ダイフクとチマキ
王立アプリーリス魔法学院 イベントノベル(テーマ)制作 小緑 一滴納品 2021年04月10日 21時51分25秒
「また赤点だったのだ!」
授業を終えたダイフクは寮のベッドにダイブした。魔法の爆発のせいで、魔女の大鍋を吹きこぼしたような臭いがまだ鼻の奥に残っている。
ペガサス寮のピカピカの一年生。なのにダイフクはまだ一度も召喚ができたことはない。同級生達は初歩の召喚術を次々に成功させて角兎や妖精を呼び出しているというのに。
真新しい制服の裾をきゅっと握りしめる。
ダイフクは挫けない。
「いつか山くらいおっきなオオカミを召喚してみせるのだ……!」
ベッドの上で仰向けになって両手を伸ばす。その手で未来をつかみ取ろうとするかのように。
校庭に白いローブ姿の一年生がずらりと並ぶ。今日の授業は召喚の道具についてだ。
「格好良い道具を使えばきっと格好良いオオカミが来てくれるはずなのだっ!」
ダイフクは道具をとっかえひっかえし召喚を試みる。
翠玉をはめ込んだ柳の杖。異界に繋がる門を意識し頭によぎった名を口ずさむ。
「ケンピ!」
失敗の煙。その中に一瞬だけ妖しげな狐の姿が映って消えた。
次に手にしたのは七芒星の魔法陣を象ったタリスマン。
「モナカ!」
爆風で吹き飛ばされる。爆発音にまぎれてジャッカルの遠吠えが聞こえた。
「あきらめないのだ!」
夢中のあまり何の道具も持たなかった。両手を合わせる。桜色の肉球がぽむっとくっつき、かすかな魔法の煌めきを放つ。
ダイフクは小さな両手を空へとかざして、心に浮かんだ名を呼んだ。
「チマキ」
突如、風が吹き荒れ、緑の葉と桜の花弁が舞い上がる。
校舎が真っ二つになった……と錯覚したのは、空間の裂け目が生じたからだ。教師は他の生徒達を防御結界で包み、落ち着いた行動をダイフクに呼びかけた。
その声はダイフクの耳には届いてはいなかったが。
深い山の木々がざわめく音と共に、巨大な獣の前足が裂け目から伸びた。前足の一本だけでダイフクの大きさを優に超える。自分と瓜二つの毛色に心がどきりと跳ねる。
「……オオカミなのだ」
ダイフクが初めて召喚したのは、倭桜が咲く深山幽谷の主であるかのような神々しい巨狼。
ドキドキして見上げた巨狼と目が合う。強さと賢さが宿る瞳だった。
「おっきなおっきなオオカミなのだ!」
これまでの失敗や努力を思い返し、思わず涙目になっていた。
泣きながら、でも嬉しそうに飛びつく召喚術師に巨狼はその大きな鼻を優しく近づけた。
この子は放っておけない、とでも言いたげに。
授業を終えたダイフクは寮のベッドにダイブした。魔法の爆発のせいで、魔女の大鍋を吹きこぼしたような臭いがまだ鼻の奥に残っている。
ペガサス寮のピカピカの一年生。なのにダイフクはまだ一度も召喚ができたことはない。同級生達は初歩の召喚術を次々に成功させて角兎や妖精を呼び出しているというのに。
真新しい制服の裾をきゅっと握りしめる。
ダイフクは挫けない。
「いつか山くらいおっきなオオカミを召喚してみせるのだ……!」
ベッドの上で仰向けになって両手を伸ばす。その手で未来をつかみ取ろうとするかのように。
校庭に白いローブ姿の一年生がずらりと並ぶ。今日の授業は召喚の道具についてだ。
「格好良い道具を使えばきっと格好良いオオカミが来てくれるはずなのだっ!」
ダイフクは道具をとっかえひっかえし召喚を試みる。
翠玉をはめ込んだ柳の杖。異界に繋がる門を意識し頭によぎった名を口ずさむ。
「ケンピ!」
失敗の煙。その中に一瞬だけ妖しげな狐の姿が映って消えた。
次に手にしたのは七芒星の魔法陣を象ったタリスマン。
「モナカ!」
爆風で吹き飛ばされる。爆発音にまぎれてジャッカルの遠吠えが聞こえた。
「あきらめないのだ!」
夢中のあまり何の道具も持たなかった。両手を合わせる。桜色の肉球がぽむっとくっつき、かすかな魔法の煌めきを放つ。
ダイフクは小さな両手を空へとかざして、心に浮かんだ名を呼んだ。
「チマキ」
突如、風が吹き荒れ、緑の葉と桜の花弁が舞い上がる。
校舎が真っ二つになった……と錯覚したのは、空間の裂け目が生じたからだ。教師は他の生徒達を防御結界で包み、落ち着いた行動をダイフクに呼びかけた。
その声はダイフクの耳には届いてはいなかったが。
深い山の木々がざわめく音と共に、巨大な獣の前足が裂け目から伸びた。前足の一本だけでダイフクの大きさを優に超える。自分と瓜二つの毛色に心がどきりと跳ねる。
「……オオカミなのだ」
ダイフクが初めて召喚したのは、倭桜が咲く深山幽谷の主であるかのような神々しい巨狼。
ドキドキして見上げた巨狼と目が合う。強さと賢さが宿る瞳だった。
「おっきなおっきなオオカミなのだ!」
これまでの失敗や努力を思い返し、思わず涙目になっていた。
泣きながら、でも嬉しそうに飛びつく召喚術師に巨狼はその大きな鼻を優しく近づけた。
この子は放っておけない、とでも言いたげに。