてくる。
「おい! 本当にこの辺なのか?」
「そうだよー、噂だと」
「何でもいいけど、声を落とせよ。結構響いてるぞ」
神経質な声、暢気な声、そして落ち着いた声。3つの声が段々と近づいてくる。
「あれ、この声って」
聞き覚えのある声に、ルイが声のする角をぱっと確認する。
「!?ッ」
「あ、やっぱり。バクルじゃん、蓮も、こんな時間に何やってんだよ」
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夜の七不思議。その話をバクル・バスリーが聞いたのは、武器制作に取り掛かる前。
夜通し武器制作に明け暮れて、完成したのも束の間、パタリと倒れ伏したのが、多分今日の明け方。そのまま、授業も忘れスヤっと眠り目が覚めた時はすっかり夜の時刻。
きっとその所為なのだ。目が覚めたバクルが、なんとなく夜の探検をするのは楽しそうだと思ってしまったのは。
「ちょっとだけ、夜の学校ってダンジョンみたいだよね」
わくわくと探検を始めるのだった。
灯りの消えた学院内をほてほてと、尻尾を振り歩いていたバクルは、器用にも声を潜めて言い争う二つの影を見つける。
それとも言いあいに夢中だからだろうか、二人はまだこちらに気付いていない。
何者であるか分かると、同時にバクルはその様子に納得した。
「お前がこういうバカ騒ぎに付き合うような奴だとは、意外だな鴨井」
「それはこっちの台詞だ。いや、そうでもないか。自発的巻きこまれ体質な所あるもんな、沢田くん」
沢田・烈司と鴨井 蓮、バクルは同じオウル寮に所属しており、学年も近い事もあり知らない仲ではない。
だからと言って、仲がいい訳でもないのだ。
「おこっちゃだめだよ」
彼自身の発明品である刀身が明るく光る剣を手に持ち、話しかけた。
なかなか便利な明かりで、自信作。
「うわっ、ってバスリーくん」
「ッ ……何を、やっている」
しかしその結果、暗がりからぬっと現れた白銀の鱗は、青白い輝きが下からライティングされ、それなりに迫力が生まれ、悲鳴も生まれた。
「何って探検だよ。2人こそ、なにをしてるの?」
――騒がれている、夜の学院七不思議の謎を調べに
「これ以上バカ騒ぎが広がっても迷惑だからな」
烈司の言葉に、蓮も頷く。
「全くだ。そして万が一、姉さんに害があっても困る」
「腐れシスコン」
「シスコンは誉め言葉だし、腐らない」
再び言い争いを始めそうな二人を置いて、バクルはさっさと歩きだす。
「はやくきなよー! 7つもあるんだから」
「おい、全部僕たちでしらみつぶしに探すつもりか!?」
自分に影響がありそうなエリアだけ、解決すればいいと思っていた烈司がぎょっとする。
しかし、探検をするつもりだったバルクは勿論のこと、姉にどんな害が及ぶともしれない蓮も、中途半端で終わらせる予定もあるはずはなく。
なし崩し的に、烈司も付き合う事になるのであった。
●
「と、言う訳なの」
至った経緯を簡単に話すバクルを後目に、烈司は鼻を鳴らして言う。
「バカバカしい。無駄話は終わったか、ならさっさと行くぞ」
「武器庫の入り口が見つからないんだよね」
「やっぱ武器庫だよなー! バクルならそうだと思ってたぜ」
バクル達も入口が見つからなくて、辺りを調べてきた所らしい。
「ただ、無駄ではなかったぞ。隠蔽術式の効果範囲を示す痕跡は見つけた」
術式の影響範囲には、魔法的なプログラムが残る。それを読み解く事で、術式そのものを知る事も不可能ではない。だが、それには情報がまだ足りなかった。
「もう少し、術的な足掛かりがあれば……」
うーんと、考え込む少年たち。
「じゃあ、一度みんなで知ってる情報照らし合わせてみようか。多分ねぇ、ちょっとづつ皆知ってる事違ったりするんだよ。アタシの予想だけどね」
そして全員で知っている武器庫の噂を確認し合う。
すると。
「謎の儀式を行って、扉が現れる」
「扉は見えたり、見えなかったりする」
「ナニ? 扉は地下にあるんじゃないのか?」
印象に残る武器庫に剣や杖が眠る部分はブレないが、その手前が曖昧なまま伝わったようだ。
「儀式……、ねぇさっき見たやつって」
「何かの儀式の痕跡があったな」
辺りを調べている最中の話。
その時は、気味が悪いながらもそれ以上の収穫は得られなかったのだが。
「チッ、もう一度もっと調べてみるべきか」
そうして、バクル達の案内で、痕跡の場所へ向かうのだった。
●
一方その頃。
裏庭の噴水に小石を投げると、波紋に未来の自分が映る。その噂を確かめるべく、香墨と影拾が水面をじっと見守っていた。
しかし。
―― チャポン ……
「あらあら、どれが未来の私なのかしら?」
「平らな石を回転させながら投げたら、どうかな?」
「もういいだろう? 噴水で物見って言う時点で、大分怪しいんだよ」
噴水である以上、水面には常に波紋が広がり、小石の落ちた波紋も含めて、像が朧げに細かく乱れ続けている。
「定まらない、沢山の未来があるよ~っていう感じかも!」
「まぁ♪ それは素敵」
何が素敵なのか、雪緒にはさっぱりわからないが二人が満足したようだ。
「なら、次行くぞ」
何の因果かマイペースな二人に挟まれて、夜の校舎を率先して歩いている。
そもそも、校舎に来た事自体が、マイペースな人間による所なのだ。その事実に改めに気付いた雪緒は、出来るだけ速やかに事態を終わらせる方に努力するのだった。
「うふふ、次はどんな不思議なのかしら?」
「え~と、嘆きの自習室は見たでしょ」
「課題が終わらなくて、自習室の一角に巣を作ってる先輩がいたな」
「夜に狂い咲く魔桜と~」
「操木術の先生がこっそりと練習されていたわね。新人さんだから、苦労も多いのかしら」
「鳴りやまないピアノ、は修理中って看板が貼ってあったね」
「タイマーの自動演奏が誤作動したらしい」
調べてみれば、なんとも肩透かしなものばかり。
先ほどの噴水はどちらかと言えば、願掛けなのだろう。
「残りは、武器庫と美術室……ん、6つしかないな?」
「もうひとつは、満月の夜に儀式をすると、裏の森に第七の寮が現れるんだって! さっき雪緒の体液が無くて失敗したの」
「あってもそれは失敗するだろ! 仕方ない、一度戻るか」
そして雪緒たちは影拾の儀式の場所へと向かうのだった。
●
果たして。
「なんで、人を、呼び出しておいて、集合場所も時間も書いていないんですか!」
「アッハッハ、ごめんって。でも、
来てくれるって信じてたよ」
雪緒は己を巻きこんだ張本人、ミオリに漸く文句を言えた。
「蓮君こんばんは~。お姉さんは一緒じゃないだね」
「勿論です。こんな事に姉さんを巻きこみたくありませんから」
敬愛する姉と同学年である影拾に、蓮は自信をもって答えた。4年生の間でも、そのシスコンぶりは知られている。
「あらあら、こんな小さい子達も探検してるのね。手を繋いであげましょうか?」
「だ、大丈夫だよっ! もう子供じゃねぇーし、ガキ扱いはやめろよな!」
「ルイくん、先輩に失礼だよ。先輩からみたら小さいのはあってるよ」
ルイとバクルは、美人の先輩にドギマギしながら答えた。
夜の学校の恐ろしさは何処へやら。
これだけ人数が居て、しかもこれだけ好きにしゃべれば、当然である。
「お前ら、バカか! バカ騒ぎで年上面してる暇があったら、さっさと話しを進めろ。大体なんでこんな大所帯なんだよクソが」
そして最年少のド正論により、なんとか夜の学校は威厳を取り戻す。
コホンと、咳払いをして話の進行を買って出たのは雪緒。
「皆はこの儀式が武器庫の入り口を開く儀式だと思ってて、俺らは第七寮が現れるものだと思ってた訳だ」
「第七寮なんて、聞いたことないぞ? 先輩は?」
首を横に否定の意を示すミオリ。他のメンバーも同様で、それには影拾も含まれていた。
「あれ? そういえば去年まではそんな話、聞いたことなかったなぁ」
「オイ」
「入学したばかりの頃は、十二の不思議っていうのがあってね~」
「あったねー」
「ミオリ先輩、広げないでください。これは噂話が混ざったと見るのが良さそうだ」
そう、蓮が結論付けようとした時だ。
「なんか魔法陣光ってんじゃね?」
ルイが指差す先、儀式の魔法陣がぼんやりと光っていた。
否、魔法陣の在る地面が揺らいでいる。
「入口……ってことかな?」
誰ともなくバクルの問いに、誰も応えられずにいた。
が、
「ここで立ち止まっている時間ほど、無駄なものはない。さっさと行くぞ」
「勝手に動くな待てっ、くそっ」
烈司がそこへ飛び込むと、慌てて雪緒が続く。
踏み込んだ二人の姿が滲んで消える。
「流石雪緒は頼もしいね~」
「あっ、オレも行くぞ、と、突撃―!」
影拾とルイも一歩遅れて付いて行くと、やはり消えた。
「えーと、皆はここで待っててって、言うのが先輩としては筋なんだけど」
半数が消えた所で、ミオリは残った後輩たちを見る。
「何かあった時、一緒の方が対処しやすいと思うわ」
「そーだね、仕方ない。追いかけよう」
「今の消え方は、転移の術式でした。一方通行のようなプログラムはされてないようには見えました」
蓮の言葉にうなずき、残った四人も魔法陣へと足を踏み入れた。
●
そこは、埃が薄っすらと積もった倉庫のような場所だった。
箱や物品が置かれているが、総じて布が被されていて伺い知れない。
少なくとも、即座に脅威になるようなものはなさそうな事に、雪緒はホッとした。
「いいか、転送陣のようなものに不用意に入るのは危険なんだ。何もなかったからいいようなものの」
「うわぁ、ここが武器庫か? 伝説の剣ってどこだ」
「こっちに扉があるよ。開けられそう」
「人の話を聞け!」
つっこみきれなくなった悲鳴が響く中、残った四人が追いついてくる。
「はい、点呼しまーす! 番号」
「全員いるんじゃね」
「チッチッチ、かっこいいじゃん部隊って感じで」
おおっと素直な少年の賛同を集めるミオリ。一方素直じゃない方の少年は、勿論スルーしていたが。
そして、扉を開けた先に進むとここが何処であるかが判明する。
「これはキャンバスかしら?」
「こっちは刀剣かな」
「宝の山じゃん!」
彫像、壺、ガラス工芸、等々。確かに宝物殿のようだが、この場所をミオリはよく知っていた。何故なら、
「ここは――美術部の倉庫だわ」
何故、美術部の倉庫に繋がっていたのかは分からないが、そうであるなら確かめたい事があった。そう、作品を批評する絵の噂だ。
「何か作品がないとダメなのかしら」
香墨の言う通り、検証するには作品が必要になる。
自然と美術部に視線が集まる。彼女の在籍する部の倉庫であれば、作品も勿論ある。
「まぁ、あたしの絵は傑作だから、大丈夫だとは思うけど! 最高花丸一等賞だと思うけども!」
「美術室に飾ればいいのかな?」
「恐らく、中心辺りだ」
蓮の指示に従って、美術室の中央にイーゼルを立てるバクルとルイ。そこへミオリがかかってこいやーと言いながら、作品を乗せた。
作品を置いてしばらく見守っていると、教室の隅に置かれた彫像が、急にしゃべりだしたのだ。
基礎を忘れていないかとか、筆致が雑になっているとか、あり得そうな文句をあれこれ喋った。
けれど、誰もその批評が正しいと思えなかった。
その批評を真っ向から勝負して、妥当ではないと思えるほどに――ミオリの作品は素晴らしいものだったから。
「恐らく教師が創ったゴーレムだろう。倉庫から術式のラインが繋がっている」
蓮によると、倉庫への扉は倉庫側からは魔法で封印隠蔽されていたはずだと。
「じゃあ、あの転移魔法は」
「メンテ用だろうな」
どうして発動したのかは不明だったが、時々教師が使っていたのだろう。
尤もらしい課題点を喋って、反骨心を煽る意図なのかもしれない。
●
そして、これで全ての噂を回り切り、各々に振り返る。
「結局、どれも不思議じゃなかったなぁ~」
「なかなか興味深いプログラムを見れたのは、収穫か」
「これで、バカ騒ぎも終わりだ。全くいい迷惑だな」
「あら、でも楽しい夜になったわ」
「そういえば、七不思議なのに数があわないなぁ~」
「明日も授業あるぞ、俺は起こさないからな」
「…えっ、授業? ……、明日は頑張って出るよ」
噂の数と七不思議の数が噛み合わなかった事だけが、最後まで残ってしまった。
ふと、ミオリは先ほど影拾が話しかけた話を思い出す。
――不思議な噂を生徒に伝える謎の取材員。そんな噂があったな、と。